DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.24 さよなら傷だらけの匣よ

ブリンク「このまま発ってしまわれるのですね。」
ブリンクはカップに白湯を注ぎながら言う。
番長「おい、別に紅茶が飲めないわけじゃない。」
そう言いつつも、番長はそのまま受け取る。
水面に映る天井。
隅は爆破によって多少綻んでいる。
いや、目の前の壁だった場所の方がよっぽどひどいのだが。
番長「・・・ここまで人も建物も破壊された街をそのままにしていくのは後ろめたいが、私たちは被害者だ。
むしろ、身を呈して悪人を取り除いたんだから、これ以上やることもないんじゃないか?」
冷たい言動を取る番長であったが、本心ではない。
できるのなら、この街が修繕され尽くされるまでいてやりたいと思っている。
だが、マリンの立場上、あまりひとつの場所に留まると疫病神になりかねない。
それが分かっていたから、あえて始末の悪い選択をしたのだ。
店員「ここから離れるおつもりですか?」
いかにもな飾らないタイプの優男の店員が声をかけてくる。
朝日を浴びて、よりその表情が柔らかに見える。
番長「あぁ、そうだが・・・やはり、災厄の引き金を引いたことをやっかんでいるのか?」
やや自虐気味に返す。
店員は、いやいや、と慌てて首を振る。
店員「・・・あれは時間の問題だったのでしょう。
あなた方が一連の事件の真相を突き止めなくとも、ほかの誰かが同じことをしていた・・・。
それだけの話です。」
番長「妙に物分りがいいじゃないか。」
好意は好意として受け取りたかったのだが、あいにくとこの街に来るまでの交通手段に問題があったために、慎重にならざるを得なくなっている。
それに、彼女に関しては今回の戦いでの”ココ一番って時のしくじり”が強く尾を引いていた。
店員「ハハハ・・・信じられないのなら信じなくて結構ですがね。
交通機関として魔列車があることをご存知ですか?」
賞味期限切れな情報に、思わず乾いた笑いがこぼれる。
番長「それなら、ついこないだ廃業したよ。」
店員「・・・?」
店員のキョトンとした顔を見ると、彼に対する疑念は吹き消えた。
番長「それ以外に有用な交通機関は無いか?」
店員「えーと・・・馬車ぐらいしか思い当たりませんね・・・。」
番長「・・・無いよりマシ・・・か。どうも。」
白湯を飲み干し、ため息を吐く。
店員は、力になれたのなら、と一礼して、散らかったがれきの後片付けに戻った。
二階からは仲間たちよりも先に、ここでいつもピアノを演奏していた女性が降りてきた。
奏者「あら、貴女たち、朝は早いのね。」
小悪魔な笑みをこちらに向ける。
ここにいるのはブリンクと番長と店員、そしてこの街に住む数少ない妖精くらいで、ほかの仲間や客に比べてはという意味だろう。
番長「クリスタル治療を受けたあとだからコンディションがいいってだけだ。
やはり、人を治すチカラは人のチカラが一番いいというわけだな。」
それは若干皮肉めいていた。
もちろん、ただの八つ当たりではあるが、形は違えど傷を負うたびに他人の命をもらうなどという所業をするのはあまりいただけない。
たとえそれが、望んでクリスタルになった人間だとしても、だ。
奏者「みんな褒めてたわよ。英雄だのなんだのって。」
番長「嫌味か?それとも安い商売か?あいにくとそれらに相手をしてやる余分はなくてね。
それに、脅威を取り除いたところで、墜ちてくる脅威の数には追いつかないし、元々この街は悪意に囲まれている。
いたちごっこにもなりはしない。
お前知ってるか?可能性の人間さえ墜ちてくるんだぞ?
もし、私が悪者を虱潰しに出来る英雄だとしても、今度は”悪者だったかもしれない善人”という空論が受肉して増えていくんだ。
私たちは露出した虱を潰しただけだ。
嫌味垂らされて咎められる筋合いもないし、讃えられるのも分不相応だ。」
苛立ちからなのか焦りからなのか、過敏な返しをしてしまう。
ブリンク「そのような態度を取るのは無礼ではないですかな。」
番長「・・・ッ。」
マリンの精神状態は回復した。
だが、マリンを”星の戦士”のもとまで連れてゆき、100人殺す他に生き返る方法があるのかどうか聞き出すのが最優先目標である。
降りかかる火の粉は払う。
焼かれている家は消火するし焼いた犯人は排除する。
だが、家が焼かれてボロボロになった事実は目的を邪魔するものではない。
差し伸べたい両手はあっても、右手にはマリンの手を握り、左手ではさらなる火の粉を振り払う。
悔しいが、一秒でも早く生還して仲間を救いたい番長にとって、”その場にいる人間だけでなんとかなること”に手を貸している暇はないのだ。
それがいかに非人間的で反正義であることも重々承知してる。
だが、人間には”どちらか一方だけを取らなければならない”時がある。
彼女に与えられた選択は、”災厄を招く可能性があるが、一旦目標への手を止めて善の限りを尽くす”か、
”街の人には申し訳ないが、破壊されてしまった人や物に背を向けて目的を追う”かだ。
それならば、被害を負う人数も少なく、時間は掛かれど確実に街が復興する後者を選ぶだろう。
奏者「あんたさぁ・・・。ちょっと自意識過剰じゃない?」
深刻な思考を遮るように、相変わらずの笑みのまま返す。
奏者「別にさ、褒めてたってのは、喜んで欲しいから言ったわけじゃないわよ。
あんたらのことなんか誰も恨んじゃいないし、あんたらに破壊された街を何とかしてもらおうなんて期待してないし、
そもそもあんたが勝手に後ろめたく思ってるだけだし、悪いのはあのクソ女だけ。
それに、あんたらがいたところで大きく変わることなんてありゃしないのよ。
あたしらにとっちゃ事件は勝手に起きて勝手に沈んだだけ。
沈めた本人にはなんにも罪はないんだからさ、旅人は旅人らしく勝手にどこかに行ってしまったほうが、あんたららしいんじゃないの?」
淡々と、遊ぶような口調のまま、そういった。
番長「・・・悪かった・・・気を遣わせたな・・・。」
そうだ。
この街に自分たちがいたところで何ができよう。
ほかの人間と同じようなことしかできないじゃないか。
誰にだって代わりは務まるし、他所者にそこまでの善行を求めているものもいない。
事実、この店にいる人も、協力を求めていないどころか、こちらの心配をしてくれた。
番長「お言葉に甘えて、旅人らしくさせてもらうよ。」
奏者「うん。そのほうがあたしらも後味がいいわ。」
自分のことを過大評価していたかな、と少し反省した。

