DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.12 言葉は人

時を同じくして、麗は武器庫へとたどり着いた。
そこにも刺客は待ち受けていた。
それは、肉塊のような巨大な男だった。
太った男「トゥへへ・・・ねずぅみが一匹・・・。」
麗「悪いが俺は人間だ。」
太った男「ふぁ?そんなことぉは、どぉでもよぉし。」
敵は、巨大なメトロノームのようなものを背後に出して、奥に進む扉を塞ぐ。
半分が赤、半分が青色の気色の悪いアーツだ。
太った男「でぇも、ぼくはなにもしなくてよぉし。トゥへへ・・・。」
男は不気味な笑みを浮かべたまま、腕組みをして立っている。
麗「なんだと?この野郎・・・その土手っ腹をかっ捌いてもらいてぇか!!」
麗はアーツを発言させて、相手を切りつける。
だが、相手の体は傷つかない。
切った感触はあったのだ。
何故――――
そう思った瞬間、麗の腹部が裂け、大量の血を撒き散らした。
麗「うおあぁっ!!?」
風のレールで後退し、距離を取る。
太った男「だぁからいっただろう?ぼくは何もしなくてよぉし。
このアーツは、攻撃ターンを定めるアーツ。
ターン違反は、全て反射してしまうんだぁ。げふ。」
メトロノームの針は赤い方に傾いて止まったままだ。
そのことから察するに、赤は太った男、青は麗のターンということだ。
太った男「トゥへへ・・・無力ぅを知ったかぁ!!
さぁ、このまま血ぃを流して死ぬかぁ、尻尾ぅを巻いて引き返すかぁ!!えぇらぁべぇ!!」
麗「ふん。」
敵の自信満々の勝利宣言を鼻で笑い一蹴した。
麗「くだらねぇ。
そんなチキンな能力が強いってのか?とんだお笑い種だぜ。」
太った男「ふぅん、負け惜しみよぉ。」
麗「こんな手負いの相手にトドメを刺すこともできないのにか?」
太った男「黙っていればぁ、いずぅれ死ぬだろう?」
麗「はぁ~ん・・・この俺のアーツはこんなにも男らしくぶった切ることができるのにな~・・・お前のアーツはな~んてこっすいんだろうな~。」
太った男「これぇは規律ぅのアーツ。こすいもごついもアリはしなぁい!!」
麗「そんなにブヨブヨのデブなのに規律のアーツを持つような生活をする男だって?お前が?嘘つけ!!」
太った男「言ぃわせておけばぁ、いい気になりおってからにぃ!!」
麗「なんだって~?そこからじゃあ聞こえないぜ。
もっと近づいて言えよ!!肉だるま!!」
敵は顔を真っ赤に染め上げて、突進を仕掛けてくる。
太った男「怒りぃに触ぅれたなぁ!!」
巨大な拳を盛大に振るう。
麗は風を使って上昇し、華麗に避ける。
その時。
ガコン!!と音がした。
麗「我慢比べは俺の勝ちだぜ。」
メトロノームの針は青い方に傾いている。
太った男「やめてぇとめてぇ!!」
麗「テメェには、おろして食ってやる価値も無ぇ!!」
麗は大胆に、男の首を跳ね飛ばした。
麗「がはぁ・・・!!」
先ほど反射された攻撃の傷が今更になって痛みを増してきた。
麗「まずいまずい、死んじまう。」
死んだ敵の大きなズボンを引きちぎって、サラシのように腹部に巻きつけ、なんとか出血を抑えた。

千代「う・・・ん・・・。」
番長「ン!!」
千代の体に次第に筋的な力が戻り始めている。
サクリファイス「お、そいつ、目ェ覚ましたのか。
周りには誰もいねぇみてぇだし、少し休もう。」
そっと千代を下ろして壁にもたせ掛ける。
千代「ここ・・・どこ・・・?」
番長「城ン中だ。
どうだ、具合の方は。」
千代は次第に目をしっかりと開いてゆき、縦に頷く。
千代「大丈夫。問題ないよ。」
千代は立ち上がる。
