DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.14 悪の意は海峡を越えて

長い長いトンネルを抜けた新幹線は一日ぶりに日の光を浴びる。
仄暗い夜明けに撒き散らされる熱。
車両はすいていた。
夏休みシーズンが始まっていたが、今の時代は飛行機の方が人気だ。
上空に行っても電波が絡まなくなってからというもの、利便性を考えて海の底より空の上の方が安心なのだ。
海路のフェリーはというと、他の交通機関に対抗するべく総リニューアルに向けて一切の便を閉鎖している。
水平線をまたいだ、北の大地と本州を結ぶ二つのバイパス。
それの下の方を利用し、彼はこの街に訪れる。
新幹線が新最凝駅に近づく。
しかし、何を思ったのか、駅のホームの登山客のような男性がレールの上へ飛び降りる。
新幹線は急ブレーキをかけるものの、当然間に合わない。
男性の体を吹き飛ばした挙句、頭部を粉砕。
レールには血と脳漿が無造作に飛び散った。
そして、いつもよりやや手前で新幹線は停止する。
扉が開くなり、緊急事態を知らせるアナウンスが彼の耳に伝わる。
そのすぐ後に、ヒールを叩きつけて運転席の車掌のもとへ一人の女性が走ってゆく。
女性「どういうことなの?なんであの男を引く前に止まれなかったのよ!!?遅れたら誰のせいだかわかっているの??」
驚くほど理不尽な罵声が車両の中を満たす。
彼が車両を出ると、改札あたりでボヤ騒ぎが起きていたらしい。
ホームでは騒ぎに乗じてひったくりが発生していた。
まさに今新最凝駅は地獄絵図であった。
一連の事件を確認した彼の肩にトンボともトカゲともとれぬ動物がとまる。
トカゲ?「シュルル・・・ヤリマシタゼ!!ダンナ!!コレダゲドンチャンサワギスレバ、ソリャア”『タカラヅカ』ニ『ギャル』ヲマゼタ”グライメダツゼ!!」
スーツの男性「よくやった。これで彼女も嗅ぎ回るだろうな・・・。」
トカゲは霞のように姿を消した。

7月31日(火曜日)、夏休みが始まってからというもの、枷檻はもはや千代の家で生活しており家族の不安を買っていた。
千代「枷檻ちゃん・・・別に夜だけでいいんだよ?正位置時間なら平気だから、昼間は帰りな?」
枷檻「いーんだよいーんだよ別に暇だし、金はバイトで稼いだ蓄えがあるし。
千代の家ではタバコ吸わねぇから安心しろって。」
クロ「心配する気持ちは誰よりも強いが、いかんせん視野が狭いみたいだな。」
枷檻「どういうことだよ黒いの。」
クロ「今朝、あの・・・テレビというのか?あれに映っていた情報を確認したか?」
枷檻「全然。」
クロ「連日放映されているが、今異常だと騒がれている事件があるじゃないか。」
千代「あ~、うちの町の駅がとんでもないことになった、”バイパスの狂気”のことでしょ?」
クロ「その名称を考えたのは誰だか知らんが、とにかくその事件で間違いない。」
千代「うん、今ね~その事件に関してのオカルトスレがいっぱい立ってて注目度高いんだよ~。」
スマホにスレッドを映して枷檻に見せる。
枷檻「ってアホか!!?ただのオカルトにしては度が過ぎてないか?」
千代「だから話題になってるんじゃん。」
クロ「・・・おかると?・・・とかはよくわからんが、我々の住む街の建物というのは少し芳しいとは思わないか?」
枷檻「っつーと?」
千代「新手の能力者・・・・・・?」
クロ「あくまで推測だがな、我はそう考える。」
枷檻「考えすぎじゃねーのか・・・とは思いたいが、千代が立て続けに戦ってる姿を見ると、なんともいいがてぇな。」
千代「番長ちゃんに連絡してみない?」
枷檻「そうだな・・・あいつは人望があるのか知らないけど、かなりの情報通だし。
っつうかあんだけ喧嘩強かったら子分のひとりやふたりはいるだろうな・・・。」
千代「え、番長ちゃんって喧嘩強いんだ。」
枷檻「あぁ。どんな環境に育ったんだか、格闘技でも習ってんじゃないのかって腕前だよ。
きっと数々の手だれと戦ってきたから、あんなに肝が据わってるんだろう。」
千代「もしかして、ヤクザとか極道の類なんじゃ・・・。」
枷檻「そりゃねーだろ。そういった立場なら、夜はひとりでであるかないだろうからな。」
千代「そっか~。よかった。一応、電話かけてみるね。」

