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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.36 越えて尚、あの世この世を歩むなら

ブリンクは太い蔦のドームを作り出す。
たが、空が曇っているせいか、それとも下が砂地なせいなのか、うまく成長できずにその場を覆うまでには至らず、花瓶のように小さい口を開けていた。
その中で、サクリファイスと番長は生命力を使い果たし、倒れていた。
麗もかなり消耗してはいたが、気を失うほどではなかった。
マリン「番長お姉ちゃん、消えちゃうのかな…。」
濡れた寒さにうずくまったまま、そんなことを言う。
ミツクビ「そんなネガティヴなこと言っちゃダメニャン。」
とは言ったものの、現実は目の前にあるものだ。
サクリファイスは消耗して気を失っているだけだが、番長は、僅かとはいえ超常現象を使ったせいで、脚部が半透明になり、幽霊のようになっていた。
たかが数発、しかもなるべく消耗の少ない形で撃った程度で、肉体をとどめておくことも難しくなる。
それが、目の前にあり得るはずのない現象を無理矢理に引きずり出した代価なのだ。
麗「無茶苦茶やるんなら、反動もまた無茶苦茶か。
どちらに恐ろしいと言えばいいかわからないな。」
ブリンク「ええ…。出来るなら、二度と使う機会を与えたくないものです。」
沈黙が訪れる。
灰色の空がよりいっそうドームの中を暗くする。
ミツクビ「そ、そういえば珍しいニャン、曇り空って。
こっちの世界ではずっと晴れていた気がするニャン。」
麗「言われてみればそうだな。
雨が降らなくても干ばつする恐れはないし、気にしていなかったな。」
空を見上げる。
ブリンク「雨が降るのもそう先のことではないでしょうな。」
麗「ブリンクさんには申し訳ないけど、天井がないことには心細いな。二人を抱えてでも、どこか建物に避難した方が良いな。」
ミツクビ「でも、ここ海岸ニャン。建物なんてあるのかニャン?」
麗「港町の対岸だ。そう遠くないところにこちら側の港町があるだろう。
そうだな…。灯台なんかがあれば解るんだが。」
ブリンク「しかし、灯りが点るまで待つと言うのも巧くはありませんね…。」
話をしているうちに、雨粒が砂浜を濁らせ始める。
麗「不味いな…。時間がない。」
雨粒の冷たさに、サクリファイスは意識を取り戻す。
サクリファイス「………ン」
マリン「サクリファイスお兄ちゃん!!」
サクリファイス「もっと効率的な呼び方はねぇのか…ウウン…。」
ミツクビ「ダーリン…。」
安心したいところだったが、やはり番長の容態は思わしくない。
サクリファイスもそれにすぐ気がついたようだった。
サクリファイス「ハッ…笑わせてくれる。
会ったときからずっとデカい口叩いておきながら、一番ひどいザマじゃねぇか。」
麗「お前…。」
前のめりになる麗に、小さく手を振る。
サクリファイス「まぁまぁ、そういうことじゃない。コレは、一番ヤバイ奴に使うべきだと思ってね。」
ポケットからクリスタルを取り出す。
麗「これ、あの時の…。」
サクリファイス「そうだ。やっぱり命がけで旅してるんだ。
"いざというとき"は、来てほしくなくても来るもんだ。」
サクリファイスは苦しそうに寝返りを打つと、隣に寝ている番長にクリスタルを押し当てる。
クリスタルは空っぽになった番長に吸い上げられるように、あっという間に光の粒子になって、番長の体の中へと入って行く。
そして、半透明だった番長の脚は、すっかり元通りになった。
マリン「あぁ、やったぁ…。」
ブリンク「安心するのはまだ早いですよ。
目を覚ます気配がまるでありません。
見た目を取り繕っただけで、中身は空っぽなんです。」
サクリファイスは、落ちてくる雫が番長の頬を伝って行くのを眺めた。
サクリファイス「そうか…。俺のせいで足止め食らってたのか。情けねぇな…。」
ミツクビ「そんなことないニャン。ダーリンが居なかったら、あのまま海の藻屑になってたニャン。」
サクリファイス「そうか…。」
そう返す彼の目は虚ろになってきている。
麗「やっぱり、もう少し眠らないとダメみたいだな。」
サクリファイス「悪ぃ…。」
今度は、気を失った訳ではなく普通に眠りに落ちた。
ブリンク「とりあえず端に寄せましょう。 風が強くならなければ、濡れることはありません。」
言われるがままに、二人を中心から引きずり出す。
麗「もう少しくらいなら凌げそうだな。」
ブリンクとマリンはサクリファイスを、麗とミツクビは番長をそばにおいていた。
蔦にもたれ掛かると、伝ってきた水滴で背中が濡れてしまうため、膝の上に寝せる他なかなった。
雨がさほど強くないお陰で、蔦の過ぎ間からくる雨はそう多くはなかった。
ミツクビ「こうやって見ると、番長ちゃんって結構美人だニャン。」
麗「そうか?女々しい男みたいだと思うんだけど。」
ミツクビ「え~。団長は見る目ないニャー。」
麗「髪を切ったら少年にしか見えないと思うぞ。」
ミツクビ「でもお尻ぷりぷりだニャン。」
麗「スタイルの問題だったらお前の方がマシだろ。
持ち上げてみればわかるけど、こいつ結構筋肉ついてるぞ。」
ミツクビ「努力家なんだニャ。」
麗「あぁ。仲間のためなら、単身敵地に赴くような奴だからな…。
自信の鍛練は怠らなかったんだろう。」
