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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット2」 ACT.0 予兆

あらすじ

未来の世界からの差し金によって起きた、壮絶な超能力者同士のぶつかり合い、"アルカナバトル"を終えた藤原千代(ふじわらちよ)は、その秋から陸上部のマネージャーになり、春には、愉快な後輩たちを迎えた。
マネージャーになりたての頃にはよそよそしくしていた先輩たちとも、もうすっかり仲良くなり、こっちが弄る側になっているくらいだ。
だが、彼女は見ざるを得なかった。
次々と芽生えて行く新しい能力者と、それを狙う者の存在を…

2020年5月1日(金曜日)

藤原千代、その女は、授業を真面目に受けない。
紫色のボブヘアに暗い瞳、太い眉毛が地味さを際立たせる。とりわけ美人でもなく、胸は大きいが、それだけだ。肩が凝ってしょうがない。
見てくれは、肉が多くついているだけの、どこにでもいる地味ーズな女子高生だ。
性格は真面目な方だが、彼女にとって教師の教え方などリスニングCDにも劣る。
家に帰った後、教師が教えるよりも効率のよい自習を行うことで好成績を保つという、奇策とも言える習慣を、今も続けている。
故に授業中は、彼女の持っている超能力──気配を消す能力を悪用して、スマートフォンで遊んだり、LINEで連絡を取ったりしている。

だいたいLINEの相手は、隣のクラスの親友、小鳥遊枷檻(たかなしかおり)。
今は落ち着いているものの、元々はいっぱしの不良だった女だ。
アルカナバトルの時に千代と無二の親友になり、喧嘩ばかりしていた一匹狼の彼女は消えてなくなった。
真面目なはずもなく、こそこそ教師の目を盗んではちょっかいをかけてくる。
ある意味、こっちの方が正攻法である。
見た目はというと、傷んだ金髪をポニーテールにしている、普通の女子高生だ。
もともとはおさげにしていたが、ある人に似合わないと言われて以降、律儀にポニーテールにしている。目の下にはいつでもクマがあり、美形の顔のはずなのに、厳つくなっている。
しかしながら、こんなやつでも財閥の一人娘なのだから、油断ならない。

枷檻『小杉マンの頭、また光った』
千代『あ、国語なんだ』
枷檻『現代文』
千代『同じようなもんでしょ』
枷檻『ちげーよ(`Δ´)後でノート写させろ』
千代『それは摩利華ちゃんに頼んで』
枷檻『はいはい』

足をぶらぶらさせながら、学生らしい、下らない会話をする。
こんな下らない会話をするために、海底にケーブルが敷かれたのかと思うと、珊瑚や海草がいたたまれない。

通知が途切れた。
先生に見つかったのだろうか。

枷檻『niconico.mn425586/****/ne.jp』

急に、動画のURLが貼られる。

千代『なにこれ』
枷檻『不味いことが起きた』
千代『家バレ?』
枷檻『からかってなんかいない。マジだ。とにかく見てくえr』

よほど焦って打ったのか、語尾が誤字になっていた。

枷檻『私たちが、一番恐れていた事態だ』

URLを開く。
音声ミュートで映像のみが再生される。
ニュース画面だった。
そこには─────

『緊急速報‼バイパスの狂気再び 第四の事件 魔力(まか)荒らし 被害者3名』

千代『コラじゃない?』
枷檻『んなわけないだろ
掲示板もこの話で持ちきりだ
オカルトスレのURLがタイムラインにごっそり流れてきてウザイ』
目を疑った。
千代『アルカナバトルは、終わったはずだよね』
枷檻『それはお前が一番解ってるだろ』
千代『冬の事件の続き?』
枷檻『別件だろ、凶器が違う』

ニュースのテロップによると、
『狙われたのは、超能力を持っているとされていた、または自称していた人間』
『凶器はスコップ 背中に突き刺した痕跡 しかし、周辺には見つからず』
『魔力(まりょく)と墓荒らしをかけて魔力(まか)荒らし』

枷檻『だいたい、冬の事件の犯人は逮捕されてるだろ』
千代『たしかに』
言葉を交わしながらも彼女はまだ信じられずにいた。
超能力での大きな争いは終わったはずだ。
そう、思い込んでいた。

枷檻『とりあえず今日は陸上部に摩利華も連れてきてくれ
話が長引くようなら、泊まりに行くべきだ』
千代『了解』

スマートフォンをスリープさせる。
今、思い返してみれば、予兆はあったのだ。
『"超能力の氾濫"』
ときどき、まことしやかに噂されていた事象だ。
アルカナバトル以前から、テレビのコメンテーターが馬鹿みたいに口にしていた言葉。
しかし、今はリアリティーを帯びている恐ろしい言葉。
アルカナバトルを終えてから、超能力を信じる人が増え、既存、新規問わず数々の超能力と思わしき現象が観測された。
アルカナバトルの時の映像や写真が流出したとき、そこに、本来なら見えないものが見えてしまったせいで、才能を自覚する人が増えてしまったのだ。
自分達の住まう、この最凝町に限定しても、意図的なポルターガイストが、今年に入って少なくとも12件挙げられている。(これは千代たちの調査で、非公認である)
国は、脅威を感じ、超能力調査委員会を立ち上げ、全国各地へ調査に当たっているが、まだサンプルが足りず、全容解明には至っていない。
強力な超能力者が出ているにも関わらず、委員会には能力者の人手が足りず、世の中は混迷している。

