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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.2 戦火の風上は遥か彼方

相手は死んではいなかった。
だが、翌朝に”呪刻”によってアーツを封印され、無害化された。
”呪刻”というのは医者の特権で、罪を犯した者からアーツを奪うものである。
この世界における医者という職自体、妖精によって心の清らかさを認められた人間のみがなれるもののため、”呪刻”が悪用されたりはしない。

番長「まいったな・・・。」
酒場の2階にある部屋を借り、粗末なベッドに横たわる。
・・・手に入れたのは手加減のきかない上に防御もできなさそうな破壊特化の能力だった。
番長「試し打ちがしたい・・・。」
麗には「余計なところで撃たないように」、と釘を刺されたが性能を正しく把握していなければ実践と時どうしろというのだろう?
発現させて天井に構えてみる。
殺すことが容易にできる部分は評価できるが、外したしまった時にただの案山子になってしまう。
よく見ると、装填する穴が見当たらない。
いや、よく見なくても見当たらない。
素人でもわかるだろう。
番長「なんだこれ・・・致命的な欠陥能力じゃねぇか・・・双銃ということは・・・あと一発?
いや、発現した時に既に入っていたのだから、装填方法が違うだけなのか・・・。」
そこへ麗が入ってくる。
番長「なんだ?寝込みを襲おうってのならお生憎様だ。」
麗「ちげぇよ、バーカ。
なぜ昨日、暗殺者の奴を殺さなかったのか聞きたくてな。
あんなに殺傷能力が高い能力を発現しておきながらチキンだなんてありえないしな。」
番長「お前、あまり強い奴と戦ったことないだろう?
まあ、こんなに呆れかえるほど平和な街に住んでいるのだから無理はないだろうが・・・。
あれは、敵自身が空中でシール爆弾を爆発させて軌道を逸らしたんだよ。
暗闇で爆発は見えにくかったろうが、私は確かに心音のモトを狙った。」
麗「殺さなかったのではなく殺せなかったということか。」
番長「そんなことにも気付かなかったのかよ。素人が。」
馬鹿さ加減に呆れた。
これで自警団だなんて笑わせてくれる。
麗「あのなぁ、戦闘の素人であって平和だということはいいことなんだぞ?
もちろん、こういった事件が起きたときは困るが、起こることが想定される殺伐とした町なんて住みたかないぜ。
あと、その偉そうな喋り方はやめたほうがいいぞ。
俺やニャンコは気にしないが、サクリファイスが気にするだろう。
単独行動するなら勝手だが、自警団に入団したいなら気をつけろ。」
番長「・・・・・・。」
番長は生前、賢者の石というもののチカラでおよそ1000年ほど生きた人間だ。
それゆえ、尊大な態度を取ってしまうのはクセみたいなものでなかなか治らない。
今までずっと、周りの者が下で、自分が頂点。
誰かが自分の上に立つことに、歯痒い苛立ちを覚えてしまうのが彼女の難であった。

サクリファイス「おい!!俺はあんな奴認めねぇぞ!!」
番長が2階で寝静まったころ、彼はビールジョッキをテーブルに叩きつけて叫んだ。
サクリファイス「ただでさえ物騒な能力だ・・・あれじゃ暴走したとき制止できないぞ!!?」
麗「ニャンコのアーツだって充分物騒じゃないか。」
ミツクビのアーツは鉤爪のアーツ。
切断面を焦がして、クリスタル以外での回復を不可能にするという恐ろしいアーツである。
サクリファイス「ニャンコはアーツを人に対して使わないだろう!!
でもあいつは、生き返る為に人を殺してやると言うような発想まで物騒な女郎だ。
・・・始末したい気持ちはあるが、そうまでしなくてもあの女郎はこの町に置いておくべきじゃない。」
ミツクビ「でも、右も左もわからない番長ちゃんを外に放り出すなんて可哀想だニャン・・・。」
サクリファイス「殺しが目的の奴に可哀想も糞もあるか。」
店員である妖精がビールを追加する。麗は断る。
ミツクビは5杯目となるナポリタンを注文する。
サクリファイス「戦いの中に身を投じるような奴だ。
禍を呼び寄せるに違いない。」
ミツクビ「・・・ミィも正直番長ちゃんのことは良くは思わないニャン・・・。
ガンコそうだから聞き分けなさそうニャン・・・。
意見が食い違っちゃった時に大変な思いするニャン。」
サクリファイス「なぁ、お前はなんであの得体の知れない奴の味方をするんだ?」
麗「俺たちにあんな印象を与えてまで仲間のもとへ行こうとするあいつの魂に惹かれたんだ。」
ミツクビ「ニャム・・・変な団長。」

翌朝、事件はやってきた。
怪我をした兵士らしき人間がやってきている。
やってきた・・・と取れるのは、兵士姿がこの町の景観に余りにも合わないからであった。
鎧の隙間からは血がしたたっている。

酒場の主人が番長の泊まる部屋にかけてくる。
主人「大変だよ新入りのお嬢さん!!
なんでも向こうの街からやってきた兵士だそうで。
道に倒れているから一緒に運んでくれないか?」
主人と番長で兵士を2階のベッドに寝せて、包帯で応急手当をする。
主人「私は医者を呼んでくる。看ていてやってくれ。」
主人は部屋を飛び出した。