意外にも電話はすぐに繋がった。
番長「・・・どうした?」
番長の声の他に、周囲の人間のザワつきが聞こえる。
千代「いや、最近ニュースのトップを占めてる”バイパスの狂気”についてなんだけど、なんか怪しいと思わない?
ちょっと、番長ちゃんの意見を聞きたくて。」
番長「やっぱり同じ考えか。実は今、その現場近くにいるん・・・」
複数の足音とともにぶつかる音がした。
千代「だ、大丈夫?」
番長「悪い、急ぎのマスコミにぶつかっただけだ。
しかし、バカみたいに野次馬がいて何もかにももみくちゃだ。
調査するために来たんだが、お手上げだ。話にならん。
今の段階では何も情報はないが、一応駅には近づかないほうがいい。
一般人を巻き込む可能性がある。」
千代「あれ?一般人を傷つけたら能力を停止させられるんじゃなかったかな?」
クロ「それは”意図的にダメージを肩代わり”した場合だ。
つまり”能力者を守る”という目的意識がない場合は含まれないんだ。」
番長「・・・そういうことだ。
相手が無差別に殺戮できる能力だった場合、最悪の事態を招きかねない。」
千代「じゃあ、こっちから動くことはあまりしないほうがいいんだね。」
番長「そうだな。だが、妙だよな。
投身自殺をした奴だけなら精神操作とかの能力だと考えられるんだが、他の人間の行動の目撃証言から考えると精密すぎるんだ。
操られているというイメージを周りが感じ取れなかったらしい。」
千代「あ、そうなんだよね。
”操られている感じはなかった、故にカルト教団の集団的犯行なのでは?”っていうのが一番有力な考察スレだったかな。」
番長「いや・・・カルト教団ならもっと目的意識がはっきりしているはずだ。
それに信者や教祖がマスメディアに対してなんのメッセージも残さなかったのはおかしい。
とにかく、今回も謎が多い能力だ。
術中になっていることに気づきにくい能力だろうから、今まで以上に誰かと一緒にいることを大事にしたほうがいい。」
千代「わかった、いつもありがとう。」
番長「当然のことをしたまでだ。なにかつかめたら連絡する。」

スーツの男性「今のところ事故現場に来ている感じはないか・・・。」
千代のようなこんな真夏にマントを着ている人間なんてすぐに見つかるかとたかをくくっていたが、一向に見つからない。
これだけ不可解な事件が起きているのになぜ関心を示さないのだろうか。
そう思っていた。
トカゲ?「ダメダァ、ダンナ。マントデムラサキノカミノオンナナンテミツカンネェヨ。ホントニソノジョウホウデアッテンダヨナ?」
偵察をしてきたトカゲは肩にとまる。
スーツの男性「あぁ。・・・まさかもう敗北しているのか?それなら手間が省けたというものだが・・・。
わざわざここに来た意味がなくなるな。DDL、もう少し探すぞ。」
トカゲ?「シュルル・・・リョーカイ!!」
トカゲは自らを”ダーティダークライフ”と名乗る。
彼は略して、DDL・・・と呼んでいる。

DDLは新最凝駅上空を偵察し続けている。
その姿を彼女だけは視界に捉えている。
そして目で追い続ける。
人ごみの中で、一人――――

一方、千代たちはというと、亜万宮邸に集まっていた。
外界から遮断される”豪邸”というのは、かなり有用な避難場所であった。
摩利華「まぁ~~~。また来てくださって嬉しいですわ~~~。ゆっくりしてくださいな。」
頬を染めて手厚く歓迎をする摩利華。
枷檻「なぁ、お前昔とだいぶ変わったよな。」
摩利華「そういう枷檻ちゃんはやんちゃなところが全く変わってませんわね。」
千代「ごめんね、事あるごと避難しにきちゃって。」
摩利華「いいんですわ。むしろ泊まっていってもよろしくてよ!!しっかり家のものには信用を得ていますわ。」
千代「えっ、いいの?でも、布団とか用意してきてないから雑魚寝になるね。」
枷檻「そんくらいゲストルーム用意しといてくれるだろ。」
摩利華「千代ちゃん一人なら私のベッドで一緒に寝て大丈夫ですわ。
いつでも妻を迎えられるように、ダブルベッドサイズになっていますのよ。」
千代「?」
枷檻「?」
なにか言葉に不自然なものを感じたが、ふたりは正体を掴めなかった。
しかし、安全であることは確かなので、今日は泊めてもらうことにしたのであった。