DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.28 誰も彼もが同じ空を目指して

刃を伝い落ちる赤の雫。
硬直する。
サクリファイスは喉の奥に空気をつまらせて、声も出せない。
サキューは後ろに飛んで姿を消した。
サクリファイス(・・・そうだ、クリフォートから持ってきたクリスタルがあるじゃないか。)
うろたえてなどいられない、と刃を抜いてポケットを探る。
・・・はずだった。
ポケットは既に裂かれていて、腰には間抜けな切り傷だけが残っていた。
サキュー「お求めはこちらだろう?」
サキューはサクリファイスの持っていたクリスタルを見せつけてきた。
番長「この女郎!!」
麗「待てッ!!俺だ!!あいつは今、降り立っていない!!」
ここに来て、番長は冷静さを欠いてしまった。
両手には双銃が握られている。
サキュー「見たぞ・・・お前の完璧な姿!!」
変身の余地を与えてしまった。
これで相手は化けたい放題だ。
1つずつ策を消されてゆく、そんな中
ブリンク「皆さん!!”その場から動かないでください”!!」
普段、穏やかな口調で紳士的に話す彼がいきなり声を張り上げたものだから、全員が驚き、振り向いた。
ブリンク「全員の立ち位置を覚えれば、仲間同士で傷つけあうことはもう無いでしょう!!」
全員が停止する。
そう、”全員”が。
サキューも含め、全員。
麗「声を上げた瞬間に化けて停止してたらどうする・・・?」
番長「動いた奴からぶちのめす!!」
力む番長をよそに、マリンは唇を動かし、必死で何かを伝えようとしている。
サクリファイス(お願いだ・・・おとなしくしていてくれ・・・消えられちゃあ困るんだ・・・。)
そんなサクリファイスの心配よりも彼女は大事なことを伝えたがっている。
それを、ブリンクは受け取っていた。
ブリンク「皆さん!!飛び上がってください!!」
掛け声とともに、全員がジャンプしようと力む。
ミツクビ「ぐみィ!!?」
ところが、足にツタが絡みついていて飛び上がることができなかった。
そう、ひとりを除いて。
”サクリファイスは飛び上がった。”
”それをただ呆然と、サクリファイスは見ていた。”
ブリンク「今、飛べたのがサキューです!!」
そう言うと、サクリファイスに変身していたサキューの胸を、透明の何かが貫いた。
いや、違う。
マリンに付いていた胸の風穴が、カット&ペーストされていたのだ。
能力が解け、元の姿になったサキューが地面に叩きつけられる。
ブリンク「あなたが先ほど飛び退く直前、全員の足元にツタのトラップを仕掛けました。
あなたはそのことに気づいていなかったようですね。
完璧に変身するためには観察が必要なくせに、観察眼が鈍いですな。」
そう、マリンが必死で伝えたかったことは。
マリン「”一度だけでいい、もう一度だけ、敵を判別できる状態にして欲しい。”」
ということだった。
マリンが”痛いの痛いの飛んでゆけ”を使うために、対象をしっかり認識できる状態にして欲しいという願いだった。
ブリンクは、反撃の余地も考え、相手は不自由な空中に、自分らは安定した地上に置くことを選んだのだ。
サキュー「まだ・・・まだだ・・・。」
そう言うサキューの手足を、ツタが絡め取った。
ブリンク「あなたの負けですね。」
サキュー「勝ち誇ってんじゃ・・・ねぇ!!」
彼女の体は黒く染まり始める。
いや、彼女の体だけじゃない。
薄紅色の粉がかかった全ての樹木が黒く変色し始めて、闇に包まれ始める。
サキュー「こうなりゃ道連れだ・・・じゃなけりゃ腹の虫が収まらねぇ。」
ミツクビ「・・・・・・ニャニャン?これはなんニャン?」
闇に包まれるはずだった森には、バネのようにツタが渦巻いている。
それもいくつも。数え切れない程に。
サキュー「・・・は?」
ブリンク「いやぁ、あなたは自分のフィールドを用意してしまったことで、とんでもないポカをしましたねぇ。」
サキュー「どういう・・・ことだ・・・?」
ブリンクはほっほっほ、と気持ちよく笑う。
ブリンク「勘の悪い人です。
簡単なことでしょう。このツタは私のアーツ。
つまり、粉がかかっていないので、ツタだけは姿を変えることがないんです。
なので、あらかじめこうやってマーキングしておいたのですよ。」
サキュー「そうかよ・・・なら、最初から”マリン・クイールをさらうこと”だけを考えてやれば良かったんだな・・・。」
辺りを包んでいた闇は、次第に薄らいでゆく。
サキュー「ははは・・・こんな・・・死に方をした私を、ゲホッ、きっと・・・コッパ様も見てる・・・。」
番長「む・・・誰なんだ、それは。」
サキュー「・・・・・・・・・」
答える間もなく、彼女は果てていた。
麗「まずそうな集団に目をつけられたってことは確かだな・・・。」
ミツクビ「そんなことより、まずはここを出なきゃならんニャン!!
こいつのせいで遠回りする羽目になったニャン!!
ニャ!!ダーリン!!」
ミツクビはサクリファイスの肩に手を置く。
サクリファイス「お、俺は・・・。」
サクリファイスは先ほどの衝撃で、まだ緊張が解かれていなかった。
だが、マリンは彼に向かって言う。
マリン「私は大丈夫だよ。サクリファイスは最後まで私を助けようとしてくれていたんでしょ?」
マリンはサクリファイスのポケットをぽんぽんとはたく。
すると、薄紅色の粉が出てきた。
ズボンは裂かれておらず、ただそう見せられているだけだったようだ。
マリン「すぐに、これを探していたの、わかったよ。」
マリンは粉のついた手をほろう。
マリン「だから、自分を責めないで。」
サクリファイス「マリン・・・。」
番長は、ふ、と笑みをこぼし、
番長「本当にお前が責められる立場なら、今頃は蜂の巣だろ?」
と言って、あてもなく踵を返した。

