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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.26 どうしようもないこと

ここに意味などなかった。
強いて言うならば、むしろ意味を失う場所だった。
この残酷にも楽園のような世界で、ただ悠久の時間を貪る日々。
ゆく果ては、消えてゆくか消されるか。
ただそれだけの話だった。
この街は、この世界にありふれた、そんな話のひとつの結末に過ぎないのだ。
終わりは終わり。
誰かが書いた本にページをひとつ足した時点で、それはただの妄想になる。
その誰かが終わりと記した時点で、下手な加筆をしても仕方がないのだ。
生命が死を認めた時点で、その生涯は閉じる。
医科学的なものではなく、心で、だ。
そんな人間を救おうなどと考えれば、その瞬間からその人間は「生きている」人間ではなく「生かされている」人間になるのだろう。

眼前にいる神父は聖人でもなく、それでいて悪人でもない。
カインドのような平和な場所がありながら、その地を目指さずにここへ来るということは、彼らは永遠ではなく最期を望んでいたのだろう。
だから、この街に望んで居る時点で、救うだとか救わないだとか生きる価値とか死ぬ無価値とか、そんなことはとおに過ぎてきた話なのだ。
救われるべき心は、価値を求める者は、自らの意思でただ踵を返した。
神父はただ、それを見ていただけだった。
神に仕える身として、導かず、運命の仰せのままに。

ブリンク「驚きましたね・・・まるで夢でも見ている気分です。
人ひとりで手に収まる大きさだというのに、これだけの・・・ひとつの街を完成させるまでの体積を誇る”クリスタル”が存在するなんて・・・。」
麗「全くだぜ・・・死にたがりがここまでいるのにも驚きだがな・・・。」
番長「死にたがり、というのは語弊があるぞ。」
麗「そうか?似たようなもんだろ。」
番長「・・・。」
番長は納得いかなさげに耳の後ろを掻く。
ミツクビ「ニャニャン?番長ちゃん歯切れが悪いニャン。
・・・たしかに、人が自ら魂を投げる場所っていうのはミィ的にも居心地は悪いニャン。
でも、どうしてまだ睨んでいるニャン?」
番長「いいや・・・ただ好奇心で、ここが霊地になった理由を知りたくてな・・・。」
神父「本当に知りたいですか?」
その割り込みに、一同は息を呑む。
サクリファイス「・・・は?誰かが意図的に作ったってのか?」
神父「人の話を聞いてから憶測を言って欲しいものです。」
番長「・・・じゃあ、こっちは黙っておくから、教えてくれ。」
神父「ついてきてください。あまり見せたくはないのですが、真相を知るには一目するのが早いでしょう。」
そう言うと、地下へ続く階段に一同を誘った。
促されるがまま、階段を下ってゆく。
そして、大きな扉の前にたどり着いた。
神父はそこで振り返った。
神父「いいですか?この中で起きていることや在ることは、すべて私が来る前から存在していたものです。
どうかお間違えのないように・・・。」
それだけ言うと、神父は向き直って扉をゆっくりと開く。
中に広がっていた光景――――

見た瞬間に気を失いそうになった。

吐き気と頭痛が本能的に襲い掛かった。

壁や床には一面、血なのか膿なのかわからぬドロドロがあった。
悪臭を放っていたが、一同を精神的にたたきつぶしたものはそれではなかった。
床一面に転がる、赤子や胎児。
泣くことも許されず、一人間に成長することも許されない。
ただ小さくうめき、ひゅうひゅうとした空気に飢えたその風が、一同の心には嵐のように響いた。
ミツクビは耐え切れず吐き出してしまい、ブリンクはマリンを抱き寄せ、番長以外は目を背けてしまった。
神父「彼らが、彼女らが、この地を霊地とさせた真相です。」
番長「すまないが、言ってくれないと理解できない・・・。
何分ショックが大きくてね。
正気を保っているので精一杯なんだ。」
声は震えていた。
いくら彼女でも、心臓をすだれにしたような目の前の景色に、思わず悲鳴を上げそうになった。
いや、悲鳴を上げる勇気すらわかなかった。
神父「これは、見ての通り、生まれる前や生まれた直後・・・物心つく前に死んでしまった魂たちです。
この世界で、道端に胎児が墜とされているのは見たことがないでしょう。
なぜなら、こうして一箇所に集中して墜ちてきているからにほかならないのです。
そして、彼ら彼女らが意味するのは、人間としてのゼロとイチの間。
生と死の間なのです。
自ら生きる意味を見出すことができないゼロ。だがしかし、生命として・・・魂としては生きているイチ。
ほら、医者に還元を望む者共の心理と同じではありませんか?
経過は違えど、生きようとしなくなった死者は、ゼロとイチの間の存在なのです。
似たものは互いに寄せ付け合い、赤子の無垢な心が訪れる者の血肉を解き放つのです。
それがいつしか、平行世界の住人まで寄せるようになり、ここまで肥大してしまったのです。」
番長「パラレルワールドに触れたのは、この霊地が原因ってことか・・・?」
神父「えぇ。結果的にはそうでしょう。
・・・たしか、平行世界の住人が来てから、”生還”の噂を聞くようになって、街の外が物騒になりましたねぇ。
・・・気が遠くなるほど昔のことですから、忘れていましたよ。」
番長(増えすぎた人間を、世界が選定しようとしているのか・・・?)
神父「では、そろそろこの扉を閉じますね。
彼らは、彼女らは外の空気を嫌います。」

サクリファイス「なぁ、ここのクリスタルって、持ち出していいのかな。」
ほかのメンバーの摩耗しきった瞳が非難してくる。
サクリファイス「とんでもない事を言っているのはわかってる。
でも、削っていって、大きさを徐々に小さくすれば、平行世界とのパスも、再び大きくなるまでは防げるんじゃないかな・・・なんて思っただけだ。
それに、うちの仲間にお医者様は居ない。無闇にマリンに傷を消させるわけにもいかないだろう。」
番長「口が上手くなっていくのを喜ぶべきなのか?」
サクリファイス「皮肉はいい。ただ、何もクリスタルは自分たちだけが使うわけじゃない。
困った人・・・襲われた人とかに使ってあげることもできる。
こんなところで黙っているより、誰かの為になれたほうが魂も本望なんじゃないかって、そう思っただけだ。」
麗「・・・俺は賛成かな。マリンを届ける前にくたばっちまっちゃ意味がない。」
番長「・・・仕方ない。ただし、クリスタルはブリンクが預かってくれ。
防御系のアーツを持っているわけだから、盗まれたりしにくいだろう。」
ブリンク「その前に、神父様のお返事を伺ってからにしてはいかがですか?」
麗「それもそうだな。」

神父はあっさり快諾してくれた。
形として持ち出されても心はここに眠っている。
そう言った。
それ以上も以下も言わなかった。

――――――

サクリファイスはなんの考えものなしに保険としてクリスタルを持ち出そうと持ちかけたわけではなかった。
”即席超常現象(インスタントロウブレイク)”。
いつしか聞いたそんな途方もない話。
その燃料に何を使おうか・・・はたまたどうやって燃料を集めようかと考えていたのだ。
しかし、よく考えればクリスタルは人間の魂を濾して純粋な生命力としたものだ。
つまり、クリスタルを持っておけば、いざという時に超常現象を使うことが出来る、と考えていたのだ。
これで旅が少しは楽になる。
彼は自分の考えに胸を張った。