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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.23 傍観者になってはいけない

マリンは、泣き明かしては眠りを繰り返し、ずっと宿の一室に閉じこもっていた。
――――デジャヴュ。
彼女は身を持って知っていた。
偽りの平和なんていつかは壊れてしまうのだと。
街はひどい有様だ。
チヨが配り歩いたり、飛ばしたりした宝石のせいで、建物は歯抜けにボロボロになり、被害者数名は手遅れ。
医者は全力で被害者の救急救命に徹したが、それにも限界があった。
余りにも強い思念。
チヨという女は存在自体が戦争だった。
幼い鏡は、結末までも同じだぞ、と彼女を嘲笑った。

ブリンクは紅茶を渡したあと、本来の目的であったマリンの様子見のためにその部屋へ向かった。
入ると、部屋は強烈な匂いに包まれていた。
その場から動かないせいで、排泄物や吐瀉物がそのままになっていて、首吊りの自殺現場のようになっていた。
見るに見かね、抵抗すらしないマリンを避けておき、ひとまず部屋を清掃した。
流石に着替えさせるのははばかられたため、ミツクビに着替えの準備と、風呂に入れてあげるよう任せた。

番長「そうだ・・・私は”魔女”だったな・・・。」
既に冷めてしまった紅茶をテーブルに置いて、自傷した。
番長「こういう時、アイツならなんて言うんだろう。」
思い出すのは、生前に残してきた恋人だ。
ただ愚直で、正義漢で、それでいて欲望に忠実で、どんな男よりも自分を愛してくれた。
彼がいたから、自分は仲間というものを省みるようになったし、彼がいたから、自分はただの”魔女”ではなくなったのだ。

――思い出す。
彼と出会うまでの記憶――
とうの昔の、空の遥か彼方、第二の地球・・・セカンドアースでの、おとぎ話のような本当の話。

彼女は超常現象というこの世で最強の能力を持つ家系の末裔だった。
彼女が9歳の頃能力が突如発現、駆け寄った母親は死んでしまう。
父親は失踪、孤独の身となる。
そんな時、"ヒロ"と名乗る人物が現れる。
彼はなんにもできない彼女の身の回りの世話をして、
生きる方法を教え、工場へと連れて行ってくれた。そこで彼女は機械の楽しみと出会う。
才能を開花させた彼女は次第に技術の虜になっていった。
そして彼女は自らの能力について知るために現象について学び、その終着点、現象エネルギーの塊である賢者の石を作り出したのである。
しかし、その力は大きすぎるため、隠す必要があった。
そのために彼女は大切な人、"ヒロ"と永遠を生きたいと思い、
二人の体内に賢者の石のエネルギーのみを抽出、保管することにした。
ところが超常現象の能力により強力な器が出来上がっていた番長とは裏腹、
ただの優男の"ヒロ"はエネルギーを抑圧できず、爆破して肉塊と化してしまう。
2度目の大切な人の死――それに対して永久機関である賢者の石のエネルギーを
取り込んでしまった彼女は不老不死となり、この世界に「取り残される」ことを余儀なくされた。
彼女はどうにかして死者を生き返らせることはできないか、と
魂について情報をあさり始める。
そんな中で「メタモルメタル」という不思議な現象と出会う。
魂を宿す金属――「メタモルメタル」。
それを利用し、「電子」「陽子」と、次々とアンドロイドを生み出した。
しかし「メタモルメタル」が"その人物を殺した金属"にしか宿らないことを知り、心の空虚さは広がるばかりだった。
歳をとることがなく、奇怪な研究を重ねる彼女は"マシーナリータウンの魔女(後にオールドマシーナリータウンの魔女と呼称が変わる)"
と恐れられるようになる。
時を重ね、マシーナリータウンだった場所が、
広く荒れ果てた無法地帯の工場街"オールドマシーナリータウン"、
特別保護区、正統な機関の管轄下に置かれた街が"ニューマシーナリータウン"となり、
あからさまな隔離を受けた。
オールドマシーナリータウンは死刑囚などが放り込まれるスラム街と化した。
そんな彼女には欠かすことのない習慣があった。
近くにあるコンビニで、飲み物を買うというなんとも人間味に溢れるものだった。
それは母親と暮らしていた頃の記憶に少なからず結びついていて、彼女の感情ではなく記憶がそうさせていたのだ。
そんな彼女に密かに想いを寄せていたのが
オールドマシーナリータウンのストリートファイター、「五十嵐ヒロ」であった。
彼女のことを1ミリも知らない五十嵐ヒロは、
ただのデンパな世間知らずのお嬢様だと思っていた。
なにせその時の彼女は心も口も閉ざし、虚ろな目で過ごしていたからである。
五十嵐ヒロはそんな彼女にストーカーを疑われるほど猛アタック。
こんなにも他人に肯定的な感情をぶつけられた彼女は次第に平静を保てなくなる。
二年間も付きまとわれては壊れた彼女の心でさえも動いてしまうのだろう。
それに、どんな運命のいたずらか、全く関係ないにも関わらず、今も昔も運命の男というのは”ヒロ”という名前だった。
しかし時が流れることにより五十嵐ヒロは嫌でも彼女が特別な能力を持っていることを知ることになる。
五十嵐ヒロは成長した。 番長は成長しなかった。
ただ、そんな単純なことだった。
五十嵐ヒロは気づかないふりをしていたが、番長のほうはコンプレックスとして心に溜めつづけていた。
そしてついに彼女は、「もう気付いてるんでしょう?私がただの女の子じゃないって。――"バケモノ"だって。
”オールドマシーナリータウンの魔女”だって・・・。」
と、涙ぐみながらも打ち明ける。
それに対し五十嵐ヒロは、
「だったらなんだ。」
と凄んだ。でも彼女は俯き、
「だったらなんだって何よ・・・。
アンタは自分がいましていることがわかってるの?
この地上で最大の危険と手を伸ばせば届く距離にいるのよ?」
少しの静寂のあと、五十嵐ヒロは口を開く。
「危険かどうかなんて知るかよ。
俺は好きな人に告白しているだけだ。それ以外のなんだって言うんだ?」
と、真っ直ぐであっけらかんな、純粋な愛をぶつけられた彼女は、いつか失っていたはずのぬくもりに無意識に凭れていたのだった。

