DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.28 諦めることを諦められないということ

枷檻「おお、すっげぇなコレ!!どんどん入るぞ!!」
枷檻は千代の広げている黒い布の中にいるクロの空間に次々と墨汁瓶を詰め込む。
クロ「おい、そんなに一気に入れるのはやめんか!!空間を通している時にも生命力は使われているのだぞ!!」
枷檻「わりぃわりぃ。」
と、言いつつも結局は全部入れるつもりのため、入れ続ける。
枷檻(おぉ~・・・コレすげぇ~。これでマジシャンやったらボロ儲けじゃん!!イカサマだけど。)
半ば面白がっていた。
景気よく詰め込んでいたが、ふと手を止めて喋りかける。
枷檻「そういえば今日も見回りに行くのか?」
千代「充分休ませてもらったからね、頑張らないと。」
枷檻「しつこいようだけど、これ以上犠牲者を出すわけにいかないからな。」
そこへ、客室の番長の様子を見に行っていた摩利華がドタドタと戻ってくる。
摩利華「千代ちゃんの言ったとおりでしたわ!!
なんと美しい寝顔・・・!!
クールでミステリアスなお姉さんの無防備な寝顔ときたら・・・ふぁ~、反則ですわ!!
まぁ、私は女性らしいおしとやかな女性の方が好みですから、千代ちゃんには敵いませんわね。」
枷檻「ははは、千代のどこがおしとやかなんだかな。」
千代「枷檻ちゃんってさらっと失礼だね。」
枷檻「事実じゃんかよ。ほら、これで最後だ。」
量が多かった割には、作業がスムーズだったので早く終わった。
摩利華「今日は三人で行きましょう。」
千代「そうだね、一人だけ留守番なんて可愛そうだし。」
枷檻「番長を起こすわけにもいかねぇしな。
摩利華は鈍臭いからピンチになったときに私が抱えて走らねぇと。」
摩利華「まぁ!!鈍臭いだなんて失礼ね。」
枷檻「それも事実だろ。」
千代「とにかく、もう四の五の行っていられる状況じゃなくなっているのは確かだから。
暴走能力者を探して、抑えよう。」
摩利華「では、行きますわよ。ぱにゃにゃんだー。」
千代「ぱにゃにゃんだー。」
枷檻「お前ら本当にそれ気に入ってるんだな。」

腕男「居ないぞぉ?イナイゾォ!!?なぜだァ~~~~~~~????
マスコミやら野次馬やらは集まってきやがるのに、普通の人間しか来ねぇなぁ~~~~~ッ。
俺にはわかるぜぇ~~~~~経験が与えたカンって奴だぁ。
しかし・・・もっと正確さが欲しい!!そんな時のための俺の能力だ・・・!!」
野良犬がゴミをあさっているのを見つける。
腕男「握り潰す能力はあくまで”サブ”!!」
男は普通の手で犬を掴む。
腕男「闇夜を導きし星は相応しい才能を与えるっ!!」
犬は途端に走り出す。
腕男「うまくいったかァ~~~~~~~~~~?まぁ、失敗したら殺処分だがな。
”星”は努力により与えられた才能。つまりは長所!!それの伸ばす能力だ。
”愚者”のような生まれ持った才能だけで天狗になってるやつとはひと味もふた味も違うんだよ!!
うヒヒヒひひヒホホほぇひいははへふ!!」

