DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.41 対峙する運命

マドロシア「な、なんだ。1つ的が増えただけか?」
動揺していたのが馬鹿みたいだ、という風に振る舞う。
番長「千代…。これはいったい…?」
千代「これはね、ミツクビちゃんを逃がしたりしてくれていた大臣が持っていたアーツなんだけど、効果は見たままだよ。開かせないように番長ちゃんが興味の無いジャンルの本を探すのに手間取っちゃったよ。」
マドロシア「なに余裕かましてんだよ!!」
話をする千代に鉄の芯を放つマドロシア。
千代「"皆既日食"」
以前とは比べ物になら無いくらい落ち着いた様子で黒の砂嵐を纏い、結晶でそれを受け止めて見せた。
千代は驚くマドロシアをよそに、周りの様子を確認する。
千代「あなたのアーツは、縫い付けて固定する能力より"必中"がウリみたいだね。でも、何かに当たって止まってしまえば、何ともない棒切れに変わり無いね。」
マドロシア「ひ、ば、化け物だ…。」
思わず腰が引けて、後ずさるマドロシア。
マドロシア「み、見逃してくれ!!私は仲間を助けにいきたいだけなんだ!!」
だが、千代はそこから動かなかった。
番長「そうか、お前はそういう奴だったな。」
千代は頷く。
千代「あのときは暴走しちゃったけど、今は違う。
私は守るためにしか戦わないから…。」
番長「いいよ、充分だ。ありがとよ。」
番長は千代より前に出る。
番長「心が痛むなぁ。仲間を想う気持ちはわかるよ。」
マドロシア「なら、マリンだけをこちらによこしなよ!!」
番長「でもなぁ、志が同じ者同士ってのは、ぶつかり合うものさ。」
マドロシア「…ッ!!」
諦めたように両目を瞑り、こうべを垂れた。
番長「なぁ、何故、お前のような人間が、コッパのような奴の手に落ちたのだ?」
その言葉は、クライネの面影をどこかに見てか、浮かんできた慈悲だった。
マドロシア「あいつは、マリンを探していた…。私も探していた…。あとはわずかな甘言さ…。」
なんと潔いことか、それは彼女の本心だったし、自分も同じ立場ならそうしていただろうな、と容易に想像できてしまうことで、番長の心は揺らいだ。
だが、それは同時に、相手がいかに目的のために狡猾になれるかを知った瞬間でもあった。
番長「最後に、この世界の真実とやらを教えてもらおうか? 」
情けを押し殺し、決別の心を固める。
マドロシア「そうだなぁ…冥土の土産ってやつか。でも、すんなり教えるってのも惜しいんで、ヒントだけくれてやろう。
お前はきっと、"生きている方の世界に必要とされている可能性なんだろう"。」
マドロシアは番長に銃を向けられるまでもなく、自らのアーツで頭を撃ち抜き、自害した。
千代「し、詩人だね…。」
番長「あぁ、さっぱり意味がわからん。」
アーツが消滅して動けるようになった仲間たちが次々起き上がる。
サクリファイス「なぁ、スゴく助かったんだけど、お前、どうやって帰るんだ?」
千代「あ、えへへ。」
誤魔化すように照れ笑いをする千代。
番長「相変わらず、かっとなると後先考えないな。」
千代「番長ちゃんだけには言われたくないな。」
番長は少し考えたあと、思い出したように切り出す。
番長「そうだ、少し引き返せば、今まさに助けを求めている人たちがいる。そこに向かってみたらどうだ?」
千代はその言葉に懐疑的な眼差しを向ける。
番長「悪いのは私たちじゃない。敵が暴れすぎただけだ。」
千代「ふーん、そう。」
そんな口振りでも、千代は既に港町の方へ足を向けていた。
番長「"またな"。」
千代「うん、"またね"。」
ふたりは、いつしかの、「叶わないための約束」をかわした。

麗は暗い面持ちでいた。
ミツクビ「団長…?」
歯を食い縛り、悔しそうだった。
サクリファイス「なんだ?まともそうな奴が死んじまって悔しいのか?」
麗は首を横に振る。
麗「違うんだッ……!!」
それは、泣き出しそうで、怒り散らしそうな、苦しい声だった。
麗「なぁ、サクリファイス。運命ってのは残酷なもんだよなぁ。カインドから出てから、ずっとそうだ。」
サクリファイス「そ、そうだけどよ。いったいどうしたんだよ。」
麗「俺には解ったんだ。この世界の真実が…。」
ブリンク「本当ですか!!?しかし、思わしいものではないのですね。」
麗は頷いた。
サクリファイス「なぁ、言ってみてくれよ。みんなでどうするか考えようぜ。」
麗「言えるかよッ!!」
突き放すような悲痛な叫び。
麗「ひとりにしてくれ…。俺は、俺だけでコッパの野郎のもとに行く。お前らは、星の戦士のもとで真実を知ってくれ。」
番長「はぁ!!?メチャクチャじゃねぇか!!落ち着けよ!!」
麗「あとでまた会うことになる。それまで、ひとりにしてくれ。」
麗は風のレールを作り出す。
番長「待てよ、わかるように言ってくれよ。」
サクリファイス「そうだぜ、らしくもねぇ。」
麗「真実を知って一番辛いのは、番長、お前なんだよ…。だから、俺は今、お前に見せる顔が思い付かないんだ。」
うつむいたまま、言葉をつむぐ。
番長「なんだよ、余計気になるじゃねぇか。
なんだって受け入れてやる覚悟はあるぞ。」
少しの沈黙をあけて、風のレールは消えた。
麗「そうか…。なら、コッパをぶっ潰してからだ。俺は、俺の自分勝手でそれを望むが、いいか?
お前の正しさの邪魔になるなら、今すぐにでも言ってしまおう。」
番長は喉から手が出るほど教えてほしかった。
だが、一番苦しむのが自分だと言われては、ためらいができてしまうのも無理はない。
番長「…終わったら絶対話してくれよ。」
麗「あぁ、嫌でも話すことになるからな。」
番長は、星の戦士と麗との答え合わせが必要だと考えて、欲求を堪えた。

