DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.30 潮風に揺蕩うコッパーブルー

番長は眉間にシワを寄せて理解し難い状況を理屈付けようとしていた。
夢の中に閉じ込められたという彼の言い分もおかしいが、まず目の前にいる麗が自分の妄想なのか、はたまた本人なのか。
その答えは、閉じ込めた主から明かされることになった。
ジェイ「あ、いたいた。」
夢の外と変わり無い屈託のない顔で、店の外から二人の方へと歩み寄る。
麗「お前がやったんだな。」
番長が、ちょっとまて、と口走る前に、
ジェイ「うん、そうだよ。」
と、悪びれることなく答えた。
番長「どうしてこんなことを・・・!!?」
慎重に、かつ気を張って、身構えながら問いかける。
ジェイ「だって、”一回寝たら話を聞かせてくれる”って言ったじゃないか。
だから、ミーニィも”時間ならいっぱいある”って答えたんだよ~?」
麗「なんだ、本当にただ語らうのを待ちきれずに、夢の中に呼び出したのか?」
ジェイ「そうだよ~。」
話が噛み合ったことがわかった少年は笑顔になる。
二人も、ホッと胸をなで下ろす。
番長「そうか。なら、私が住んでいた”オールドマシーナリータウン”の話でもしてやろうか。」
ジェイ「おぉ~。」
麗「”オールドマシーナリータウン”だと!!?」
麗はこれまでにないほどに驚きの表情を見せる。
番長「・・・ん?なんだ、知ってるのか?」
麗「・・・い、いや、なんでもない。」
と、明らかになんでもなくない顔で答えた。
ジェイ「それよりさ~、はやく話を聞かせてよ~。」
番長「そうそう急かすなよ。」
と、また麗の表情が変わる。
麗「・・・ちょっと待て。どうしてそこまで俺たちの話に期待してる?」
番長「?」
麗はこれまでの流れのスムーズさに少々懐疑心を抱いていた。
ジェイ「え?いや~、だってさ~、少し前に来た旅の人に、
”これからグループで動いている旅の人たちが来るから、その人たちなら楽しい話をしてくれるよ”
って教えてもらったんだもん。
そしたら本当にみんなが来てくれたから、お話が楽しみで楽しみでしょうがなくてさ~。」
番長「どんな奴だった?」
ジェイ「・・・う~ん、外套をまとっていて、フードを深くかぶった、正体不明の風来坊・・・って感じだったよ~。
男の人か女の人かはよくわからなかったな~。」
番長(自分たちが知らなくて、私たちのことを知っている奴らってことは・・・)
番長「麗・・・もしかして・・・。」
麗「俺も同じことを考えていた。」
ジェイ「どうかしたの?」
向き合うふたりの顔を交互に覗き比べる。
番長「なぁ、マリンは居るか?」
ジェイ「え?あの金髪の子は”いないよ”。だって”起きてる”から連れてこれなかったんだ。」
麗「頼む、どちらか一人を起こしてくれ!!お前はおそらく利用されている!!」
掴みかかりそうな勢いでジェイに迫る麗。
ジェイ「無理だよ~。そんなに細かい出し入れはできないよ~。」
番長「じゃあ、一旦全員の起こしてくれないか!!?」
ジェイ「えぇ~、やだよ~。それに・・・」
彼はつまらなさそうな顔で椅子に腰掛けて言う。
ジェイ「ミーニィと合流しないと、どちらにしても不可能なんだ~。」

