DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.9 軋む日常

7月13日(金曜日)、摩利華は休んだ。
というか、休ませた。
あんなボロボロの顔で学校に出られては停学もヒンシュクもくらってしまう。

バトルとは言え、気絶するほど殴り続けたので、昨日気絶から覚醒したあと摩利華にはたっぷり謝り倒した。
摩利華「そう・・・普段はあんな暴力的な方ではないのね?・・・そうね・・・でもあれだけされて何もせずに許すわけには行きませんわ。
なので、これから怪我が完治するまで放課後に私の看病をしてくれますわね?」
千代「それだけで許してくれるならぜひそうさせていただきます・・・。」
摩利華「素直でいい子・・・。両親には『友人に粗相をして怒りを買った』と言っておきますわ。」
千代「でも、放課後だけで大丈夫なの?」
摩利華「別に仕返ししようという気はありませんし、昼間は使用人に任せますわ。」
千代(あ、口調だけじゃなくて本当にお嬢様なんだ。うっかりキャラ作ってんのかと思ってた。)
千代「・・・それじゃあ使用人の方が効率よく仕事できるんじゃないの?邪魔にならないかな・・・?」
摩利華「いいんですのよ。あなたが能力を失った私を脅しつけるような方ではないとわかっただけで十分ですもの。
それに貴女・・・目立たないとはいえ結構美人ではありませんか?屋敷に呼べば映えますわ。」
千代(嫌味かッ!!?やっぱり”顔を殴られた”ことを根に持ってるんじゃないのかな?)
摩利華は千代の反応を待たず、千代のマントをぴらとめくる。
摩利華「それに貴女想像以上に女性的な体の素質がありますわ。
う~ん、看病をしていただく時はメイド服を着てもらおうかしら?」
千代「う゛ぇ゛!!?」
摩利華「あ、でも、オーダーメイドで仕立ててもらっていたら完成するまでに怪我が完治してしまいますわ。
とても残念ですわ~。」
千代(摩利華ちゃんってコスプレさせる趣味でもあるのかな・・・そういうのは勘弁して欲しいよ・・・。)
摩利華「でもでも、看病するときは、マントとタイツは脱いでくださいな。
夏の日に暑苦しいのは目に毒ですわ。」
といいつつもなぜか摩利華は頬を染める。
千代「う、うん、わかった。」
摩利華「で、できれば、着替えは私の前で行ってくださいね。
使用人たちの中にももしかしたら今まで隠していただけで不埒なことをお考えになってらっしゃる方もいるかもしれませんので・・・。」
千代「いや、トイレでいいよ。というか豪邸だから更衣室とかあるんじゃないの?」
摩利華「豪邸が故にほとんど親の許可がないと使えませんわ。」
千代「じゃあ、トイレでいいや。」
摩利華「いえいえ、私の部屋の方が広いですし空調もよく効いていて快適ですわよ!!?」
ずいと千代に迫る摩利華。
千代「えぇ、ここ食い下がるポイント??というか、気を使うのはこっちのほうなんだから、逆だと思うけど・・・。」
摩利華はハッとした表情になる。
摩利華「そうですわね・・・イテテ。」
頬を押さえる摩利華。自らが怪我をしているのを忘れていたかのような素振りだ。
摩利華「とりあえず、明日から私のお屋敷に来てくださいまし。
場所は貴女の連れの目つきの悪い方が知っているはずですわ。」
千代「え、なんで枷檻ちゃんが?」
摩利華「親同士が知り合いでしてよ。幼い頃に訪れたことがありましたのよ?」
千代「引っ越してきたの最近じゃないの?」
摩利華「今住んでいる屋敷は元は別荘でしたの。なので機会が一、二度しかありませんでしたわ。」
千代(そうか・・・でも枷檻ちゃんが摩利華ちゃんの帰りのルートを把握してるだけでなく、
隠れ込む茂みまで覚えていたのは、何度か通っていたからなのか・・・。)
摩利華「あと・・・今日は送ってくださいまし。」
千代「デスヨネー・・・。」

