DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.40 番長自身の選択

番長「全快はまだ遠いか…。」
目は覚めたものの、疲労と気だるさが枷となって体の自由を奪っている。
麗「しっかし、派手に散らかしてくれたよな。」
復興のために忙しなくなっている町を、遠巻きに眺めながら言う。
番長「他人事のように言うな。手伝わなくていいのか?」
麗「いや、もういいんだ。慈善の為に旅をするのは、もうやめたよ。」
番長は理解に苦しんだ。
そもそも、クリン・トラスト城を救うために街を出て、そのまま旅を続けているのだから、旅行く先を正しい方向へ導くために足を動かしているのではないのだろうか。
たしかに、自分についてきてくれると言った。目的に協力してくれるとも言った。
だが、それでは、彼自身の目的が無い。
何故、引き返さなかったのだろうか。
海を渡る前ならまだ間に合ったはずなのに。
麗「そんな顔をするな。」
番長「…。」
麗「俺にだって、生前の後悔はあるし、満足して死んだ訳じゃない。みんなだってそうさ、簡単に生き返る方法だとしたら、知っておいて損はない。」
表情で解るほどひどい顔をしていたのか?と思いつつ、納得できる回答を得られないことに苛立った。
番長「そんな程度のことのためにか…?」
麗「それだけじゃないさ。わかるだろう?コッパという大きな禍りを放ってはおけない。
慈善や正義じゃない。もっとシンプルな問題さ。ムカつく奴をブッ飛ばす。それだけのことさ。」
番長「でも、それはお前のためではないだろ。」
麗「でも、俺はムカついた。どんな心があんな奴を赦せるんだよ。たとえそのために間違った道を進むとしても、自分の気持ちを曲げるよりはずっといい。その方が鮮やかなんだ。街を守るために自警団を組んでいたのも、自分が納得できない物事を潰す言い訳が欲しかっただけなんだろうし。」
番長「なんだよそれ。適当すぎないか?そんな理由で命懸けで戦えるなんてどうかしてる。」
サクリファイス「あのさ、不毛だと思ったから一言だけ言いたいんだけど、いいか?」
番長「…なんだ。」
相変わらず空気が読めないな、と顔を向ける。
サクリファイス「お前、俺たちと一緒にいたくないのか?」
番長「どういうことだよ。」
サクリファイス「おっと、二言目のゆるしをくれよ。」
番長「茶化すな。聞き捨てならないぞ。」
睨むように…いや、睨んで、体の向きもかえる。
サクリファイス「お前は、さっきから、"一緒にいられない理由"ばかり探している。
俺はそれが不毛だと感じるんだ。同じ理由ならさ、"一緒にいられる理由"を探した方がいいんじゃあないのか?」
番長「…わ、私はただ、大層な理由もなく命を危険にさらすもんじゃないと思ってるだけだ。」
思わぬ正論に、戸惑いながら返す。
サクリファイス「仲間の幸せを願うことに、理由なんているかよ。だけど、お前が理屈をこねたがるから、言い訳を探してやってんじゃねえか。」
麗「正しさにこだわりたがるのは、今まではお互い様だった。でも、今は番長くらいだよ。
けど、だからこそ、お前の正しさを守ってやりたいし、そのために俺は間違うと決めた。」
サクリファイス「お前はすごいし、カリスマだ。だけど、ひどく繊細だ。」
麗「だから、仲間として放っておけないんだよ。ついていく理由はいくらひねったってそんなもんさ。いいことするのは二の次三の次だ。」
番長「いいのか…。せっかく千代に教えてもらった正しい道を無視してもいいのか?それに巻き込まれてもいいのか?」
サクリファイス「なんだ、お前、巻き込んでないつもりでいたのか。」
番長は呆然としてしまう。
麗「悪いけど、俺たちゃお前に引っ張られ過ぎて、振り向けないところにまで関わっちゃったんだけどなぁ。」
サクリファイス「あいつの道はあいつの道だろう。たしかに学ぶことはあった。正しい道だった。
だとすると、そもそも"生き返る"って言うことが、ヒトにとって、正しいか?」
番長「…あ。」
麗「気付いたか?目的そのものが生きとし生けるものたちにとって間違いなんだから、正しい道のりで生き返ることなんざ出来やしないようにできてんだよ。」
番長「は、はは…。」
馬鹿みたいだ。
これまで信じたり悩んできたりした道が、本当は一本道だったなんて、とんだ笑い種だ。
番長「なんだよ…。悩んで、葛藤してきたことは、全部無駄だったのか?なぁ。」
麗は首を横に振る。
麗「無駄なんかじゃねぇよ。っていうか、葛藤したのは俺達もだし、悩んできたからこそ気付けた結末なんだ。」
番長「お前ら…。」
崩れ落ちそうになる番長をミツクビが寄ってきて支えた。
ミツクビ「ごめんニャ、ミィも、番長ちゃんが寝てるうちに、こっちの道へと引かれちゃったのニャン。だから、ミィもあとは引っ張られるだけなのニャン。」
ブリンク「さぁ、何か指示をください。貴女の正しいと思う間違いに、私たちは従います。グルであり、味方であり、仲間なのですから。」
番長は泣かなかった。
むしろ、笑って言葉を返した。
番長「鬱陶しいコッパの奴と、ムカつく生死の境界をぶっ壊すために、見ていてくれ…私の背中を。」
彼らは、再び立ち上がる背中を護るために、最悪の鮮やかさを、その手に掲げた。
間違い続けよう。有無を言わせぬ引力を持つ、この猛き背中のために。

