DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.8 導かれし者が己を信じた時

麗「どうして隠してたんだ?」
腕の腐った部分に薬草を煎じた液をかけながら尋ねた。
サクリファイス「あー痛い痛い!!痛い痛い痛い痛い!!それやりながら訊くことじゃない!!」
番長「なっさけねぇ・・・。」
腐っているから痛点が死んでいる・・・なんてことはなく、激痛がサクリファイスを襲った。
サクリファイス「あーもう・・・包帯に染みこませておくとか、そういうことはできなかったのかよ~。」
ハインツ「すみません。包帯はしっかり除菌してから付けるのが普通ですので・・・。
ついでに言っておきますと、薬をかける前にちゃんときれいな水で流さないといけないのですが、やりましたか?」
麗「あ。」
ハインツ「そんなことだろうと思いました・・・。」
麗「っつうか質問に答えてもらってないんだけど。」
水をかけながら尋ねる。
サクリファイス「痛い!!痛い痛い痛い!!あー!!あ痛い!!お前わざとやってるだろ!!」
そこに、ミツクビが包帯を持ってくる。
ミツクビ「ダーリン・・・ミィのせいで右腕が・・・。」
彼女も彼女なりに反省しているようだった。
というか、こんな事態になっても反省しないほうがどうかしているのだが。
サクリファイス「へへ、ニャンコが右手を失ったときに守れなかったことに対しての戒め痛い痛い痛い!!」
麗は会話中に容赦なく薬をかけ直す。
麗「あーすまねーすまねー。
でもよぉ、治療は早くやっておくに越したことはないだろー。」
麗が薬をまんべんなくかけたところにハインツは慣れた手つきで包帯をキツめに巻く。
サクリファイス「い゛え゛え゛あ゛!!!!」
ハインツ「のろけていると傷が増えますよ。」

麗「んで?改めて訊くけど、どうして隠したりしてたんだ?」
サクリファイス「いやぁ、俺の能力って、水がないとだめなんだよ。
麗とか番長みたいに生成できたら苦労しないんだけど・・・都合よく水場が近くに有ることなんてないからさ。
過度の期待をさせないように、敢えて隠れて使い方を練習してたんだよ。
鎌を出すときにつばを吐くのも、癖じゃなくて”種火”ならぬ”種水”が必要ってこと。」
麗「銃なのに装填がいらなかったり、水なのに種が必要だったり、植物なのに種が必要なかったり。
ホントよくわなんねぇな。なぁ番長。
・・・・・・番長・・・・・・?」
番長「・・・・・・ん?おぉ・・・・・・。」
珍しく間の抜けた返事をする。
ブリンク「どうなさいました?もしや、あの銃は発現させるだけでも消耗するとか・・・?」
番長「いいや、気にしないでくれ。」
最強として生きてきたはずの自分。
しかし、この世界に来てからというものの、それがことごとく覆されている。
あんなイカれてるやつなんてそうはいないが、そんなことは問題ではないのだ。
今までなんでも出来ていたから、いざできないことに直面したときに痛がゆさを感じてしまう。
それを引きずって、悶々としていた。
麗「はぁ・・・気にしないでくれっていうのは気にしてくれって言ってるようなもんだぞ。」
番長「・・・。」
番長は俯いてしまう。
ミツクビ「相談は早くしておいた方がいいニャン。」
ハインツ「そうです。遠慮なく言ってくれていいのですよ。」
番長「・・・私は気付けなかった。
・・・すぐ近くに敵がいたのに、まったく・・・。
そのせいで仲間が傷ついた。守れなかったんだ・・・。」
番長はいち早く敵を察知することができた。
だから、自分に与えられた役割の責務を果たすことができなかったことに後ろめたさを覚えていたのだ。
サクリファイス「へっ、くだらねぇ。」
番長「なんだって?」
サクリファイスは嘲るように頬を釣り上げる。
サクリファイス「だから、なんで今回の件でテメーだけが負い目を感じてるんだって話だよ。
リーダー気取りでいやがって・・・戦っているのはテメェだけじゃない、俺たちみんななんだよ。
