DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.18 煌びやかな冥界の香り

芸術の街 ホログリフ。
様々な魂たちがそれぞれの貌(かたち)を表現し合う色彩豊かな賑わいを持った街。
人が多いので、一応マリンはだれそれに付け狙われないようにフード付きの外套を着せることで話がまとまった。

麗「しっかし目がチカチカするな。こんなにひとまとまりにしちゃあ一歩間違えれば変人奇人の集会だろう。」
麗は訝しげな顔で目線を伏せる。
だが、そうしているのは彼だけのようだった。
サクリファイス「そうか?俺はこういうの好きだけど。
細かい作業とか、物作りとか、嫌いじゃないぜ。」
ブリンク「活気にあふれていて、いいと思うのですがねぇ。」
ミツクビ「そうニャン。賑やかなのは好きだニャン。」
麗「~~~~~っ・・・。」
納得がいかない様子で町を歩いていると、番長が会話に参加してこないことに気がついた。
麗「なぁ、お前はどうなんだよ。こういうの、好きか?」
番長「・・・。」
考え事をしているのか、眉間にしわをよせて、ずっと前を向いたまま呼びかけに答えない。
麗「お~い。」
番長「・・・・・・。」
麗「どうした、体調でも悪いのか?」
そこまで言って、睨み返される。
番長「本当に呑気なんだな・・・。」
麗がキョトンとした顔をしたことを確認すると、やはりな、といった表情でため息をついた。
番長「この街ははっきり言ってクリン・トラストよりも危険だ。
どこにもかしこにも殺気の袋小路が出来ていて、人気から離れるとこの町の闇に飲まれるような構図になっている。
まぁ、簡単に言うと、ここは溶岩の海の上の小島というところか?
いや、お前らは殺気を感じ取れないのだから硫酸のほうがいいかな?
どちらにせよ奈落に落ちるような念仏を唱える時間なんて無いまま呑まれると考えたほうがいい。
いいか、寄るところは必ず”賑やかなところ”だけにするんだぞ。
なに、そのほうがミツクビたちも喜ぶわけだし、一通り街の構造を把握したら人気の多い宿を選んで一泊して、
そんでさっさとこの街から離れればいい。」
マリン「ここ、危ないの?なら、居たくないよ。」
ずっと番長のYシャツの袖を掴んで歩いていたマリンは小さな声で会話に割り込む。
番長「フフ、外よりは安全さ。
この街は、逆に言えば賑やかな場所が”安全地帯”なんだ。」
マリン「あ・・・。」
番長「気づいたようだな。そう、外には安全な場所なんてどこにもないんだよ。
外では危険をいち早く察知するためになるべく行動は日中にしたほうがいいが、時間は私たちを待ってはくれない。
だから、なるべく多く太陽の光があたる時間を確保するために、ここで一度休んで、早朝から次の街を目指そうというわけだ。」
麗「息抜きも必要だしな。」
マリンは少し視線を上げる。
子供からすれば、ここはおもちゃ箱をひっくり返したような街だ。
幼くして亡くなった命は少ないものの、まばたきするたびに、瞼の裏にははしゃぐ子供が浮かぶような雰囲気だった。
しかし、彼らの耳に入り込んだのは、汚い奇声じみた笑い声。
どこを見つめているのかわからなく、だらしなくヨダレを垂れて、笑っている女がいた。
周りからは、「またか・・・」「かわいそうに・・・」「気持ち悪・・・」「今度は女か・・・」
といった声が漏れ出していた。
番長「なんだアレ・・・もしかしてこっちの世界にもやばいクスリってあるのか?」
ブリンク「いいえ、こちらの世界はそんなものがなくたって何不自由なく暮らせるので、可能性は無いも同然かと。」
サクリファイス「だとすると・・・。」
番長「この街の闇が少しずつ安全地帯を侵食してきている・・・。」
ミツクビ「でもおかしいニャン・・・。」
麗「いや、でももなにもどう見たっておかしいだろ。」
ミツクビ「そうじゃないニャン・・・あの・・・その・・・。」
気難しそうに前髪を何度か手櫛したあと自信なさげに呟いた。
ミツクビ「変なクスリの類での”気持ちいい”感じじゃなくて、なんか、”嬉しそう”・・・だったニャン・・・。」

