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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.38 私(ミィ)の復讐劇

……………………。

酷く重い微睡みをやっとのことで飲み込めそうなのに、呼吸をするためだけに全力を尽くしているんじゃ仕方がない。
何度踏ん張りを利かせても、夢のなかにズルズルと引き戻されるもどかしさ。
誰もいない。
自分がいるとはわかっていても、自分が居ることを証明する人間がいない。
そうなると、自分はリタイアしてしまったのだろうか。
あんな半端なところで滅びてしまったのか。
情けない。

………………。

呼吸はしているんだ。
その空気の流れる音だけが、自分が何らかの世界に留まっている証明だ。

………………。

その空間を引き裂く者が居た。

声「まっててね。迎えにいくから。私の一部が、そばにあるから。助けを"読んで"。」

………………。

いかないでくれ。
あぁ、その声は遠退く。
いやしかし、体は重さを感じ始めている。
────────戻れる。
まだ生き返ることは無理そうだけど、まだ終わりじゃない。
目の前に見えるのは、妄想ではない、肉体の前にある光…。

番長「……………………………ン。」
液体のように不自由さを極めた肉体の操作感覚を掬って固めてゆく。
天井は不気味に光る石が無造作に打ち付けられおり、地上に重いものが乗ろう物なら音を立てて崩れてゆくだろうと容易に想像させた。
手足に枷はない、軟禁監禁の類いではないのか?
粗末なベッドに自分が寝ていることを確認する。
どうも寝覚めは悪いようだ。
ベッドには仲間が肩を並べてよしかかり、静かに寝息を立てている。
ミツクビは向こうに転がっているが、奴の寝相が悪いのは知っていることだ。
ブリンク、マリン、サクリファイス、麗、???
番長「──────────ッ!!!!」
声にならない叫び声をあげる。
おかしい。おかしいのだ。
何を呑気に敵とお昼寝しているのだ。
いや、ここでは時間などわからないが。
番長(いったい何がどうなってるんだ!!?
倒した筈のアリスが居るし、しかもみんなはそいつと一緒に仲良く寝てやがるし…。)
華美な装飾品が無骨な岩壁を飾る部屋の中、一人で思考を張り巡らせる。
番長(とりあえず、寝ているうちに危険は撤去するしかないか…??)
ベッドの上に立ち、銃を構えようとする。
だが、形は固化と霧散を不安定に繰返し、あろうことか手はガタガタと震えている。
そんなことをしていたせいで時間がたってしまい、ついには固化することもできなくなり、体の力が弱まって膝をついた。
番長(なんてことだ…。アーツを維持するほどの生命力も無い…。)
自分の無力さに項垂れる。
仲間の力を借りればなんとかなると、一人じゃないから強くいられると、そう教えられ、それを信じて進んできたのに、一人にされてしまえばそんな言葉など何にもなりやしない。
無意識に歯を食い縛っていた。
アリス「…む、寝過ぎたか。」
アリスは無防備にのびをする。
端麗な姿に似合わぬ、だらしのないあくびまでしてのけた。
それを、息を殺しつつ、冷や汗をかきながら見守る番長。
アリスに振り向かれ、視線が合う。
何も出来ない。
もう、何も抵抗できない。
無理して能力を使っても、無抵抗のままでも、体がぶっ飛ぶことに変わりないだろう。
アリスは立ち上がり、覆い被さる。
番長(もうだめだ…。)

