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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.7 漣いずれ荒波へ

一行は今まで以上に警戒してピリピリしている。
理由は当然、大所帯になってしまったことで単純に的が大きくなってしまったためである。
全員が戦えるのならまだしも、自警団の三人は素人同然で、非戦闘員のシスターまでいる始末。
戦いの主軸となっている番長は、本来ならば浪費が激しいためにいざという時に温存しておかなければならないのだ。
だが、あいにくと命を狙う者共は手加減などしてくれないため、常にいざという時なのだ。
道の左側に川の流れが近づき始めていて、そよ風が涼しい。
右側には背高草(セイタカソウ)と呼ばれる葉の大きな雑草が散り散りに生えている。
背高草は、人が隠れられるほどの高さ、大きさがあるため、このあたりは街道の中で一番危険な地帯とされている。
ハインツ「いいですか?この背高草の生えている地帯では体力を一番消耗します。
なぜかは、お解りですよね?」
ブリンク「わずかな草木の動きにも機敏に反応せねば、命が危ういということでしょう?」
番長「あぁ、その通りだ。
涼しくて快適に思えるだろうが、ここらへんは殺気が立ち込めていてとても嫌な感じだ。」

番長が殺気を感じることができるのは、単純な生前の経験である。
「オールドマシーナリータウンの魔女」は誰から見ても”危険分子”であることは明白、数々の手に命を狙われた。
だから、自分を殺そうとしている人間がどういった雰囲気を放ち、どのような鼓動を刻むのかをその五感で幾百度も感じ取ってきたのである。
しかし、彼女には欠点がある。
その経験があるために、”例外”に気付けないのだ。
長年生きてきた彼女の傲りであり、人間というのは1000年生きようが完璧に完成できないという証明でもある。
その証明が密かに彼女の中でコンプレックスになりつつあるのは、彼女自身は表には出していないつもりでいる。

そよ風に背高草が煽られるたびに、誰かが振り向く。
精神力と体力の戦いだ。
警戒を放棄したものの命は背高草の肥料となってしまうだ。
だが、常人ならしびれを切らしてしまうのが普通だろう。
一行の中にも堪え性のないやつが一人・・・いや、一匹。
ミツクビ「ニャァァァァアア!!洒落臭いニャン!!草を切り刻んでしまったほうが簡単ニャン!!」
麗「よせッ!!」
注意を聞かずミツクビは揺れる背高草を爪のアーツで切り刻む。
だが、断面が焦げた草が宙を舞っただけで何もなかった。
ミツクビ「ミギィ~~~ッ!!イライラするニャン!!」
番長「やめろと言っているのが聞こえなかったか!!?」
ハインツ「闇雲に攻撃しても消耗が激しくなるだけです!!どうか落ち着いてください!!」
サクリファイス「あぶねぇ!!」
ふと頭上に影が現れる。
ミツクビに向かってその影は飛ぶ。
草に気を取られているのを狙った空中からの奇襲だった。
サクリファイスは咄嗟に呆然としていたミツクビをかばった。
敵も鉤爪のアーツを持っていて、サクリファイスは見事に右腕に大きな切り傷を負った。
サクリファイス「ガァァァァァァアアッ!!」
肉は裂かれ、血が噴き出す。
だくだくととめどなく溢れてゆく。
それに気を取られているうちに、相手はまた、背高草の中に紛れていった。
サクリファイス「はぁーッ、はぁーッ。」
血液不足による酸欠に陥り始める。
シスター「いけません!!」
シスターが手をかざすと、サクリファイスの傷は光に包まれ、塞がっていった。
サクリファイス「はぁーッ、はぁ、はぁ・・・お!!?」
シスター「私には神の加護があります。傷ついたらいつでも仰ってください。」
ブリンク「ホッホホ!!頼もしい限りですなぁ。」
震えていたミツクビがおずおずと口を開く。
ミツクビ「ごめんなさいニャン・・・。ミィのせいでダーリンは・・・。」
サクリファイス「いいんだ・・・。
俺はお前を助けたいと思った。お前は無事だった。それで充分だ。」
治った手でミツクビの頭を撫でる。
番長「それよりも、隠れた相手はいいのか?
もっとも、見ていたから隠れていた場所なんてまるわかりだが?」
威嚇するように銃口で指し示す。
だが、すぐに撃ちはしない。
敵の様子を伺う・・・という第一目的もあるが、他の仲間に戦闘経験を積ませておきたいという考えもある。
もちろん、消耗のことも頭に入れている。
麗はアーツを発現させ、風を紡ぎ始める。
そして、風のレールを作り突進を試みる。
相手は、大剣相手では撃ち負けると承知しているため、サクリファイスたちと鉢合わせ内容に生い茂る背高草の中を素早く移動し、攻撃を逃れた。
麗「速いな・・・単に追いかけるだけじゃダメか・・・。」
地形さえ把握すれば、レールを敷き詰めて素早く移動できるのだが、なにせ自然の中なのでそうもいかない。
それに、例え把握できていたとしても入り組んでいるため、網目状にしかなくてはならず消耗してしまう。
かといって、麗の技能で風の刃など出そうものなら消耗を避けられず、その上反動で隙だらけになりかねない。
不利な状況下での戦闘経験のなさがここで災いしたのだ。
しかし、今のところ素早いタイプの能力は麗の風と番長の弾丸だけで、予想以上の敵のすばやさに弾丸すらも外れる可能性というものが残されている。
不毛な追いかけっこを、仲間はただ見ていることしか出来ない。
その時、ミツクビが異変に気づく。
ミツクビ「ダーリン??ダーリンの腕・・・。」
見ると、傷がついていた部分がボロボロと腐り始めている。
サクリファイス「なんだこりゃぁぁぁぁぁぁあああああ!!?」
番長「敵が攻撃を仕掛けずに逃げ回っていたのは、こうやって頭数が減るのを確信していたからだったのか!!」
サクリファイス「畜生っ!!」
サクリファイスは川に向かって走り出す。
ミツクビ「ダーリン!!!!」
番長「お前はそうやってまた逃げるのか!!」
サクリファイス「・・・・・・。」
たしかに、今の状況では草の少ない川辺は比較的安全だ。
だが、立ち向かわないと腕の腐敗を止めることはできない。
番長「・・・・・・仕方ない・・・麗!!一瞬だけでいい!!足止めをしてくれ!!そこに弾丸をブチ込む!!」
ハインツ「いいのですか!!?」
番長「つべこべ言ってられるか!!」
再び銃口で敵を追う。

