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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.27 もっと心で近づきたい

大柄な男は、ドラッグストアで包帯やら脱脂綿やらを買って応急処置をした。
店員には怪しい目で見られたが、工事現場で事故に巻き込まれてしまって、と適当にごまかした。
出血の割に傷は浅く、なんとか痛みを堪えれば普通に歩けるようにはなっていた。
あまり長距離を歩くのは良くないと考えて、最寄りの店で買ったため仕方なく服は黒いスーツになった。
ラフな紳士服も扱ってはいたがサイズが合わず、断念した。
生地が固くて動き難いが、慣らしていくほかない。
逆に考えれば、この見かけならただの外回りのサラリーマンだと思われるので、幾分気は楽だ。
カムフラージュのために安い腕時計とブリーフケースを用意した。
下手に目立って、おかしな怪我をマスコミにでも見られると厄介だからだ。
大柄な男(また、能力者による連続殺人が起きている・・・。
が、被害者が少ないなぁ・・・まだ時間が経っていなくて見つかっていないだけのか?
にしては、殺害現場が近すぎる・・・無差別なものなら、固まっている事実から次々と周りに新たな殺害現場が見つかるはずだが。
もう気が済んだのか、それとも目的があったのか・・・。
三人の被害者についての共通点はニュースを見る限りはわからんな・・・。
ガラパゴスケータイを使っているからダメなのだろうか・・・?
いや、一般人目線で見えない共通点は、見つかっていないだけかもしくは・・・被害者も能力者。
つまりはただの戦闘の結果というわけか。
最初に殺されたのはおそらく朝方の少女だな・・・小学四年生と言われたら頷ける容姿だった。
と、すると先程発表されたニュースの男性二人は能力者だろうな。
最初の少女と血縁関係があれば簡単に警察が見つけるはずだから、その可能性は極めて低い。
今後のニュースを慎重にチェックせねばな・・・。)
彼は洋服店を後にした。

枷檻「そっ、そんな能力が・・・。」
千代と摩利華は服が汚れてしまったことと、千代自身の疲労を危惧して早めに屋敷に戻っていた。
枷檻「でも、肝心の暴走能力者は見つかっていないんだな?」
着替えながら千代は頷く。
枷檻「あとよォ、摩利華が別室で着替えているので安心して着替えるのもどうかと思うぞ。」
着替えを持ってきてくれた使用人は紳士的に壁の方を向いている。
千代「ご、ごめんじゃねぇや・・・すみません!!」
枷檻は使用人の着替えを受け取り、退室するように促した。
枷檻「ズボラなんだよお前は・・・。あと、これな。」
枷檻はペンキまみれになった手鏡を渡す。
枷檻「洗っても落なかったからよ・・・勘弁してくれ。」
千代「ううん、ありがとう。」
枷檻「礼なら拾ってくれた摩利華に言いな。」
うっかり千代はアスファルトに穴を開けられた時に落ちたものだと思っていたが、しっかり手元に戻ってきて安心した。
千代「あぁ・・・よかった・・・。」
千代はそのまま床に倒れて眠ってしまう。
枷檻「お、おいっ・・・まったく世話がかかる奴め・・・。重っ!!」
枷檻は律儀に千代をベッドに乗せた。

・・・・・・また同じ夢だ。
番長は仲間?に囲まれている。
活発そうな女の子「本当に行っちゃうんだね・・・?」
クールなお姉さん「ふん、どうせいつものように簡単にやってのけてケロリと帰ってくるのだ。そうだろう?」
間抜けそうな少女「頑張ってって応援することしかできないけど、なんか・・・うまく言えないけど、負けないで!!」
中年の男「嬢ちゃんならきっとできるさ。こうやって集まって心配してやるまでもなくな。」
銘々言っていることは違うが、大切な人間が危険を冒すことに対してそわそわしていた。
青年「無事に帰ってきてくれ・・・愛してる。」
青年と番長はキスを交わす――――

千代「お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
摩利華「ふぇっ!!?」
枷檻「おわっ、いきなり大声あげんじゃねぇ!!」
千代「ふぁ・・・ゆ・・・め・・・?」
以前と比べてかなり鮮明だった気がする。
摩利華「もしかして夢魔の能力・・・とか?」
枷檻「いや、それにしては千代の様子が正常すぎる。ないな。」
千代「うん・・・別に不快な気持ちになったりはしないし・・・というか忘れちゃった・・・。」
摩利華「何もないのならいいのですけど・・・。」
窓の外はすっかり暗くなっていた。
静かな部屋に、腹の虫のさざめきが響く。
千代「あ~・・・今度は空腹で倒れそう・・・。」
摩利華「昼食もお召し上がりにならないままでしたものね。
シェフに簡単なものを用意していただきますわ。」
そう言ってスマホを取る摩利華に対し、千代は慌てて問いかける。
千代「そ、そういえば、犠牲者は増えた!!?」
あれだけ短時間で三人の被害者が出たのだから当然の心配だった。
摩利華「そういった情報はまだ得ていませんわ。」
千代「・・・そう。」
だが、心配が収まらなかった千代は番長と連絡を取る。

