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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.21 延、トリック・アートの世界

マリンは、生前はいつも偽りの平和を眼下に広げていた。
だが、別にそれが嫌いなわけではない。
むしろ、誰かを守るための優しい嘘なら、このままでもいい、と思った。
今のこの町も、そんなハリボテ固めの平和を乱される、かつての風景と同じものだ。
昔は命を投げ出すことでしか守れなかった物を、今回は皆を、自分を含めた皆を、きっと守れるのだろう。
そう、奮起していた。

ーーー人を隠すなら人の中、とはよく言ったもので、賑やかなエリアに居るはずの画家は見つからなかった。
また、奇声を発する人間がいったいどうなってそんな状態になったのかも解らずじまいで、医者もお手上げ状態。
何らかのアーツの影響でしょうと、とりとめの無い答えしか得られなかったのだ。

歩いていくうち、その画家は思ったより呆気なく…というか、意外な方法で見つかった。
彼はマリンを殺したつもりでいたのだろうか、マリンの顔を見るたび挙動不審になった。
最初は追っ手かと疑ったが、それにしては消極的であるため、犯人ではないかと疑ってかかったのだ。
脅すとこれまた呆気なくアーツを解き、謝罪してきた。
「トリック・アート」。
それが、この一連の事件の正体であった。
その目的は、「美麗な人間を自分の世界に引きずり込むこと」。
だから不確かな殺傷能力で、そして奇声を発する人間が現れたりしたのだ。
奇声を発する人間は、絵画の中の生まれたての人格。
それと本人の魂を入れ換えるという能力だった。
故にその偽物の魂は、子供のように生を授かったことに歓喜したのだそうだ。

あまりにもさっぱりとした幕切れだった。
が、また1つヒントを得た。
彼は誰かにそそのかされてやったのだと言った。
苦しい言い訳に見えたが、確かに、この短絡さもそれなら頷けた。
そそのかしたのは"宝石商の女"だそうだ。
どうも、そちらにマリンを狙われている可能性は否めない。
マリンの記憶を便りにベルデライトをくれた宝石商を探すことにした。

マリン「居ない…。」
もう逃げられたのか?数時間に渡って手探りし続けたのだが、一向に尻尾を見せてはくれない。
麗「弱ったな…。こういう事件の火種は早めに消しておくのがいいんだが…。」
疲労の顔が一同を統率するなか、彼はぼやいた。
番長「早いも遅いも、火は起きない事の方がいいだけじゃないか。」
あまり覇気がない声で、ツッコミを入れる。
もちろん、一同は本当は言われなくても解っている。
実際、マリンだって、そんなことはわかっている…と言いたいほどだ。
トントン拍子ですすんだ「トリック・アート」の捜索とは裏腹、時間がひどくかかり太陽は沈みかけていた。
途方にくれていた。
そんな最中だった。
サクリファイス「はぁ、俺も小物とか作って店でも出すかな~なんて。」
冗談めかして、そんなことを言った。
すると、意外な声が帰ってきた。
宝石商「いいじゃないですか。それが貴方の表現方法でしょ?」
姿を知っているマリンだけがゾクンと反発して番長の陰に隠れた。
その意味を、その場にいた一同全員が察知した。
番長「お前か。"トリック・アート"の画家をそそのかしたのは。」
鋭い眼光をぎらつかせ、単刀直入に問う。
宝石商「そそのかしたなんて人聞きが悪いわ。」
その顔は、なんとなく既視感を感じさせた。
紫色の、モコモコとした長い髪と瞳。
白い服、藍色のスカート。
妖艶で豊満な容姿、弱いようで強い面持ち。
どこかで見た気がするのだ。
番長「つかぬことを聞くけどよ、お前、私のことを知っているか?」
思ったことを口に出して伝えるタイプの番長はずいと迫った。
宝石商「うふ、敵視しているわりには冷静なのね。
だけど残念。私は本当に貴女の事を知らないわ。」
番長は少し満足いかなげに頷き、
番長「そうか。よかった。知り合いににていたものだからな。遠慮しそうになっちまった。」
迷いを孕んでいた瞳は鋭さを取り戻していた。
だが、やはりまだ引っ掛かるものがある。
サクリファイス「どうして画家のやっていたことを助長したんだ?」
番長の疑問とは別に、全うな質問を仕掛ける。
宝石商「あれが彼の表現方法たったのだから良いでしょう。だってここは芸術の町ですから。」
酔狂な答えを、笑顔で返す。
番長以外は、既に臨戦態勢に入っていた。
が、番長は最後の霧払いをしようとかかった。
番長「名乗れ、狂った芸術家。
墓くらいは建ててやる。」
そんな挑発的な質問に対した答えは、誰もが予期せぬ物だった。
宝石商「私の名前?…えぇ、私は"藤原千代"よ。」

その瞬間、すべての神経が逆立った。
感情が逆流してしまって、勇気は恐怖に、怒りは困惑と化した。

まさか、と思っていたことを確定された。
髪の長さや、年齢的な容姿は違う。
だとしても眼差しや仕草は何処か似ていて、我らが知る藤原千代のそれを思わせた。
番長「嘘…だ…。」
信じられなかった。
なにせ、彼女はついこの間クリン・トラストの女王になって別れたばかりであるからだ。
…もちろん、目の前の人間が偶然名前が同じで、容姿もにているだけなら何もおかしな事はないのだが。
番長「最凝町に住んでいた、藤原千代に間違いないのか?」
決定的な質問を重ねる。
宝石商チヨ「…?えぇ。もしかして、貴女は私が殺した中の1人か、そのご遺族かしら?うふふ。」
話が噛み合わない。
合致している部分もあれば、そうでないところもあって、支離滅裂である。
ブリンク「どうしてこんなことをしたのです?」
思い付く限りの質問をぶつける。
冷静に戻れる材料が、ただ欲しかった。
宝石商チヨ「どうして…。ですって?そんなの、自己表現のために決まってるじゃない。」
違う。
こんな身勝手なのは千代じゃない。
宝石商チヨ「私はね。昔、誰からも目を向けてもらえなかったの。だからね、いっぱい犯罪を犯して、いっぱい人を殺して、いっぱいい~っぱい人を傷つけてきたの。」
違う。
違う違う。
こんなの千代じゃない。
宝石商チヨ「私はね。綺麗なものも好きなの。だから、もっときらびやかで、もっと残酷な事をして、皆に見てもらいたいの。見てもらわなきゃ嫌だ…。私を見て…。私を見て…。」
あぁ、なんだ。
納得がいった。
宝石商チヨ「見て…。見て…。見て…。見て…。見てよ…。私を見てよ…。私の生きている表現を見てよ!!!!」
こいつは。
こいつの正体は。