???「あわわ。サキューちゃんがやられちゃったぁ。」
???「グスッ、どうしよう・・・こんな怖い人たちなんて聞いてないよぉ・・・。」
???「大丈夫だよ、”濁流のクライネ”。君なら一網打尽にできる。」
クライネ「本当ですか?コッパ様・・・。」
コッパ「あぁ。君は遠隔操作系のアーツなら最強だ。」
クライネ「本当に・・・?」
コッパ「ホントだよ。」
クライネ「ホントのホントに?」
コッパ「そうだ。マリン・クイールは僕か他のメンバーが回収するから、いつもどおりで構わないよ。」
クライネ「はいぃ・・・。では、”ホーム・オブ・ホープ”へ先回りしていますぅ!!」
コッパ「頼んだよ・・・。」
雨傘を携えた小さな影は、徐々にコッパの視界から消えてゆく。
コッパ「やれやれ、あんな性格でアレなのだからえげつない。」
コッパはそうひとりごちて、文字通り”姿を消した”。

番長「・・・お?」
出口が見える。
どうやら、あまり深いところまでは入っていっていなかったようで、悠々と森から脱出することができた。
ミツクビ「そろそろ腹ペコで倒れそうニャ~・・・。」
麗「安心しろ。この世界では空腹なんかで死にゃあしねぇ。」
サクリファイス「・・・お?あれが”ホーム・オブ・ホープ”じゃあないか?」
見わたす先、平原が広がっているようにしか見えない。
それもそのはず、サクリファイスはトランスすると複眼になり、視力が人の時の比ではなくなる。
ミツクビ「ズルいニャ、ズルいニャ、ミィも見たいニャン。」
サクリファイス「双眼鏡じゃねぇんだから、貸したりできるもんじゃねぇっての。」
不満げなミツクビを押しのける。
番長「だが、方角はわかったな。」
ブリンク「えぇ。それだけでも大きな収穫です。」
一同は地平を目指す。
水平線までも超えるために―――――

クライネ「はわぁ~、不安だからアリスさんにも連絡入れておこうかなぁ。
でも、アリスさん怖いんだよなぁ。」
一足先についたクライネはめぼしい建物を探る。
クライネ「はぁ・・・やっぱりひとりでやるしかないか・・・。」
トボトボと、小さな歩幅で潮風の香る街を進む。
クライネ「奴らが寄りそうな建物は・・・。」
泳がせていた目を、ぴたりと止める。
クライネ「ここかな・・・。うん、とりあえず先に誤っておかないとダメかな・・・。」
ごめんなさい、と、ひとつお辞儀をして、扉を開けた。