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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.29 潮騒は永久の眠りにつく子守唄を歌う

一晩中歩き通したが、幸か不幸か、サキューの張っていた罠にあらゆる人間が引っかかってしまっていたため、
こんなに見晴らしの良い平原だというのに、行き違うものの一人もいなかった。
逆に言うと、森にはたくさんの迷子がいた。
だが、大抵はこっちを見るなり逃げてしまうような平凡な人間ばかりで、意に介すどうこうの問題ではなかった。
大所帯になったほうが危険なため、やむなく後を追わず、そのまま抜けてきた次第だった。

番長「本当に近づいているのか?」
海が見えるようにはなったものの、依然として街のような場所は見当たらない。
サクリファイス「バカ言え。もうかなり近づいてるぞ?」
ミツクビ「かなりって言ったってもう夜が明けちゃうニャン。」
かぁ、と気だるそうなあくびをする。
マリンは、能力を行使した疲れもあってか、ブリンクにお姫様だっこされて眠っている。
サクリファイス「・・・ほら、煙が見えないか?そろそろ肉眼でも見えると思ったんだが・・・。」
麗「・・・ん、まさか。」
サクリファイス「そうだ。ここから先は崖になってる。
んで、削り取られた崖に、街がある。」
陸の端に近づくにつれ、船が数隻見え、伸びる桟橋も見て取れる。
番長「・・・っと、こいつは驚いた。」
見下ろすと、まるでコロシアムを真っ二つに切り裂いたような異様な風景が広がっていた。
崖には段を作るように歩道が敷かれていて、しっかり住居も構えられている。
ここが、漣立つ港町 ホーム・オブ・ホープ。
殺気が薄く、活気にあふれる潮風の心地よい街だ。
麗「なるほど、これだけ平和なら外に出ることも無いな。
どおりで平原で行き交う人がいないわけだ。」
カインドに比べたら少ないものの、妖精もちらほら人に奉仕活動をしているのが見える。
番長「今度こそ、しっかり休めそうな街だな。」
サクリファイス「幻術はもう懲り懲りだぜ。」

少年「珍しー!!よその人だー!!」
少女「ほんとだー。」
一行に二人の子供が駆け寄る。
ブリンク「・・・?港町なのに来客が珍しいのですか?」
少年「うん!!向こう側の港がいっつも天気悪いんだって~。」
少女「この世界で雨が降るなんてびっくりだよねー。」
少年「だから、船はいっつも海底の調査に使われてるんだ~。
強いて言えば漁業?妖精さんがやってくれるからやる必要性はないんだけど、もの好きなおじさんもいるんだぜ~。」
少女「ねーねー、最近新しいことがなくて飽きたから外の話聞かせてー。」
少年「いいなそれ~。聞かせて聞かせて~。」
ブリンク「ほっほっほ。私の生きていた頃の武勇伝でも聞きますかな?」
少年「おっしゃきた!!」
ブリンク「その代わり、ここらでおすすめの宿を紹介してくださいませんか?」
少年「そんなこと言わなくたって、うちでゆっくりしていきなよ、おじいさん。」
ブリンク「おやおや、では、お言葉に甘えて。」
少女「わくわくさせてね、約束よー。」
少年少女に引かれて歩いていくブリンクを追って歩き出す一行、それを、番長は立ち止まって見ていた。
麗「・・・?どうした?置いてくぞ?」
番長「あぁ、いや。すまない。少し感傷に浸っていてな。」
麗「・・・ああ。あいつらも、マリンみたいなめにあったんだろうってことだろ?」
番長「あぁ。どうしようもないことは分かっていても、やるせなくてな。」
少ないとは言えど、幼くして亡くなった命は無いわけではない。
確たる証拠が息づく光景に、番長は千代の追っていた理想の遠さを知った。
番長「守るために救われない命と、守ったがために救われない命・・・か。」