千代「見つかんないねぇ~・・・。」
今日も中央住宅街を散策するも、暴走能力者とは出会えずにいる。
時折、警察官がウロウロしていて、ものものしい雰囲気が漂っている。
道行く学生らしき若者は、こっちを見るなり避けて歩いている。
摩利華「・・・?道を開けてくれるなんてご親切な方々ですわね。」
千代「違うよ。枷檻ちゃんにビビってよけてるだけんだよ・・・。
目立ってしょうがない。」
枷檻「最近夜に出歩かないから何かを勘ぐって深読みしてるんじゃねぇのか?」
摩利華「どちらにせよ、能力者でない一般の学生たちは避けてくださるので、もし相手が学生だった時にすぐに見分けられますわ。
アルカナ能力者になったら普通、ちょっと大きい態度を取ってみたくなると思いますしね。」
枷檻「それよりも、千代は既に能力者の中では有名人だからよ、判別よりも”一般人はちゃっちゃと散ってくれた方が助かる”っていう方が大きいだろ。」
千代「そうだね、そもそも犠牲者を増やさないのが目的だし。」
摩利華「あら・・・?あれはなにかしら?」
十数メートル先の物体を指差す。
枷檻「・・・・・・ありゃ人だな・・・・・・。倒れてる。」
千代「もしかして・・・死体!!?」
枷檻「いいや・・・出血していないのを見るとまだそうだとは断定できない。様子を見に行こう。」
一同は倒れている人間に駆け寄る。
枷檻「・・・大丈夫だ。脈はある。呼吸もしている。」
千代「よかった・・・。」
摩利華「しかし、道端に女の子が落ちているなんて珍しいこともあるものですわ。」
枷檻「・・・落ちてるって・・・まぁ、確かに倒れているにしては痛がったりしている様子はないから変だな・・・。」
行き倒れの女の子「なにを人の周りで盛り上がっておる!!同情するなら飯を奢れ!!」
枷檻「うぉ、びっくりするじゃねぇかよ。
構って欲しくねぇなら、こんな紛らわしいところで寝てるんじゃねぇ。」
ペシっと頭をぶつ。
女の子のメガネが落ちる。
行き倒れの女の子「いてっ。このぅ、メガネをしていない人間には分からないが、メガネって高いんだからな!!大事に扱え!!お前いくつだ。」
枷檻「年か?16だけど。」
行き倒れの女の子「年下じゃねぇか!!こっちのほうが一年先輩だよ!!敬語を使え!!」
枷檻「わりぃ、私そういう固っ苦しいの嫌いだから。」
行き倒れの女の子「好き嫌いの問題ではなく礼儀だろう!!」
摩利華「行き倒れている貴女を介抱しようと寄った人間に対して食料品の供給を申し立てるなどという図々しい態度を取るのも礼儀ですの?」
行き倒れの女の子「むぎゅう・・・。」
千代「まぁまぁ・・・悪い人じゃなさそうだし、そんなに完全論破してあげなくても・・・。」
行き倒れの女の子「むむっ?お前、よく見たらあの”例の映像”に写っていた女ではないか!!?」
千代「!!?」
一同は女の子から距離を取り、千代は臨戦態勢に、摩利華と枷檻は逃走準備に移った。
行き倒れの女の子「まてまて、この状態でどう戦えというのだ!!お前ら訓練されすぎだぞ!!」
枷檻「罠かも知れない。」
摩利華と千代は頷く。
行き倒れの女の子「馬鹿者!!ウチは能力に生命力を吸い尽くされてクタクタなんだよ!!勘弁してくれ!!」
一同は警戒して近づかない。
だが、女の子のお腹から音が聞こえたとき、緊張感が途切れた。
行き倒れの女の子「やべーよ・・・。もう所持金が12円しかねぇんだよ・・・。うまい棒かガムしか買えねぇよ・・・。」
千代「本当に戦う気はないの・・・?」
行き倒れの女の子「当たり前だよ!!むしろ、もうリタイアしたい!!切実に!!
だがよぉ~・・・無くしちまったんだ。ルールシート。バカみたいだろ?もう衰弱死するしかないのよ・・・。」
摩利華「この方は本気で行き倒れているようですわね。
もう幾度となくチャンスはあったはずですのに、何も仕掛けてきませんわ。」
千代「そうだね・・・い、一緒に探して・・・あげよっか?」
行き倒れの女の子「お前いくつだよ。」
千代「わ、私も・・・16・・・だけど?」
行き倒れの女の子「だから敬語を使えよ敬語!!なんでお前らそんなにフランクなの?アメリカン??」
枷檻「だって見た目がロリ臭いしなぁ・・・ロリババア?」
行き倒れの女の子「だ~れがロリババアだ!!ぶっぱなすぞ!!」
摩利華「そういった言動が幼い印象を与えるのですわ。自覚したらいかが?」
行き倒れの女の子「むぎゅう・・・。」
枷檻「それとさぁ、この悪趣味なでけぇうさみみはなんだ?」
行き倒れの女の子「これがウチの能力なの!!・・・ってお前見えてんの?」
千代「ふ、ふたりは・・・元々・・・の、能力者だった・・・から。」
摩利華「話しづらいのなら私から言いますから千代ちゃんは無理に喋らなくてもいいですわよ?」
枷檻「千代が人見知りなのすっかり忘れてたな。」
千代「えへへ・・・ごめんごめん・・・。」
枷檻「ははは、いいってことよ。」
摩利華「うふふ、これから少しずつ克服していきましょうね。」
行き倒れの女の子「お前らだけで盛り上がってんじゃねぇよ!!」
枷檻「おっ、そうだな。
んで、どこでなくしたか、見当はついてるか?」
行き倒れの女の子「敬語~・・・は、もういいや。
自宅だな、隣町の。きっと原稿にうもれてる。」
摩利華「では、使用人を呼んで送ってもらいましょう。」
スマホを取ろうとしたところで、また女の子のお腹が鳴る。
枷檻「いや・・・まずはこのメガネウサギロリババアにエサ与えないとな。」
行き倒れの女の子「てめぇ、一言も二言も多いんだよ阿呆!!」
千代「その前に、名前・・・聞かせて・・・くれないかな?」
行き倒れの女の子「小塩潮(コシオウシオ)。」
千代「・・・よろしくね、潮ちゃん。」
潮「誰がちゃんだよ!!さんだろゴルルァ!!」
枷檻「黙れ塩。」
潮「調子に乗るなよ。」
枷檻「あ?調子に乗ってんのはどっちだよ。」
潮「ヒエッスイマセンゴメンナサイナニモシマセン」
枷檻「ちょろいなこいつ!!」
摩利華「人を脅して遊んではいけません。」
枷檻「へいへい・・・。」
潮「ぷっ・・・。」
枷檻「笑うな塩!!」
潮「ハイッ」

コンビニでパンや惣菜を買って車の中で食事を済ませた。
使用人は潮のスマホGPSを便りに向かっているので、案内はなくとも問題はなかった。
いつ能力による奇襲を受けてもいいように、潮は千代のとなりに座らせている。
さっきまで潮は元気そうに喋っていたものの、思ったよりも症状は重く、ぐったりとしていた。
潮はふと体から力が抜け、千代の太ももに倒れこむ。
摩利華「千代ちゃんの膝枕ァ・・・千代ちゃんの膝枕ァ・・・。」
枷檻「そんなに羨ましがらなくたっていいじゃないか。」
千代「別に意図的にやってるわけじゃないんだから変に妬かないでよ・・・。
でも、よかった。潮ちゃんは本当にバトルを辞めるつもりなんだね。」
闘争の中に見つけたひとつの平和に、つかの間の安堵を感じたのであった。