番長は殺気の他に考えている重要なことがあった。
この世界から逃れる――もとい生き返る方法。
現時点で提示されている方法は、100人殺す、もしくは”星の戦士”のもとへ行き別の手段を教えてもらうこと。
気に掛かるのはどちらも前例がないこと、そして、その他に方法はないのかということ。
”星の戦士”がどういう人間かわからないことにはマリンを突き出すことに対して気が進まない。
なんとか説得して連れ出したはいいものの、彼女自身、殺さなければそれでいいのかと迷っていた。
もちろん、100人殺して復活なんてのはゴメンだ。
たとえ殺したすべてが純粋悪だとしても、贄を供えた命に何の意味があるだろう。
千代にあんなにされるまで、都合よく贄(それ)を受け入れていた自分が恥ずかしい。
罪やら生きることへの固執やらの道理なんて関係ない、生き返ったあとの人間としての”後味”。
善か悪か、そんなことを考える前にちゃんと胸を張れるような生命であるか。
それで、来た道も踏まえてたった今、存在している自分が納得できるのか。
だから、千代は”殺させない”ことにこだわったのだろう。
だが、それが逆に”殺し合うならいっそ全て破壊してやる”と言わんばかりのアーツを持ってしまったわけだが。
それはともかく、人を殺そうが、マリンを渡そうが、”後味”が悪いのには変わりはない。
千代が目指すような、ご都合主義とも取れるようなクリーンな方法はないものなのだろうか?
そんな夢物語のような疑問が、彼女を悶々とさせていた。

一方でサクリファイスは番長のことについて考えていた。
・・・というよりかは彼女の持つ特異な能力、”超常現象”についてだ。
この世には生前の世界と同じように”現象エネルギー”があるということを番長は話してくれた。
生命力はその中でも実にオーソドックスで、準備しやすいものだという。
何と無しに口走っていたが、余った生命力を瓶詰めできるような技術があれば
”即席超常現象(インスタントロウブレイク)”という簡易的な発動ができるらしい。
どうせやっても劣化版だし、そんなことは考えないほうがいい、そう釘を刺されたが、
この世の全ての現象のひとつを選び取って再現するなんていう芸当、使わないなんて考えるほうがおかしい。
サクリファイス「血液みたいに形があればいいんだけどなぁ・・・。」
生命力に形を与える技術――途方もない話だが、彼は彼なりに道中を楽にしようと思案していたのだ。

ミツクビ「ムニャア~、見てニャン見てニャン!!
この人形もらったんだけど可愛いニャン!!」
サクリファイス「見てくれよ、このブローチ。作りが細けぇだろ。きれいだよなぁ。」
マリン「お姉ちゃん、似顔絵書いてもらっちゃった。」
番長「・・・?お姉ちゃんって私のことか?
ってお前ら、なんでも貰ってくるんじゃない!!」
なんだかんだ楽しいもの好きの一行は街を満喫していた。
麗「マリン、お前はあまり俺たちから離れちゃいけないじゃないか。」
浮き足立った雰囲気の中、一人で画家のもとへ行っていた彼女を叱った。
マリン「いいじゃん、賑やかな通りは安全なんでしょう?」
番長「私は心配だから目を離さないようにしているが?
自分がするべきことをしてから叱るべきじゃないのか?」
番長が考えるに、最初は麗と同じように、近くに置いて安全を確保しておくことが大切だと考えた。
しかしながら、連れ回すことはこっちの勝手でやってしまっている手前、メンタルサポートを兼ねて、多少の自由は与えてやろうという魂胆だった。
麗「でもよぉ、いつさらわれるかわからない身だってことを自覚してるのか?」
わざと声を小さくして迫る。
マリン「でも、あのおじさん何もしなかったよ?」
麗「それは結果論だろ!!」
番長「まぁまぁ、こいつは生前、戦争の中で生きたんだ。
子供らしいことがひとつもできなかったはずだろう。ワガママくらいきいてやれ。」
麗「・・・・・・ぁ。」
次に繰り出す言葉を失う。
生前は死に怯え、死んでからは追っ手に怯えていた、そんな少女。
麗「そんなの反則だろ・・・。」
文句を言いつつも、もう詰め寄る気はなかったようだ。
番長「さ、日没までもう少しある。
ミツクビたちのところにでも行ってみたらどうだ?」
マリン「うん!!お姉ちゃんだいすき!!」
出会った頃の冷たい表情の面影など見せぬほど明るい笑顔で駆けていった。

マリン「・・・?」
似顔絵が、前より少し笑っている気がした。