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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.32 知らぬが仏言わぬが花なら尋ねるあなたはけだものか

とうとう、落ちてくる水塊は気球ほどに達し、少し押し流されるまでに強くなっていた。
この唐突な襲撃に、街の人間は混乱して右往左往している。
番長「・・・このままじゃ、いたずらに体力を消耗するだけだ!!」
麗「空路はどうだ?」
ブリンク「全員を持ち上げることが可能なら是非お願いしたいですが・・・。」
ミツクビ「ダメニャン!!団長はマリンを抱えて飛ぶ程度で精一杯だし、何より、標的は団長だニャン!!」
麗「じゃあ、俺は海の上空に行く。なるべく地上の被害を最小限にするように心がける。」
番長「わかっ――――いや、”もう”だめだ。」
頭上には、もう次の水塊が生成され始めていた。
勢いが、今までの比ではない。
あっという間に、ドームほどの大きさまで膨れ上がる。
番長「クソッ!!螺旋の弾丸で閉じ込めるか?」
麗「ダメだ!!あれは解かれるとすごい勢いで散るから逆効果だ!!俺がなんとか・・・」
サクリファイス「俺を飛ばしてくれ。」
慌てふためく一同とは裏腹、天の海を睨みつけて、冷静に呟く。
番長「考え無し・・・という訳ではなさそうだな。」
サクリファイス「水は俺の専門だ。任せろ。」
ミツクビ「でもダーリン・・・あの量は・・・」
サクリファイス「大丈夫だ。少なくとも死にゃあしねぇんだから。」
心なしか、水はもう落ち始めている気がする。
大きすぎて、どうも距離が掴めない。
サクリファイス「時間がねぇぞ!!団長!!」
麗「・・・行って来い!!」
一陣の風が、サクリファイスを持ち上げる。
サクリファイス「意外とバランス取りにくいなこれ!!」
麗「文句はやり遂げてからきかせやがれ!!」
ぐんぐんと水塊との距離を縮める。
サクリファイス「まったく。水で俺に喧嘩を売ろうなんざ、よくもやるもんだぜ。」
彼は、アーツを水塊に突き立てる。
水塊は凍るように硬化してゆく。
いや、硬化しているのは表面だけだ。
巨大な水風船を作るだけと言ったら、そうではない。
固まった水塊から、海に向かっていくつもの触手のようなものが伸びてゆき、先端は平たく丸くなる。
そう、彼は水塊を利用し、巨大なジョウロを作ったのだ。
シャワーヘッド状にしたのは、波が立たないようにする彼なりの配慮だ。
番長「やってくれるじゃねぇか・・・。」
海には綺麗な虹が架かる。
それをよそに、水ジョウロにぶら下がったサクリファイスは叫ぶ。
サクリファイス「いたぞ!!術者は足湯がある建物の近くだ!!
コッパらしき影も見つけたが、消えちまった!!
だが、逆にそれができるのは奴ぐらいしかいない!!
この襲撃は奴によるもので間違いない!!」
その声を聞くやいなや、街の中を全力疾走して指定された場所へと向かう。
番長「・・・いたぞ!!あそこだ!!」
てっきり、敵も逃げ出すものかと思っていたが、その少女は膝が笑って動けないようだった。
クライネ「来ないで・・・来るなぁ!!」
今にも倒れそうな足取りで、傘を構える。
番長「あの様子だと、接近戦がてんで弱いのか。」
一同は走るのをやめ、じりじりと彼女に歩み寄る。
クライネ「来るなっ!!来るなっ!!お前らさえ素直に死んでいれば、コッパ様はまた私を必要としてくれるんだ!!」
傘のアーツを振り回す。
無情にも、空を切るのみなのだが。
番長「やめろよな・・・その言い方・・・。」
クライネ「うるさい!!幸せそうに仲良く暮らしてきたくせに、偉そうに指図するな!!」
番長「だから・・・その”自分が被害者前提”の口ぶりをやめろって言ってんだよ!!」
クライネ「なんだって!!?どんな生き方してきたかも知らないくせに!!」
番長「”必要としてくれるんだ”だってさ。
自分が道具扱いされていると自虐していて寒い寒い。
じゃあ言うぞ。
お前がコッパの言いなりじゃなけりゃあ、私たちが戦う必要も、お前が戦う必要もなかった。
そして、お前が受けてきた不幸をなんの関わりもなかった赤の他人が受けて、
復讐にも何にもならない、ただの八つ当たりで悲劇の繰り返しをするようなこともなかった。
そんなことをするお前は”加害者”なんだよ!!
どんな仕打ちを受けてきたかは知らねぇ。
だが、お前のしていることは、その災厄の元凶と何ら変わりないってわからないのか?