いいことなのか悪いことなのか、彼女は突然の不調に倒れてしまうことに慣れているようだ。
番長「私は、これからも人を殺すが、止めないのか?突然暴れられても困る。」
半ば挑発的に尋ねる。
千代「もういいよ。わかったんだ。
この世界は理屈じゃないって。
この世界では生きるっていうことが麻薬みたいなもので、生きていた時の喜びや楽しさっていうようないろんな感情を思い出すと、
それに執着したくなり、生き返る可能性に依存してしまって、
生き返りたいと思ったその日から中毒症状にかかってしまって抜け出すことができない。
みんなもうすでに死んでいるからすでに壊れていて、
この世界自体まともじゃないから人としてまっとうな正しさなんて存在しないんだって知ったよ・・・。」
番長「そうか・・・。わかってくれたならいいんだ・・・。」
背を向けて歩き出そうとする背中に、千代は抱きつく。
千代「でもね・・・私にはまだ不満があるんだよ・・・。」
涙を流し始め、鼻水をすすっている。
千代「敵を殺すとき、少しでいい・・・ほんの少しだけでいいからさ・・・ちょっとは躊躇ってよ・・・!!
どんなに人間という存在が崩壊したこんな世界でも、私は番長ちゃんにだけは人間でいてほしいんだ。
返り血を浴びてヘーキな顔して立っているなんて・・・銃口を向けて眉一つ動かさないなんて・・・
そんなの”エゴを主張する人間”ですらない・・・”物言わぬ化け物”だよ・・・!!」
千代は番長の返り血に濡れたYシャツをギュッと握り締める。
番長「なにがわかるんだ・・・。」
千代「・・・?」
番長「普通の人間だったお前に、化け物の何がわかるんだ!!」
サクリファイス「ど、どういうことだ・・・?」
番長「私が最初に殺してしまった人間は誰だと思う?」
千代「・・・・・・。」
番長「”母親”だよっ!!誰にも変えることのできない!!
誰よりも自分を愛してくれた人間だ!!
私の薄く途切れてしまったはずの”超常現象”の血筋が覚醒して、暴走して、殺してしまったんだ!!
その時から私は化け物なんだ!!
そして私はあろう事か、母の分まで生きようと、当時良くしてくれた恩人と永遠の命について研究し、実験した。
その結果は、私だけが永遠の命を手にして、彼は死んだ・・・。
私は二度も大切な人を殺してしまったんだ!!
ああ、なんて最低な奴なんだ!!
”オールドマシーナリータウンの魔女”はすでに、人間であることを失っていたんだよ!!
この髪留めは母の形見・・・私が化け物である証拠。
母親を殺してしまった私には、人殺しなんてなんともなかったよ・・・。
母親より重い命なんて見つかるはずないんだから・・・楽なもんさ。」
千代「苦しかったんだね・・・。」
番長「・・・・・・は?」
千代「母親より重い命はないってことはさ、ほかの人を殺した時だって、少なかれ傷ついてたってことなんでしょ?
大体、化け物は親を殺したって悲しまないよ・・・だから、番長ちゃんはまだ人間なんだ・・・よかった・・・。」
番長「こんな私も・・・人間だって言えるのか・・・?」
千代「番長ちゃん・・・もう・・・泣いてもいいんだよ・・・?」
番長「・・・・・・。」
千代「これ以上こらえてたら、取り返しのつかないくらい壊れちゃうから・・・。
人を殺さないと生きていけないのは、ホントは苦しいんだよね・・・正直に言って・・・。」
番長「嫌に決まっているじゃないか!!誰がこんなこと望んでするって言うんだ!!」
彼女は心の底から叫んだ。
これが彼女の本当の声だ。
涙も、鼻水も、ヨダレも吐き散らしながら顔をクシャクシャにして、久方ぶりに彼女は泣いた。
千代「おかえり。
”人間の”番長ちゃん。」