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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.20 続、トリック・アートの世界

双銃の獲物となった少女に似た形なき貌。
しかしながら、目的を少し履き違えているのではないかと思った。

後にマリンは言った。
無差別に似顔絵を送りつけるなら余りにも消極的で、マリン個人を狙っているのなら、
こんな回りくどいことをして殺すよりも無理矢理に連れ去ったほうが楽で得なのではないかと。
もちろん、それは生き返る前提の話で、ただの殺人を快楽とするものならばわからなくはない。
しかしながら、彼は不特定多数、尚且つそれほど多くもなく。
何も知らない無邪気な人間のようにその絵を描いていた。
だとするならば、それもおかしい。
ハーツ・アーツは”決意”と”覚悟”の下に発現するもの。
ただ道行く人の似顔絵を描いて過ごす者には到底必要のない代物だ。
にも関わらず、この異形はハーツ・アーツを用いたとしか思えない姿をなしている。
一言で言うと、「不気味」。
ビックリ箱のような意外性と、単純に息の根を止めにかかる殺傷能力を持っていながら、その目的は無差別殺人よりも不確かで、
それでいて、無意味というわけでもない。
絵画はしきりに、”ワタシ”、”アナタ”、という言葉を乱雑に連結させていたそうだ。
それは確かに、意味不明でありながらも、固執的なひとつの目標を持っていた。
だが、やっていたことはただの絞殺。
固執していた割には余りにも粗雑、そのうえ針のようにか細い腕の少女にさえ抵抗されてしまう始末。
絞殺しようとしていた割には弱すぎるのに、その執拗な目的意識は被害者の心を掻き乱すほど。
それが「不気味」と言わずとしてなんと言おうか。
近しい考え方を手繰るならば地縛霊か。
芸術の街に何らかの因縁があり、非力ながらも復讐をしようとしている・・・?
いいや、それもおかしい。
大抵のやつらは”生前の恨み”は強くても、死後は何事もなく平和に生らきれるのだから、死後の街になんの恨みなどあろうか?

番長「・・・あ~わかんねぇ・・・。」
ベッドに横たわる。
マリンは既に寝かしつけたし、ミツクビは・・・まぁ、言うまでもない。
全くのんきなものである。
一応、風呂上がりの男性陣には先程の事件のことを伝えた。
ついで、彼らは街の人間にもらったブローチや人形、その他民芸品を破棄させた。
もちろん、番長自身が磨いていたベルデライトも・・・と思ったが、なんだかマリンの顔を思うと後ろめたくなってしまい、隠しておいた。

そんなわけで、彼女はベッドの上で疑問と不安を持て余していた。
番長「・・・眠れなくなってしまった・・・。」
ふと、多くはない荷物を覗き込む。
中にあるのは非常食とナイフくらいで、余分なものは持ち歩かないようにしている。
というより、荷物はだいたいブリンク自身が持つと譲らないので、せめて負担にならないように減らせるものは減らしているのだ。
ただ、袋の中には余分ではない余分が一つだけある。
宝石ではない余分、一冊の本。
千代から借りた本・・・返せるかどうかは分からないが。
というか、元から”返しに来るほど苦戦しないように”という目的であずけたのかもしれない。
番長(本でも読めば眠くなるだろう・・・。)
と、手にとった。
タイトルは、『一握の種、栄光の花。』というものだった。
扉絵は、冷たい表情で去ろうとする少女の手を握る愚直な青年の絵だった。
番長(なんだ、恋愛小説か。つまらんな・・・。)
中を開かずに荷物の中に戻す。
番長(以前、千代の部屋に行った時にはSFや刑事ものが並んでいたのにな・・・あいつらしくない。
もとより、こと恋愛に関しては無知というか、鈍感というか・・・そんな女だったのにな。)
本を手に取ってしまったせいで余計な考え事が増えてしまったことを後悔する。
番長(恋人を生前に残してきた私に恋愛小説なんて、生き返ろうとなんて考えるなと念を押しているのだろうか?)
それこそあいつらしくない、と不貞て寝返りを打った。

いつの間に眠っていたのか、とんでもない目覚めをした。
番長「糞が・・・!!」
ミツクビ「ニャニャン!!本気で怒らないでニャン!!」
寝ている頭に桶で水をかけられたのだ。怒らない奴がどこに居ようか。
だが、外は日が昇りきっていた。
マリンも心配そうにこちらを見つめている。
ミツクビを咎めない様子を見ると、”死んだように眠っていて起きませんでした。”
という現状すべてを物語っていた。
必要とは言え、昨日もアーツを使ってしまったのだ。きっとその反動だろう。
飛び起きて廊下を見ると、さらなる理由がわかった。
切り刻まれた男性の胸像・・・いや、立体的な絵画。
つまりは、マリンと同じ”似顔絵”を持っていた人間がもうひとり泊まっていたのだ。
それもついさっき襲われていたものだから、私を起こしに来た。ということだった。
切り刻まれた絵画はブスブスと焼け焦げているあたり、ミツクビがやたらめったらにアーツで引っ掻いたのだろう。
やいやいと振り回しただけで肉体が焼き刻まれるなんて、改めて見ればかなり物騒な代物だと思い知らされる。
・・・他人のことは言えないが。
襲われていた男性「は・・・わ・・・。」
どうやら、目の前で起こったことに気が動転しているようだ。
だが、以前から出ていたとされる異常者―――奇声を上げて笑っていた女とは関係はないようだ。
ブリンクがなだめると、男性は落ち着きを取り戻した。
深呼吸をさせ、何が起こったかを尋ねた。
しかし、新たな情報が得られることはなく、マリンが体験したことの焼き増しだった。

