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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.22 事実は芸術よりも奇なり

番長「平行世界…。可能性の存在。」
そう。目の前にいる藤原千代は、「ある一時まで同じだった」だけの別人。
パラレルワールド、とも呼ばれる違った未来から来た藤原千代なのだ。
「非常に人に知覚されにくい」という、「隠者の才能」を持っているところまでは同じだ。
だが、ここまでの齟齬があるのだから、相当大事なターニングポイントを違えたのだろう。
そう、「"アルカナバトル"に参加したか否か」だ。
その証拠が目の前にある。
麗「…。」
ブリンク「なんと…。どんな可能性でも、死すればこの世界に墜ちると…。」
自分たちの知る千代は、獰猛な黒い騎士のような人影を匿う。
しかし、今視界に居るのは正反対。
白い彫像のような姿に、無数の色とりどりなイボイボがついていて、病弱なイメージを持っていた。
チヨ「私を見てよ…。無視しないで。こっちを見てよ。私を見てよ。私はここにいるの。私以外見ないで。私だけを見て…。」
仲間を大切にして、人のために精を尽くす千代に対して、このチヨは独り善がりで自己中心的。
チヨ「やっと私は見てもらえるようになったんだから…。もう二度とその視線を渡したりしない。」
孤独で、無知で、冷えきっていて邪悪。
もはや自分が何のために何をしているか、そんなことは口上だけの些末事。
チヨ「画家さんの自己表現を邪魔したあなたたちを見世物にすれば、きっとまた、みんな私を見てくれる。」
悪行することを目的に、機械じみた殺戮を繰り返す。
心のすべてが灰塵と化し、手段と目的が入れ替わった寂しき少女の亡霊。
チヨ「だから、大人しくみんなぐちゃぐちゃになってくれると…うれしいなーって。」
すぅ、と白い影は縮こまる。
その瞬間、僅かに震えたか、確認出来るかどうかと感じたときには、その色とりどりのイボイボが飛び散った。
弾の大きな散弾銃、といったところだろうか。
咄嗟に麗が風のカーテンを作って勢いを削っていなければ、皆々揃って風穴だらけになっていたところだ。
壁には外れたイボ弾がめり込んでいる。
見ると、そのイボの正体は宝石のようだった。
もう少し早く気づくべきだった。
ここに来て、相手の正体を探すことにした夢中になりすぎて、大ポカをやらかしたのだ。
チヨ「光りなさい。」
そう、艶めかしく笑い、呟いた。
サクリファイス「しまっーーー」
声もあげられなかった。
宝石は次々と爆発する。
そして、番長のスカートの内側も爆発した。
捨てずにおいたベルデライト。
彼女がした、とんでもない油断。
左足は根本から持っていかれた。
その足は骨だけが残り、すこしでもバランスを崩すと倒れてしまうだけのつっかえ棒と化していた。
誰も彼も、ところどころが裂傷して見るに耐えない。
ブリンクは右肩を持っていかれた、右腕がちぎれそうになっている。
ミツクビは腰を抉られ、倒れたまま起き上がれない。
マリンに至っては、顎が砕け、まじないもかけられぬ重症だ。
チヨ「…。」
そこまでの惨状を作り上げておきながら、不満げに苛立つチヨ。
チヨ「もっと、臓腑をぶちまけてくれると期待したのだけれど…。見世物にするにはまだまだ三流かな。
あ、いや、反撃のチャンスを与えれば客寄せにはなるかなぁ。」
番長は直ぐに反撃を考えなかった。
形は違えど元は千代。
ほんのすこし、余計な情が入ってしまっていた。
しかし、
サクリファイス「なんだよ、つまらねぇ。」
品定めをするチヨに対し、噛み続けたガムを吐き捨てるように言い放つ。
チヨ「五月蝿いわね。もう少し人が集まるまで待てないの?待てないならもっとまともなタンカをきりなさい。」
サクリファイス「はっ。言ってることが滅茶苦茶なくせによくも言う。」
劣勢に負けじと言葉をけしかける。
サクリファイス「わからねぇか?三流なのは演者じゃなくて、脚本と演出を担当してるお前だってよぉ。
大体視線や注目なんて集めてどうすんだ?
まぁ、言われたところで興味は沸かないけどな。」
番長「フォスター…お前、血迷っているのか?」
サクリファイス以外は、口もきけぬほどに、全神経を存命に費やしていた。
にも拘らず、彼は未だ敵を触発している。
サクリファイス「なんだ。クリン・トラストん時はセンスあるかもなんて期待したんだがお前もまだまだ三流役者さ。
そら、血迷ったりなんかしてないぜ。
"むしろ血はゴールを目指している。"」
麗「ま…さか…。」
チヨ「何よ何よつまんない。主役より目立っちゃダメよ。客寄せの傀儡の癖に!!」
サクリファイスは笑った。
場に会わず、笑顔になった。
番長「気でも狂ったか!!?落ち着くんだ…ッ!!」
支えになっている骨も、悲鳴をあげ始めて倒れそうになるのを押さえながら、その手に銃を召喚する。
チヨ「次の攻撃が待ちきれないの?
…そう。なら、もう一度食らうがいいわ!!」
白い影のイボイボはいつの間にか再生している。
そして、先程と同じ構えをとる。
サクリファイス「ハハハ、あんまりにも可笑しいや。
だって、お前の望みは直ぐに叶う。
こう言う時に一番注目を浴びるのは、"悪者が処刑されるとき"だからな。
テメーの思惑どおりになっちまった事だけは後悔さ。」
サクリファイスが睨む先。
チヨの身体には、無数の赤い針。
サクリファイス「お前が中途半端に殺してくれた皆の血を集めたんだ。
俺の能力ってのは、そういうもんなのさ。
面白い小道具だろ。」
チヨ「は…あ…?」
ズタズタに、針串刺しになったチヨは既に絶命していた。
いや、抹消される手前の状態になった、という方が正しいか。
どちらにせよ、今回の事件はこれにて幕を閉じたのだった。

