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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.3 恋人

その戦闘をひとしきり眺めている人物がいた。
???「へぇ・・・やっぱりあいつ・・・能力者だったんだ・・・。」
千代はそんなことつゆも知らないままに、疲れきった体を押して帰るのであった。
暴力事件で停学になるなんて問題外なので、なりふり構っていられないのだ。

帰宅したらいつもどおりの毎日の繰り返し・・・と思った矢先。
クロ「まったく・・・朝はろくに会話もできなかった上に学校という場所にいるあいだはしゃべるなだなんて・・・。
準備不足のまま戦闘に入るのも仕方がないとしか言い様がない。
千代はアルカナ能力者としての自覚はあるのか!!?」
酷い剣幕で迫られる。
千代「な、なんで・・・学校っていう場所が、わ、わからないで・・・日本語がしゃべれるの?」
クロ「論点をずらすな!質問を質問で返すな!!これは千代の命に関わる問題なのだぞ!!
今回はたまたま勝ったからいいものの・・・これからはしっかり準備して戦闘に臨むことだ。
そのために、部屋に戻ったら作戦を立てるぞ!!」
千代「あ、相手が・・・どんな能力か・・・わからないのに・・・準備なんて、でッ、できるの?」
クロ「一理あるが防御手段は確立しておくべきだ。」
母親「千代~?一体誰とお話しているの?」
どうやら母親にはクロの姿が見えていないようだ。
千代「せせせせ先生から電話がかかってきただけだよぉ・・・。」
母親「そう?ならいいのだけれど。」
玄関で話をするべきではなかった。
母親はリビングに戻っていく。

