DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット2」 ACT.8 ヒロイン

犯人の足はきっとつかめている。
そう自分に言いきかせている。
犯罪組織"ブレイカー"そして、マカアラシ主犯の"オラクル"。
話のスケールに対しての、自分の無謀さを省みる。
だが、このマントが思い出と共に告げるのだ。
『番長なら進むだろう』、と。
千代は一人、部室で俯いていた。

一方のマリは精力的に北団地の捜索にあたっていた。
体を動かしていれば、都合の悪いことを忘れていられるというのもあるが、もうひとつ情報が増えたというのもあった。
昼頃の連絡で知ったのだが、オラクルはそもそも壊滅寸前らしい。
ブレイカーが総力をあげて潰しにかかったために、枝葉は切り落とされて裸の木状態なのだという。
しかし、オラクルは人数が少なくなったことで、守りに入ってしまい、サイコメトリー端末部門の動きだけに集中して、隠密に情報収集するようになり始めたという。
もっとも、焦りからサイコメトリー能力を持つ脳を狙っていることがバレてしまったために、ブレイカーにとっては無意味な行動となってしまったのだが。

摩利華「私たちはどうすればよいのかしらね…」
桜倉「わかりません。藤原先輩の無茶を見送ることしかできないのは…正直辛いです。」
榎「…何か力になれたらなぁ…」
オープンカフェ"みのむし"に立ち寄る三人。
誘ったのは摩利華の方だった。
千代は囮作戦を決行しているため、ろくに会うこともできない。
その寂しさや不安から、後輩を誘ったのだ。
摩利華「やっぱりSPを派遣した方がいいかしら…」
桜倉「相手は超能力者ですよ。」
摩利華「ううっ…冷静になれませんわ…」
榎「先輩がこっちの立場だったらどうするだろう…」
桜倉「…ちょっと待てよ。」
桜倉は榎を睨み付ける。
榎「な、なに?そんな顔するなんて…」
桜倉「お前さぁ、先輩なら先輩ならって、自分の考えはないのか?」
榎「えっ…」
榎はうろたえる。目を泳がせて、無い答えを探している。
摩利華「貴女はどうしたいんですの?」
榎「いや、あの…」
桜倉「今、藤原先輩は居ないんだよ。助けるために、お前自身がなにをすべきか考えろよ。」
榎「…私はッ‼先輩みたいなヒーローに憧れてて、だから、先輩の力になりたくて…」
桜倉「だから具体的にどうするんだよ‼理想や憧れの話をしているんじゃあないんだぞ‼」
榎「…ッ‼」
桜倉「先輩に頼ってばかりだったから私たちは無力なんじゃないか…こんなときくらい自分で考えろよ…」
榎はなにも言い返せなかった。
なぜなら、ただ憧れのヒーローを追っていただけの自分の空虚さを知ってしまったからだ。
榎は逃げるように走り出した。
桜倉「お、おいっ」
摩利華「榎ちゃん‼?」
自分はいったい何がしたかったんだろう。
いったい何者になりたかったんだろう。
そう、胸に問い続ける。
桜倉「すいません。つまらないことで感情的になってしまいました。」
摩利華「無理もありませんわ。貴女も、友人を亡くして心が不安定なのでしょう?」
桜倉「…一番無力なのは、自分だってわかってます…わかっているんです…」

榎は、気づけば学校に来ていた。
放課後、静かな校舎。
最近は美樹が殺されたことで、ほとんどの部活が機能していない。
そこに、不良の男子生徒がいた。
不良「ヨォ」
榎「あ、えと…」
不良「お前、なんか俺たちと同じ雰囲気を感じるぜ。」
榎「ええ…」
榎が引き気味に困惑していると、不良は思わぬことを口にした。
不良「喧嘩しにいこうぜ」

