DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.LAST 愚者の弾丸

不適な笑みが、フードの暗がりのなかに覗く。
相変わらず男か女かわならない声だし、顔立ちまで中性的だ。
仮面の男「おら、連れてきたぜ。」
コッパ「ご苦労様。二人はもう好きにしていいよ。」
優しくて穏やかな甘い口調で、二人に退場を促す。
仮面の男「ケッ、どうせ"お前の好きにしかならないくせに"。」
そう捨て台詞を吐いて、のどかな風景に向かう。
崖を落っこちるわけにもいかないので、迂回するために岩陰に消えて行く。
それを見送ると、一同へと視線を戻す。
コッパ「一応形式的に聞くけど、マリンをこちらに引き渡す気はないんだね?」
番長「当然だ。いや、渡してもお前は殺すから、どちらだって同じだけどな。」
殺気立つ番長や一同に対しても、コッパは依然として余裕の表情だ。
コッパ「だよねー。ここでうんと言うなら守ってきた甲斐もないだろう。だがね……」
コッパの声色は飄々としたものから、冷たいものへと変わる。
コッパ「君たちは、どうやっても私に勝てない理由がある。」
サクリファイス「んなもん、やってみなきゃ解らねぇだろ。」
その凄みに対してコッパは首を横に振る。
コッパ「しかし、それは同時に、マリンさえ私に近づけないことになる。」
麗「何が言いたい。」
噛み合わない会話、自分が抱えている問題、双方に苛立っている麗は八つ当たりな返しをした。
コッパ「試してみるかい?」
コッパはやってきたそこから動かない。
回りには、ただただシャボン玉。
話を聞いているようで聞いていないのは挑発なのか。
だが、彼らはその挑発に乗ってやる他無かった。
サクリファイス「やってやるぜ!!」
強く地面を蹴り、唾を鎌に変えて槍兵のように突っ切る。
コッパはまた、不適に笑う。

番長「? おい、何突っ立ってんだ?」
サクリファイス「は……?」
今まで走っていたはずのサクリファイスは、元の位置に立っていた。
サクリファイス「??? どうしたんだ、俺…。」
訳もわからないまま、再び走り出す。

だが、またしても、元の位置に戻されていた。
サクリファイス「マジで近付けない…。」
そう漏らす彼に対して、回りは怪訝な眼差しを向ける。
番長「何言ってんだ? お前、"なにもしてないだろ"。」
サクリファイス「お前こそ何言ってるんだ!!? 俺はもう、2階も"戻された"んだぞ!!?」
ブリンク「申し訳ありませんが、私にも、サクリファイスさんは"立ち呆けていただけ"に見えました。」
サクリファイス「一体何がどうなってるんだ!!?」
麗「時を戻す能力か?」
サクリファイス「そうだ、そんな感じ。」
やっと同意の声を聴けて安心するが、コッパは肯定も否定もしない。ただニヤニヤとこちらを眺めている。
番長「─────いや、違うな。」
サクリファイス「はぁ!!?」
せっかく得られた同意に水をさされて思わず過敏になる。
番長「よく考えてみろ。時間を戻しているなら、ボーッと突っ立ってる時間なんて産まれないだろ。その時間が巻き戻るんだからよ。」
サクリファイス「た、たしかに。」
麗「代案はあるのか?」
番長は頷いた。
番長「あいつがやっているのは、"過去の改変"だ。フォスターがやったことを"なかったこと"にしたから、フォスターは何もせずに突っ立ってたんだ。」
コッパは尚も笑った。
コッパ「すごいねぇ。やっぱり、一番危険なのはキミのようだ。」
肯定し、尚も笑った。
"解ったから、何ができる? "
態度がそう言っている。
コッパ「私はねぇ、都合の悪いことだけ無かったことにして、都合のいいことだけ残しておくことができるんだ。でもね、マリンを拐おうとして抵抗されると、さらったこともひっくるめて消さなくてはならなくなるんだ。」
あぁ、なるほど。
これが、再三に渡って見せられた、"瞬間移動"の正体。
奴は、自分が訪れた事実を無かったことにして、戻っていたのだ。
コッパの顔が、シャボン玉に歪に映る。
コッパ「私は、これから君たちが"マリンをこちらに差し出すこと"以外は赦さないからね?」
これが、"勝負にならない"ということだ。
そもそも、戦いなどさせてくれないのだ。
番長「だが、見るとよぉ、そのシャボン玉がアーツなんだろ? それに当たらなければいい。」
そういいはなって番長は操縦を構え、返事を待たずに引き金を引く。
見事にシャボン玉の間を縫って、コッパの脳天に直撃する。
サクリファイス「おおっ!!」
コッパはぐらりと倒れ──────
た、はずだった。
だが、まばたきしてしまったすぐ後、そこには無傷のコッパが平気な顔で立っていた。
コッパ「私は"当たってなどいない"。残念だったね。」
ミツクビ「ふ、不死身かみゃうっ!!?」
コッパ「だからぁ、私には当たらないんだってば。」
麗「そうか、じゃあ、シャボン玉を"割らなければ"いいんだな?」
麗はつむじ風を作ってシャボン玉をひとつの渦に集めた。
麗「これならテメェは無防備だ!!」
麗は大剣を握りしめ、駆け出す。
目の前まで難なく距離を詰め、剣を振りかぶる。
コッパ「はいはい、その手なら他のやつも使ったよ。」
降り下ろされる剣に、新たなシャボン玉を口から吹き出す。