番長「どうした?」
千代「今朝起きた連続殺人について続報はある?」
番長「ないな。あったとしても掴めていない。」
千代「そう・・・。」
番長「ここ最近は、時間経過による生命力の消耗で、焦りからか能力者たちの血の気が荒くなってきている。
もはや今までのようにちまちまと情報収集しているような暇もなく戦いに発展するだろう。
これからは、ひたすら立ち向かうだけになる。
ぶっ倒れないように気をつけろ!!」
千代「え゛!!?さっき倒れたばっかりなんですけど!!?」
番長「そうか・・・。
戦況は思ったよりも深刻だな。
一番考えたくはないが最も効率的な作戦は、”暴走能力者に生き残りを始末させて最後にそいつを潰す”ことだ。
それが嫌なら、倒れないようにしっかり食ってしっかり寝ておけ。
それ以上は残念ながら対策のしようがない。
生命力とは普通なら外から入れられるものじゃあないからな。
・・・戦っているのはお前だけじゃないんだ。忘れるな。」

夕食を済ませ、部屋に戻ろうとすると、何やら宅配業者が部屋にダンボールを運んでいる。
それで最後だったのか、枷檻からサインをもらい、足早に立ち去った。
枷檻「お、千代。ちょうどいいところに。」
千代が部屋に入ると、そこには大量のダンボールが積まれていた。
枷檻「今朝、私が何もせずに悠長に待ってたと思うか?
お前らが外に出てる間に、文具店と雑貨店からありったけの”墨汁”と”空き瓶”を仕入れてきたんだよ。
これで、出し惜しみする必要は無ぇ!!」
千代「枷檻ちゃん・・・。」
枷檻「オヤジが好きに使っていいって言ってたからよ、金に物を言わせてみたぜ!!」
摩利華「では、これから詰め替え作業に参りましょうか・・・。」
枷檻「あっ・・・。」
摩利華「二人で徹夜してやれば終わりますわ!!ささ、ぱにゃにゃんだー!!」
千代「摩利華ちゃんも手伝ってよ・・・。」
摩利華「いいえ、休むのは千代ちゃんですわ。」
千代「そ、そんな、逆に申し訳ないよ!!」
枷檻「くたばってからごめんなさいって言っても聞いてやんねぇぞ?」
摩利華「背負い込んでいるものが大きいと思うなら、もっと仲間に頼ってご自分を大事にしてくださいまし。
この町を守るために出来ることが私たちにないのなら、せめてこの町を守ろうとする貴女の手伝いくらいさせてくださいまし。」
枷檻「どうせなら、番長のヤツも誘ってやるか。
いっつも電話越しに偉そうにしてるから、今日という今日はたっぷり内職させてやる!!」
千代「ありがとう・・・二人とも・・・。」
摩利華「お礼はこの戦いが終わってからまとめて聞きますわ。」
千代は使用人に連れられ、客室で静かに寝ることになった。

8月9日(金曜日)。
徹夜の作業が功を奏して、一晩で詰め替えをやってのけた。
番長「クッソぉ・・・二度とやるか・・・。」
そう言いながら、客室の千代を起こしに来る。
千代「・・・ん・・・来てくれたんだ・・・ありがとね・・・。」
番長「むしろ、私が来なかったら終わらなかっただろうな。
あいつら寝落ちしやがって・・・後半一人でやってたんだぞチキショウ・・・。」
千代「ごめんね、別に一晩でやんなくても数回に分けてもいいのに。」
番長「いいや、敵は待ってくれないからよ。
・・・このツケは枷檻のヤツの口座から直接いただく・・・。」
千代「ちゃんと見返りは貰うんだ・・・。」
番長「そうだ、部屋に戻って瓶をクロにあずけとけ。」
千代「わかった。」
千代がベッドから立ち上がると、
番長「私はここで寝る・・・。」
と言って糸が切れたように倒れこみ、眠りに落ちてしまった。
千代(番長ちゃんって、いつも険しい顔してるけど、寝顔を見ると結構美人なんだなぁ・・・。羨ましい。
あれ?たしか恋人がいたような・・・ってあれは夢か・・・ん・・・駄目だ、思い出せない。)
モヤモヤとした気持ちを抱えながらも、摩利華の部屋に戻ることにした。