しかし、何故この町なのだろうか?
たしかに、この超能力騒ぎの発端になったとも言えなくもない。
だが、ここにばかり超能力者が集まっているというわけでもない。
アルカナバトルの時のように、なにか景品が掲げられているわけではない訳だから、こんな物騒な騒ぎが起きた町で殺人を行う必要性など無いのだ。

千代「止めなくちゃ…」

放課後、同じクラスの親友、亜万宮摩利華(あまみやまりか)を連れ、陸上部の部室へ向かった。

…摩利華は、アルカナバトルの時に仲良くなったお嬢様だ。この旋風高校で付き合いたい女子ナンバーワンで、どんなお堅い男でも、一瞬で虜になるスーパーマドンナだ。ぱっつんの前髪に、絹のようにさらさらな長い髪の先端をくくり、左右の巨大な乳房を覆うように置かれている。おっとりした性格と顔立ちはまさに清楚の肖像で、優雅な落ち着きをもった雰囲気を振り撒く様は、歩くアロマキャンドルである。"立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花"のことわざをそのまま人間にしたような大和撫子で、ナンパするのもおこがましいほどの高嶺の花である。しかし、その実態は男子の期待をことごとく裏切るもので、彼女は生粋のレズビアン、同性愛者なのだ。花嫁修行も、芸の稽古も、すべては麗しの乙女と二人で暮らすためのもの。しかも、彼女は千代を溺愛していて、四六時中愛があふれでている始末。匂いフェチで、幾度となく千代の下着を盗もうとしたり、欲求不満になり、思わず後輩に手を出そうとしたりした、女にだらしのない女なのであった。

部室では、後輩たちが、事件など意に介していないと言わんばかりに、元気に入り乱れている。
榎「藤原先輩、亜万宮先輩、こんにちは。」
桜倉「お疲れ様です。」
セイラ「こんちわっス。」
真姫「こんにちは。」
千代「うん、みんないるね。」
この四人は一年生組だ。
まず、後藤榎(ごとうえのき)。
へにゃっとした癒し系の笑顔が特徴で、千代にすごくなついている。
ダイエットのために陸上部に入ったものの、実際、劇的に太っているわけではないため、痩せたためしがない。
ピンク色の髪は、千代から見て右上に紫のシュシュで留められたお団子、左下には残り髪が束ねられており、はち切れんばかりの胸、脂肪で肉感がました、むちむちとした尻や脚。
普通なら、男子に人気があってもいいと思われる、ハイスペック童貞殺しだが、それ以上に、学年の枠を越えてモテまくっているのが自分の隣にいる亜万宮摩利華という女なのだから、環境が悪いとつくづく思う。
食いしん坊だが、ダイエットのために耐えている。(あまり耐えられていない)
続いて、釜持桜倉(かまもちさくら)。
ダイエットを諦めているデブで、一年生のマネージャー。一年生のオカン的な存在で、栄養士を目指しているらしい。割烹着姿が違和感なくスッと浮かぶ。
一年生組がうまくまとまらないときは、彼女に一旦情報を預けておいて、必要なときに出してもらっているため、有用な人材である。
料理が上手いらしく、グルメにも詳しいため、榎が痩せられない原因にもなっている。薄い茶髪で、波がかっている。
お次は、龍門真姫(りゅうもんまひめ)。
彼女には超能力の才能があるのか、髪を結ぶと、鋭くなる性質がある。
真紅の髪の毛はハサミのようになっていて、風が吹いても、あまりなびかない。
くりくりっとした大きな瞳が特徴的で、鼻の頭辺りのそばかすが無邪気さを表している。
背は低めで、その姿は小動物を思わせる。
マスコットやアイドル的な存在になっているが、実家は道場で、実際彼女も教えを受けており、立派な格闘家だ。1対複数でも怯まず叩きのめす実力がある。
しかし、本人はパティシエを目指しており、時折自作のお菓子を持ち込んで、榎のダイエットの密かな敵となっている。
負けず嫌いで、勝負事に巻き込むと、少々面倒になる。
最後に、田島・セイラ・文(たじませいらふみ)。
アメリカ人の母親と、日本人の父親から産まれたハーフ。
スレンダーな体型に、強靭な脚部がのびているのが特徴で、その見た目に違わぬ陸上選手である。
スポーツ特待生として入ってきたキングオブルーキーで、オリンピック候補生にも抜擢される実力者である。
紺色の髪をツインテールにしていて、黒目にはいつも、謎の技術で星が輝いている。
チャラチャラしているギャル体質で、枷檻とは馬が合うようだ。
陸上部にもっと仲間が増えることを望んでいるらしい。