アリス「目が覚めたかアタシの大事な番長よ。」
番長「………………………???」
文字通り覆い被さっただけ。
ハグ。それ以上のことはない。
アリスの豊満な胸を顔に押し当てられて息が苦しいし、ビキニアーマーの角がこめかみあたりにめり込んで痛いが、そんなことはどうでもよい。
番長「ンッ!!!!」
押し退けると、呆気なく後退するアリス。
アリス「愛想がないのう。」
よく見なくても変わっている衣装に、すっとんきょうな返事のトッピング。
番長「夜這いか?」
精一杯の抵抗。
アリス「そうさな。性的欲求というものがあったならそうしていただろう。だが、私はセックスよりも戦闘の方が興奮するのでな。あ、いや、寝ている姿も捨てがたかったぞ~ほんとだぞ~。」
戦っていたときのような覇気は感じられず、倦怠期の若旦那のような、気の抜けた返しをする。
アリス「ん~。食わず嫌いも良くないかな?」
アリスは番長の腰とうなじにそれぞれ手を回して顔を間近に寄せる。
たが、その直後には「思ったほどじゃなかった」という顔をして、解放される。
アリス「やはり、美しい娘には勇ましい表情の方が映えるな。惚けた表情が好きだという男の気持ちが解らん。いかなるときも凛としているから美しいのではないのか?」
アリスが持論を披露し始めると、騒がしさに回りの仲間たちが目を覚ます。
サクリファイス「こ…こは?」
麗「あぁ、話すと少し長くなるが、アリスのアジトだ。」
サクリファイス「ふーん………………はァ~~~~ッ!!!!????」
その後、アリスが自分達と一時的な共同戦線を張っていることを説明した。
番長「利害の一致ってやつ…なのか?」
サクリファイス「まー、アリスならそんな怪しい首輪つけんじゃねーって言いたくなるし、現にはずしてるけど、クライネは世間知らずだったし、なによりコッパの野郎を盲信してたからなぁ。」
アリス「それに、クライネ嬢は貰い物などしたことが無かったようでな、いたく喜んでいたもので、可愛かっ……止めようが無かったのだ。ぬふっ。」
その時のことを思い出したのだろう、下品な笑いが口元から漏れだしている。
そんな和やかな雰囲気とは正反対に、いきり立つ姿があった。
ミツクビ「その幸せな顔を奪った奴が、この町にいるのかニャッ…ッ?」
熱を帯びたその問いかけに、アリスは凛とした表情を取り戻し、頷く。
アリス「そうだ、全員が目覚めたことだし敵の特徴について話そう。そのために安全な場所に移動したのだからな。」
一同は円を作るように陣取った。
アリス「いいか、コッパ12聖典という組織自体、横の関係はあまり深くはない。
だから、持っている情報は限りなく小さいかもしれないし、核心かもしれない。全ての可能性を受け入れる覚悟も、疑う覚悟もしておいてくれ。」
一同は"何を今更"と言う表情で頷く。
アリス「よろしい。では、手元にある情報を出そう。
まず、相手は"切裂のドリー(キリサキノドリー)"、声色から男性だとされているが、素顔は誰も見たことがない。なぜなら、奴はパーカーとズボンをそのままキグルミにしたような妙なアーツで身を覆っているからだ。こちらとしては見つけやすくて良いのだが、反面、体を覆っているせいで容易く傷付けることが出来ないんだ。
奴のアーツの能力は、"斬撃でできた傷からは剣を発射、突きや弾丸による穴からは鉄の棒を発射する"アーツだ。その上、服の上から切り裂いても、いくらでも再生するというイカれた性能だ。だから、剣技を生業とするアタシには非常に相性が悪い相手だ。そこで…。」
辺りを見渡し、再び口を開ける。
番長「格闘に長けた奴が必要ってことか。」
アリス「うむ。貴女(おまえ)の言う通りだ。」
番長「となると、私かミツクビか?
いや、私は今これでいてかなりヤバいから、ミツクビ一択って訳だ。」
ミツクビ「ミィが…ミィがやっていいのかニャン!!?」
アリス「本当は、こういうときはアツくなっている奴に行かせちゃいけないんだがな。生憎、選択肢がない。」
ミツクビ「何だろうと構わないニャ…。復讐ができるなら、それで…ッ!!!!」
ブリンクは危機感からか、たしなめに入ろうとしたが、麗はそれを制止する。
ブリンク「な…。」
麗はダメおしとばかりに首を横に振る。
そのあと、ミツクビに向き直る。
麗「ニャンコ。」
ミツクビ「…?」
あまりに穏やかに話しかけられたもので、メロメロとほとばしっていた心を痒くさせられる。
麗「やりたいようにやれ。お前が本当にやりたいように。いつ振り向いてもいいが、"迷うために"振り向くのだけは駄目だからな。」
ミツクビ「…??あ、当たり前だニャン。戦ってるときによそ見なんてしないニャン?」
麗「そっか。それならいい。」
ミツクビの表情はいつのまにか和らいでいた。