来た方とは違う方向の町の端に集まった。
そこで、クリン・トラスト城でもらった地図を再び見る。
目的地には大分近づいているようだ。
番長「ま、ここまで来て諦める方がおかしいよな。」
独り言のように言い、ブリンクに地図を預ける。
マリン「番長お姉ちゃん。」
あまり口を開かないマリンが、珍しく自ら話しかけた。
番長「ん?どうした?」
マリン「隠してたわけじゃないんだけど、言わなくちゃいけないかって思ったことがある。」
番長「なんでも言ってくれ。いや、もうついていきたくないっていうなら考えものだが。」
マリンは首を横に振る。
マリン「違うの。実はね、私のアーツ、"弱くなっていってるの"。」
番長「具体的には?」
マリン「消耗するのはもちろん、射程距離も短くなっていってる。」
番長「ふむ…。」
元々、マリンについては戦力としては考えていなかったために、弱体化についてはさして気にはならなかった。だが、弱くなる可能性が指し示されたのは、意に介さずとはいかない。
番長「何故だろうか。」
マリン「わかんない。わかんないけど、使わないんじゃなくて、使えないんだって言っておきたくて。」
そこで、ハッとしてマリンの頭を撫でる。
番長「多分だけど、ハーツアーツは心の武器だから、その能力を手に入れたときの気持ちが薄くなっていってるんだよ。」
マリン「…?」
番長「出会った頃は、身を守るために残酷に戦ってきた戦士だった。でも、今は守られるだけの普通の女の子だ。戦う役目を負わなくてよくなったって感情が、武器を弱めたんじゃないかな。」
マリン「…必殺の保険がなくなって、残念じゃないの?」
番長「マリンは連れ回されているだけだ。能力なんて無いなら無いで構わない。戦っている訳じゃないだろ?」
マリン「だけど…。」
番長「無理に役に立とうだなんて思わなくていい。私は、私欲のためにお前をさらった悪い人なんだから。」
マリン「うん…。」
番長「戦いが終わったら、クリン・トラストに戻るといい。お前だけは、あっちがわの人間だ。」
マリン「う…ん?」
番長「どうした?」
マリンは何かを見つけたようだ。
マリン「あのひと…。」
向こうの女性を指差す。
麗「明らかに怪しいな。」
女性の足元には数体のくまのぬいぐるみが歩いている。
こちらのことを見つけると、女性は歩み寄ってきた。
ぬいぐるみはハーモニカをご機嫌に鳴らしている。
女性「コロ、す、いカセ…なイっ。」
両手に禍々しい漆黒の双剣を握る。
愉快にハーモニカを吹くくまのぬいぐるみたちは、ステップを踏みながら散り散りになっていく。
番長「随分間抜けなのが来たな。」
女性「あアアっ!!」
叫び声をあげて、剣を振るう。
だが、その剣は、双剣の利点を活かせていない、のろまな振りだった。
そもそも、二本握るには大きすぎる代物で、素人が扱えば、互いの刀身が絡み合ってしまうほど不便な見た目をしている。
女性「うアあっ!!」
もはや女性の動きは、剣に体を振り回されていて、見ていられないほどのものだった。
倒そうと思えば簡単だ。だが、何かがおかしい。
サクリファイス「こいつ、操られてるだろ。俺にだってわかるぜ。」
答えは順当なものだった。
明らかに、くまのぬいぐるみに女性が操られてるのだ。
そうとわかれば、麗はたちまち大剣でぬいぐるみを凪ぎ払い、切り裂いた。
女性は糸が切れたように倒れ、黒い剣は溶けてなくなった。
番長「粗末な仕掛けだこと。」
そう言って立ち去ろうとしたときに、女性の顔はこちらを向いて言った。
女性「"りボるばかンボつチたイ"で、まッてる。こっパはマだ、オマえをみテいるぞ…。」
言い切ると、女性はそのまま気絶した。
番長「トラップではなくメッセンジャーだったか。」

