DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.25 きっと誰かの最期の地

バリバリと空気を揺らし、ショッキングピンクと赤で彩られたド派手なバイクが土煙を上げて迫ってくる。
サクリファイス「俺たち、あんなバカみたいなのに気付かなかったのか?」
爆音はさらに勢いを増す。
番長「バーカ。気づいてなかった訳無いだろう。
むしろあれは街道の出入り口付近で待ち構えているタイプの奴だ。
人数的にあっちが劣勢なわけだから、諦めてくれるのを待っていたのだが、どうやら相当な自信家なようで困った困った。」
迎え撃とうと銘々にアーツを構える。
すると相手も、後ろの積荷のような部分が展開し、ペンシルミサイルが露出する。
麗「エモノは多いみたいたぜ!!?」
アーツを行使して追い風を起こすが、相手はむしろ加速する勢いでミサイルを射出してきた。
とっさの判断で、番長はミサイルを逸らすように弾丸を放ち、ミサイル同士を衝突させてなんとか直撃は避けた。
だが、ブリンク、麗、そして番長は腕や脚をところどころ灼かれ、ただれていた。
そんな体をおして、番長はミツクビにタックルを仕掛けた。
ミツクビ「!!?」
目を白黒させるミツクビの目の前に、土煙を裂いてバイクが横切る。
傷だらけの体はその派手なボディに跳ね飛ばされた。
余りにも目まぐるしい場面展開であった。
その後、鉄が弾ける音が二つ。
それも虚しく駆ける赤色はなおも猛る。
裂けた煙の中にサクリファイスが駆け寄り、重力の奴隷となった乙女の体を受け止める。
サクリファイス「ちっせぇくせに重てぇでやんの。」
番長「・・・・・・フッ・・・・・・。」
悪態に向けて笑い返すが、反撃できたことが不思議なぐらい重症なのは確かだ。
番長を抱えたサクリファイスに向けて、追い打ちのミサイルが飛ぶ。
だが、爆破範囲が大きくないことを先ほど知ったため、カマキリのチカラを上乗せしたサクリファイスの脚力でなんとか逃れることができた。
ブリンク「ミツクビさんはッ!!?」
煙から逃れたのはサクリファイス、番長、ブリンク、麗。
マリンは馬車の中に残してきているし、馬車自体も遠方で健在だ。
なおもバリバリと、耳障りな音を立てる赤色。
安否がわからないのはミツクビだけだ。
番長「大・・・丈夫・・・なのか・・・無事・・・なの・・・か?」
不安を漏らす番長に対してなおも皮肉めいた笑みを浮かべるサクリファイス。
サクリファイス「大丈夫さ。アイツが今まで弱く見えたのは、迷いがあっただけなんだ。
二度目三度目を与えてくるような相手に負けやしないぜ。」
そう会話するさなかも、細長い影が煙の中から這い出してくる。
サクリファイス「おらっ!!」
番長を麗にパスすると、鎌を発現させ、ミサイルを全て上に逸らした。
それらは全て標的を失い、空中で爆発してしまった。
サクリファイス「相手は”火属性”だ。耐えるんなら”水属性”の俺がもってこいってな!!」
火傷をした三人を全力で庇うサクリファイス。
その間にも、バイク本体とミツクビの戦いは続いていた。

バルバルバル!!バリバリバリ!!
声ではなく音で威圧仕掛けてくる赤色。
ミツクビは避けることに専念していたが、敵が横切るたびに、その癖を観察していた。
遠方でミサイルを放っては横切りを繰り返すその様をまじまじと見ていた。
土煙で視界を遮られたなら聞けば良い。
爆音で聴覚を遮られたなら時間で測れば良い。
相手は常に最強の方法で攻めてくるはずだから。
ミツクビ「そこッ!!」
リズムゲームのようにタイミングを合わせて飛び上がるミツクビ。
本来ならミサイルがあるために、空中に逃げるのは余りにも愚策。
だが、その手を相手はよそに向けている。
ミツクビ「うにゃー!!」
やってくるバイクに向けて強烈な踵落としを食らわせる。
敵はたまらずバランスを崩して横転する。
バイクは勢いに引きずられながら、無様にテリトリーから離される。
番長「どうする・・・殺すか・・・?」
麗は眉間に指を当て、少し考えたあと
麗「烙印を押せる医者がいない。・・・女王様に釘を刺された手前、あまり望ましくはないが・・・。」
サクリファイス「目を瞑ってもらおう・・・。」
番長「これは罪というより・・・運命・・・なのかもな・・・。」

