DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.9 欠けたダイヤモンド

千代「どうしてわかってくれないの・・・?」
手を振りほどかれた番長はそれ以上は何も言わずに地下室を後にした。
それに続いて、その仲間も次々と部屋を出る。
千代「仲間だとか敵だとか、そんなので命の価値を測るなんておかしいよ・・・。」
枷檻「番長の言い分だって全部間違ってるってわけじゃあねぇだろ。
お前がどんなに強い意志で命の平等を訴えても、お前が殺されてしまえば誰にも伝えることができなくなるんだ。
”死人に口なし”とはそういうことだろ?」
摩利華「それに、もしその敵に家族や大切な友人が殺されたとして、その時にも同じように”命は平等だ”と言い張れるのです?
憎い、この世にいて欲しくないとは思いませんの?」
千代「それが間違ってるのよ・・・。
互いに理解しているなら最初から人殺しなんて起きやしないんだ。
誰かが誰かを殺すから、またその誰かが殺した誰かを殺したいという気持ちが生まれるんだ・・・。
命を平等に扱わない奴がいるから差別が生まれ、ハラスメントが生まれ、
コンプレックスに押しつぶされそうになりながら生きていかなくちゃあいけなくなるんだ。
誰も理解しちゃくれないんだ・・・命を秤にかけるから回り回って誰かが取捨断離されていくんだって・・・。」

番長「このまま城へ向かう。」
番長は足を止めずに応える。
ブリンク「いけません、そんな気が立った状態では冷静な判断力が失われてしまっています。
少し落ち着いてから行かれてはどうですか?」
番長「そうも言っていられない。
今この瞬間にも”殺さずの命”に従った千代側の兵の尊い命が失われていってるんだ。
敵兵は私だけが殺す。
これは頭数稼ぎじゃない、千代との因縁って奴だ。
私”だけ”が命令に従わないことで解らせてやるんだ、いかにあいつの頭がお花畑かってことをな。」
ミツクビ「そんなのおかしいニャン!!」
麗「ニャンコ・・・?」
ミツクビは今までにないほどに声を荒らげた。
肩を震わせて、瞳を潤ませて。
ミツクビ「敵にだって事情があるかもしれないニャン・・・弱みを握られている兵がいるかもしれないニャン・・・。
それなのに敵だからって殺してしまうニャン!!?」
番長「お前までそんな事を言うのかッ!!もういい!!志が弱いならついてくるな!!
・・・仲間の命より大切な物があるもんかよ・・・!!」
番長は自分の命を投げ打ってまで仲間を助けるほどに仲間というものを大事にしていた。
だからこそ、”自分が大切に思っている仲間たちが大事にしてくれた自分の命”を守れなかったことをひどく後悔していた。
それが彼女の生への渇望の正体で、決して拭うことのできない心の涙なのだ。
だが、彼女は決して泣かなかった。
残された仲間たちが流すはずの涙を自らが流す資格はないと、その想いを怒りに変えて―――。
ミツクビ「なら、ミィはおとなしく残るニャン。」
サクリファイス「どうして・・・!!?」
ミツクビ「ど、どうせついていってもまたあしでまといニャン。
それに、今ここにいるのが・・・苦しくてたまらなくてニャン。」
サクリファイス「お前はあしでまといなんかじゃない!!」
ミツクビ「猫はキマグレニャン。そう割り切って欲しいニャン・・・。」
小さな背中は地下の廊下の闇に吸い込まれていった。
ブリンク「おや?なにか落としていきましたね・・・。」
光る物体が床に放り出されている。
それは、サクリファイスの右腕を治すためのクリスタルだった。
サクリファイス「チキショー・・・しっかりものめ・・・!!」
彼はクリスタルを強く強く握り締めた。

城下町に進行し始めている兵たちに加勢し、戦い始める一行。
ブリンクが植物を這わせて相手の行動範囲と人数を制限しつつ少しずつ仕留めてゆくという戦法をとり、確実に形勢を逆転していった。
番長は倒れていた兵士から剣と盾を頂戴し、銃を使わない戦法で消耗を抑えていた。
その番長の戦いぶりは、千軍万馬に負けじと劣らぬ華麗なもので、敵を圧倒し仲間を魅了した。

