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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.34 ワンダーランド・イン・シー

全員が船に登り終えると、待ってましたと言わんばかりに、錨が上がる。
誰も甲板に出ていないはずなのに、ひとりでに船は動いている。
サクリファイス「船自体がアーツってことか?」
ブリンク「でしょうな。…ですが、すぐに危害を加えて来ないのが不気味ですな。」
その台詞が指すように、帆はゆっくりと風を取り込んで膨らんでゆき、それに準じて船は前進する。
麗「まぁ、乗り物に乗って襲われなかったパターンは無いからな。油断するなよ。」
番長「当然だ。」

そう言った後も、しばらく船はゆらゆらと進む。
その間、ずっとミツクビは水面を眺めていた。
涙は置いて行けても、悲しみまではおいては行けぬから、なおさらクライネの象徴でもある水を眺めていたくなったのだ。
ミツクビ(この世界で死んでしまったら、存在として死ぬとされているニャン。
でも、生前の世界では、死ぬまでこの世界が有ることを知らなかったニャン。
なら、塔のように、何層にも何層にも世界は続いているんじゃないかニャン。)
見えない海の底を見ながら、淡い思いを浮かべる。
ミツクビ(また似たような世界があったなら、今度は間違っても、だれも幸せにならない結末を迎えてほしくはないニャン…。)
遠い所へ行ってしまった彼女に思いを馳せていると、少し向こうの水面は不自然な挙動を見せる。
…水面が持ち上がって段差ができる。
ミツクビは目を擦って確認するが、見間違いなどではない。
ミツクビ「みんな!!海の様子がおかしいニャン!!」
船の上の貨物やら船室に続く階段の入り口やらに気を張っていた一同は、押し黙っていたのにいきなり大声を上げたミツクビに驚く。
番長「どうしたっ!!?」
全員が船の端の手すりから身を乗り出して、とんでもない光景を眺めていた。
サクリファイス「なんだよ…これ。」
水平線は真円のラインにすり替わる。
サクリファイス「なんなんだよっ!!この"規模"はっ!!」
叫び出すのも無理はない。
マリン「バケツ…金魚鉢…壺……違う、水瓶(みずがめ)だ。」
???「その通り。アタシたちはね、宝を隠すために、水瓶を使ったのさ。誰も、日々使っている水瓶の石の下に宝が沈めてあるなんて考えないだろう?」
階段のある部屋のドアを開けて、派手な女は姿を見せた。
見事なまでのパイレーツドレス。
いかにもな女海賊そのものであった。
女海賊「グラスを飲み干せば黄金顕る、ってね。」
上機嫌に鼻を鳴らす。
番長「お前がこの船と水瓶を用意したのか?」
女海賊「"お前"、とは随分ご挨拶だな。
これでも美しく在るつもりなのだぞ?」
左目を覆う眼帯を触りながら言う。
番長「質問の答えになっていないな。」
女海賊「はいはい。水瓶を用意したのはアタシ。
でも、船を用意した人は残念ながらまだ下の部屋にいる。」
麗「流石にここまで来たら相手が一人って訳にも行かないか。」
女海賊「いや、そうではない。彼は本当に船を出しているだけだ。こちらは一人と変わりない。
船にへんぴな仕掛けなんてあったらアタシが困る。」
麗「それはそれはありがたいことで。」
女海賊「ところで、アンタたちは自分がおかれている立場がわかっているのかな?」
ブリンク「もうすでに、貴女のテリトリーの中だ…。
と、おっしゃいたいのでしょう?」
女海賊「その通りだぜ!!聞き分けのいいお爺さんよぉ!!」
その直後、水瓶の中の水は渦潮を描き始める。
サクリファイス「うおっ、何だ?」
船には遠心力が掛かり、ふんばらざらるを得なくなってしまった。
そこへ、デフォルメされたピラニアのような魚の群れが飛びかかってくる。
麗「マジかっ!!?こいつは思ったより酷いぜ!!」
一同は、魚の相手をせざるを得なくなってしまう。
サクリファイス「ただでさえバランス取りにくいってのにっ!!」
銘々の武器で魚を凪ぎ払う。
だが、
番長(――――何故かこっちにだけ来ない…?)
魚の群れは綺麗に番長だけを避けて襲ってくる。
番長は女海賊を振り向く。
女海賊「ふふふ、可愛いぞ小娘。
美麗な乙女も賊な我らから見てすれば崇高な財宝よぉ。
やはり、金銀・ロマン・美女!!海にはこれらの財宝たるものが欠かせないな。」
番長「気に入られても嬉しくないがな。」
女海賊「性格は詰まらんなぁ。ロマンやロマンスがいかんせん足りないぞ。」
番長「生き返ってから補充するだけさ。」
女海賊「まぁ愛でるだけならどちらでもいいことか。
アタシはね、貴女(おまえ)と危険なランデヴーがしたい。」
そう言うと、女海賊は右手には錨がかたどられたカトラスを、
左手にはクレーンアームがかたどられた盾のアーツを出す。
女海賊「貴女、名をなんと言う?」
番長「笛音番長だ。名前など、識別記号でしか無いがな。」
女海賊「では、礼儀だ、こちらも名乗ろうか。
右手には団結する矛!!左手には金銀財宝の煌めき!!
見えざる瞳は愛を映し!!名声轟け腹太鼓!!
我こそが"大渦のアリス"!!とくとその目に焼き付けよ!!」
口上を言い終えると満足げに笑った。
番長「それがやりたかっただけか?」
あくまでも冷ややかに返す番長。
アリス「いやいや申し訳ない。
アタシは何でも楽しまなければ損だと思う性分でね。
酒を飲むのも、飯を食うのも、財宝を探すのも、美女を愛でるのも、猛者と戦に興じるのもなぁ!!」
デッキは叩きつけられたチカラの衝撃に唸りを上げる。
その木造の声が示すように、あり得ないスピードでアリスは番長に飛びかかる。
番長「…ッ!!?」
咄嗟に銃で振り払おうとするも、左肩から右腰まで、袈裟斬りが浅く肌を抉りとる。
番長「速いッ!!?」
次の一撃が来る前に、剣の側面めがけて発砲し、なんとかその場を退ける。
互いに飛び退き、距離が開く。
アリス「ヒューッ。すばらしい。
まだ右手がビリビリしやがる。」
言葉とは裏腹に、表情は余裕そのものだ。
番長「自分に有利な環境を作った上に、高速の剣技で圧倒すると言うわけか。
テメーの方がよっぽど物騒だ。」
アリス「なんだよ。"貴女のチカラはそんなもんじゃないだろう"?」
番長「…!!?
いや、何を根拠に言っている。
今の一撃で、私はわりとこたえているが?」
アリス「嘘をつけ…!!貴女の手加減の正体、必ず見破ってやる!!
全力で来い!!笛音番長ァァァァ!!」
アリスはまた、デッキを蹴った。