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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.7 思考倒錯

千代「我ながら本当にめんどくさい事に手を突っ込んでしまった。」
軽率な行動でこんな戦いに足を踏み入れてしまい、しかも最初に「能力者バトルかぁ」と不覚にもワクワクしてしまった自分を悔いていた。
しかしながら、ここで戦いを辞めるわけにもいけなくなった。
番長の知り合いを倒すために強くならなくてはいけないし、それにさらなる問題は”未来に行く権利”だ。
これを悪用すれば、さんざんやりたいことをやって未来に逃げるという単純明快極悪非道なことができてしまう。
”未来に行く権利”を求めている人の中にそういったことを考えてる人は少なからずいるだろう。
そんな奴らに渡すわけにはいかないのだ。
自分が抑止できるようなチカラを持っているのならなおさらだ。
”未来に行く権利”がこの世界にとってどれだけのものかは高校一年生の頭脳では測りかねるが、
おいそれと渡していいものではないということだけはわかる。
そんなわけで、身を削ってでもほかの人間の優勝は阻止しなければならないのである。
だが、考えてみれば、アルカナバトルがなければ枷檻とも番長とも会うことはなかったであろう。
それが故に思いは複雑だ。
もちろん何もなしに仲良くなれたならそれ以上にいいことはないであろう。
・・・いろいろ考えてはみるが、今更過ぎてしまったことに悔いてもしょうがないし、
戦っていくと腹を決めなければいけないと知っていいるので無理矢理に自らを鼓舞した。

7月10日(火曜日)。
今日は亜万宮摩利華を観察しなくてはいけない。
記憶操作系の能力を使ってくる可能性があるため、スマホのカメラでムービー撮影しようという試みに出ることにした。
もっとも、まだ能力者だということが確定したわけではないため、一度千代が近くを通り、すぐに気付かれたら確実に能力者である。
どういうわけだかよくわからないが、能力者相手にはお得意の気配消しが効かないのだ。

昼休憩に入る。
千代はイジメられているわけではないので便所飯ではない。
教室の片隅で一人だということに変わりはないが、これからは枷檻とつるめるので廊下に出ると一人ではなくなる。
すぐに廊下に出ようかと思ったのだが、摩利華は教室で男子に囲まれながら食事を取るので安易に視線は外せない。
摩利華は視線に気付いたのか、微笑み小さく手を振った。
千代もぎこちなく笑顔を作り手を振り返す。
摩利華は口元に手を当ててふふと笑う。
一連のやりとりを終えて視線は外れる。
間違いない。
視線だけでこちらの存在に気づいたということは、間違いなく能力者だ。
次は記憶操作を出来るかどうかの実験だ。
スマホで録画をしつつ、周りの会話を覚えるだけだ。
千代はわざとらしく教室を撮影し始める。
もし、正体がバレたくないのであれば、記憶操作によって目的を忘れさせればいいだけの話だ。
もちろんそんなことをしても後で枷檻に確認を取るように言っておいたので何の問題もない。
撮影中の記憶だけを書き換えられた場合には、映像と相違が出るためすぐにわかる。
千代は耳を澄ませる。
女生徒A「ほんとさー、あの摩利華ってやつムカつくよねー。」
女生徒B「んだよホントー。いっつも男に囲わせてさー。よそもんのくせに”わや”ちょーしこいてるわー。」
女生徒A「ま、どーせビッチなんだろうけどなー。せいぜい囲ってる男どもに貪られるとハンセーすんじゃね?」
そんな下品な態度だから男が寄り付かないんだよとツッコミを入れたいところだったが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
たくさん覚えても仕方がないので撮影はそこで切り上げる。
摩利華自身が撮影されていたことに気づいていたかは確認できなかったが、とりあえずノルマは達成したのでスマホをしまった。