鮮血を浴び、門前の区域を取り戻した。
その門の前に立っていたのは・・・千代たちだった。
敵兵はその圧倒的な存在感に気圧され、棒立ちしていた。
千代には「クロ」という幽霊のような像が付きまとっている。
それが、周りの人間の恐怖心を煽る最大の要因であった。
クロの繰り出す拳は高速かつ強力、鎧などガラスのように割れてしまう。
その上、黒い場所ならどこからでも発現してくるという恐ろしい性質を持っていた。
猛者同士が対峙している場面に、周りは恐れおののくしかなかった。
番長「・・・どうした?一緒に行くのか?」
千代は静かに首を横に振る。
千代「番長ちゃんは人を殺した。
だから、止めに来た。
これ以上好きにはさせない。」
番長の眉間のしわが一層濃くなる。
番長「ケッ、味方を見殺しにするのがシュミな癖に・・・。」
千代「・・・止まる気はないのね?」
番長「・・・・・・愚問だな。」
千代「なら・・・力尽くで止めてみせる!!」
番長「言っておくが、前会った私とは違うことを心得ろよ?」
番長は剣と盾を捨て、両手に銃を構える。
千代「あんたが全力ならこっちだって死力を尽くすのみだよ・・・!!」
黒い風が千代の周りにうずまき始める。
枷檻「おい・・・!!やめろ!!それだけは使うんじゃない!!」
千代「これは私のケジメだから、口出ししないで・・・!!」
摩利華「おねがい!!やめて!!」

千代「”皆既日食”」

枷檻「周りにいるお前らァ~~~~~!!呼吸をするな!!危険だそ!!!!」
摩利華「あぁ、やっぱり今回も”皆既月食”なのね・・・。」
皆既日食”――――それは、千代の”覚悟”のアーツ。
クロを憑依して自らを強化するとともに、結晶化させることができる粉塵を周りに舞わせる、その場を地獄と化すアーツ・・・。
だが、千代はそのチカラをコントロールすることが成功するのは希で、いつも失敗する。
それが、”皆既月食”。
獣のように敵味方問わず攻撃するようになり、性格とは正反対な殺戮、蹂躙をするようになる。

呼吸を続けた距離の近い兵士の胸からは黒い結晶が隆起していて、肺を貫いていた。
千代の黒く強く固く鋭い意志は呼吸をすることさえも許さないのだ。
枷檻は自らのアーツ・・・蒸気を噴出する巨大なガントレットを発現させ、蒸気のバリアで粉塵を近づかないようにしてどうにか凌いだ。
番長サイドの仲間は、麗の風のアーツによってなんとか持ちこたえる。
千代「ゴオォォォォォォォォオオオオオオオ!!」
まるで映画の怪物のような、空気を押しつぶす程に大きなけたたましい声をあげる。
その声に呼応し、粉塵は拡散する。
兵士は次々と餌食になり、いとも簡単に倒れてゆく。
番長「なぁ麗、風のスーツとか、そういうのは作れるか?」
あまりの圧倒具合に、動くことができない。
麗「三分ならなんとか・・・。」
番長「充分だ。」
番長は風をまとった。
目には見えないが、粉塵が自分を避けて行っていることで効果があることが解る。
安全を確保したところで、すぐに銃を向ける。
千代は制御を試みているのか、こちらに寄ってこない。
弾丸を放つ。
だが、軌道上にある粉塵が結晶となり、弾丸を閉じ込めた。
弾丸は結晶だけをねじ砕き、果ててしまった。
千代「ゴアァァァァァァァアアアアアァァァァアア!!」
再び叫んだかと思うと、こちらに向かって走り出した。
それに応えるように懐に飛び込み、弾丸を撃ち込む。
だが、同じように止められてしまう。
間髪入れず、千代は反撃を行った。
強力な拳を番長はモロにくらい、サッカーボールのように勢いよく飛び、城壁に叩きつけられた。
千代「グゴォオオオォォォォォオオオオォオ!!」
追撃を食らわそうと千代が走ってくる。
番長は危機を察知し、素早く体勢を立て直した。
千代は近づくなり、得意の連撃を繰り出す。
番長はかわすのが精一杯になっていた。
しかし、反撃を諦めてなどいない。
ただ、一瞬、ほんの一瞬のタイミングを伺っていた。
頬をかすり、腕をかすり、だんだんと動きに精度が増し、かわすことが難しくなってきた。
千代は両足をがっしりと地面につける。
この瞬間を待っていた。
千代は、一定時間ごとに叫び声を上げる。
これがスキなのだ。
叫ぶ前の息を吸うほんの一瞬のタイミングにあわせて、砕けた結晶を口に投げ入れた。
思わず千代はむせ返ってしまう。
すかさず頭部に蹴りを食らわせる番長。
千代「グルルルルルルルルルル・・・・・・。」
よろめく千代は周りの粉塵を結晶化させて飛ばし、牽制をして距離を取らせる。
ある程度距離ができると、途端に粉塵は白くなり始める。
千代「フシューーー・・・。」
あらぶっていた呼吸も落ち着いてゆく。
枷檻「そんな・・・それだけは・・・そんな残酷なことだけは・・・。」
白くなった粉塵は番長を包む卵の殻のような形に固まり始めた。
まだ半球状だが、番長を覆おうと少しずつ形をとり始める。
その塊が意味するのは輝く生命の始まりと終わりを示すウロボロスの環――――
枷檻「やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

金環日食