アリス「分担も必要そうだな。」
悩ましげな顔で、そう切り出す。
麗「…だな。マトモに戦闘できる奴が少なすぎる。
ここに残る奴と、ドリーを始末しに行く奴等で別れた方がいい。」
ブリンク「それではこうしましょう。
私とマリンさん、番長さん、サクリファイスさんとここに残ります。アリスさんと麗さん、そしてミツクビさんは外に出てもらいます。理由は各々ご理解いただけますよね。」
一同は頷く。
アリス「現実的で、かつ素早い判断だ。では、行くぞ。」

麗「一応閉めておいた方がいいよな。」
強い日差しに瞳を刺されながら問いかける。
アリス「一応ではない、絶対だ。」
言われるがままに、明らかに土埃の被りようが違うタイルを元の位置へ戻す。
すると、上から声が聞こえる。
???「よォ…。お前、脳筋だと思ってたけど、案外器用なのなァ…。」
屋根の上に立つ不気味な姿。
深紅のパーカー、黄色いズボン。
顔までも、肌のひとつも見せず被う姿はフェルト人形にも見える。
顔の大きさと不釣り合いに大きい体躯が、いかにそのキグルミが分厚いかを証明している。
手の部分はしゃもじのように丸くなっており、そこから四本の刃がそれぞれ生えている。
ミツクビ「お前かッ、クライネをあんな目に逢わせたのはッ!!」
パーカーの顔の部分に描かれた笑顔が憎たらしく震える。
ドリー「そうさ。俺が"切裂のドリー"。首輪のアーツを持っている張本人よォ。
はっはっは。しっかし、あいつはもうダメだったんだよ。裏切るとか裏切らないとか、それ以前にさァ。
あいつは、"生き返る目的を失っちまった"。
生き返りたいと願わない奴は、コッパ12聖典には必要ないんだよなァ…。」
笑いながら、無い目でこちらを見つめてくる。
ドリー「アリス…。お前もだよ。
敵の女に色目使ってよォ、不味いなァ、と思っていたら案の定。お前、"満足しちまった"よなァ。
それもそうか…。お前も生前は人間じゃなかった奴等の一人だもんなぁ…。人間として生きるのが、楽しくなっちまったようで。」
語りたいことを語り終えたのか、ため息をひとつついて、笑うのをやめる。
ドリー「ま、そういうことだから、お前が仲間でいたいか敵でいたいかは別として、"必要がないから"、お前を始末させていただきますわ。本気でねェ。」
それを合図としたのか、建物の隙間から、小さな中庭へと、もう一人、男が現れた。
アリス「……!!バカなッ!!お前が他のメンバーと組むなんてあり得ないッ!!」
もちろん、それはドリーに向けてはなった言葉ではない。
アリス「"月影のエリオット"!!」
そう呼ばれた男。
若白髪が目立つごわごわとした頭髪。
日に焼けた肌、深く刻み込まれた顔の皺たち。
漆黒の鎧を纏い、銀色の剣を携えている。
真っ直ぐなその瞳には、ドス黒い狂気が凝縮されている。
エリオット「私の全ては愛する我が国への忠誠が起こさせる。それ以外のことはない。例外無く!!
故、故郷へ帰る私の妨げとなろうものなら、たとえ昨日までの同胞であろうと手にかけて見せよう!!」
ドリー「ま、つまりは、"マリンをこちらのグループへ渡す可能性が消えたなら、もう敵ですよ"ってコトだ。やァ、賢い選択だねェ。」
アリスは、放つ虚勢もメッキのようにボロボロに剥げた弱気な顔で相手を睨む。
麗「どうした、そんなにヤバい相手なのか?」
アリスは口の中で食い縛っていた歯をほどき、言う。
アリス「ああ。エリオットのそれは、まさしく"戦争"だ。アタシが海で最強なら、こいつは地上で最強だ!!」
それを言い終えるか言い終えないか、それほどのタイミングで、あらゆる道と言う道から、エリオットが現れる。
麗「嘘…だろ…?」
狼狽える間にも、エリオットは増え続ける。
麗「クソッ!!」
襲いかかってくるエリオットの群れを大剣で弾き返す。
一人一人の戦力は、多少腕の立つ兵士といった程度だ。
だが、それも束となればとんでもない脅威だ。
致命傷を受ければ霧散してゆくものの、圧倒的に供給量の方が多い。
