DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.27 這い這い追うぞ欲望は

生還の噂がパラレルワールドと結びついている。
おかしな話だ。
だって、この世界にいるのなら、どの平行世界にいようが死んでいることには変わりないからだ。
生還と平行世界を理屈で結ぶのは難儀な話である。
だが、平行世界から人が来るということは、クリフォートの成長スピードが増したということだ。
・・・クリフォートはいずれ死後の世界を覆い、虚無同然の無機質な世界を作り出すだろう。
私は、それをかわいそうとは思わない。
魂を潔く殺さず、生半可に生きる希望を与える今のこの世界の方が、偽りの営みをするこの世界の方が、よっぽど残酷なのではないかと思った。
だからきっと、クリフォートが世界を覆うということは、死が本来の死に還る、ただそれだけのことなのだろう。
嘘が全て罪とは言わない。
だけど、絶望を隠す嘘は、酸の雨に傘をさすだけの気休めでしかないのだ。
故に彼の行動には、違和感を隠せなかった。
クリスタルならもっと手に入れる機会があるはずだし、たかが私たちが少し削ったところで意味がない。
どこか、軽薄なのだ。
動機として、どうも腑に落ちない気がした。

ミツクビ「また歩きで移動かニャ~。」
クリフォートを抜けた次は港町だ。
漣立つ港町 ホーム・オブ・ホープ。
今居る”ギャラク大陸”と、隣の”イースガルド大陸”を繋ぐただひとつの港だ。
砂浜や、魚釣り、それとサーフィンやダイビングなど、海が好きな人が集まる爽やかな街だ。
一方で、施設はというと、掲示板やボードゲーム大会での賭け事で盛り上がり、体力のない人でも楽しめる、活気にあふれた場所ばかりだ。
こっちは噂話が好きな人が集まっては、流れの人間とあることないことで下卑た笑いをしている人も大勢いいる。
・・・のだが、クリフォートから肉眼で見えるほど近くはなかった。
そのせいで、彼女は意気消沈していたのだ。
だいたい、あんな光景を見せられたあとだから、精神的に消耗しているのも言うまでもない。

ミツクビ「・・・?まだ海岸沿いにも出てないのに街が見えてきたニャン・・・?」
見ると、街・・・というよりか、集落に近い建物の群れを発見した。
どれも木造の建物で、妖精のような小さな影も見て取れる。
番長「妖精・・・か。久し振りに見るな。」
と言うのも、この旅路、街という街がピリピリとしており、カインドにいた頃が嘘のように妖精がいない。
麗「妖精がいるってことは、安全圏か。
人の影は・・・見当たらないな。妖精の街ということになるな。」
ブリンク「ようやく落ち着いて一休みできるわけですな。」
一同は肩の力が抜け、クリフォートの一件でこわばっていたマリンの顔も自然とほころんでいた。

妖精たちはこちらを快く迎え入れた。
妖精というのはあまり喋らないもので、実際オーケーを口に出されたわけではないが、だいたいのことは態度でわかる。
顔は鉄仮面でも、人に対して敵意を向けるというのはあまり確認されていないし、好戦的ではないため、嫌がられたら妖精側が立ち退く。
妖精は、死んだ世界で自由を生きる、謎多き存在である。
人間用の宿泊施設こそないものの、妖精たちの作った小屋は寝泊りするのに充分だった。
大体の建物は人間サイズに作られており、その広い空間に不釣合いな、小さい家具が部屋の真ん中にある。
もてなしの精神があるのかないのか、如何せんわかりかねるが、贅沢は言えなかった。
ミツクビ「ここに泊まっていいのかニャン?」
妖精は頷く。
それでは、とドアノブに触れた途端―――――