誰かが傷ついたり、損害を被ったのはなにも一人だけの責任じゃあないだろ。
大体、誰にだって出来ることとできないことはあるんだよ。
ミスを反省するのは悪くはねぇけど、後悔して落ち込んでたって何にもならねぇだろ。
どうしても気に病んでしまうなら、次は反省点を活かしてもっと強くなればいいんだ。
テメェも、俺たちも。」
彼からの精一杯の心の声。
自らに成長を促してくれた事への些細な恩返しだった。
番長「ホント、口だけは達者な素人だな・・・。」
思わず番長にも笑みがうつる。
サクリファイス「テメェがどんなにスゲェ腕を持っていたかは知らねぇけどよ、
想定外の出来事にいちいちそんなに敏感になってちゃやっていけねぇぜ?」
ミツクビ「一人で突っ走ろうとするくらいゴージョーな番長ちゃんが一回の失敗でクヨクヨするなんてらしくもないニャン。」
番長「誰がクヨクヨなんかしているもんか。」
番長は気づいた。
仲間でありながら、自分は一番だからとどこか見下してしまっていたことを。
でも、実際は上下なんてなくて、仲間という一つの輪が一つの力なのだと思い知ったのである。
仲間を仲間たらしめるのは、そんな連帯感で、絆で、友情なのだろう。

ブリンク「皆さん。城が見えてきました。」
あの中世的な城と街が、クリン・トラスト。
――――狂信者の街 クリン・トラスト。
一行の心はもう、出立時のように揺らいではいない。
生死の境目をともに過ごしたことで、確固たる信頼に結ばれていたのである。

敵に見つからぬように城下町の片隅にある本拠地たる地下室にハインツが案内する。
ハインツ「医者さま!!お医者さま~!!協力してくださる方々を連れてまいりました!!」
扉越しに大声を張る。
女性の声「・・・合言葉は?」
この警戒態勢だ、当然といえば当然のフィルタである。
ハインツ「テイ・アイ・エム・アール・イー・エイチ」
慣れた口調で応える。
女性の声「よろしくてよ。」
扉を開けたとき、一番の衝撃を受けたのは番長であった。
そこにいたのはかつての仲間、亜万宮摩利華(アマミヤマリカ)、小鳥遊枷檻(タカナシカオリ)、そして、藤原千代であった。
千代「!!」
枷檻「お前・・・。」
摩利華「あら~・・・。」
ハインツ「おや?お医者様とお知り合いで?」
その問い掛けに応答する前に、千代は番長に抱きついた。
そして、顔いっぱいに涙した。
千代「番長ちゃん・・・会いたいけど・・・会いたくなかったよ・・・。」
番長は抱き返すことしかできなかった。
この世界での再会・・・それは互いが死んでしまったことを意味する。
死を互いに受け入れた老夫婦でもない限り、悲しい再会になってしまうことは目に見えているのだ。
千代「番長ちゃんが死んじゃうなんて・・・。
どうして・・・・・・。」
番長は千代の後頭部を優しく撫でた。
番長「悪いが理由は聞かないでくれ。
それより、流れの医者というのはお前か?」
千代「うん・・・。」
小さく返事をして抱き合っていた体を解く。
千代「とりあえず、みんなを座らせないとね。」
健気な笑顔を作り、壁際に積んであるボロい椅子を並べ始める。
サクリファイス「いいっていいって、椅子ぐらい自分で運ぶよ。」
見かねた男性陣は手を貸す。
ミツクビはというと、摩利華に捕まっていた。
摩利華「あら~、可愛いですわぁ。
はぁ~・・・猫耳のあたりの髪だけ少し硬い毛並みなのね・・・しっぽもいいですわ~。
それに・・・おっぱいも大きいですわ!!さわってよろしくて?」
ミツクビ「ムニャア!!くすぐったいニャン!!」
ミツクビが抵抗して暴れると、肘打ちが摩利華の顔面に直撃する。
摩利華「ねっぷし」
枷檻「摩利華・・・番長とも目を合わせてやったらどうなんだ。」
摩利華「・・・・・・。」
他人から見たら空気も読まずにふざけているようにしか見えないが、
長いあいだ付き添った仲間から見たら無理をして気丈に振舞っているのがバレバレなのである。
枷檻が言ったとおり、摩利華さっきから番長の方を見ていないだ。