麗「……クソッ!!」
番長「ダメだったんだな。」
麗「あぁ…。」
どうあがいてもそこから動くことができず、何一つなすことができない。
なにかそこに打開策は無いのか?
番長は、記憶の海へと思考を還す。
──────そういえば、千代は、アーツを使っているにも関わらず、姿はほとんど超能力のままだった。
私にも、きっとあのときの能力があるはずだ。
番長「────"再現(エコー)"」
そう、呟いた瞬間、世界は硝子のように砕け散り、その代わりに、ネガポジ反転で真っ黒なモノクロ世界に変わる。
番長(成功だ!!)
かりそめの3秒間がスローで進んで行く。
だが、なにかがおかしい。
何がおかしい?
わかる前に、能力は終わりを告げ、闇は光の点に呑み込まれ、カラフルな元の世界が戻ってくる。
あぁ、そうだ。
この能力はあくまでシュミレーション。
何か目的を持たなくては。
次は、"普通に弾丸を放ったときのシュミレーション"。
番長「"再現"」
その呟きは我が物か解らぬ力への不安か、それへの呪い。
意味もない合図に応え、世界は再び砕け散る。
死んだ世界は、鮮やかなステンドグラスになって偽りの時間のなかで塵になって行く。
番長(やっぱりおかしい!!)
そのおかしさに、ようやく気づいた。
シュミレーションは始まらないどころか、視点は一人称。
本来のこの能力は、シュミレーションを三人称視点で眺めて、相手の攻撃や反撃を先読みする能力なのだ。
しかし、これでは全く機能していない。
番長(劣化してしまったのか?)
途方にくれる。
そんな彼女をおいてけぼりにするように、経過したニセモノの3秒は収縮して行く。
サクリファイス「おい、何かしてるのか?」
行動を消される度にもとに戻ってしまう性質のため、こんな質問が投げ掛けられる。
サクリファイス「番長、さっきからお前、なにかブツブツ言ってるだろ。」
コッパ「…? まて、何かしているか? この私の知らないところでっ!!」
番長「…。」
まだだ。そう自分を留める。
ここで黙れば、ハッタリが成り立つ。
コッパ「やはりお前は危険だ!! この私が殺してやる!!」
そう言って取り出したのは、なんの変鉄もないただの剣だった。
彼は、完璧な防御を持っていながら、憐れなことに攻撃に関しては、てんでダメなのだ。
コッパ「この私の剣がお前を殺すまで、何度だって戻ってやる…。お前は私を不安にさせる。そんなことがあってはならない!!」
じりじりと歩み寄るコッパ。
何度も止めようと飛びかかっては戻される仲間たち。
番長(違うんだ…。)
劣化した訳じゃない。
むしろ、進化しているはずなんだ。
千代の能力だって、"皆既日食"と名付けられた新たな能力が宿っていた。
コッパ「待っていろ…。そのままだ…。」
この能力は、何らかの理由で機能が変化している。
新旧の能力のハイブリッド。
番長「もう一度だッ!! "再現"!!」
世界に漆黒の蜘蛛の巣が走る。
色彩は虚構の世界の主の視界から排除されて行く。
そこで、更なる違和感。
おかしい。
可笑しいんだ。
なんで、モノクロの世界のはずなのに、"自分の色だけ抜けていないのだろうか? "
ていうか、動く。
本来ならありえない。
手を握ったり開いたり。
これはつまり…つまり…?
戸惑う間に、うそんこの世界は排水溝に飲まれる洗面台の水のように消えて行く。
コッパ「なんだ…。なんだよ"エコー"って…。何をしているんだ!! 教えろー!! 」
歩み寄っていたコッパは走り出す。
まずい。時間がない。時間がない? 時間…。
番長「"エコォォォォオオオオ!!"」
わかったぞ。
   世界という薄氷に穴が開く