放課後、予定通り枷檻と共に下校する。
学校を離れ、周りに誰もいないか確認したところで映像の確認を開始した。
しかし、記憶と映像の不快な女子の会話は合致した。
摩利華の様子も見てみるが、時折カメラの方に目線を向けられてはいるものの不自然な表情をしたりはしておらず、
「こちらには気づいているが記憶操作はされていない」ようであった。
番長に電話を繋ぐ。
6コール目ほどで繋がった。
番長「・・・どうした。今、調査中なのだが。」
千代と枷檻は実験の全容を話した。
番長「こちらが不審な動きをしても・・・か。
だが、記憶を操作する必要がないと判断した可能性だって無いわけではない。
こちらが能力者だということをちらつかせれば、何らかのアクションはしてくるだろう。
無論、今までそれを推し進めなかった事から解るように、リスクを伴う作戦になるがな。
まぁ、今回は相手が能力者であると特定できたというだけでも大きな収穫だ。
亜万宮摩利華には今まで以上に警戒を強める必要があるな。」
千代「いつもありがとね、番長ちゃん。」
番長「だいそれた依頼をしてしまったのだから仕方あるまい。」
枷檻「そーいや電話繋いだ時に調査してるとか言ってたが、摩利華についてか?それともその次の相手か?」
番長「あまり褒められたことではないから言いたくはなかったが、実はその私の知り合いを尾行していた。
もしかすると、ふとした時に能力を見せてくれるのではないかと思ってな。」
千代「そっか。自分なりに頑張ってるんだね。」
番長「そりゃあそうさ。電話がかかってきたせいで見失ってしまったがね。」
いたずらげな微笑みがスピーカーからもれる。
番長「毎日できることだから、罪悪感を感じることはないぞ。
明日もまた、頑張ってみる。
帰宅したら、ほかの能力者についてもまた調べて見るから、とりあえずお前らは亜万宮摩利華の件に集中するんだ。
わかったな?」
千代「うん。必ず勝ってみせる。」
電話は切れた。
枷檻「相変わらす偉そうだなアイツ。」
千代「でも、ちゃんと年上の人がいてくれるからやるべきことがまとまるんじゃない?」
枷檻「そういうもんなんかな~。」
千代「そうだよ。枷檻ちゃんは番長ちゃんを毛嫌いしすぎ。」
枷檻「気に入らねぇもんはしょうがないじゃんかよ・・・。」

7月11日(水曜日)。
思い切って能力を見せる作戦に出ることにした。
今日も視線を合わせてみる。
同じように微笑み、小さく手を振る。
こちらも昨日と同様、手を振り返す。
変化させたところは、袖からクロの指を少し出したところだ。
相手は目を凝らしてくる。
やっぱり見えている。
記憶を書き換えられたりしていなければ、確実にクロの指が見えていて、それが気になったのだろう。
ここで戦いになってはいけないので、確認を終えたらすぐにクロの指をしまう。
摩利華は目をこすっている。
男子生徒「ど~したの?目薬なら持ってきてるけど?貸そうか?」
取り巻きが話しかけている間に廊下に出る。
廊下には枷檻が待っていた。
枷檻「どうだった?」
声を潜め問いかける。
千代「自らの不審な動きの記憶を消してこない・・・やっぱり彼女の能力は記憶操作じゃないんだ。」
千代も小声で答える。
枷檻「そうか・・・なら、なにかされても覚えてませんでしたなんてことはねぇわけだ。
だけど気をつけろよ?能力を見せた以上、相手は何らかのアプローチをかけてくる。
記憶操作の対策も取れてはいなかったが、わからないんじゃもっと勝手が悪い。
どうにかして空打ちさせたいところだが、もうそんなわけにも行かねぇしな。
やっぱ、事前に対策してバトルに挑もうなんざ、ハナっから無理だったってことだ。
もちろん、できるならば出来るに越したことはないんだがな。」
千代「ありがとう。・・・決戦はおそらく・・・。」
枷檻「帰り道・・・。」
チャイムとともに覚悟を固めた。