何も思っていないなら、それはおかしい行為なのだ。
枷檻「目の前に現れちまったからには受け入れろよ・・・私だって悲しい・・・。」
摩利華「そうね・・・誠意を持って今やるべきことをやらなくてはいけませんわね・・・。」
全員がまばらに座る。
千代「みんな座った?じゃあ、やることを簡単に説明するね。」
番長「・・・知らない人間がいるのに随分流暢になったな。」
千代「何百年も経てば流石に治るよ・・・。」
意地悪な茶々入れに、やっと再会らしい表情が浮かぶ。
千代「えっとね、あなたたちにやってほしいのは、敵を殺さずに王を説得して紛争を止めてよその人間も受け入れるようにさせること。
できれば統制も解放させたいけど、今まで規則的に生きてきた人間がいざ解放されると困惑するだろうから
そこは紛争が収まってから少しずつ進めたいね。」
ブリンク「・・・ふむ、実に簡潔な説明でしたが・・・敵を殺さずに・・・とな?」
千代「はい。罪を負ってまで勝ち取った勝利はいずれほころびます。」
麗「だがよぉ、殺し合いだぞ?こっちが死にそうになったときはどうすんだ。」
千代「心配は要りません。ある程度手負いにすればいいだけの話です。
治療は私と衛生兵で行います。」
番長「いや、殺さないと止まらない奴だっているだろう。できるだけ・・・ってことだよな。」
千代は首を横に振る。
千代「ううん、一人も殺さないで。
誰にも人殺しの罪を負って欲しくないの。」
番長「ちょっと待てよ!!その指示のせいで仲間が死んだら元も子もないじゃないか!!」
千代「罪を犯さずに誇り高く戦い殉死することのどこがいけないの?」
番長は驚いた。
目の前にいるのは、もはや自分の知っている千代ではないのだろうと感じた。
こんな、仲間を犠牲にするような人間ではなかったはずだ。
番長「あのなぁ千代、いざっていう時は自分の命の方が重いんだぞ?憎き敵のために死んでどうする。」
千代「そんなことはない。命は全て等しく同じ重さだよ。」
番長「どうしてだ・・・お前は罪を背負うことを放棄しているのか?他人の、しかも敵の命のために・・・?
そんなのおかしい、罪を背負ってでも自分は生きているべきだ。
誰しも罪は背負っているし、罪を背負っているから自分という存在の重さが分かるんだ。
罪を背負うことを放棄したお前はただの能天気ものだ・・・!!」
千代「違うよ!!どうして罪を背負わなくちゃいけないの?
罪を背負うのはかっこいいの?誰でもやっているからって自分もやっていいの?
おかしいのは番長ちゃんの方だよ!!私は仲間に人殺しなんてさせたくないんだ・・・・・・。」
番長は知った。
千代を変えたのは何か。
それは彼女自身に芽生えた”正義”だ。
千代は生きることよりも、汚れることなく生涯を終えることを正しいとしている。
それに対して番長はどうやっても仲間と共に生き抜くことを正しいとしていた。
その食い違いだった。
番長「なぁ・・・どんなに綺麗事を並べたって、自分が生きていなきゃしょうがないじゃないか・・・。
綺麗さに・・・正しさに盲目にならないでくれ・・・人間は過ちを犯す生き物なんだ・・・。」
千代「このわからず屋アァァァァア!!」
前髪を透いて見える額には血管が浮かんでいた。
千代のもつ天性の頑固さ、様々なときに盾にも矛にもなったその固い意志の切っ先はいま、番長の意志とぶつかっていた。
千代「私は勝ちたいわけじゃない!!これ以上人と人が殺し合うのが嫌なだけなんだ!!
でも、生きるっていうのは勝った結果でしょ!!?
私は例えこの血肉を引き裂かれて砕け散ろうとも人を殺さぬという強い心をこの世界に響かせたいんだ!!」
番長「テメェ・・・そんなのはただの思考停止だってことを見せて教えてやらねぇとわからねぇみてぇだな。
この戦いで私の生き様を見せてやろう・・・。話の続きはそのあとだ。
あと、ひとついい言葉を教えてやろう。」
番長は千代の口を覆うように頬を強く掴む。
番長「”死人に口なし”。」