コッパが過去を操るなら、
   プラスの時間、真っ黒な世界が現在に蓋をする。

私の能力は、
   色褪せぬ乙女は選ばれし銃を握る。

"未来から攻撃してしまう能力"。
愚者の名を授けられた能力の世界で、愚者の双銃から放たれる螺旋の弾丸。
名付けるなら、─────"愚者の弾丸"。
引き金を引く。
こんなもの、単なる合図に過ぎない。
でも、この心は武器だ。
この武器は彼女の心だ。
無機質な合図、収束する黒、その中をイカサマの時間で進む弾丸。
未来から放たれた弾丸は、現在のコッパの脳天をうつ。
コッパ「今更こんなもの…? 」
シャボン玉は弾ける、傷は消え…再び現れる。
コッパ「なぜだッ!! 何故消えない!! 」
コッパを囲むシャボン玉はひとつずつ割れて行く。
番長「無駄だ。お前がいくら戻ったって、その3秒後がついてくるぞ。」
コッパ「なんだよそれ!! デタラメだ!! 」
開いては塞がる傷をかきむしる。
番長「デタラメな能力で居座り続けたクソヤロウはどこのどいつだよ。」
コッパ「嫌だ、消えたくない…。」
番長「お前は死ぬんだよ。本当の意味でな。残ったシャボン玉の数だけ懺悔しておいたらどうだ? どうせ、私たち以外にも私欲でいろんなものを傷つけて来たんだろ? 」
コッパ「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だーーーーーーーーーー!!」
番長「憐れだな。」
シャボン玉を使いきり、戻れなくなったコッパの頭は螺旋に呑まれ、一瞬、ピタリと止まると、四方八方へと醜い肉片を飛び散らした。