二階にある自分の部屋に向かう。
隣には妹の部屋があるが、晩まで遊び歩いているので当然もぬけの殻である。
クロ「なぜ素直に我と話していると言わなかったのだ?」
千代「お母さんには・・・クロのことが見えないし・・・聞こえないの。」
クロ「なぜだ?」
千代「・・・し、知らないよ。こっちが聞きたいわ・・・。」
部屋に入り、いつもの習慣でバッグを置いたらすぐにPCに向かう。
クロ「おいおい、千代は事の重大さを理解しているのか?
もっと強い能力者が出れば、
今回のような程度では済まなくなるかも知れないことがわからないのか?」
千代「・・・。」
クロ「オイッ!!」
顔を手で覆われる。
千代「ひゃっ・・・わ、わわ、わかった、わかったから・・・。」
クロ「解かればいいのだ。」
千代「じゃあ、真面目な話をするから・・・ちゃんと・・・答えてね・・・?」
クロ「そんなに肩に力を入れる必要はない。
答えられる範囲ではなんでも答えるから心配はするな。」
それはなんでもとは言わないんじゃないだろうか?と思ったが、突っ込むのはとりあえず後回しにしておこう。
千代「まず一番に聞きたかったのは、能力が一体どういうものかよ。
私は能力をまったく理解していないの。
わかるように説明して欲しい・・・んだけど。」
クロはホッとしたような素振りを見せる。
クロ「もっともな質問だな。簡単に説明すると、
1、我は腰より上しか存在しない。
下半身は無いものと考えるのが自然。
2、我は黒い場所からしか出ることができない。
藍色など混じりけのあるものは不可能だ。
3、黒い場所の面積が狭いと一部しか出ることができない。
これは先ほどの戦闘でよーくわかったことだな。
面が悪いだけなら迂回するといい。
4、黒いところには攻撃できない。めり込む。
さっきの男は黒い服を着ていたから非常に戦いにくかった。
頭と正中線上の隙間の白い服を打撃するしかなくて苦労した。」
千代「そんなに細かく決まってたんだ・・・。」
クロ「使い勝手が悪いだろうが我自身にはどうにもできないことだ。
申し訳ないが制約の中で使って欲しい。」
千代「うーん、それだったらどうやって防御策なんか・・・。」
高校一年生のありったけの脳みそを絞る。
千代「黒いところにしか出れないってつまり逆に言えば黒いとこならどこからでも出られるってこと?」
クロ「確かにそうだが我の体が千代から離れれば離れるほどチカラは弱くなるぞ?」
千代「で・・・クロはどこから出てきているの?」
クロ「黒いところからだと言っているではないか。」
千代「そうじゃなくて、出ていない時にはどこに収まっているの?」
クロ「能力が作り出した空間だが?」
千代「空間があるのね?」
クロ「あぁ。ここで嘘をついてどうする。」
千代「そそそ、それだ~!!で、できる!!じゃなくてある!!防衛策は十分にこ、こしらえることができるよ!!」
クロ「落ち着くんだ。またどもりが出ているぞ。」
千代「ご、ごめんなさい。」
クロ「それで、一体どんな策なんだ?」
千代「簡単だよ。能力でできた異空間を武器庫にする。それだけ。」
クロ「我の住処を物置にするというのか!!?」
千代「し、仕方ないでしょ?死ぬより・・・ましよ!!」
クロ「しかし、肝心の武器は用意できるのか?」
千代「え、え~と・・・。」
部屋を探り始める。
クロ「千代のような貧弱そうな奴が、武器など持ち合わせているのか?」
不安を隠さず口から放つクロ。
案の定、集まったものはさほど多くはなかった。
千代「金属バット、ダンベル、傘、懐中電灯、パンチングスタンガン、彫刻刀、カッター、
父さんから誕生日プレゼントにもらった要らないゴルフクラブ、あと・・・墨汁。」
クロ「二つ聞いていいか?」
千代「いいけど・・・?」
クロ「一つ目は、その”ぱんちんぐすたんがん”というのは一体なんなのだ?」
千代「ホントクロってどこまで知ってるのか曖昧だよね・・・。」
クロ「ええい、まず質問に答えろ!!」
千代「ごめんなさい・・・。
ええと・・・パンチングスタンガンっていうのは、拳につけて使うんだけど、スイッチを押すと電流が流れる仕組みになっている護身道具だよ。」
クロ「千代・・・実はやる気満々だろ?」
千代「いや、ほんとに護身用だって!!
威力は気絶する程度だし・・・。で、出てる電気の量だって脅しみたいなもんだよ?」
クロ「気絶させられれば十分凶器だ・・・使おう。」
念のため何度か試運転を行ったがさして問題はなかった。
クロ「で・・・二つ目は、墨汁は何に使うのだ?」
千代「これがあればどこからでもクロを出すことが出来ると思って・・・。」
クロ「発想はいいが、どうやって我が出られる分の面積を確保できるように撒くのだ?」
千代「うっ・・・。」
クロ「後始末も含め、試行錯誤が必要だな。」
千代「でも、鈍器があれば大丈夫じゃないの・・・?」
クロ「相手が防御策を持っていたり、こちらが手を打つ前に相手が攻撃してきてしまったら、武器があっても仕方ない場合が生まれる。
あくまでも油断は禁物だ。」
千代「はぁ~い・・・。」

それから数日間、戦闘に役立つものを探しに様々な店に立ち寄った。
墨汁はビンに詰めるようにした。
中身をペンキにしようか悩んだが、コストパフォーマンスを考えて諦めた。
お金に余裕ができれば警察官が使っているようなペイントボールやペイント銃も欲しいところだが、
バイトもしていない高校生風情の財布ではどうにもならなかった。