刹那、世界にノイズがかかり、辺は見渡す限りの森になっていた。
番長「幻術か・・・?」
サクリファイスは思わず舌打ちした。
してやられた、と顔が言っている。
麗「俺たちが騙されたのはこれのせいか・・・。」
森の木々には薄紅色の粉が付いていた。
サクリファイス「気味の悪い粉に趣味の悪い演出・・・カンに障るぜ。」
マリン「・・・!!見て。」
怒るサクリファイスをよそに、マリンは木の上を指さす。
「カーーーッ!!」
木の上で、サルがこちらに見つかるやいなや、威嚇し始めた。
サクリファイス「なんだよ、ただのサルじゃねぇか。あれが一体なんだって――」
言いかけた時に麗がピンと来たのか、アーツを発現させる。
一息と入れず、サルはこちらへ飛びかかった。
その攻撃を麗は大剣で捌き、サルはそのまま転がって茂みの中へ消えた。
麗「よく気づいたな。マリン。」
麗はマリンの頭をくしゃくしゃと撫でる。
サクリファイス「どういうことだ・・・?」
番長「・・・ったく。勘の悪い奴だ。」
ため息混じりに悪態をつく。
番長「前にハインツとかいう兵士が言ってたこと、忘れたのか?
この世界にある自然の生き物ってのは、妖精が作り出したまがいもんで、生きる意志とかそういうものがなんだ。
なのに、あのサルは見張っていたり威嚇してきたり、挙句攻撃を仕掛けてきた。
まるで”術中にはまった獲物に嬉々とせんばかりに”。」
サクリファイス「・・・ってことは!!?」
ブリンク「えぇ。化かし合いは終わってなどいません。
むしろ、始まったばかりなのです。」
全員が、周囲へ警戒を張り巡らせる。
番長「ってオイ!!マリン!!離れちゃ危ないぞ!!」
木のそばに立っているマリンに向かって叫ぶ。
麗「何言ってんだ!!マリンは俺の横から移動してないぞ!!」
番長「は?―――」
木のそばにいたマリン――に見えていた木を突き破り、クチバシの大きい鳥のようなが隆起する。
番長「舐めやがって・・・ッ!!」
番長は普通に銃を撃っただけでは当たらないと思い、銃を”反対に”持って、取っ手の部分でそのクチバシを殴りにかかった。
だが、その姿はイタチへと変貌し、振りかぶった手を叩き落として、またも茂みに消えていった。
番長(まずい・・・完全に相手のペースだ・・・!!)
マリン「次はコウモリ!!」
サクリファイスに向かって、黒い塊が流星のごとく吸い込まれてゆく。
応戦しようと、サクリファイスは鎌の剣先を縦にし、ナタ状にする。
麗「避けろッ!!相手は変幻自在だ!!またかわされるぞ!!」
サクリファイス「その必要は無ェ!!」
彼は思いっ切りナタを、”コウモリの少し下”を薙いだ。
その場にいた彼以外は、外した、と思った。
だが、宙には血が飛び散って、敵と思しき人間が茂みに飛び込んだ。
麗「・・・どういうことだ?」
サクリファイス「へへっ・・・勘の悪い奴だ。」
と、番長の真似をして得意げにする。
サクリファイス「いや~そもそも、相手の能力って、物体を物質的に変化させるわけじゃなくて、幻術だろ?
だったら、生物的な動きで攻撃してきたら、それは人型なんだ。
この世界の意志を持った生物はみんな人型になるからな。
物体を幻視させてるなら、もっと動きは直線的なはずだから、番長の腕を叩き落とすなんて器用な芸当はできないんだ。」
番長「そうか・・・じゃあ、これはどうしような・・・。」
番長はサクリファイスに向かって振りかぶった。
サクリファイス「ちょ――」
番長「おおっと!!」
その振りかぶった手は後ろを器用に薙いで弾丸を切り伏せた。
番長「私に変身するなら、せめて武器も真似ておけ。」
ニセの番長はとっくに姿を消していた。
本物の番長もまた、精巧に武器を真似られないように、丸腰に戻っていた。
マリン「そんな・・・仲間に変身するなんて・・・。
ホント・・・ムカつくよなぁ!!」
閃光が視界の端に走る。
麗「ぐっ!!?」
麗の脇腹には短刀が刺さっている。
マリン「はぁ・・・はぁ・・・!!」
本物のマリンは直前まで口を塞がれていたらしい。
しかも、攻撃に移るまでこちらに知覚できなくするために、薄紅色の粉がかかっている。
麗「クソ・・・がッ!!上の・・・上を・・・行きやがる・・・ッ!!」
???「どぉ~だぁ~??心も体も痛いかぁ~~~!!?」
歯車のようなモノクル
爬虫類のような長い舌。
蠍の尾のような三つ編み。
無駄のないタイツのような服。
両手には袋のようなものをぶら下げている。
木の上に、彼女はようやくその姿を現した。
???「いやぁ、しかし、そこのカマキリ君。
よくもこの洗礼されたフォルムに傷を入れてくれたねぇ。」
サクリファイス「はぁ?薄汚ねぇ戦法使ってよく洗礼なんて言えたもんだ。
”洗”って漢字に100回謝っとけ!!外道が。」
挑発問答ならお手の物、と嘲り返す。
???「この”蜃気楼のサキュー”を傷つけ嘲ったことを、後悔せずに逝けるだなんて考えるなよ!!?」
茂みの中に影は消える。
サクリファイス「名乗り名ダッサ。」
サキュー「テメーッ!!目を離してすぐに愚弄してんじゃねぇー!!」
サキューと名乗る女は隠れることもなくサクリファイスに怒鳴りつける。
サクリファイス「お?ついに隠れんぼはおしまいか?」
サキュー「テメーらなんざこのナイフ一本で充分だってんだよ!!かかってこい!!」
サクリファイス「そうかよ!!」
サクリファイスは景気よくナタで突き伏せにかかる。
番長「待てマリ――――」
言い終える前に、ことは決していた。
そう。
その刃は――――
サクリファイス「嘘・・・だ・・・。」
マリンの胸を貫いていたのだ。