"リボルバ陥没地帯"というのは、この先にある岩山が続く道の事だ。
嫌でも通らなくてはならないが、そこで戦うと、わざわざ宣戦布告してきたというわけだ。
サクリファイス「凝った演出しやがるぜ。」
これから先、長い道のりを徒歩で行かなくてはならないことに鬱屈になりながら、足を進める。
麗「夜になると不味そうだが、1日では越えられないか。」
代わり映えのない景色が、よりいっそう気を滅入らせる。
ミツクビ「もう陥没地帯に入っているのかニャン?」
ブリンク「…入って…いるみたいですね。」
とは言うものの、見渡す限り岩肌いか見えないため、憶測でしかない。
番長「人気が無いな…。人と出くわしたら、まず敵か。」
ざらざらとした靴音が、砂混じりの風と混じり会う。
その先に足を止めている者が居た。
???「おや、来てくれたということは、エリオットはやられたか。」
スレンダーな乙女が振り替える。
見た目は、荒野のガンマンとしか言いようがない。
番長「お前が次の刺客か。」
ガンマン?「いかにも。」
その相手は、今までの敵とは明らかな違いがあった。
さわやかで、さっぱりとしている。
敵にするにはあっさりしすぎている。
麗「会話ができる相手ってことで一応聞いておくが、目的はなんだ。あんな下衆どもとつるんでまで生き返りたい理由はなんだ?」
ガンマン?「仲間のもとへ、帰りたい。そして、守りたい、この手で。」
番長「───────ッ!!?」
なんということ、彼女は番長と全く同じ目的を持っていた。
ガンマン?「心配するな。私はお前のパラレルではない。私の名前は、"魔砲のマドロシア"という。」
麗「…?なんで、パラレルかどうかの心配なんてするんだ?」
そういうと、マドロシアは顔をひきつらせ、ついには笑い始めた。
マドロシア「あっはっは。コッパも知らない様子だったから、まさかとは思っていたが、そうかそうか。」
番長「何が可笑しい。」
マドロシア「私はね、知っているんだよ。"星の戦士"が自分だけ知っていると思い込んでいる、この世界の真実を!!」
番長「何ッ!!?」
教えてくれ、と言わんとばかりに前にのめるが、言葉を遮られる。
マドロシア「お前らに教える訳にはいかないんだ。何故なら、マリン・クイールを本当に必要としているのは私だからだ!!」
マドロシアは、そう言うと懐から2丁の銃を取り出す。
番長の白い銃は、撃鉄などがついていない「トリガーのついた筒」といった感じの、"銃もどきのおもちゃ"と言うべき見た目だ。
それに対してマドロシアのもつ黒い銃は、生成された鉄の芯を撃鉄と火薬によって打ち出す、本物に近いタイプのものだ。
その銃身が、この得物で殺してやるぞと黒く煌めく。
サクリファイス「散るぞッ!!」
マドロシア「無駄だね!!」
一発ずつ、重い一撃を銘々に一発ずつ放つ。
麗は風のレールで移動を速めて避けようとする。
麗「嘘だろ!!?」
しかし、彼女の恐ろしさをすぐに思い知った。
麗、サクリファイス、ミツクビ、ブリンクと、次々に鉄の芯をまともに食らう。
それもそのはず、速度を失わないまま彼らを追いかけてきたからである。
番長はなんとか弾丸を命中させて破壊することができたが、それも狙いが多かったことで訪れたいラッキーだ。次はないだろう。
サクリファイス「なんだよこれ!!?頭おかしいぞ!!?」
叫んだ理由は、鉄の芯が追いかけてきたからではなかった。
彼らは強力な芯を食らって倒れ、そして、その芯が貫通した部分と地面が、無数の鉄の針とテグスで縫い付けられているのだ。
マドロシア「なんだよ…。そんな程度で生き返ろうだなんて考えてたのかよ…。」
地面を睨み付けながら、独り言のように呟く。
マドロシア「そんなちゃらちゃらした覚悟で、私の前に立ちふさがってんじゃないよ…。」
彼女は番長の方へ向く。
マドロシア「さぁ、マリンをこちらによこしなよ。いや、前に出してくれるだけでいい。お前らのレベルじゃ私に勝てやしないよ。まして、1つしかアーツを持ってないくせして…。」
番長「そればできない。私にも、待っている仲間がいる。」
マドロシア「そうか。なら、精々足掻きな。」
そう言われた番長の意識には、不自然なノイズが走っていた。

"読んで…。"

"私の一部がそこにあるでしょ…?"

マドロシアの銃口がこちらを向いているというのに、その声にそそのかされるように、スカートのポケットの中から本を取り出す。

マドロシア「ン?秘策か?だが、遅い!!」

この本は不自然だ。
今、触るまで気にしていなかったのに、とてもおかしいじゃないか。
なんで、海を渡ったのにシワのひとつもないんだろう。

マドロシアの引き金が引かれる。
それを、麗は剣を飛ばして遮る。
マドロシア「このっ、半殺しで済ませてやってるってのに!!」

本は開かれていた。
いや、これは本ではない。
誰かのアーツなのだ。
光が番長を包む。
マドロシア「目眩ましなど…?」

光が解かれると、そこに人影が現れた。
その人影は、黒きドレスを纏った、いつかの勇姿であった。

千代「まったく、世話が焼ける姉貴分だなぁ。」