千代「あ、そうだ。クロの空間を使えばバッグいらずじゃないかな・・・。
食料品とか、生理用品とか入れておいていいかな?」
クロ「たくさん詰めてしまうと、必要なものを必要な時に出しにくくなるだろう。」
千代「ご、ごめんなさい。」
隠者である彼女は気配がほとんど無いために、人目も気にせずにクロと会話ができる。
だが、それが一番の油断だった。
???「おい、お前。誰と話しているんだ?」
千代「ひゃっ。」
後ろを振り返ると、いつぞやの女生徒が立っていた。
千代「あ、あの時説教食らってた人だ・・・。」
女生徒「あー・・・そういえばあんときはそんな状況だったっけ・・・。」
女生徒は威圧的な雰囲気を放っている。
千代(あぁ、どうしてまたこんな状況に陥るのかな・・・。災難だ・・・。)
女生徒「それで?質問にはまだ答えてもらってないんだけど?」
千代「・・・・・・。」
女生徒「まぁ、”知ってる”んだけどね・・・。」
千代「!!」
瞬間、緊張が走る。
クロの姿が見えるからには普通の人間ではない。
間違いなく、能力者だ。
千代「先手必勝!!」
女生徒「遅いね!!」
女生徒の腕にはガントレットのようなものが既についていて、その穴から勢いよく蒸気が噴出して、クロの拳は弾き返されてしまった。
千代(完璧な”防御策”!!これが戦う覚悟を決めている能力者の実力!!)
白く沸く蒸気が切り裂かれて、拳が迫ってきた。
千代(追い打ちも速い、避けきれない!!)
蒸気の能力で勢いが増したストレートパンチをモロにくらい、思わず後ずさる。
千代「なんのっ・・・!!」
女生徒は蒸気の盾を出すときに手を前で揃えていた。
それをしないと拳が前に出るような形で蒸気が出るようだ。
どうやら手の位置が能力の転換点らしい。
千代は次の一撃をフェイントにして、一旦距離を置く作戦に出た。
女生徒「バカの一つ覚えか?ろくに使いこなせてないみたいだな!!」
案の定、相手は蒸気の盾で防御体制を取る。
フェイントを上手く成功させ、相手とは反対方向に走り出す。
だが、女生徒は焦っている素振りは見せていない。
女生徒「わざわざ当てに行かなきゃいけない能力が、そんなに弱っちいと思われるなんてね。」
今度は、女生徒は手を後ろで揃える。
その後、小さく跳ねたかと思うと、ミサイルのように飛んできた。
当然、すぐに追いつかれる。
しかし、さっきと違い視界は良好である。
かわして叩き込めば終わり。
そう思っていた。
だが―――――
突然の出来事だった。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、激しいめまいに襲われた。
千代(しまった・・・酸・・・欠・・・?)
視界がもどる頃には、また拳を正面から拝めるシーンになっていた。
重い一撃をくらい、意識が震える。
顔をあげようとしたが、またもめまいに襲われる。
千代(頭を狙われたせいで脳がやられたのかも・・・。)
今度は腹部に近距離からの全力パンチをくらう。
反撃のチャンスは一瞬だけあった。
めまいの後の一瞬・・・
なのに千代はためらった。
漫画やアニメみたいに体が吹き飛ぶ。
転がらないようにクロを使い受け身を取る。
元々、運動が得意なわけではないので着地の時にふらついたが、なんとかケガを避けることができた。
しかし、今度は腹部を殴られたためにひどく吐き気がする。
千代(イチかバチか・・・地の利を活かすしかない!!)
千代は曲がり角を曲がる。
女生徒「逃げたって同じだってことがわからないの?」
女生徒は後ろの方に手を移動させる。
千代は走り続ける。
千代(彼女の攻撃には・・・こちらに”攻撃させない”何かを働かせている・・・。
その上にこの”めまい”。
目に見える攻撃だけじゃないのが厳しいところね・・・。
相手が隙を作る能力なら、隙を作り返された彼女はどうする・・・?)
目的地まで数歩のところで追いつかれる。
千代(予想以上に速い・・・。)
そしてまた、めまいが襲う。
タイミングは先程と同じ、「攻撃する直前」である。
千代(これは彼女の”癖”だッ!!)
予測しためまいには流石に対応できるようになってきて、目的の方向に後ずさる。
千代(そして、殴ったあとに使える”めまい”は一回限り・・・!!
更に、強力なパンチを打つときは踏ん張って反動を抑えるために必ず地面に立つ!!)
後ずさる千代に追い打ちを掛けようと一歩踏み出す女生徒。
だがその足は、一箇所だけ鉄網のかかっていない排水口に入り込む。
女生徒「ぉうわッ!!」
バランスを崩す女生徒。
女生徒「ここまで追い詰めるなんてね・・・でも私の能力は、
蒸気での物理攻撃、めまいでの視覚阻害、そして罪悪感を植え付けることによる精神攻撃!!
一度攻撃を食らったらハマり続けるしかないのよ!!」
千代「うん・・・今までの戦いで・・・それは大体わかってたんだ・・・だから・・・。
私は”二人いること”を活かすわ・・・。クロ、私を『守って』!!」
女生徒「そんなの屁理屈だ~~~~~~!!」
千代「慢心したのが運の尽きよ!!」

「うだらァ~~~~ッ!!!!」

クロ「悪いが、敵を戦闘不能にすることが最大の守護なのでな。
『守らせて』もらったぞ。千代。」