家に着くと、夜通し歩いた疲れからか、ひどい睡魔に襲われた。
サクリファイス「なぁ・・・話は一回寝てからでいいか?」
少年「いいよ~。」
少女「時間はいっぱいあるからー。」
快く奥の部屋へと一行を案内する。
なんの変哲もない家、なんの変哲もない寝室。
ベッドの数もふたり分しかなく、押し入れにしまっていた毛布を引っ張り出してくれていた。
少年「雑魚寝になっちゃうのはごめんね~。」
ミツクビ「え~、じゃあミィは女の子の方と一緒に寝るニャン!!お名前なんていうニャン?」
少女「ミーニィ・・・。」
少年「で、僕がジェイ。」
ミツクビ「ニャニャ?ジェイ君はミィと寝たいのかニャン?おませさんだニャ~。」
麗「いいから、わがまま言わずにお前も床で寝るんだよ。」
ミツクビ「えぇ~。」
番長「寝そべったらどこでも眠れるだろお前は。」
ミツクビ「そんニャ~・・・。」
ブリンク「あまり騒いだら、マリンさんが起きます。もう休みましょう。」
一同は川の字になって眠りについた。

番長「・・・?」
床が妙に冷たい。
番長「・・・・・・?」
風が吹いている。
番長「・・・・・・・・・!!?」
瞼を開くと、彼女はひとりで見知らぬ街の中に倒れていた。
米国のウォールストリートを思わせる、コンクリートと摩天楼。
行き交うトラックやタクシー。
公園では子供がおもちゃの銃で遊んでいる。
番長(夢の中・・・か。)
立ち上がり、辺りを見渡す。
番長(本当に見たことがない場所だ。オールドマシーナリータウンのどこにもこんな場所は見たことがない。
ファーストアースの風景なのだろうか・・・?)
街を進んでみる。
番長(しっかし夢にしてはリアルさが半端じゃないな・・・。)
安い映画で見たような、迫真の景色。
番長(ドラマとか映画は見ないタイプなんだが。)
大男と警察官が話していたり、資料を抱えたOLがブロンドの髪を揺らしながらすれ違ったり。
そんな、なんでもない風景を眺めながら、ただ呆然と街並みを歩く。
番長(私は今まで必死になって仲間と共に歩んできたが、
目的もなく、なんの物語の登場人物にもなれなかった人間とは、こういった気分なのだろうか。)
番長はそんなのんきなことを考えながら、手頃なベンチを見つけて腰掛ける。
番長(はぁ。歩き疲れて眠ったはずなのに、夢の中でまで歩くなんて滑稽極まりない。)
しばらく座っていれば目も覚めるだろうと思っていたら、お腹が可愛らしくうめいた。
番長(・・・どうやら、私は急かされているらしい。)
仕方なく、また立ち上がり、美味しそうな店を物色していた。
番長(・・・ん。)
視界の端に、ハンバーガーショップが留まる。
番長(もう疲れたから、ここでいいか。)
もっとましな店はあったはずだが、あいにくと舌よりも胃の方が正直なものだ。
店に入ろうとした手前、金がないことを忘れていた。
番長(そうだ、知らない街の通貨なんて持ってるはずないだろ。)
そう思った矢先、店と自分の間の狭い隙に、丸まった紙が転がってきた。
番長(数字が書かれていて割としっかりした紙だ・・・ここの土地の紙幣か・・・?)
都合が良すぎるか、とは思ったが、所詮は夢の中。
番長(どうせ本当に腹が膨れることもあるまいに、気休めをしてくれるのは私自身のいたずらか?)
丸まった紙幣を、スカートの狭いポケットに押し込み、店に入る。
店の中には、新聞とコーヒーを相棒にしたメタボリックな中年と、子持ちでなさそうなお姉さんが別々の席に座っていた。
黒い肌の店員が、愛想笑いと挨拶を提供してくる。
紙幣に書かれた金額を確認し、安いハンバーガーとドリンクを注文する。
席に着き、足を組んで、頬杖をついて注文を待った。
中年の視線が、スカートと足の間を縫い合わせている闇を解こうとしているが、疲れているので好きにやらせておくことにした。
しばらく経つと、丸いトレイに乗って、なんの旨みもなさそうな平凡なハンバーガーとコーラらしきドリンクが運ばれてくる。
だが、それは彼女の席に届くことはなかった。
見知った顔の美しいアッパーカットが描く曲線にハンバーガーは翼を授かり、自由の空という名の天井に吸い込まれて大きさを半分に減らした。
麗「なに呑気にランチタイムとしゃれこもうとしてんだよ!!俺たち、閉じ込められたんだぞ!!?」
番長「は?」
私が思い描く麗のイメージってこんなものだったか?と、首を傾げる。
麗「だから!!俺たちは閉じ込められたんだって!!”夢の中”に!!」