榎「先輩、顔色悪いですよ?」
心配そうに千代の顔を覗き込んでくる。
千代「うん…タイムライン見たでしょ?」
榎はうんうん、と頷く。
桜倉「酷い事件ですよね、あれ。
なんでも、スコップでひと突きされただけなのに、骨まで砕けてるとか。」
千代「私、あの事件を止めたいんだ。
きっと普通の殺人じゃなくて、超能力による殺人のはずだから…。」
重い空気を察知して、後輩たちはパイプ椅子をかき集めて座る。
今週は、他校とのゴールデンウィーク合同合宿のために3年生組がおらず、ぎゅうぎゅうになってテーブルを囲うことはなかった。
セイラ「また、"探偵ごっこ"ッスか?」
千代「うん。」
ここ最近、超能力による強盗や強姦が増えている。
それを、警察にはない視点で調べていき、解決するのが、"探偵ごっこ"だ。
『この町を、超能力から守りたい』
そんな千代の気持ちに応えてくれた陸上部員が始めたこと。
言わば彼女らは、『超能力レジスタンス』なのだ。

摩利華もパイプ椅子を広げて、隅っこに座った頃に、枷檻も部室に入ってくる。
枷檻「スマン、遅くなった。」
千代「気にしなくていいよ。これで全員だね。」
千代はホワイトボードを引っ張って、その前に立つ。
近い予定や落書きを大雑把に消して、マーカーを握った。
セイラ「私たちにも"超能力"があれば、もっと楽なのによー。」
千代はホワイトボードに『マカアラシ情報収集経過報告』と書いた。
千代「馬鹿言わないで。超能力なんて、存在しない方がよかったんだ。
武器っていうのは、守るために作られて、壊すために使われるんだから。
ダイナマイトみたいなものだよ。」

枷檻「今ある情報は、『スコップで作られた傷から見て、身長は常人並み』、『スコップを使う能力か、四次元及び十一次元的な能力』、『能力者に対して何らかの執着がある』ってだけか。」
ホワイトボードには、それらの文が箇条書きになっている。
千代「まぁ、事件が報道されて1日も経ってないわけだから、いい方でしょ。」
摩利華「今後はどうしますの?」
千代「いつもと同じだよ。手に負える範囲なら、みんなでなんとかするし、手に負えなければ、枷檻ちゃんのお父さんを通じて、国に連絡をとってもらう。」
セイラ「オーキードーキー。」
榎「早く捕まるといいねー。」
セイラ「お前もやるんだよ。」
榎「いてっ」
無気力にテーブルに肘をついている榎をひっぱたく。
千代「それから、今回はいつもみたいなコソドロや痴漢とは訳が違うから、無理はしないこと。いいね。」
真姫「わかりましたー。」
一年生がわらわらと席をたち、部室をあとにする。
千代「あと、当たり前だけど、今日は練習無しだから。ていうか、全部の部活、自主的にそうしてるらしいし。物騒だからね。」
榎「うわーい。ヒメちゃん、ゲーセン行こー」
真姫「もうちょっと危機感持たないとダメだよ。」
榎「ええー?」
盛り上がる一年生組の声が遠くなり、二年生組だけが残る。
千代「一年生組は、超能力の才能すらないからなぁ…今回はあまり指示は飛ばさないでおこう。」
超能力は超能力を持った人間にしか見えない。
そのせいで、無能力者にとっては、ポルターガイストにしか見えないのだ。
一年生組には超能力も、その才能もないため、物理的な捜査しか行えないのだ。
摩利華「千代ちゃん。」
パイプ椅子から立ち上がり、千代の手を握る。
摩利華「貴女だって、もう、パワーは普通の人間なのだから、無理しないでほしいですわ。」
千代「……わかってる。」
そうは言いつつも、彼女はぶちギレると止められなくなるタイプだ。変なところで頑固で、決めたら利かないところがある。
それをわかっている枷檻は小さくため息をつく。
枷檻「些細なことでも、遠慮なく財閥(うち)のチカラに頼れよ。財閥も、超能力をもつ反犯罪組織を作ろうと画策している。私たちはそのプロトタイプだ。どんな支援が有効か、確かめる必要がある。」
千代「ありがとう。」
枷檻「バッキャロゥ、この町の未来像がお前にかかってるんだ。礼を言いたいのはこっちの方だ。」
吐き捨てるように言いながら、部室をあとにする。
摩利華「では、私たちも帰りましょうか。暗くなる前に。」
千代「うん。」

千代は家に帰ると自室のハンガーラックに手をかけた。
おしゃれに無関心で無頓着なために、あまり多くはない服を1枚ずつ繰って行く。
そして、目的のものを見つけた。
それは、黒いマントだった。
スペアとして用意していたもののため、あまり汚れはいなかった。
千代「二度と…二度と着ることなんてないって…思ってた。」
マントを抱き寄せ、呟く。
千代「お願い、番長ちゃん。勇気を貸して。」
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