DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.35 アンカー&アーム

一閃。
翻る太刀筋は夢か幻かと空を薙いだ。
番長の胸元のボタンが真っ二つになり、小さな音を立てる。
アリス「気に入らないねぇ。
…いや、一撫でで御せぬもまた優雅か。」
それは蝶か鳥か、はたまた鮪や烏賊か。
余りの速さにその剣閃は風の筋を撫でる様だ。
アリス「いとおしさゆえに、ついついちからが抜けてしまったが…次は無いぞ?」
遊ぶように、弄ぶように剣を振るう。
番長(船を沈めれば何とかなるかと思ったが…この水瓶にくりぬかれた海が奴のものなのだから、下手に力業で行ったところで勝てやしないか…。)
牽制で、弾丸をいくつか放つ。
しかし、アリスはそれをいとも簡単に、斬撃で弾いてみせる。
アリス「言ったろう?次はないと。」
身を屈め、次の攻撃をする最善の体制になる。
アリス「戦いの後の事を心配するような戦いは詰まらん。いや、楽しみが無くなるのを恐れることはアタシにもあるが、それとは訳が違う。全力でない戦闘をする貴女の姿はさながら、原石さ。見つけたときはそりゃ嬉しいが、磨いてやらなきゃ美しさが台無しよぉ。」
不適な笑みを続ける彼女は、不意によそ見をする。
それは、ピラニアと戦い続ける他のメンバーの方だ。
アリス「おっと、御一行様も後がないんだったな。」
アリスはそれ以上の事をすることもなく、視線をこちらへ戻した。
その目には、先程よりも残忍で猟奇的な、イカれた感情が顕になっていた。
アリス「次の剣を、受ける覚悟はあるか?」
アリスは先程までと同じように、重そうなドレスにそぐわないスピードで距離を詰める。
放たれる黒銀の歪曲した線。
その線は止められた。
カトラスはデッキに切れ目を入れた。
そう、番長は"素手で"剣を叩き落としたのだ。
アリス「いいね…。貴女、いい目になったよ…。」
両者、下手に動けなくなった。
剣を抜けば、また拳に剣を捕えられる。
拳を振るえば、その間を縫い、腕を切り落とされる。
後だしジャンケンだった。
アリス「それが限界か…?いや、もう少しビックリ出来そうだな…。」
膠着状態にイニシアチブを取ったのは、やはりアリスの方だ。
剣を抜く瞬間、素早く盾を突き出す。
同時に飛び上がり、反射的に繰り出された番長の拳を盾で受け、その勢いで後退する。
番長は、すぐさま間合いを詰める。
カトラスは袈裟を薙いだが、それを屈んでかわし、サマーソルトキックが炸裂した。
そう、炸裂したのだ。
正確に言えば、炸裂しているのは現象力だ。
打撃が繰り出される度に、青白や薄紫の光が散る。
番長(かなりムチャはしているが…体内への超常現象なら、数発行けそうだ…。)
超常現象による肉体強化で、番長は限界を超えた状態を作っていた。
ほぼ直上空に吹き飛んだアリスがデッキに落ちる。
アリス「フフフ…ハハハハ。
そうだ!!そうでなくちゃ詰まらない!!
さぁ、その限界の限界を見せてみろ!!」
斬撃は格闘を覚えて道筋を替える。
より、捕って止められない位置へ。
拳はそれを捌く。
だが、腹部には浅く切り傷を入れられてしまった。
アリス「お互い出しつくしたか。」
アリスより頬を釣り上げ、愉快な顔になる。
アリス「そうサ!!この極限の戦いが一番濡れるんだぜぇぇぇえええ!!」
カトラスはまた歪に翻る。
2つの拳はそれを挟んだ。
番長「これはジャパニーズ白刃取りだ。ファーストアースの財宝だぜ。」
アリス「面白いものを見つけたな。」
番長カトラスから拳を離す。
その刹那、気がつく前の速さで足はアリスの腹部を薙ぐ。
アリスはうめくこともできずに吹き飛んで行く。
番長「終わった…んだな。」
アリスは虹のようにアーチを描いて飛んで行く。
アリス「なかなかに美麗な娘だったよ…。だが、やはり生前の世界の海に、心残りかな…。」
コバルトブルーに沈んで行く彼女は、その深い色の中で、その存在を曖昧にしていった。
それに比例して、水面は少しずつ元に戻り始めていた。

番長はアリスの最期…こちらからみればピラニアが消滅するまでを見守った。
サクリファイス「ハァ…ハァ…終わっ…ん?」
見ると、水位は元に戻っているのに、船は沈み続けている。
麗「しまった!!コッパに船のアーツ所有者が始末されたかッ!!」
マリン「上からも崩壊してるよ!!」
番長「何とかならねぇか!!」
サクリファイス「何とかしてみるぜッ!!」
船が割れ始めた隙間に鎌を差し込んで、水を固め始める。
サクリファイス「集まれッ!!」
固めた水で小さい船を作り上げた。
船が崩壊し尽くす寸前に全員が乗り込む。
ミツクビ「狭すぎニャン!!」
麗「いや、やるべき事があるから、丁度良い!!」
サクリファイス「なんだ!!?これでもわりと無理してるぞッ!!」
麗「"帆"を張れ!!」
サクリファイス「出来るかそんなもん!!」
麗「擬きでいい!!何とかしろ!!」
サクリファイス「しろと言われたら仕方ねぇ!!」
サクリファイスは帆に似せた看板状の塊を作る。
麗「ナイスだ相棒!!」
麗はそこめがけてありったけの暴風を吹き付ける。
ブリンク「船型ならいけると…。考えましたね。ですが…。」
マリン「風ばっかり強いけど、なんか進んでる気がしないよ!!」
麗「っかしぃなぁ~…。」
遠方にある大陸はいっこうに近づいている気配がない。
番長「じゃあ、風のレールだ。」
麗「いやいや、アレは一人用だぜ?」
番長「船そのものを乗せればなんなかなるはずだ。」
麗「一度浮かせなくちゃ駄目だ。」
番長はため息をつくと、水面を覗き込んだ。
番長「最期の一発だ…。」
麗「…は?」
番長「タイミング、逃すなよ!!」
番長は振りかぶると、紫色の燐光と共に、その拳を水面に打ち付ける。
すると、巨大な気泡が船を持ち上げる。
気泡が弾けた瞬間、船は宙に放り出される。
麗「今か!!」
さっきまでの鈍さが嘘のように、モーターボードのようなスピードで水の船は進む。
麗「ッシャァァァアアア!!」
ミツクビ「降りられそうな岸があるニャン!!」
サクリファイス「そ…か…。」
サクリファイスは朦朧とし始める。
ブリンク「大丈夫ですか?気を確かに!!」
麗「オラァァァ!!間に合えぇぇぇぇええ!!」
水の船が解けるのと同時に、一同は海岸に放り出された。