そんなわけで今日は取り巻き達が退屈そうである。
取り巻きA「摩利華ちゃんが休みなんて・・・、何かあったんじゃないか?」
取り巻きB「亜万宮さんのことだ・・・不埒な男に手を挙げられた可能性も・・・。」
会話を聞いていても正直取り巻きどもが本当に心配しているのかどうか千代にはわからなかった。
ただ、周りが心配してる雰囲気だから合わせているだけなんじゃないかなんて思ったりもした。
やはり彼女の思考は少し歪んでいた。

枷檻「あぁ、知ってたよ。引っ越してきたって聞いたときはびっくりしたな。」
帰り道、というか摩利華の屋敷に向かう道中、摩利華についての話を一通りしたところだった。
千代「えぇ!!早く言ってよ。性格とかからもう少し行動パターンを考察できたかもしれないのに。」
枷檻「いいや、もう10年も経つんだぞ。昔は千代みてーな・・・”カビの生えたしおれ昆布”みてーな性格で、擦りむいただけでビービー泣いてたぞ?」
千代「なんでさりげに私にダメージを与えてるるのか疑問なんだけど・・・。」
枷檻「細けぇこと気にすんなよ。」
くだらない会話をしていると、千代のスマホが鳴る。
千代「あれ?番長ちゃんからだ・・・。」
・・・
番長「・・・もしもし?大変だ、”正義”の暗示の能力者が、ほかの能力者に殺されたみたいなんだ。」
千代「・・・へ?」
殺された?
死人が出た?
人が死んだ?
思考停止する。
番長「”正義”の暗示の能力者は迂闊にも自ら名乗り、相手に挑んだらしい。
そして・・・消滅した。目撃者は、”突然おかしな厨二病の奴が学生と会話していたと思ったらいなくなった”と言っているんだ。
それは目撃者の妄言かと取れるかもしれないが、その”正義”の暗示の能力者の両親は捜索願を出している。
さらにおかしなことに、”正義”の暗示の能力者がいなくなってから、丸一日・・・知人が誰も気付かなかったんだ。
普通なら、深夜まで帰宅しなかったらおかしいと思うか、もしくは外泊しているかだろう。
だが、なぜか周りは”気にもとめなかった”んだそうだ。
前回同様、記憶操作の可能性が懸念される。少なくとも、改ざんはされているだろう。
家族が気づかないなんてありえないんだ。両親も温厚だと聞く。とにかく、危険な相手だ。
で、なんで今急いで伝えたかというと、そいつはネットの動画を見て、千代を殺しに行こうとしている。
・・・と思う。今一番身近な情報だろうからホイホイ食いつくだろう。
もしほかの能力者を狙っていたとしても、これ以上死人が出るのは危険だ。
速やかに奴の能力を使えなくする必要がある。」
千代「そんなに一気に言われてもわかんないよ!!矢継ぎ早に言いたいことだけ言わないでよ!!
まだ死んでないかもしれないじゃない、なのに殺されたって?
じゃあなんで番長ちゃんはそんなに淡々と話せるの?結局は他人事なわけ?
私が危険な状況に陥ってることをなんとも思わないの??」
千代は半泣きになりながら怒鳴り散らした。
枷檻は困惑するばかりである。
番長「こういう時こそ冷静にならなければ・・・」
たしなめようとする番長。
千代「知らないよ!!いきなりピンチ宣言されたってどうしたらいいかわかんないよ!!」
パニックになる千代。
冤罪で死刑判決を受けたようなものだった。
この戦いで死人が出て、次のターゲットは自分?
たとえ事実でも信じたくなかった。
いずれそうなるという予感はあったが、あたって欲しくはなかった。
膝から崩れ落ちる千代。
枷檻「おい、しっかりしろ!!死ぬとか殺されるとか、どういうことだ?」
千代「うるさいッ!!」
心配してよる枷檻を突き飛ばす千代。
枷檻は胸ぐらに掴みかかる。
枷檻「てめぇ!!自分が殺されそうだってわかってんだろ?だったら怯えるよりも先にやることがあんだろ!!
腹を括れ!!死んでから悔いるハメになってもいいのか!!?」
千代「う゛お゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
千代は泣き崩れた。
だが、そのままにもしておけないため、枷檻は肩を貸し亜万宮邸に連れて行くことにした。