DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.4 邂逅

千代「ヴォエ~~~~~・・・」
腹部を思い切り殴られたために、強烈な吐き気に耐えかねて排水口に吐き出す。
クロ「大丈夫か?」
千代「大丈夫に見える・・・?」
その横、のびていた女生徒が覚醒する。
女生徒は手をグッと握る。
数秒間見つめていたが、すぐに拳を解く。
女生徒「そっか。私、ほんとに負けたのか。」
視線が千代に向く。
女生徒が能力を失っているとわかっていても、本能的に千代はすくみあがってしまう。
女生徒「別に、睨みつけたわけじゃねぇよ。
お前のほうが強い。
それはもうはっきりとわかっていることだし。
お前の勝ちだよ。」
意外だった。
普通なら、能力を失ったら相手の方がとんでもない能力を持っているんだから、怯えたり逃げたりするのだろうと思った。
そうじゃないならよくもやりやがったなと怒ったりするものだろう。
千代は言葉に迷った。
”ごめんね”というのもおかしいし、だからといって見下したりチカラを振りかざして服従させたりとかいうタイプでもない。
しかし、返事をしないのも危ういので率直な感想を切り返した。
千代「なん・・・で・・・まだ・・・そばにいるの・・・かな。」
女生徒「あぁ?」
千代は相変わらずビクビクとした態度を取っている。
女生徒「私はなぁ、お前みてーな地味でトロそうな女に負けたのが超悔しいんだよ!!
だからよ・・・お前にはこの先負けて欲しくないからなぁ・・・その・・・協力ぐらいなら・・・してやらなくもねぇぞ。」
ポカンとしてしまう。
千代「もう・・・関係ない・・・のに?」
女生徒「あぁ、もう、うっせえなぁ!!アルカナバトルのことをわかってやれんのは私しかいねぇだろ?
協力してやるっつってんだから快諾しろオラァ!!」
千代「・・・いい人なんだね。」
女生徒「バッッキャロ!!?誰がいい人だ!!殺すぞテメェ!!」
千代「私は藤原千代っていうんだ。これから一緒に戦ってくれるなら、名前ぐらい知っておかないと。」
女生徒「小鳥遊枷檻(タカナシカオリ)だ。二度聞くなよ。」
千代「うん、よろしくね、枷檻ちゃん。」
枷檻「”ちゃん”・・・?なめてんじゃねぇぞッ!!」
怒鳴り返す枷檻だったが、その表情は嬉しそうなものであった。

枷檻「ところで、正位置時間と逆位置時間について考えたことはある?」
本来の買い物を終えて、帰るところだった。
千代「無い。」
枷檻「アホか!!戦闘において大事な要素だぞ?確認しておけよ!!
私はこんな間抜けに負けたのかよ・・・涙が出る・・・。」
クロ「なんだ、解かっていなかったのか。
うっかり昼だけ外出するから、事情を飲み込んだ上で行動をしているのかと思っていたぞ。」
千代「教えられてないからわからないに決まってるでしょ?」
クロ「千代の正位置時間は午前7時から午後7時までの日中の時間だ。覚えておけ。」
枷檻「ちなみに、この前の不良に勝てたのも、相手が逆位置時間だったからだろうな。
見るからに馬鹿そうだし、きっと時間について考えてなんかいなかったんだろ。
相手が正位置時間だったら、今頃千代の骨は粉々だな。」
千代「え・・・見てたの・・・?」
枷檻「そりゃあ下調べしてから敵に喧嘩売りてぇだろ?
無策で戦うなんてしたら、カカシにも勝てねぇぞ?」
クロ「ふん、不特定の防御策を用意したことで慢心してしまった貴様に言われたくはないな。
無論、それだから負けたのだろうがな。」
枷檻「ンだと?」
千代「まぁまぁ、要するに下調べをした上で正位置時間に戦うのが最善ってことでしょ?」
枷檻「異論はねぇな。」
千代「陽が傾いてきてる・・・今日は急いで帰ったほうが良さそうだね・・・。
あ、今日は七夕か・・・短冊と笹買うの忘れちゃった。」
枷檻「んなガキ臭いことやんなくてもいいだろ?」
もうすっかり打ち解けて会話を弾ませていたその横に、いや、斜め上に人影が現れる。
???「さっきの会話、聞かせてもらったよ。」
民家の塀の上に目線を移す。
そこにはYシャツ姿の少女が立っていた。
少女「逆位置時間とか正位置時間とか、アルカナバトルの話だろ?」
枷檻「テメェッ・・・能力者か?」
少女は表情を変えない。
少女「落ち着け。能力者は私じゃないんだ。」
一同は怪訝な顔つきになる。
少女「実は知り合いがそれに巻き込まれてしまってな。
どうもそれで優勝したいとバカみたいな事を言っているんだ。
止めるには・・・倒してもらうしかない。」
枷檻「そいつの能力は知っているのか?」
少女は首を横に振る。
少女「もしも即死してしまうような能力ならどうするつもりなんだ。
観測するのも簡単じゃない。
だが、その知り合いは暴れだすようなやつじゃないから、一般人に危害を加えることはないだろうからのさばらせておいて問題はないだろう。
・・・ないだろうが、やはり能力者にあってしまったときは話は別だ。
目的に向かって獰猛に、狡猾に牙を剥くかも知れない・・・。」
少女は一瞬だけ苦しそうな表情をした。
少女「だからお願いだ。強くなってその知り合いを倒して欲しい。
私じゃどうにもならないんだ。
協力は惜しまない。できることなら何でもする。」
千代「じゃ、じゃあ、塀の上から・・・降りてきて。」
少女はうろたえる。
少女「それは無理だ。お前たちだって、強力な能力を持っているんだろう?
・・・私は怖い・・・。」
千代「何もしないって、約束するよ。」
少女「口でならいくらでも言える。」
千代「じゃあ協力はしない。自分のことを信頼していない人を私は信頼できない。」
千代はいつものようなおどおどとした態度は取らず、力強く言い放った。
少女は意を決し、一同の前へ降りてきた。
少女「これでいいか?」
千代「その知り合いさんのこと、本気で助けたいんだね・・・。」
少女は頷く。
枷檻「なんでもするって言った割に、結構わがままだけど信頼していいのか?」
千代「大丈夫だよ。誰かを救いたいと覚悟した人間に、悪い人はいない・・・そう、信じたい。」
枷檻「・・・・・・・・・。」
枷檻は気に入らないのか、少女とガンを飛ばしあっている。
枷檻(気に入らねぇ・・・どうも胡散臭いんだ・・・なんというか・・・都合が良すぎないか・・・?
う~ん・・・この違和感は何なんだよ・・・クソッタレ・・・!!)
少女「私の名前は笛音番長(テキネツカサ)だ。苗字は噛みやすいから、下の名前で呼んでくれて構わん。」
千代「わかった。番長ちゃん、よろしくね。」
番長「あぁ。LINEを送っておくから、何かあったら言ってくれ。
こっちも何か発見したら連絡する。」
千代「じゃあね。」
LINEアドレスの書かれたメモ用紙を渡し、番長は夕闇へと消えていった。
枷檻「なんであいつ頼む側なのにあんな偉そうなんだろ・・・。」
千代「不器用なんだよ・・・枷檻ちゃんみたいに。」
枷檻「私みたい?一緒にすんじゃねぇよ。胸糞悪ィ。」
千代はくすと笑った。