番長「何事なんだ?穏やかじゃないな。」
苦しそうな兵士に話しかける番長。
番長「心配のひとつもしてやりたいが、伝えたいことがあってはるばる来たんだろう?
隣町との距離は知らんが・・・。」
兵士「はい・・・私たちの・・・街は・・・王が支配する・・・規則正しい街・・・でも・・・ある日流れの医者さまを・・・住まわせてしまったことを境に・・・
王が怒りをあらわにしたのです・・・姫が失踪した・・・悲しみの反動で・・・余計にことは大きくなっているのです・・・。」
番長「医者を追い出して、それで終わりじゃないのか?」
兵士「それが・・・王に意のままに使える・・・狂信的な人間と・・・規則正しく生きることを・・・
よしとしていただけで・・・王は誰でも良かった寛容な人間が・・・国王派と・・・医者派に分かれて・・・衝突しているのです・・・
お願いです・・・この無益な争いを・・・止めてください・・・・・・。
流れの医者さまは・・・ひどく心を痛めております・・・。
敵にも慈悲をかけ・・・命だけは助けてくださる・・・女神のようなお方です・・・。」
ふと、部屋の外が騒がしくなる。
主人「じいさん、こっち、こっち。」
町医者「あまり急かすでない!!命が危いのはわかっておる!!」
番長「遅かったじゃねぇか。」
町医者「すまんすまん・・・遠くてのう。」
医者はすぐに兵士の傷をクリスタルで治す。
兵士「申し訳ございません。この御恩は必ずや。」
町医者「なぁ~に、仕事じゃ。気にするでない。」
番長「主人、悪いけど自警団連中も呼んできてくれないか?急がなくていい。
ただ、隣町がかなりヤバイっていう事情を伝えたい。」

サクリファイス「やっぱりだ!!やっぱりじゃねぇか、この疫病神!!」
事情を聞くなり彼は怒鳴り散らした。
兵士「落ち着いてください。彼女はここまで運んでくださったのです。
どうか悪く言わないでもらえませんか?
それに、この紛争と彼女は無関係です。」
サクリファイスはぐぬぬ、と歯噛みする。
サクリファイス「だがよ、現実問題こっちには紛争に加担して戦況を覆せるほどの兵力なんてないぜ?
見ての通りのんびりとした町だ。」
番長「だからって放っておけっていうのか?」
麗「番長・・・・・・?」
番長「命をかけて助けを求めてきた奴の願いを無下にはできない・・・。
私は行くぞ・・・ひとりでもな。」
彼女は自分の境遇と兵士の境遇を重ね合わせていた。
ミツクビ「は、話し合いでは解決出来ないニャン?」
麗「うん・・・できればそうしたいし、力による制圧は根本的解決にはならないんじゃないのか?」
番長「なぁ、なんで紛争を止めようとしないと思う?」
サクリファイス「他人の命なんて軽いって思ってんじゃあないだろうなぁ?」
番長「紛争をした者達が全てを失い、いかに争うことが無意味で悲しいことなのか知ってもらうためだよ。
いくら火を消しても可燃物があれば再燃する。消し炭になるまでやり合わないと奴らは理解しないんだ。
それに、誰も彼も助けられるほど私たちは強くはないんだ。」
反論はできなかった。
今も昔も紛争によって命が奪われるのは、世代が変わり、失う悲しみを忘れていくからである。
そう、彼らは解っていた。
麗「まぁ、あれだ。
無理だって承知で、医者派代表として王の元へ突っ込んで、話を聞かせてやるってのがいいんじゃないのか?」
番長「あぁ。そうするよ。
火消しにしかならないだろうけど、私だけでやるのはそれが限度だろう。」
兵士「いいえ、協力していただけるだけでありがたいです・・・救護班ですら人手不足ですので・・・。」
兵士は少ない荷物をまとめ始める。
町医者「君たちも行ってあげたらどうじゃ?」
サクリファイス「は?」
町医者と主人は優しい目をこちらに向けている。
主人「町のみんながさ、この前の事件を境に自警団に頼っていちゃいけないなって奮起していたところなんだ。
丁度いい機会だ。一度この町を私たちに任せてはくれないか?」
サクリファイス「いやいや、いいんだぜ?こいつが行くって言ってんだから、俺たちが行く必要はないんだ。
俺たちに頼らずって言うなら、俺たちが休むだけでいいしよ。」
麗「俺は行かせてもらうぜ?ありがとよ、お医者さん、酒場のオッサン。」
ミツクビ「ニャニャン!!?どうして行くニャン!!?」
麗は微笑む。
麗「俺は困っている奴を助けるために自警団を立ち上げたんだ。
番長を手助けしたのは番長が仲間の為に本気で困っているからだし、今ついて行くのも隣町が困っているからさ。」
ミツクビ「じゃあ、ミィもついていくニャン。」
サクリファイス「何故・・・!!?」
ミツクビ「やるべきことが見つかったからニャン。」
サクリファイス「クソ・・・勝手にしやがれ・・・。」

この町――――「黄金の町 カインド」の端、ワンダランダ高原を走るランドミルキー街道へとつながる道。
その出入り口には兵士の乗ってきた馬が待ち構えていた。
糞を垂らしていたものの、おとなしく待ち受けている。
兵士「ジョン!!おぉよしよし。
よく逃げないで待っていてくれた。」
馬を撫でる兵士。
粗末な門の脇にはサクリファイスがもたれていた。
番長「なんだ、お前も行きたいんじゃないか。」
サクリファイス「か、勘違いするな。
俺はニャンコのことが心配だからついて行くだけだ。
けっっっっしてお前のためについて行くわけじゃあないからな!!」
それぞれの顔に、思わず笑みがこぼれる。
兵士「ちなみに、私たちの街までの距離は、寝ずのぶっ通しで馬で走って丸一日の距離ですので、食料をお忘れなく。」
一同「先に言えぇぇぇぇぇぇええええええ!!」
こうして彼女らは辛く厳しい運命に呑まれてゆくのであった・・・。