不良についていくと、他校の生徒が待ち構えていた。
不良「ヨォ藤木。」
藤木「よう、不動。女連れか?」
不動「ギャラリーがいた方が盛り上がる。」
二人ともヘッ‼と笑うと、拳を構える。
榎「待って待って、どうして喧嘩なんてするの?」
榎は二人の間に割ってはいる。
不動「意味なんて無いさ。何をすればいいかわからないから暴れるんだ。」
藤木「どけよ。」
榎は突き飛ばされる。
不動「うおおっ‼」
藤木「おああっ‼」
男の拳が混じりあう。
一丁前の信念もなく、無意味に。
榎「そんなことしても前に進めないよ。ずっと、何もわからないままだよ。」
声を振り絞って言う。
不動「なら、どっちが前だっていうんだ。」
藤木「大人の敷いたレールがある。これに乗れば、確かに進めんだろうよ。」
不動「しかし、それは"前"なのか?疑う。」
藤木「けど、レールを無視すれば、道しるべを失っちまう。」
不動「なあ、どっちが"前"なんだ?教えてくれよ。」
榎「…わからないよ」
榎は下を向いてしまう。
不動「だろうな」
藤木「いつか俺たちは、暴れ疲れて、レールに帰るだけなんだろうよ。」
わからない。わからないんだ。
生き方の、行き方の正しさなんて。
でも、先輩は前に走っている。
そう思って背中を追いかけて来た。
だけど、どうして先輩はそっちが前だとわかるのだろう?
いや───────そもそも先輩でさえどっちが前かなんてわからないのではないだろうか?
そもそも、私が勝手に前に進んでいると決めつけているだけなんだ。
先輩は進んでいる。
前かどうかわからないが、しかし闇雲でもなく、進んでいる。
ただひたむきに"何か"に向かって。
それに対して私はどうだ。
先輩を見失って、ただ、立ち止まっているだけ…
榎「どっちが前だっていい…」
進まなくては。
榎「立ち止まってたって、どっちが前かわかるわけ無いじゃん‼自分が進む方を前だと信じて進まなくちゃあ、何もわからないし、誰も教えちゃくれないんだ‼」
二人は拳を止めた。
そして、両手をだらんと垂れ、俯く。
不動「暗闇の中を、たった一人で進む勇気なんて無いさ。」
榎「暗闇なんかじゃあない‼信じて行けば、先に走ってくれた人々の光があるから…諦めなければ、自分が信じた自分の目指すべき篝火があるから‼」
榎は立ち上がる。
榎「自分で歩き出さなくちゃ‼」
不動「…‼」
藤木「…‼」
二人は顔を見合わせる。
不動「フフ…そうか。そうだな。ありがとよ。」
藤木「つまんないことに付き合わせちまったな。」
榎「いいんです。私も迷いが晴れました。」
藤木「何か、やることがあるのか?」
榎「そうですね…人探しを手伝って欲しいんですけど…」
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その後、榎によって千代以外の陸上部が招集された。
榎「先輩にじっとしてろって言われて、じぅとしてるなんて、なんか違うかなって。」
枷檻「落ち着かねぇもんな。」
そして、全員の持つ情報を合わせた。
すると、ひとつの答えが出た。
凶子「その画家さんが探している弟さんは、マカアラシの主犯と見て間違いないわね。マリが出くわした超能力者と特徴が一致するわ。」
電子「はっはっは‼やればできるじゃないかお前たち‼」
檀「私たちはなにもしてないでしょ。」
電子「なにもしてなくはない。ただ、バガ真っ直ぐな後輩の帰る場所を、とっておいてやってるだけさ。」
檀「いい風に言って結局なにもしてないじゃない…」
電子「ところがどっこい‼真姫‼例の物を。」
真姫「はい‼実は、このロケット、絵の裏に写真が入ってたんです。」
ロケットの中から、丸く切られた写真を取り出す。
マリ「ってことは、この男子が犯人ってこと?」
みるく「悪そうには見えないのね~」
桜倉「見た目で判断しないように。」
榎「じゃあ、このことを先輩に伝えないと‼」
千代『もう伝わってるわよ』
榎「うわっ」
セイラ「効率化のためにテレビ電話繋げてましたぁーん」
榎「早く言ってよ…」
千代『榎ちゃん』
榎「…?」
榎は言い付けを破ったから、怒られるのか、と思った。
千代『がんばってくれて、ありがとう』
榎「え…」
千代『私は、みんなの安全のためにって思って動いてきたけど、みんなに心配かけちゃって…ほんと、ごめんね。動き出すまで、気づいてあげられなかった。』
榎「いえ、そんなことは…」
いいかけると、電子が間に割り込んでくる。
電子「なぁーに偉そうなこと言ってんだよ。こっちが勝手に心配して勝手に動いただけだ。上にたった気分になるなよ。私たちの関係は、横並びだろ?」
千代『そうですね…』
千代は涙こそ見せなかったが、声は震えていた。
電子「お前だって、助けて欲しいときがあるだろ?それならそれでいいんだ。お前が私たちを守らなきゃいけないだなんて、思い上がりもいいところだ。」
檀「あんただってポンコツでしょーが…」
千代『フフフっ』
電子「あ、笑ったなテメェ~」
凶子「そのへんにしなさい。本題を見失うわよ。」
千代『そうですね…ここからは、犯人の捜索と、確保という流れになりますから、今までのようにはいかないでしょうね…』
みるく「私が影のなかに引きずり込んで生き埋めにしてやればいいのね」
セイラ「怖ぇこと言うなよ。殺しはまずいだろ。」
真姫「画家のお姉さんが可哀想だよ…」
枷檻「そっかー…ブッ倒す方法も考えなくちゃいけねぇのか…」
一同はうーんと唸りを上げる。
マリ「…私に考えがある。」
凶子「どんなものかしら?」
マリ「私の能力で、捕獲担当の人に幸運を全てあけ渡します。それなら…」
電子「ダメに決まってんだろテメーッ‼」
電子はマリの肩を掴んだ。
電子「私は超能力者じゃないから、超能力がどれだけスゲー力かは知らない。けど、ローリスクじゃないんだろ。誰かを犠牲にする作戦なんて駄目だ。千代は姿を消せるから囮になったんだ。でも、お前はただじゃすまないんだろ。」
マリ「そんな綺麗事を言ってる場合じゃありません‼」
電子「千代はそんな綺麗事のために戦ってるんだぞ‼もう誰も傷つけたくないから戦ってるんだ‼」
マリ「…ッ‼」
マリはそのまま押し黙ってしまう。
摩利華「マリちゃん、別に責めているわけではありませんのよ。ただ、誰かを守れて、貴女を守れないなんておかしいって思っているだけなの。例えそれが、常識的に考えてそうすることしかできないとしても…。」
マリ「そう…ですか…」
マリは野鳥花の顔を思い浮かべた。
マリ(きっと野鳥花姉がなんとかしてくれる
人殺しの集団に任せるのはシャクだけど、約束してくれたから…)
千代『とりあえず、その線は最悪中の最悪パターンとしてしまっておくよ。
現段階ではいい作戦が思い付くまで全員待機するしかなさそう。』
ブレイカーか協力するものの、秘密裏に行うことが交渉条件だったため、伏せた。
セイラ「なんかイラつくぜ…美樹のカタキはもうわかってるってのに…」
真姫「ただの人なら負けやしないのに…‼」
檀「まぁまぁ、それもこれも確実に捕らえるためのものだから。今日のところは解散しましょう。」