麗「・・・で?すぐにはここを発たずに、そのアーツの所有者をとっちめに行くと?」
番長は即座に頷く。
番長「元々は悪人を殺しながら旅をする予定だった・・・。
マリンを連れていてもそれは変わらないだろう。
まぁ、できれば人殺しはしたくはないが、これだけのことをする奴だ。
両手を挙げて腹を見せられても許す道理はない。
私の本来の目的であった、”100人殺害”はとりあえず最終手段として棚の上に置いておいて、
私はこの事件の元凶を、”私のものだけではない正義”に基づいてこの表沙汰平穏な街から取り除きたい。
せめて・・・せめて街の端の闇に追い返してやるまで放ってはおけない。
この気持ちはわかってくれるか?」
一同は銘々の心持ちで頷く。
サクリファイス「これを放っておく自警団がいるかっての。なあ?」
麗「だな。」
ミツクビ「当たり前だニャン!!」
ブリンク「私も、善の意の下に力添えできるのであれば。」
マリン「・・・・・・うん。うん。」
戸惑いながら頷くマリンの頭を番長が撫でる。
番長「大丈夫だ。お前にだって役割はある。
ちゃんとその絵描きを見つけてもらわないといけなからな。
”みんなで”この事件を解決しよう。」
マリン「・・・・・・!!うん!!」

マリン=クイールという少女。
彼女は孤独だった。
一人ではなかったけど。孤独だった。
母は産まれてすぐ居なくなった。
殺されたのか?身を売ったのか?それすらわからなかった。
すぐに戦地に赴いては傷だらけになって帰ってくる父を、迎えては送り出す。
ただそれだけだった。
近くに子供はいなかった。
あいにくと男児ばかりが生まれ、兵として売りに出され、残されたのは兵器を作る工兵ばかりであった。
父は帰るたび、敵兵をやっつけてやったぞ、と、胸を張って武勇伝を語った。
彼女は父があまりにも無邪気に語るものだから、笑顔を作っていた。
本当は、人殺しを自慢げに語る父親が大嫌いで、その父の力になれない自分のことも大嫌いだった。
だが、そんな明るい父も嘘だった。
彼は、母なき娘を悲しませまいと、帰ったときは精一杯気丈に振舞った。
互いに気づいていたのかもしれない。
互いにわからないふりをしていたのかもしれない。
ただ、帰るたびに生傷を増やす父親に対して、彼女は
「痛いの痛いの飛んで行け」
とまじないをかけて送り出していた。
この心の痛みさえ、どこかへ飛んでいってしまえばいいのに、と。
次第に戦争は劣勢になってきた。
それでも彼女らの嘘の平和は父が守った。
どんなに辛くても、どんなに痛くても、どんなに仲間が死のうとも、どんなに無茶な指令が降りようとも。
だが、それも限界だった。
敵の戦線は文字通り目と鼻の先に迫っていた。
マリンが住む小さな家。
父は息を切らして駆け込んできた。
本当は逃げて来た。
本当は隠れに来た。
本当は追い詰められて来た。
だけど、「ただいま」と言った。
でも、そこで嘘は瓦解した。
毎度のことながら傷だらけ、加えて顔は青ざめ、震えている父。
そして、屋外から鳴り響く銃声。
わかっていたんだ。
こうなるって、きっとこうなるってわかっていたはずなんだ。
まったく上手な現実逃避だ。
マリンは精一杯涙をこらえて、父親を家の奥のベッドに座らせた。
間を置かずしてドタドタと、重く汚い足音が、乱雑に平和だった世界を細切れにする。
向けられる銃口。
逃げ道がないことはなかった。
後ろの窓、そこを破って出ればイチかバチか。
だが、それをするには誰かが囮になる必要がある。
マリンはそれを知っていた。
だから、自分はテーブルの椅子に、父は部屋の奥のベッドに座るように仕向けたのだ。
終わりを告げる。
平和だった世界は。
嘘つきでも幸せだった世界は。
守り続けてきた、たった一つの心の寄り代が―――。

そんなマリンにとって、この街はひどく幼い鏡だった。
ただひとつ違う事があるとするならば、
たとえ嘘であっても、人殺しに胸を張ったりしない、真実の姿を見ていたことだった。