番長「彼のように、ただ思っただけを言えばいいのかな。」
なんて、心にもないことを言う。
彼ほど自分は真っ直ぐではないと、今までさんざん身を持って知ったろうに。

彼と出会ったあと、彼女は彼の持っていた正義を受け売りした。
だが、形は違った。
ヒロは、目に写るものすべてを救いたかった。
番長は、悪を切り捨てて他人を救った。
ヒロは、理想論を追いかけていた。
番長は、現実と戦っていた。
ヒロは、捨てられずに迷って、もがいた。
番長は、仕方がないと、簡単に人を殺した。
彼の理想に憧れたくせに、その両手は血に染まっていった。
それでも、ヒロは彼女を抱きしめた。
本当は人殺しなんてして欲しくない。
本当は犠牲なんて出したくない。
でも、手遅れになる前に手を下す番長に、ヒロはいつも助けられてばかりだった。
だから、責めることはできなかった。
だから、罪さえも救いたいと思った。
あの時あいつはなんて言ったかな・・・。
あいつなら、もしかするとマリンを医者に預けるとか言い出すかもしれないな。
お人好しだし、考えられなくもない。
だが、もう既に仲間なのだから・・・追っ手から守らなくてはならぬと決めたから。
マリンは・・・そして私は戦わなくてはいけない。

だから、それをそのまま伝えればいい。

番長はミツクビに看られているマリンのもとへ行った。
そうして、彼女は真っ直ぐに、愚直に、思ったままを口にした。
番長「マリン――――戦おう。未来は変えられる。」
そんなありふれた言葉だった。
でも、そう思ったのだから仕方がない。
もしかしたら的外れかもしれないけど、不器用ならいっそ考えないほうがいいんだ。
そう思って、この言葉を選んだ。
はっきり言って、落ち込んでいる人を慰めるときに正解なんて存在しない。
全て結果論。それだけだ。
”大切なのは気持ち”。
この言葉の意味を本当に知るのは、贈った言葉や物を受け取った相手が、嘘偽りない笑顔を見せた時だけである。
マリン「未来は・・・。」
ふさぎ込んでから初めて口をきいた。
かすれた声で震えていたが、その頬は確かに、微かに笑っていた。