医者の治療を受ける一同。
マリンは「死体は見なれている」などと口にしたことがあった。
しかし、今彼女は怯え、震え上がっている。
"死体は"見なれている。
裏を返せば、それがどういった経緯で死んだのかなど見馴れているはずがないのだ。
彼女は、本当は普通の女の子なのだから。
死体は見た。幾らでも見た。
だが、戦地に行って血を流す兵を見てはいない。
籠城の末に飢餓し、砂をなめて死んだ兵を見てはいない。
肉がえぐれ、臓腑を見せながら辛うじて生きる兵を見てはいない。
だから、本当は彼女は追っ手を殺す度、その致命傷を移す刹那、目をそらしていたのだ。
そして、誇れぬ汚れに、目をそらしていたのだ。
誰も知らない、今となってはどうでもよい仕草。
だが、彼女の心が強くはないという事実は、予想以上に厄介なものであった。

マリンは塞ぎ込んでしまった。
無理もない。
顎を砕かれるという体験をして、正気でいられる少女などいないのだ。
ミツクビ「ダメニャ…。」
マリンの居る部屋から出てきて頭を横に降る。
番長「まいったな…。」
心の支えになろうと、そう考えて行動していた矢先にこれだ。
自分の失敗も、結果として訪れた失態も悔しくて、思わず歯を鳴らす。
正直言って、番長の頭は滅茶苦茶だった。
マリンが塞ぎ込んでしまったこと、そして、平行世界の人間の存在。
もしかしたらどこかで、違う自分が殺戮をしているかもしれないと考えると気が気ではない。
加えて、それらからマリンも守らなくてはならない。
そんな最中、ブリンクは紅茶を差し出した。
ブリンク「一度落ち着きなさい。
貴女が落ち着かなければ、マリンさんも落ち着かないでしょう。」
番長「……すまない。」
彼女はカップを受けとるだけで、口に運べずもて余した。
彼女は、仲間という存在に対して、こんなにも不器用だった。
紅茶の水面は、小刻みに波紋を作っていた。