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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.31 その青は

この街には様々な娯楽施設がある。
その中でも、一行が目当てにしていたのは、カジノもどきの集会場だ。
大層な設備がないため、主にポーカーやチンチロリンなどの簡単な道具を使って行えるゲームが主だ。
この世界では金品の価値が微妙なため、賭けるのは話のタネや王様ゲーム的な命令権などといった形のないものだ。
儲けるためにやっているわけではないから、それで不満はないし、むしろ、物を賭ける方が問題なのだ。
この世界で価値のある物品と言ったら、人そのものか、クリスタルだ。
どちらも、賭け事に使うなんて言い出した奴から人間性を疑われる。
番長「めんどくさいな…。」
いかつい男「ここで情報屋をやるんなら、博打が強くなきゃあいけねぇぜ?ヒッヒヒ…。」
番長「そうかよ。」
テーブルの向こう側、トランプをシャッフルし始める。
すると、唐突に番長はその手をはたき落とす。
いかつい男「イテェっ!!何すんだ!!」
番長はため息をつく。
番長「イカサマして勝ったって嬉しかねーだろ。」
いかつい男「な、なんの話だ。」
番長「シャッフルが不自然で遅い。先に並びを見ているな?」
いかつい男「ぐっ」
番長「うろたえたな。この勝負は不戦勝。お前の反則負けだ。」
いかつい男「けっ、いけすかねえ小娘だ。」
番長「お前もイカサマするんなら、もっと肝を鍛えな。」
いかつい男「ーーーーで、そのコッパとか言うやつ?たしか、姿が見えないように全身をおおっているとか。」
番長「そうだ。」
いかつい男「そこのガキとは違うのか?」
男は集会場の奥のテーブル、掲示板前に座っている人影を指差す。
番長「ーーーーん、特徴が若干異なるな。コッパは性別不明だが、あれは少女だ。しかも、顔がちゃんと見える。」
いかつい男「油断してるんじゃないのか?」
番長「まさか。マリンが一目見て同じだと言わないと言うことは体格が違うんだろう。」
男は困った顔になって机を指でとんとんと叩く。
番長「知っていることはそれで全てか?」
席をたとうとする番長。
いかつい男「いや、まて。その、俺の言うことをなんでも信じてくれるって言うんなら聞いてほしい。」
番長「勿体ぶるな。私たちは暇な訳じゃない。」
いかつい男「……消えたんだ。」
番長「…?すまない、声が小さくて聞き取れなかった。もう一度言ってくれ。」
いかつい男「だから、"俺の方を向いたかと思ったら消えたんだ!!"奴は。
でも、あんときに見かけた奴なら、性別不明っつう特徴が一致するからさ、ありのままに伝えただけさ。」
番長「いや、恩に着る。賭けに見合った景品だった。」
いかつい男「お、おう。」
笑われると思っていたのか、男は拍子の抜けた顔をしていた。
そのすぐあと、向こうからテーブルを強く叩く音が聞こえた。
サングラスの男「このガキっ!!クリスタルを賭けるだなんて、なに考えてんだ!!」
コッパと似たようなマントを着た少女は、席から飛び退いて、集会所を駆け抜ける。
麗「イテッ。」
麗は振り向き様にぶつかってしまう。
少女「ごご、ごめんなさい!!」
早口にそう言うと、そのまま走り去ってゆく。
麗「なんなんだ…って、あーあ…。」
少女は傘を持っていた。その傘に付いていた水滴が、服を濡らしてしまっている。
麗「はぁ…。ついてないな。」
そこへ、ミツクビが駆けつける。
ミツクビ「団長、大丈夫かニャン?」
麗「びちょびちょになっただけさ。」
その返答に、ミツクビは難しそうな顔をする。
麗「どうした?」
ミツクビ「おかしいニャン。"そとは雨が降ってなんかいないのに、濡れていた"のかニャン?」
麗「それならそもそも、どうして傘なんか…。」
麗の鼻先に、水滴が落ちたような気がした。

コッパ「遅かったじゃないか。」
クライネ「ごっ、ごめんなさい。」
低い建物の上から、コッパは声をかけてくる。
コッパ「それで?ちゃんと仕留めたのかい?」
クライネ「それが、思ったように威力が出なくて…。」
涙ぐみ、モジモジとして結果を伝える。
コッパ「使えないな。マリンを拐うせっかくのチャンスだったのに。」
クライネ「…!!」
クライネは唇を噛み締めた。
コッパがこれまで自分に怒った事などなかった。
いつも、励まして、自信が崩れないように声をかけてくれていた。
こんな冷めた表情を見たのは初めてなのだ。
クライネ「ごめんなさい…ごめんなさい…。」
コッパ「もういいよ。優れた剣を持っていても、振り方がわからないんじゃ使いようが無い。今の君はそういう状態なんだよ。」
それだけ言うと、プツリとコッパの姿が消えてしまう。
クライネ「待って…行かないで…」
視界は涙に揺れるコッパーブルーに支配される。
クライネ「う…っう…。」
彼女はただ泣き、くしゃくしゃのその顔も、視界も、意識さえも、ぐずぐずの青い絵の具に塗りつぶされてゆく感覚に支配されていた。

