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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.33 涙風よさらば

サクリファイス「うおぁぁぉぁぁぉあああ!!」
釣り下がる水柱を失った彼はものすごいスピードで落下して行く。
それを慌てて麗のアーツの風で受け止める。
サクリファイス「確実に死んだと思った…。」
麗「安心しろ、俺たちはもう死んでる。」

サクリファイス「…そうか、そんなことがあったのか。」
上空から見ていた彼に、地上起きたことを伝えた。
あれからミツクビが一言も喋ろうとしない理由も、理解した。
サクリファイス「一緒に生き返る方法を探してくれる…か。あんな目に逢いながら、生き返りたい理由なんてあったのかね。」
番長「目的云々より、誰かに優しくされたことで依存してしまったのだろう。」
彼らが話しているうちに、ブリンクは埋葬を済ませたようだった。
麗「すまない。嫌な仕事ばかり押し付けてしまっているな。」
ブリンク「いいのです。老いぼれに出来るのはこれくらいですから…。」
麗「ハハハ、この世界での外見なんて当てにならないって知ってるくせに。」
不器用に笑う姿は、どことなくぎこちなさを掻き消せずにいた。
ミツクビは虚ろな目で粗末な墓を見つめている。
いつも陽気な彼女がここまでダメージを受けているのを見ると、見ているこっちまでこころが痛くなる。
マリンはなにも言わずにミツクビの手を握る。
ミツクビもまた、言葉もなく、唇を震わせ、とめどなく溢れ始めた涙を流れるがままにしていた。
サクリファイスが寄ろうとするが、番長はそれを引き留めた。
番長「やめておけ。彼女はただ傷心したために泣いているんじゃない。前に進むために、ここに涙を置いていっているんだ。」
サクリファイスは足に込めた力を抜いて、棒立ちに戻った。
サクリファイス「なぁ、コッパは確かに悪い奴だ。だが、それを咎められるほど俺たちは正しいか?」
不意に、そう問いかける。
番長は、無駄に青い空を見上げ、
番長「わからないな。少なくとも、私たちは正義のヒーローじゃないだろう。生前はこういうのをダークヒーローと呼ぶものだと思ってよく人を手にかけてきた。だけど、千代みたいな本物の正義のヒーローを見ちゃうとさ、ヒーローってつけることでダークの部分から目を背けるための、ただの言い訳でしかないって知った。
だから、正しさを叫ぶだけの正義もなければ、間違った人間に与するほど悪でもない。それだけしかわからないんだ。
ただ、自分が正しいかわからないからって、コッパみたいなやつを憎んじゃいけないなんて、そんなことはないだろう。
私たちが、私のワガママで正しさを失っていたとしても、コッパみたいなやつを恨むのは、きっと誰だって同じさ。」
麗「要は、悪い奴をとっちめる時くらいは自分の事は棚上げしておけってことだ。」
サクリファイス「ひでぇ言い回しだな。」
麗「自分が誰かにとって悪ではないか神経質に調べ回ってたらキリがない。人として抱えられるキャパシティだけで体裁を繕っていかなけりゃ、千代の奴みたいに破綻して暴走してしまうんだよ。」
訝しげな顔をする番長に対して、千代の悪口ではない、とサインを送る。
麗「人間は生きているだけで罪だと言われる。なら、死んでるときくらい、それらに目を瞑って貰ってもいいだろ。元が虫や猫のお前らなら尚更だ。」
サクリファイスは番長と同じように空を見上げた。
サクリファイス「ま、結局前に進むしか能がないのな。俺たちは。」
番長「違いない。」
そう呟いた両肩に、暖かい手が置かれる。
ミツクビ「おまたせだニャン。」
振り向くと、気丈に振る舞えるようにはなっていたようだ。
目の回りは赤く痛々しいが、それは彼女なりに自分と戦って行く証なのだから、野暮ったくとやかく言うのは止めることにした。
番長「もういいのか?」
ミツクビは頷く。
その傍ら、ブリンクは申し訳なさそうに、
ブリンク「因みに、私はもう一晩ここで過ごすことを提案したいのですが、よろしいでしょうか?」
サクリファイス「なんでだ?すぐにでも…。」
行く先を見たとき、納得せざるを得なかった。
サクリファイス「波は高め、浸いている船も無し…か。」
ブリンク「そういうことです。手配には尽力致しますが、やはり1日ほど猶予はほしいかと。」
麗「まぁ、無理に出て暗くなってもしょうがないしな。それにまぁ、休む猶予も出来たわけだ。」
クタクタになっているマリンの頭を撫でながら、優しくそう言った。

マリン「…。」
ブリンク「…。」
麗「…。」
番長「お前のせいだな。」
サクリファイス「なんでだよ!!仕方なかっただろ!!」
何が起きているのは把握するには、あれからさほど時間はかからなかった。
軒並み、漁師たちは、「謎の降水によって船が沈んだ。」と嘆いていた。
あとはお察しの通りだった。
船が停泊していないのは、全て沈んでしまったからなのだ。
サクリファイス「どっちにしたって水塊がでかくなったら同じことだったじゃないか!!」
やり場のない怒りの矛先に立たされた彼は悲痛に叫ぶ。
番長「まぁ、それは多目にみるとして…。
今朝、いざ海岸に来てみれば、これか。」
揃って見上げるのは、大きな船。
しかも、明らかに海賊船である。
ミツクビ「めちゃくちゃ怪しいニャン。」
麗「狙い澄ましたように現れたな。」
マリン「…怖い。」
ブリンク「大方、コッパの差し金でしょうな。」
サクリファイス「俺が呼んだ訳じゃないからな。」
番長「よーし、お前に名誉挽回のチャンスをやろう。」
サクリファイス「人の話を聞けッ!!」
詰め寄るサクリファイスだが、もちろん番長は動じない。
番長「選択肢をやろう。ひとつは、素直に、罠だと解っていておめおめとこの海賊船に乗り込む。」
サクリファイス「嫌みな奴だぜ。」
番長「んで、ふたつめは、お前が水でボートを作って海をわたる。」
サクリファイス「出来るかそんなこと!!そんなにアーツ使い続けたら海のど真ん中で力尽きるわ!!」
番長「おや、弱気だねぇ。」
サクリファイス「冗談じゃねぇや。」
そう、捨て台詞のように吐き捨てて、海賊船へと向かう。
番長「マジで乗るのか。」
サクリファイス「元からそのつもりだった癖しやがってよ。」
そう言って、彼らは船から垂れた梯子に手をかけた。
麗「…って、お前、先にいくのか?」
番長「どうかしたか?」
麗「いや、お前スカート穿いてる自覚あるのか?」
番長「あぁ、スカートの内側に張り付けてるポケットが落ちたらごめんな。」
麗「いやいや、そうじゃなくて。」
ブリンク「番長さんのはしたない姿が見えてしまうことを心配しているのです。」
番長は呆れた顔をした。
番長「なんだ。私のパンツなんか見て嬉しいのか。よこしまな気持ちがあるなら先に行け。」
麗「いやいやいや、それだとどっちをとってもスケベ野郎みたいになるだろ。」
サクリファイス「おい!!てめぇらいつまで喋ってんだよ!!」
先に登り終えたサクリファイスから怒号が飛ぶ。
番長「虫がさざめくから先にいくぞ。」
麗「いやいやいやいや…ハァ。」
結局、麗は番長が登り終えるのを待ってから梯子に手をかけた。