結局、馬車を利用して街を出ることにした。
奏者は、応援してるからな、と最後まで見送ってくれた。
行く先は、”結晶の街 クリフォート”。
クリン・トラストで共に戦ったひとりの兵に言われたとおり、港街へと旅路を続ける。
私たちはまだ、遠くを目指さなくてはいけない―――

麗「・・・思い出した・・・。」
馬車の中で、彼はずっと引っかかっていたものを見つけた。
麗「番長のアーツの消耗性・・・これ、ずっと気になってたんだよ。」
サクリファイス「あ、確かに。」
ブリンク「実のところ、私も気になっていました。」
そう、男性陣が盛り上がる中、当の本人は首を傾げている。
番長「なんだ?あれって、コンディションの問題じゃないのか?」
サクリファイス「まぁ、そういえばそれで終わりだけどよぉ~・・・こう、なんつーか、正確な弾数がわかりにくいんだよ。
こう、振れ幅がわかりにくいというか・・・う~ん。」
ブリンク「要するに、貴女の限界がわかっていないとこちらも戦いにくいということです。」
番長はうなづく。
番長「実際のところ、私もよくわからない。
大体の場合、ピンチの時にしか使わないから、いつでもどこでも無我夢中だ。
ブチキレ具合で変わるとしか言いようがない。」
麗「そこで俺は思ったんだ。
”弾丸”と”螺旋”、どちらに消耗が傾いているのか・・・って。」
番長「そうか・・・偏りが”弾丸”ならそれこそどうしようもないが、”螺旋”なら抑えることが出来る・・・と。」
ミツクビ「ハニャ!!?何を言っているかさっぱりニャン~。」
サクリファイス「いや、要するに、手加減できたらいいな~って話。」
ミツクビ「???」
麗「”弾丸”が刺さらなきゃ”螺旋”は発生しないでコマみたいに回ってダメだから、手加減できるとするならば”螺旋”だと助かるんだ。
”螺旋”が使えなくても銃には立派な武器として活躍してもらえる。」
サクリファイス「もっとも、両者の消費量が拮抗していたらどこまで手加減しても役に立つかのチキンレースになるがな。」
ミツクビ「ニャニャン?銃の弾とネジネジは別なのかニャン?」
サクリファイス「それが今言った”拮抗していた場合”だ。
でも、今までの戦いを見ていての話なんだ。
俺たちは戦いの度に”螺旋”の威力が違うと感じている。
だが、”弾丸”の威力はさして変わらない。
普通のハンドガンよりかは強い程度だ。
これは、夢物語でも希望的観測でもなく、前例を考慮した上での仮定なんだ。」
ミツクビ「じゃあ、こんな小難しい話してないでやってみればいいニャン。」
ミツクビは馬車の後ろの布を開いて指差す。
サクリファイス「おい馬鹿やめろ!!」
慌てるサクリファイスに対して番長はいたずらげに微笑み、
番長「いいじゃねぇか。」
と、銃を構える。
ミツクビ「あの岩ニャ!!」
番長「うっし!!」
サクリファイス「もう知らねぇぞ!!」
響く銃声、めり込む弾丸。
だが、ねじれて割れたりはしない。
そればかりか、番長の銃はカチッと装填された音が鳴る。
番長「使うチカラが少ないと補充も速いのか。」
撃ったことなど他人事のように感心する。
サクリファイス「カ~ッ・・・敵が寄ってきても知らねぇからな・・・。」
麗「いや、どちらにせよもう来てるようだが。」
遠くから、ひどくうるさいバイクの音が聞こえてくる。
番長「今回はひどく賑やかな相手みたいだな。」
麗「そんじゃいっちょやりますか!!」
御者に言って止めてもらい、馬車を出た。