野鳥花「ホーウ、顔が割れたカ。ウクク、この面倒な追いかけっこももうすぐ終わル。」
千代から送られた資料を眺め、笑みを浮かべる。
かるた「ずいぶん嬉しそうですね、鬼丸さん。」
野鳥花「当然ダ。私に一丁前に手を焼かせた罪を今、あがなわせてやれるのだからナァ。」
ルイ「…妹さんが危険にさらされなくなるからだろう。」
ルイは相変わらずパソコンに張り付いて、キーボードをならしながら言う。
野鳥花「家族とは大事なものダ。"心の家族"こそ…ナ。」
スバル「"心の家族"…ねえ。いい響きだ。」
野鳥花「血の縁なんぞ法律上の繋がりに過ぎなイ。大切なのは心の縁だヨ。ただ、血も心も通っていれば、それ以上の幸福は無いだろうナ。」
レイ「じゃ、家族を守りにいくか。」
野鳥花「アア。総動員でダ。」

5月15日(金曜日)

放課後、榎は画家の女性に電話で連絡をとった。
昨日のうちに連絡を取るべきだったのだろうが、残酷な真実を伝えることになかなか決心がつかなかった。
鍵のかかった部室のドアに背を持たれ、コールした。
女性「…そう。それはとても悲しいわ。」
数分の沈黙をやっと出た言葉だった。
息づかいで泣くのを必死でこらえているのが電話越しにわかり、いたたまれなくなる。
女性「私はどうすればいい?」
憔悴した声で問いかけてくる。
榎「説得してもらえればそれがいいんですけど…」
女性「でも、弟は…聡は超能力で殺人をしているのでしょう?」
榎「まー…そうなりますよねぇ…」
女性「なら、私の能力をつかってもらえない?」
榎「ええっ‼?あなたも超能力者だったんですか?」
女性「あら、言ってなかったかしら。」
榎「初耳です。」
女性「それじゃあ、この間渡したロケットの意味もわからないわよね…」
榎「弟さんの写真が入ってましたけど…」
女性「ああ、それはさほど重要じゃあないのよ。私の能力は絵の方よ。」
榎「はあ。」
女性「あんまり役に立たないかもしれないけど、使い方を教えるわね。」
榎「はい。」
女性「聡を見つけたら、ロケットごと投げつけて。そうすれば…………から。」
榎「なるほど。ダメがもとでやってみます…。」
そこで電話を切ろうとすると、女性は大きな声をあげた。
女性「必ずッ‼必ず聡を歪な奇跡から救って…‼」
榎「…はい‼」