マリン「・・・ん。」
気が付けば雑魚寝している仲間の傍らに居た。
見知らぬ少年少女がベッドに寝ているのも確認した。
マリン(着いたんだ・・・港町。)
小さくあくびをして、ボケた頭の霞を払う。
なんだか急に喉が渇いたのを感じた。
それだけではない。
なにか、見えぬ緊張感がピアノ線のように張り巡らされているような気がする。
だが、そんな得体の知れぬものよりも、喉に迫るヒリヒリとした感触に耐えかね、立ち上がろうとした。
それを遮るように、廊下から足音が聞こえてくる。
木造の床を、堂々と土足で上がる、あの音だ。
マリンは急に胸の奥に締めつけらるような痛みを感じた。
乱暴に打ち付けられたあの時のものとは違うものの、明らかに仲間のものではないゴツゴツとしたその音は、
彼女に死の恐怖と平和の崩壊を暗示させた。
干からびた喉に、ざらついた唾液を通す。
足音はこの部屋の前で止まり、静かにドアを開く。
そこには、フード付きのマントを来た人間が立っていた。
マントによって身体的特徴が消えすぎていて、背格好以外の特徴がわからない。
男か、女かすらもわからなかった。
???「ふふふ。君が、マリン・クイールだね。
起きていたとは計算外だったよ。」
中性的な声で話しかけてくる相手。
名指しされたということはどういうことなのか、彼女には充分に理解できている。
???「さあおいで。痛くはしないから。
なに、行き着く先は”星の戦士”のところなのだろう?ならば、守ってくれる人間が変わるだけじゃないか。」
マリン(痛くはしないから、か。
きっと相手は私の能力のことを知っている。だから、正確には”痛くはできないから”なんだろうなぁ・・・。)
マリン「嫌だ。」
静まり返ったその部屋で、小さくもはっきりと、そう答えた。
???「君には、私の正体がわからないかい?」
相手は拒絶されたことに逆上することも動揺することもなく、堂々とそう続ける。
???「君たちがついさっきまで戦っていた”蜃気楼のサキュー”を動かしていたのは私だよ。」
マリン「コッパ・・・!!?」
コッパと呼ばれた相手は頷く素振りを見せる。
コッパ「そうだよ。直々に迎えに来てあげたんだから、もう少し柔らかい顔をしてくれてもいいのに。」
マリン「・・・・・・。」
マリンは、怒りと恐怖と驚きが綯交ぜになって口ごもる。
コッパ「私はあのような部下をいくつか抱えていてね。
君がどれだけ優遇されているか、わかるだろう?」
マリンは俯いてしまう。
コッパ「私には優秀な部下がいて、そして、私がいる。
さあゆこう。みすぼらしい旅人ごっことはもうおさらばだ。」
マリンはその発言に対して歯を思い切り食いしばった。
恐怖が灼かれ、怒りが熱を帯びた。
マリン「みんなは・・・番長お姉ちゃんは、あなたみたいな人から私を守るためにここにいる・・・。
そんなみんなを貶すことなんて許さない!!」
コッパ「大口を叩いたな?選択権など排除してやったことを知っておきながら―――」
コッパはマリンのか細い手を掴みにゆこうと踏み出す。
そこに立ち上がる影があった。
番長「・・・・・・・・・。」
銃口は既にコッパの頭を捉えている。
コッパは身を翻すが、弾丸が走ることはなかった。
コッパ「なんだ・・・コイツ・・・・・・寝ているぞ?」
番長は瞳を閉じたままだった。
立ち上がり、銃を構えているのに、寝息を立てている。
コッパ「ふふふ・・・ハッタリか。だが、これ以上近づけば次は無い・・・といったところか。」
コッパは妙にあっさりと背中を見せる。
マリンのは『待て!!』と喉まで出かかったが、今はそのままにしたほうが安全だと、乾いた息だけが漏れ出した。
コッパが去ったあと、番長は糸が切れたようにぐしゃりと崩れ落ちた。

コッパ(―――やはり、保険としてクライネを配置しておいて正解だった。)
街を一望できる崖の上で、コッパはひとり佇んでいた。
コッパ(あとはスイッチを入れに行くだけになっているし、あんな小さなことをしくじるはずがないだろう。
そうなれば、この街ごと奴らを葬り、マリンだけをアリスに捕縛させればいい。)
コッパは、クライネが”最後の準備”を終えることを待ちぼうけていた。

番長「・・・・・・・・・・・・・・・!!マリンッ!!無事か!!」
ようやく夢の中でミーニィとの合流を果たした一同は飛び起きた。
マリン「・・・うん。ひどい汗だね。」
麗「よかった・・・。」
ブリンク「・・・一時はどうなることかと思いました。」
ミツクビ「なにかされなかったかニャン?はれんちなこととか!!?」
マリン「コッパが来た・・・。」
サクリファイス「なんだと!!どういうやつだった!!?どうやって乗り切った!!?」
動揺して矢継ぎ早に質問を投げかける。
マリン「マントで身を覆っているやつだった・・・それで、番長お姉ちゃんが守ってくれた。」
番長「私が・・・?」
麗「どうやって・・・?」
マリン「それはね・・・ナイショ。」
サクリファイス「ハァ~?なんだよそれ・・・。」
ジェイ「なんだか話聞けなくても面白かった気がする~。」
ミーニィ「する~。」
サクリファイス「お前らな~笑い事じゃねぇんだぞ。」
ミツクビ「まぁまぁ、いいじゃニャいダーリ~ン。結果オーライニャン!!」
サクリファイス「お前はもっと緊張感を持て。」
ブリンク「しかし、またろくに休むことができませんでしたねぇ。」
麗「なに、もうしばらく休みながら、話を聞かせてやるのもいいだろうよ。」
ジェイ「まじで!!いいの!!?」
番長「いいのか?子供の相手なんてしてて。」
麗「体だけじゃなくて、心の休息だって必要だろうよ、全員。」
そう言って、彼はベッドに腰を下ろした。