サクリファイス「…そのこと…なんだが。」
半目でこちらを見ながら話しかけてくる。
麗「おい、無理するなって。
お前にはなんの治療もしてないじゃないか。」
サクリファイス「そう、治療のことだけど、番長には言わないであげてやれ。
クリスタルを持ち出すのに一番反対してたのはこいつだ。
それが皮肉にも、一番必要だったのは自分だったなんて気づいたら、きっとこいつのプライドが許さないだろう。」
麗「いや、これは仕方ないだろう。」
サクリファイス「何だかんだ葛藤して混乱しつつも、本当は人を殺したりすることを泣いて嫌がるような奴なんだ。
こいつは、自分が一番やりたくないことだから、誰かに押し付けたくないんだよ。
一緒に旅をしてくれるって約束してくれた俺たちみたいな仲間にはなおのこと。
クリスタルを使いたくないのだって、自分の痛みや代価を、死んだ誰かに肩代わりしてもらうようなもんだから、本能的に嫌がったんだよ。
千代たちに出会ったときにそうだったけど、こいつはきっと、正しいと思うことに出会うほど、自分の本当の気持ちを思い出して混乱するんだ。
人を100人殺せば生きて帰られるなんて眉唾物の噂を信じて殺人マシーンになったかと思いきや、かつての仲間に…自分でない正しさにぶつかって、滅茶苦茶なこと言って…いや、あのときは千代の奴も同じだったけど…。
でも、みんなは知らないと思うけど、迷ってほしいと言われたとき、こいつは心の中で、ただの一人の少女である本当の自分の存在を思い出して、大泣きしたんだ。
それから、方針は人助けと、星の戦士のもとへ行くことだけに減ったんだ。
人殺しなんて、本当は誰もやらなくていいことなんだから、よりクリーンな、本当の自分が苦しくないことを目差し始めたんだ。」
一同は耳を疑った。
彼女の言葉の裏側も、彼女の表情の真相も、気にしたことなどなかった。
彼女は元よりよくしゃべる方だ。
言葉を投げれば、皮肉だろうがなんだろうが、何かしらの返事は帰ってくる。
だから、知らない顔などないと勝手に思っていた。
それを知るサクリファイスの語りに、合いの手をくべられる者など居なかった。
サクリファイス「…しかし、クリフォートに着いたとき、こいつはさらに混乱した。
何故って、消えてなくなることが救いになる奴がいることに気づいたんだよ。
たくさん転がっていた、死ぬことも、生きることも望めない奴もいたしな。
滑稽なことに、この世界では、本当の番長が守りたい者ほど嫌う世界だったんだ。
心清き者を道具にして、物心持たぬ者は、死んでいることもわからずに産まれるときを待っている。
俺たちの中で一番ショックだったろうな。
クリスタルになることを望むような奴らはさ、死ぬときも苦しかっただろうに、死んだあともこんな報われない時間を過ごすだなんて…。
そして今、こいつは苦しんだ人間の命で、都合よく生き長らえようとしている。
だから、このことを知ったら、今まで機械のように信じてきた目的も、少女のように抱えてきた正しさも、どちらも取りこぼしてしまうんだよ。
こいつは、出会ったときと変わりなく、ワガママで傍若無人だけど、その願いは幼くか弱いものだったんだよ。」
巡る。
歩んできた道で見てきた彼女の幾重にも重なる表情。
記憶の中、手を伸ばすほど矛盾して行っていた彼女の姿。
リアルタイムではなにも感じなかった仕草のひとつひとつがなんとも悲痛に見えてくる。
サクリファイス「こいつはやるべきことのために、誰よりも真人間である自分を封じ込めて、残酷なマシーンを演じているんだ。
きっと生前も、今も、そしてこらからも、だ。」
あまりに罪だ。
無知でいすぎた自分達がこれほどまでに罪だ。
思わず歯を食い縛る。
サクリファイス「だから、こいつがわからないように、せめて理想を傷物にしてしまわないように、彼女だけをヒロインでいさせてやりたいんだ。
こいつの理想は、こいつが歩む道でしか描けないんだから、一度優しい言葉をかけてやめさせたりなんかしたら、再び歩くのが辛くなって、二度と歩き出さなくなっちまう。
そんなことになったら、今までこいつが頑張って、迷って、突き進んできた道は何だったんだよ…。
こいつが、俺たちに見えない苦しみを背負っていたとしたら、見栄を張った手で背中を支えてやろうなんて大層なことはせずに、見えない様な手で、なにもなかったかのように、そよ風のようにそっと押してやるのがいいとは思わないか…?」
途中から涙声になっていた彼の気持ちの吐露を、なにも言わずに聞いていた。
麗も、マリンも、ブリンクも、ミツクビも、番長の涙なんて知らなかった。
サクリファイスがそれを野暮ったく話さなかったのは、自分達が戦の支え以上になることが彼女にとって邪魔になるのではないかと考えた結果なのだろう。
麗「そうだな…。
番長自信が納得する道を歩んで、その結末を迎えるまでは黙っておいてやるか…。」
ブリンク「いやはや、若者と思って軽率に足を突っ込んだ自らが不甲斐ないですな。」
サクリファイス「助かる…。じゃあ…そゆこと
…で…。」
また彼が眠りにつく頃には、雨は弱まり、鉛色の空は沈黙していた。
ミツクビは、番長を抱きしめ、頬を寄せる。
ミツクビ「…ニャニャ?番長ちゃんって、団長と似たような匂いがするニャン。」
麗「あぁ、なんか、実家みたいな匂いがするな。」
ミツクビ「近くにいればいるほど、番長ちゃんは人だニャ~。」
不意に冷たい風が吹いて、マリンは思わず身震いした。