時を同じくして千代はブレイカーの本部である白樺女子高へ向かった。
いつも通り気配を消し、奥へと向かう。
回りに誰もいないことを確認して、扉をあけた。
野鳥花「ホウ…気配を消すと言うのは、透明であること前提カ…」
千代「視覚で捉えても記憶から補完させて誤認させる。認識の死角をついてるんだよ。聴覚、嗅覚にも同じような暗示がかかる。」
かるた「空気になる能力ってこと?地味~なお前らしいわね。」
千代「華美にして強くなるなら着飾ってもいいけど?」
かるた「んだよ、喧嘩売ってんのか?ブス。」
かるたは嫌悪を眼差しを向けるが、千代は哀れみの眼差しを送り返した。
野鳥花「オイオイ、今喧嘩を売るべき相手は違うだろウ。」
レイ「ちゃんと犯人は見つけたのか?」
かるた「あったり前でしょ?そこの無能と一緒にしないでよ‼」
スバル「まぁまぁ、野良能力者相手にそういきり立つなよ。みっともない。」
かるた「先輩…。」
野鳥花はそんな会話に呆れたような表情で、テーブルを指でトントンと叩く。
すると、その部屋にいるブレイカーの面々全員がテーブルの方へ向き直る。
野鳥花「かるた、奴の居場所はどこダ?」
かるた「駅の近くのネットカフェを拠点にし、北団地へよく向かっています。」
野鳥花「なにかを気にしている様子ハ…?」
かるた「目的は大体つかめてます。」
野鳥花はウーン…と少し唸りながら、テーブルにある地図の駅と団地を指先でまっすぐ結ぶ。
途中で、広い土地にぶち当たる。
ルイ「ここっ。墓地だね…」
かるた「そうそう♪さすがルイ姉さん♪」
野鳥花「おおかた死人の記憶が目的だろウ。それも、"バイパスの狂気"の被害者。」
千代「でも、何故すぐにやらないの?」
かるたは聞こえるように大きなため息をつく。
かるた「あんた馬鹿なの?組織の大半を瓦解させたのは私たちなのよ?警戒してるに決まってるじゃない‼」
千代「封印がかかっていない番長ちゃんを降臨させたらそれこそ勝ち確なのに…」
レイ「そうとも限らないだろう。だいたい、そいつの強さを、お前は見たのか?」
千代「…いえ…」
レイ「あれだけ必死こいて記憶を探しているんだ、きっと"強さを証明する記憶"も必要なはずだ。」
スバル「そんで、それが墓地にあるかもしれない、と。
生きている人間や物、場所を調べるにも限界があったんだろ。」
野鳥花「そんで、目的がわかったところで次のフェーズへ移ル。」
千代「…と、言いますと?」
野鳥花「こちらが居場所を特定したことを高らかに宣言してやるのだよ。逃げ場は無い、とな。」
ルイ「そ、そうするとねぇ、きっとあいつら、焦って目的を達成しに行こうとするよ。だいたい78.2%くらいさ。」
野鳥花「いや、ほぼ100%で違いなイ。そうでなきゃこの地に固執する意味がなイ。」
千代「じゃあ、墓地で待ち伏せするってことだね。」
野鳥花「ウム。」
大きく頷くと、テーブルの資料を片付け始める。
野鳥花「今夜決行だ。かるたはメンバー全員に監視をつけるように。」
かるた「ふふっ、了解♪」

ディフェンダーの人「…というわけで、今夜、犯人を捕らえたい。」
セイラ「お願いします‼」
一年生組は、ボランティア団体、ディフェンダーの本部へ来ていた。
犯人の顔がわかったことを伝えて、一般市民に注意を呼びかけてもらおうとしたのだ。
そのために、団長である境蒼空(さかい そら)に話していた。
榎「でも、驚きました。まさか、幹部が能力者集団だったなんて…」
蒼空「ははは、隠しているつもりはないんだがな。なにぶん敵が、ことあるごとに隠したがるのでね。」
蒼空はずっと触っていたタブレットをショルダーバッグにしまうと、神妙な顔つきになる。
蒼空「それより、驚いたのはこっちのほうさ。君、そこへ向かいたいと言うんだね。見たところ、無能力者のようだが。」
榎は頷く。
蒼空はまいったな…と頭に手を当てる。
蒼空「この際だからはっきり言うぞ。君は足手まといだ。」
榎「わかってます。」
蒼空は露骨に頭がいて~な~という顔をする。
蒼空「君の言っていることは矛盾している。君もまた、忠告を受け、避難する側の人間なんだぞ?」
みるく「私が、私が護るのね‼だから、平気なのね‼」
熱烈なこだわりに蒼空は参ってしまう。
蒼空「あーもーわかったわかった。好きにしなさい。ちゃんと危機を感じたら逃げるんだよ。」
榎「…‼はい‼」
一年生組は揚々と去ってゆく。
その背中を蒼空は見送った。
蒼空「だれか1人付けとっか…。」

そして日は沈んでゆく。
戦況は、犯人の圧倒的不利。
────かに思われた。
が、夕闇のなかで、彼女らが見た光景は予想だにしないものだった。