その先、崖や断層が目立つ地帯を進んで行くと、更なる人影が現れた。
ミツクビ「また刺客かニャン?もう、うんざりだニャン…。」
それが聞こえたのか聞こえていないのか、目の前にいる二人の人影はこちらを振り向いた。
一人は、目だしの仮面をつけた小柄な少年、もう一人は、筋骨隆々、トロ寿司のような赤いモヒカンが特徴の大柄な男だ。
仮面の男「お、おいでなすったぜ。」
モヒカン「ふん、他の奴らを殺してきたからどんなやつらかと思えば、ガキどもに老人が一人か。
まぁ、何年生きたかは知らんがな。」
モヒカンは歩み寄ってくる。
だが、攻撃を仕掛けに来ているといった感じではなかった。
番長「殺気が薄いな。やりあわないのか?」
やや挑発的な態度で相手の行動に応える。
モヒカン「ほんの少し前まではそうだった。だが、コッパは今、焦り始めている。」
仮面の男「俺たち12聖典との戦いによってお前らが成長しきる前に、直々に倒してしまわねばならんとさ。まったく、高く値をつけられたものよ。」
サクリファイス「? じゃあ、コッパの野郎はここにやって来るのか?」
仮面の男はその質問に、溜め息を返す。
モヒカン「違う。あいつは先回りしている。
星の戦士の前で、マリンを奪ってやるとな。
だから、あいつは星の戦士のもとへ向かっている。」
仮面の男「だから、俺たちは、もうただの案内のための遣いでしかねーのよ。」
なんだか拍子抜けだった。
だが、同時に両者は目的へとグンと近づいたことになる。
それは素直に喜ぶべきだった。
仮面の男「あーあ、待ってる場所が別のとこなら、裏切ってマリンをさらって、抜け駆けしようと思ったのによ~。」
モヒカン「無駄だ。今は言われたことだけをやるんだ。」
番長「あんな奴の裏切りくらいやればいいじゃないか。こっちとしては、今のほうが助かるけど。」
八つ当たりなのか、少々挑発的な態度をとる。
だが、仮面の男は真剣な顔で返した。
仮面の男「言っておくが、俺たちでも、お前らでも、コッパとは"戦いにすらならない"。それぐらい強いんだ。」
一同はピクリと反応する。
ブリンク「奴の能力について知っているのですか?」
だが、モヒカンはばつの悪い顔をした。
モヒカン「悪いが、これ以上話したら消される。
俺たちからできるのは、こういった脅し、警告、案内だけだ。
俺は心から言うぞ?"マリンだけをコッパに引き渡して、踵を返した方がいい"とな。」
ミツクビ「な~んかムカツク言い回しだニャン。」
いきり立つこちら側の態度にも、相手は乗らなかった。
仮面の男「警告はしたからな。」
番長「ムカつくやつはブッ飛ばすだけだ、なぁ、麗。」
空元気でも出させようと振るが、相変わらず麗はふぬけているというか、複雑な表情のままだった。
麗「あ、あぁ。そうだな。あいつはブッ飛ばされてしかるべきだ。(…そして、そのあとは…。)」
相手の二人は呆れたような顔をして、着いてくるように促した。
仮面の男「星の戦士は、この先の、"忘れられた街 ヴァン・ホーテン"で待っている。」
ブリンク「おや?おかしいですね…。」
ブリンクは地図を広げて首を捻る。
ブリンク「地図だと、陥没地帯と闘技場のある街(…名前はシミで読めませんが…)の間の、なにもない場所とされていますが?」
モヒカン「忘れられた街だからな。無理もないだろう。」
仮面の男「"黄金の街 カインド"だって、クリン・トラスト城に近くなければ地図に乗らないような場所だ。不思議なことじゃねぇよ。」
その言葉を最後に、会話は途切れてしまった。
それは同時に、あいつの気配が近づいてきた合図だった。
番長「思ったより近いんだな。」
仮面の男「ここまで来るのに短くなかったろうに。」
岩の陰から、チチチ、と小鳥が飛ぶ。
その先の崖の下には、穏やかな辺境が広がっていた。
血の気など微塵も感じられない平穏さがぬくぬくと伝わってくる。
だが、背後からは、それとは相反する声がするのだ。

コッパ「やぁ。最初からこうするべきだったね。正直、侮っていたよ。」
ふわふわと、美しいシャボン玉が舞う。