”結晶の街 クリフォート”。
そう銘打っているが、予想以上に結晶だった。
周りの草原と見て比べたらあからさまに異質な、蒼白な晶に思わず息を呑み、すべきことを忘れてしまう。
御者「私は、ここまでで。」
白の淵に一同は下ろされる。
番長「気をつけて帰れよ。」
御者「ははは、旅人さんこそ。」
互いに笑顔で見送った。
しかし、余りにも不自然だった。
あれだけただれていた皮膚も、轢かれてアザのできていた体も、すっかり治っているばかりか立って歩いているのだ。
それはブリンクも麗も同じだった。
一同が負った傷が嘘のように治っているのだ。
番長「マリン、私たちの傷を代わったりしていないか?」
マリン「ううん。」
首を横に振る。
証拠に、その素肌は白いままだし、なんらおかしな箇所もない。
ブリンク「ということは、この場所がなにか特別なものなのでしょうねぇ・・・。」
見上げども、その街は清潔を具現したかのように白く美しい。
それが、どことなく、いわれなく不気味だった。

靴は結晶の床とぶつかり、否が応でも硬い音を響かせる。
コツコツ、コンコンと、それぞれの音を響かせる。
そう、”一同だけ”の音を響かせる。
他には足音がないのだ。
すれ違う人もおらず、建物の中に住まうものもおらず、どこかしこで商いを行うものもおらず、妖精すらも姿を見せなかった。
―――廃墟。
こんなにも美しく、澄んだ空気が流れる街なのに、そこは人の住まわぬ廃墟だった。
例えるなら、ゲームを作った時に、マップだけを作った段階でボツになり、デバッグでしか行けないような・・・
イベントフラグもオブジェクトもない、そんな場所。
それなのに、何も恐ろしくはないのだ。
地・・・いや、床や建物は生命力に溢れ、ほのかに優しい光を放っていて、温かい雰囲気を醸し出している。
結晶だけの街なんて、話で聞いただけなら冷たいし寂しい場所だって思うはずだ。
だが、何もないのに心が安らぐのだ。
それこそ、魂の安住の地だと言わんばかりに。
サクリファイス「罠・・・か?幻術とか・・・。」
麗「でも、それにしたら誘導も閉鎖もない。
こんな、”いつでも逃げてください”なんて在り方の罠があるか?」
進むと、教会が見えた。
この街で数少ない、意味を持った建物だった。
ミツクビが無造作に扉を押すと、風が通るように、ごく自然に扉が開いた。
奥にはようやく人らしい人がいた。
それも、違和感のないごくごく普通の神父だ。
神父「おやおや、あなたたちも、この世界に愛想が尽きた類ですかな?」
あらぬ質問を投げかけられる。
番長「・・・・・・?いや、とっとと見切りをつけて生き返りたいと思うことはあるけど・・・真意はなんだ。」
番長は警戒心をむきだしにした目つきに変わる。
それに対して神父は微笑みかけ、
神父「それでは、あなたたちは迷い込んできたわけですな。なるほど。
まぁ、見ての通り何もないところですが、寝泊りなどは好きにして構いませんので。
なにか不都合な点があれば、お申し付けください。
胡散臭いとお思いならば、去ってもらっても構いません。」
番長「なんだ、いいのか?神に仕える身が、人間の好き勝手を許してよ。」
神父は笑顔を変えることなく答える。
神父「構いません。私はこの地を見守っているだけですから。」
サクリファイス「・・・引っかかる言い方だな。この場所は一体何なんだ?
なんで何もないんだ。人も妖精のたぐいも。」
神父「この場所は霊地です。つまり――――
受肉した霊魂が魂に還る場所・・・医者がそのまま土地になったような場所なのです。
だから、この地にたどり着いた者は”傷を癒して去る”か”ここで血肉を解く”かどちらかなので、暮らしている者がいないのです。
ここで傷つけ合っても治ってしまうし、ここで営みを興しても、血肉を解く者を見るのが辛くなるだけですから、留まる意味などないのです。」
そこまで聞いて、一同はこの街の・・・この結晶の正体を知った。