そんな中、ひとつ不自然なことがあった。
ブリンク「・・・・・・?シスターのお嬢さん。腐敗は治すことができないのですか?」
シスター「・・・・・・。」
さっきは傷を治したはずのシスターが黙りこくっている。
ブリンクはそれが疑問でしょうがなかった。
ただ怯えて動けないだけなのか?消耗が激しいのか?特定条件下ではないといけないのか?
色々な憶測はできるが、本人は頑なに返事をしなかった。

麗「足止め・・・?足止め・・・。」
そういえばさっきから麗は追いつくことばかりを考えていた。
だが、足止めを食らわせてやれば一気に追いつくことができる。
麗には、逆転を確信した笑みが浮かんでいた。
今度は敵のさらに”前”に強風を起こした。
すると背高草は傾き、敵の進路を遮る。
敵はそれを避けて通ろうとした。
番長「でかしたな!!」
それを番長は瞬時に理解し、銃口は進路に向いていた。
だが、その銃口からは弾丸が放たれることはなかった。
敵は、水の紐のようなものに貫かれていた。
その紐は不自然に、ミミズのように草地を這い――――
川のサクリファイスの元へと続いていた。
サクリファイス「誰が逃げたって?コノヤロー。
隠し玉は最後まで取っておくもんだよ。」
敵は血を噴き出し、ばたりと倒れる。
サクリファイス「はぁ・・・本当に人を殺しちまった・・・ん?」
おかしい。
手の腐敗が止まっていない。
サクリファイス「なにッ!!?」
腐っていった右腕は肘が食い切られ、落下した。
サクリファイス「おおおい!!嘘だろ!!?」

シスター「ふふふふ・・・。ハハハハハハハハはははハハハハはははハハハハ!!」
ブリンク「まさか!!?」
シスター「もう遅いのよ!!彼は私の術中にはまっているのよ!!
彼も神の贄!!そう!!私はすべての魂を”浄化”する使命のもとに今ここに!!
おお神よ!!また不浄なる魂をあるべき場所へ召すことができます!!」
番長「馬鹿な・・・!!?」
彼女は気づくことができなかった。
純真という狂気に。
殺意のない、人殺しに。
シスター「この神から授かった”浄化”のチカラで!!
今あなたたちを救って差し上げましょう!!」
倒れていた敵は光に包まれ再び動き出す。
麗「なんてこった!!こいつら初めからグルだったんだ!!」
サクリファイス「残念だったな。
ここには俺の武器が豊富すぎてね。」
硬質化した水滴が付いてイボイボになった鎌を上げる。
サクリファイス「俺のアーツは”鎌についている水と、それに繋がっている水を硬質化させて操るアーツ”だ。
冥土の土産に覚えて逝きな。
テメェの不浄な魂のあるべきところへよォ!!!!」
紐のようになっていた水は槍になって、鎌についたイボは弾丸になってシスターと鉤爪の敵に襲いかかる。
終わりは実に呆気なかった。
声も出せぬままに二人は体中をズタボロにされた。
サクリファイス「俺は、”やればできる男”だ。舐めんじゃねぇよ。」