そして、異様なのは襲ってきているのは一部というところだ。
では、残りの方はどうしているか?
ミツクビ「…!!??」
なんと、"残りのエリオット同士で争っている"のだ。
麗(そうか、数が多すぎて、敵味方の区別をつけさせるだけの精度がないのか…。たしかに、これは"戦争"としか形容し様がないな。)
そこへ、ドリーはようやく降りてくる。
麗「アイツ、正気か??」
アリス「正気もなにも、最初から降りてくるつもりだったんだよ!!絶対にアイツから目を放すなッ!!」
ミツクビ「承知ニャッ」
返事をしたすぐ後に、その答えを知ることになる。
数体のエリオットは、目の前に現れた標的に向かって躊躇無く剣を降り下ろす。
キグルミが裂けて、中の真っ黒い空間が見える。
ドリーは体をくねらせて、その傷口をこちらに向ける。
アリス「来るぞッ!!」
たくさんのエリオットの間を縫って幾つもの剣がこちらへ飛来する。
傷口ひとつにつき一本。だが、傷口をエリオットに次々増やされては、そんなことは些末事だ。
剣を放つとまた次々傷口はふさがり、次のエリオットの斬撃を待つ。
時々エリオットに刺さるが、物量が物量なのでお構い無しだ。
挙げ句、地面に落ちた剣を拾い上げて、二刀流になるエリオットまで出始めた。
ミツクビ「フキーーーーーッ!!」
アリス「ダメだ、埒があかない。何か手はないか!!?」
迫り来る波状攻撃。
剣の舞に興じる戦争の中の道化。
ミツクビ/麗/アリス「「「あの、道化野郎が鼻につく。」」」
ドリー「くへへ、ちからを抜けば、いたぶったりしてやらないのによォ。」
こちらの声が聞こえているのか聞こえていないのか、挑発をけしかけてくる。
麗「なぁ。」
アリス「短く頼む。」
息を切らしながら、剣を振るう。
脂汗が体を伝っていくが、不便なことに、伝えたいことは口で言わなければ伝わらない。
麗「一瞬だけ隙を作る。そのうちに、ミツクビは奴の元へ。」
アリス「意義なし!!」
ミツクビ「暇なし!!」
麗「実行されたし!!」
叫んで、大剣を地面に突き立てると、爆発にも似た暴風が、エリオットたちをはねのける。
刹那、ミツクビはパチンコで飛ばされた玉のように弾けとんだ。
ドリー「ホォー…。」
今、今しかない。
エリオットの群れが戻ってくる前に。
拳を握りしめるミツクビ。
だが、脳裏には余計な思考がちりばめられていた。
(もしかして、殺せないのでは?)
(パンチ一発なんて不可能なのでは?)
(そもそも、人を殺したことなど無い。)
(いつも、止めはみんなだ。)
(自分は、どうすれば正解なのだ…?)
答えを求めて、振り向きそうになる。
だが、さっきの言葉が、脳裏の全てのいざこざを塗りつぶした。
『やりたいようにやれ。お前が本当にやりたいように。いつ振り向いてもいいが、"迷うために"振り向くのだけは駄目だからな。』
心のスイッチが木っ端微塵になったのを感じた。
(自分が"やりたいこと"はただひとつ。
クライネと同じように、首を跳ねてブッ殺す。それだけだ。)
ミツクビ「ックシャァァァァァァアアアア!!!!」
牙をむき出しにして、爪のアーツを横一文字に薙ぐ。
お次とばかりに、飛来する凶刃を縦一文字に薙ぎ払う。
ドリー「そんなことをしても無……駄?」
ミツクビには、もうドリーのことなど眼中になかった。
遂げられた復讐の余韻を、荒れ狂う足音のなかに感じていた。
ドリー「何故だッ!!何故塞がらないッ!!」
誰もが忘れていた彼女の秘めたる能力。
その爪は、その軌跡を焦がし、再生を叶わなくする焔の魔爪。
ドリーは塞げなくなった穴から霧散して行く生命力を必死でとどめようともがく。
だが、その哀れな姿は戦争の中ではあまりにも…矮小だった。
いつのまにか、アーツの剥げたその亡骸は、頭、首、胸部に真っ赤な平行線を描かれて、寸断されていた。
それを、怒濤の足音がメチャクチャにしてゆく。
肉片は、戦禍の中で無様に、そして当たり前のように、町の片隅へと蹴飛ばされ、転がっていった…。






そして、陽は沈んで行く…。