情を履き違えるな。気づいてたんだろう?お前は利用されていたんだ。
お前のことを見てくれるやつがアイツしかいなかったから、自分に嘘ついてたんだろ?
お前は一人ぼっちになるのが嫌で、あんな奴に甘んじてたんだろう?違うか?」
クライネ「・・・違う・・・だって・・・今日だけだもん・・・あんなこと言った事ないもん・・・
いっつも優しくて・・・励ましてくれて・・・・・・一緒に、生き返る方法を探そうって言ってくれた・・・。」
番長「そうか・・・。」
泣きながら訴えるクライネに対して、銃を突きつけた。
番長「頑なにコッパの奴に肩入れするなら、私は、場合によってはお前を殺さなくちゃいけなくなる。
悲劇に身を置いた人間を殺したくはないが、お前のそのチカラは・・・街を破壊しかねないチカラは、あってはならない。」
クライネ「・・・ぁ・・・ぅ・・・。」
クライネは歯をがたがたと鳴らし、俯いて、ただ泣くばかりになってしまった。
その射線の間に、意外にも、ミツクビが立つ。
番長「どうした。」
ミツクビ「番長ちゃーんは難しい話ばっかりニャン。」
ミツクビはわざとらしく、やれやれという表情を作る。
かと思うと、あろう事か、クライネに抱きついたのだ。
クライネ「なんだ、離せよぉ。」
そう言うと、ミツクビは、より強く抱きしめる。
ミツクビ「コッパは、こういうことしてくれたかニャン?」
クライネ「しないよ・・・っていうかやめろよ・・・」
ミツクビ「無理して悪ぶらなくてもいいニャ~ン♪」
頬ずりをして、じゃれ付き始めるミツクビ。
番長「・・・何してんだ?」
ミツクビ「だって、この子は好意的必要とされることがすきだニャン?なら、ミィの遊び相手になるのも、充分その範疇だニャン。」
クライネ「そんなの屁理屈だ。」
突っぱねようとするが、明らかに腕力が足りず、片手すらはがせなかった。
ミツクビ「ハニャ~?コッパにはホイホイついていったのにミィは嫌なのかニャン?」
クライネ「あの人は、ずっと優しくしてくれた。」
ミツクビ「見限ったのに?ひとりで戦わせたのに?」
クライネ「それは・・・。」
うろたえた隙に、ミツクビはマウントポジションをとる。
ミツクビ「ちょっとしくじっただけでぷーいって見捨てちゃうようなやつなら、こっちから願い下げだって思わないかニャン?」
クライネ「じゃあ、お前らを信用しろって?・・・そんな―――」
ミツクビ「コッパはマリンをさらって”星の戦士”のところまで行こうとした。
ミィたちはマリンを説得して同行してるニャン。
さ~てどっちが信用深いかニャ~ン?」
クライネ「あ・・・。」
ミツクビ「もし、信用できなくても、チヨの居るクリン・トラストとか、ミィたちの故郷のカインドに行けば、快く迎え入れてくれるニャン。」
クライネ「・・・・・・。」
こわばっていたクライネの体は、既にリラックスしていた。
ミツクビ「ここでスカウトするニャン。
さ~、ミィのおもちゃになるか、仲間になるか、選ぶが良いニャン!!
・・・どうせコッパはもうこの街には居ないニャン。帰る場所は、ないんニャよ・・・。」
クライネはまた涙を流した。
しかし今度は、悲しみの涙ではなく、安らぎと喜びの、温かい涙だった。
クライネ「じゃあ・・・仲間に――」
その言葉は最後まで続くことはなかった。
クライネ「ガァ」
クライネの顔は驚いた顔のまま硬直していた。
乗り上がっていたミツクビの腹部や太ももにはあたたかい鮮血がかかっていた。
あまり気にしてはいなかったが、クライネはチョーカーをつけていたらしい。
そのチョーカーは、ありえないほど小さく、そしてチャクラムのような薄い刃になっていた。
そう、コッパは、手下全員にこのチョーカーをつけていて、不測の事態が起きた時に、始末できるようにしていたのだ。
上空の水は、クライネの死を示すように蒸発してゆく。
それとは相反し、ミツクビの瞳からは、とめどなく涙が流れていた。
何が起こったかを、意識の全体でようやく把握した彼女は、両手の拳を握り締め、歯噛みした。
ミツクビ「・・・どこまでも卑劣な奴・・・。」
震える声で、塞き止められぬ感情が漏れ出す。
ミツクビ「絶対に許さない!!お前の終わりの日は、彼女と同じ最期を迎えると思え!!」
怒りに満ちた獣の猛りは、どこまでもどこまでも青く塗りつぶされた空にこだました。