もう、番長の興味はコッパではなくなっていた。
番長「教えてくれ。約束だろ? もう、星の戦士なんていう胡散臭い奴に頼る必要もない。
まぁ、確実性を求めるなら、そいつのもとまで行くがな。」
麗は唾を飲んで、空を見上げる。
麗「そっか。なら言ってやろう。」
ふっと、目を閉じる。
それは覚悟か、はたまた逃避か。
どちらにせよ、腹を決めた合図だった。
麗「この世界は、パラレルを…無駄な可能性を消して、生前の世界の歪みを消すために存在している。そして、生き返る方法は、パラレルの自分を殺すことだ。それも、自分の手で。」
番長「そうか。なら、探さなくてはな。」
麗「その必要はない。」
涙声になって、麗は髪留めを外した。
麗「そのパラレルは、俺だ。」
凍り付く。
その場にいる全ての仲間が言葉を失った。
麗「これはお揃いだな。お母さんの形見だもんな。当たり前だ。同じ親だ。俺とお前の違いは、男に生まれたか女に生まれたか。それだけだ。」
番長「やめてくれよ。何いってんだよ。星の戦士の元へいくぞ。馬鹿馬鹿しい。」
麗「オールドマシーナリータウンの魔女なんて聞いて驚いたよ。俺のパラレルでは、違う奴が魔女なんだ。賢者の石、超常現象、話でしか聞いたこと無かったけど、実物見たら本当に魔法だな。」
番長「やめろよ…。」
麗「お前がそばにいるとき、実家みたいな匂いがしてさ…。安心したよ。そりゃそうさ。誰よりも自分に近い存在なんだからな。あの、工場街の片隅に、俺たちは産まれ育ったんだもんなぁ!!」
番長「やめろって言ってんだろ!! 」
また、嫌な静けさが流れる。
番長「麗、そんなおどかしはいいんだ。
本当は違うんだろ? 100人殺せばいいんだろ? 」
麗はその問いに、首を横に振る。
麗「100人くらい殺せば、だいたいそのなかにパラレルが存在している。そんな程度のカラクリだよ。」
番長「…。」
応えないまま、番長は崖を迂回するように歩き出す。
麗「確かめに行くのか。」
番長「…。」
麗「きっと答えは同じだぞ。」
番長「…。」
麗「もし、この答えが間違えていて、消した後に取り返しがつかなくなったら、なんて考えているなら、そんな心配は要らない。」
番長「…。」
麗「…。」
しびれをきらせて、麗は番長に掴みかかる。
麗「迷うなよ…。お前は千代みたいな正義のヒーローじゃないだろ? 仲間を助けにいきたいだけの、悪党だろ? 」
番長「…ッ!! 」
その言葉に頭にきたのではない。
なんの悲しみもしらない、へーぜんとしたその態度が気に入らなかった。
番長「私はもう、大切な人を2人も殺している。
そんな私が、また大事な仲間を殺せるわけ無いだろーーーー!!」
こらえきれずに泣き出した番長の頬を、麗は殴った。
麗「俺だって消えたかねぇよ。」
それは彼なりの覚悟だった。
麗「お前が幸せを掴むときぐらい、明るい顔して送りたかったよ。」
それは彼なりの優しさだった。
麗「でも、ここで俺が消えなけりゃ、お前の生きている仲間を見殺しにしなくちゃあならねぇってことなんだよッ!!」
それが、彼の答えだった。
麗「俺は間違えて存在していたんだ!! 間違え続けるなんて誓ったりもしたんだ!! でも、お前のために消えられるなら、この俺も間違いなんかじゃなくなるんだ。だってそうだろう? お前は俺だ。俺はお前だ。お前がお前らしく生きてくれれば、俺はそれだけで嬉しいんだ。自分のことなんだからよ。」
麗は距離をとる。
そして、両手を広げた。
麗「さあ、撃てよ。お前には、もう、必殺の一撃があるだろう? なに、ふたつがひとつに戻るだけさ。これは殺しじゃない。」
番長「そんな…。こんなのってないよ…。あんまりだ…。どうしてこんな…。」
サクリファイス「あまったれるな!!」
ミツクビ「団長の想いを無駄にするニャ!!」
ブリンク「あなたは死んだままでいいのですか?」
番長「お前ら…。」
サクリファイス「俺たちは、カインドで、夢を見ていた。長い長い夢を見ていたんだ。」
ミツクビ「でも、番長ちゃんのおかげで気付けたニャン。失うものも、残酷なものも、生き物である限りなくならないってことを。」
ブリンク「ですが、いまここで起きていることは、失うことではない。」
マリンは番長の左手を握る。
マリン「これは、始まり。かけがえのない運命の、始まり。」
麗「だがら、銃を出して、引き金を引け。
俺を乗り越えて、やっとお前が始まるんだ。」
番長「…。」
静かに銃は形をつくる。
番長「ありがとう…。」
銃口はゆっくりと対照を捉え始める。
番長「こんなわがままに付き合ってくれて。」
視線が、銃の照準に合う。
番長「ありがとう、仲間でいてくれて、本当にありがとう。お前らがいなけりゃ、ずっと私は誰かを消し続けながら、無意味にさまよっていたよ…。
私の行く道を、照らし続けてくれて…ありがとう。」
引き金が絞られて行く。
麗はもう涙が止まっていて、うっすらと微笑んでいる。
麗「くだらねぇ死にかたなんて、二度とするなよ。」
番長「ああ。二度とお前らに会うもんか。」
完全に引き金は引かれた。
弾丸が飛び出る。
無骨な、銀色の弾丸。
その飛ぶ時間は無限にも思えて、一瞬にも思えた。
世界が歪む。
自分が歪む。
もう、どこにいるかもわからない。

溶けて行く。

固まって行く。

ばらばらになる。

うまってゆく…。

…。

……。

─────────────────ッ!!

ボディスーツの男「たった今のお前なら、稚拙な施設でも能力の行使を妨害できる!!」
周りにはリュックを背負っている奴らが居る。
おそらく、私は死ぬ直前に戻ってきたのだろう。
ボディスーツの男「お前の能力は、お前自身を殺めるために使え。」
番長「・・・・・・・・・。」
シルフィ「判断をあやまらないで・・・。」
陽子「見殺しにされたなんて言わないから・・・生きて・・・!!」
仲間は彼女を心から信頼し、尊敬し、愛していた。
だからこそ――――
番長「"再現(エコー)"」
懐かしい景色は嘘の世界に、一時的に書き変わる。
そして、仲間を人質に取っているやつらを、一人残らず撃ち抜いたあと、黒の世界は呼吸をやめる。
電子「!!?」
気づいたときには、もう、全ての敵の頭はくだけ散っていた。
番長「この"オールドマシーナリータウンの魔女"に、勝てるもんかよ。」

Fin.