集会所を出るとき、麗はバケツを返したような水を浴びる。
麗「…ッ!!誰だよこんなイタズラしたのは。」
しかし、水を溜めていた器やブービーは見当たらない。
ブリンク「大丈夫ですか?」
どこから出したのか、タオルを渡される。
麗「すまない。恩に着る。」
わしわしと頭を拭く。
番長「ギャンブルに負けた腹いせかもな。」
麗「勝ちすぎた覚えしかない。ビギナーズラックかな。」
サクリファイス「うらやましいぜ。チクショウ。」
ミツクビ「全くだニャーン。ダーリン弱すぎだニャン。」
サクリファイス「るせぇ!!お前はルールを理解しろっ!!」
番長「…じゃあ、それぞれ手にいれた情報をーーーー」
そう言いかけた時、頭上から全員を覆うほどの水塊が落ちてきた。
おかげで、全員が水浸しになってしまった。
麗「度が過ぎてやがるぜっ!!」
集会所に戻って怒号を上げる麗だったが、どよめきと困惑の声しか帰ってこなかった。
サクリファイス「今のうちに名乗り出れば武力行使だけはやめてやるぜ?」
いかつい男「まてまて、ここにアーツ使いなんて居ねぇって!!」
サングラスの男「んだんだ!!いても混属性だ!!水単色なんて居ねぇって!!」
番長「ーーーーとなると」
ミツクビ「やっぱり、あの傘の女の子だニャン!!みるからにスッゴク怪しかったニャン!!」
バーテン「う、嘘だろ…?」
ドリンクカウンターにいるバーテンは天井を見上げていた。
天井は、ミシミシと音をたてていた。
ブリンク「まさか…。」
マリン「"来る"!!」
天井を引き裂いて、巨大な水塊が形を失って、集会所のありとあらゆるものを流してゆく。
番長「お前らッ!!無事か!!」
サクリファイス「背中を打ち付けたが、なんとか…。」
集会所から道へ、せせらぎのように水が流れてゆく。
麗「あの少女を探すぞ!!」
一同は頷く。

クライネ「コッパ…様…。」
彼女は、たった一人、自らを純粋に必要としてくれていたあの人の期待を裏切ってしまったという罪悪感にさいなまれていた。
クライネ「私…は…、最後まで、信じていますから、どうか…。どうか、私の事を、心の隅で信じてください…。」

コッパはまた、高台から街を見下ろす。
建物から水と人が流されるのを視線がとらえる。
コッパ「始まったか…。
まったく。彼女の能力はどうしてあんなに面倒なのかね…。
まぁ、でも、しっかり貯金してあげたぶんの成果は期待しているよ…。ふふふ。」
ーーーーそう、彼女の面倒な能力は、面倒な過去のせいなんだ。

クライネは、貴族の街に産まれた、貧民だった。
こきつかうために産まされ、育ててられいた奴隷が、彼女だった。
扱いは、容易に想像がつく。
埃にまみれ、目線はいつも床か靴の裏。
味覚なんて存在しない。
いつも、鼠も食べないようなスープと、ゴムみたいな、肉か何かも判別がつかぬものが彼女の主食だった。それも1日1食。空腹を紛らわすために、わざと湿ったバケツを積み上げて虫の住みかにして、かかったゲジゲジやハサミ虫を食べるのが習慣だった。
だが、ある日、仕えていた豪邸の主が飼っていた犬が、骨付き肉を持ち出した。
犬は構って欲しがっただけらしく、その肉はほいと放り投げてしまった。
床に落ちたものだ。よかれと思ってそっと口にした。
驚いた。
彼女は飲み込みもせずバケツに吐き捨てた。
ぎとぎととしていて、喉が渇く。
正直、まずい、といった方が正しかった。
そんなものを、貴族どもは幸せそうに食べていた。
逆に言えば、自分が普通の人間でなくされていたことを、はっきりと自覚したのだ。
その日から、彼女は復習の事だけを考えていた。
自分を人間でなくした奴等が、ただただ憎かった。
それ以外に、全うな理由など思い付かなかった。
復讐のためならなんでもした。
体を売って、より汚い仕事をした。
どれもこれも、奴等の困った顔が、苦しみに歪んだ顔が見たかったから、乗り越えた。
そして、彼女は闇商人から、たくさんの爆弾を買った。
目的は決まっている。
この家の爆破なんて生温い仕打ちで済ませるものか。
この街に隣接する山の上にはダムがある。
彼女は屋敷を抜け出し、崖をよじのぼり、ダムのちょうどヒビの入った場所に、差し込むように仕掛け、導火線に火を点けた。
ダムを決壊させれば、この街は水に呑まれる。
それが目的だった。
なんの希望もない、腐って見えるこの街を、綺麗にしてしまおうという考えだった。
クライネ(これが、私がこの生涯で感じる、最初で最後の温もりだ。)
鈍く煩い音がする。
体は浮かび、反転した世界、天井に吸い込まれてゆく水と自分。
その中で、彼女は、満たされた顔で、溺死していった。

彼女の能力は悲しみの能力。
雨の日に、傘をさせるほどの生活なら、きっと彼女は狂わなかったのだ。
心の傷が広がるほど、悲しみの濁流は溢れてゆく。
ーーー自分に唯一優しくしてくれた人に見限られる。
それが、彼女の悲劇の再来の引き金だった。