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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.15 王たる領域は不可侵

到着した王室の前、扉は開いていた。
だからといって迎え入れているという雰囲気は感じず、番兵が柱に張り付いていて重苦しい雰囲気を放っている。
だが、なぜか番兵はピクリとも動かない。
心音は聞こえるのに動こうとしないのだ。
王には微動だにすることも許さぬ強さがあることを現しているのだろう。
扉の向こう、玉座の前には王がミツクビを両腕で抱えて立っていた。
サクリファイス「ニャンコ!!」
彼は声を張り上げ駆け寄るが、ミツクビは気を失っていて返事をすることはなかった。
麗「なんでミツクビがここにいるんだ!!?」
事情を知らない麗と摩利華、そして枷檻は戸惑っていた。
番長「悪いが、説明している暇はないようだ。」
国王はこちら側に歩いてくる。
だが、目線は扉の向こうだった。
まるで、そこに誰もいないかのようにゆっくりと歩く。
番長は銃を発現させ、王の脳天に向ける。
番長「オイ、勇者様御一行の登場だぜ?魔王は”よくぞここまで来た”と褒めて迎えるもんじゃないのか?」
だが、王は気にもとめない。
目線すらも向けない。
サクリファイス「この野郎舐めやがって!!」
激昂したサクリファイスの眼球は全体が薄緑色になり、腕からは小さい緑の刺が服を食い破って複数隆起し、唇の端が牙のように鋭くなり硬くなる。
これがサクリファイスの生前の姿を模した、”カマキリ”の姿だ。
鎌を発現させ、王のもとへと接近する。
枷檻「まて!!罠かも知れない!!」
静止しようとしたがもう遅かった。
サクリファイスの四肢はボロボロに崩れ、石灰のようになってしまったのだ。
サクリファイス「なんだ・・・これ・・・?」
国王「邪魔だ。虫けらよ。」
傍らにミツクビをそっと置き、床を殴る。
殴った場所から亀裂が進み、サクリファイスの下にもぐるように割れた。
そして、その亀裂は口のようになり、大きく開いたのだ。
すかさず枷檻がアーツを発現させ飛んでゆき、落ちそうになったサクリファイスを抱えて戻った。
千代「そんな・・・めちゃくちゃだ・・・訳がわからない・・・。」
王は再びミツクビを抱え上げ、何事もなかったかのように閉じた床の口の上を歩き始める。
番長「そんな態度を続けられたんじゃあ、流石の私も頭にきたぞ。」
番長は唾を飲み込み、弾丸を放つ。
だが、弾丸は自らの螺旋に削られて砂になってしまった。
番長「な・・・に・・・?」
その間、王は眉ひとつ動かさなかった。
能力が最強であると知っていて、絶対の自信がある。
そういった覇気を放っていた。
策を弄すればどうにかなる今までの戦いとは訳が違った。
近づいた敵はだれそれどれこれかまわず塵と化してしまう。
圧倒的恐怖。
王の絶大なる力にこの空間が支配されていた。
麗「個体がダメなら気体で・・・グハァ!!」
麗はアーツで風の刃を練り上げようとしたが、腹の傷の出血が激しく思うように行かなかった。
誰が何を尽くしても、体をもろくしてしまう能力に立ち向かえるものなどなかったのだ。
番長は王の進行を阻害するべく、弾丸を床に放って進路を塞ぐ。
番長「まてよ・・・姫がいなくなってご乱心だったんだろ?今すぐ争いをやめさせてくれよ。」
千代「それと、思想の統制をやめて・・・誰もが心豊かに暮らせる国づくりを目指して欲しい・・・。」
立ち去ってしまう前に言いたいことをぶつけては見たが、空気に話しかけているようなものだった。
王は崩れてデコボコになった床の上を器用に渡り、王室を出ようとする。
千代はクロを発現させて殴りかかろうとしたが、その拳もバラバラになってしまった。
摩利華「接近戦は通じない、弾丸も通じない、精神体の攻撃も通じない・・・みんなそれぞれ考えて解決しようとしてくれていますわ・・・。」
彼女の頬には涙がつたっていた。
摩利華「なのに・・・それなのに、なんで私はいつもあしでまといなのよーーーーー!!!!」
悔し涙。全くの無力。力無きものの悲しみ。
彼女は王の前に立った。
枷檻「まずい!!あれ以上近づいたらボロボロにされるぞ!!」
それは彼女の「決意」。
粉骨砕身して戦い抜いた仲間への献身。
千代と枷檻、番長の心を支え続けてきた母なる愛の証。
彼女は、死後の世界に持ち込めていなかったはずの、生前に愛用していた日傘をさしていた。
体からは煙が出ている。
いや、煙ではない。
天井に滞留したそれは、”雲”。
次第に部屋は薄暗くなり、雨が降り始める。
雨をしのげるのは摩利華だけだったので、全員に雨が降りかかる。
その愛は重く全員にのしかかる。
王は膝をつく。
仲間も同様に崩れ落ちる。
摩利華が発現したのは、浴びれば浴びるほど体が重くなる雨と雲のアーツ。
像は傘、存在自体が麗しき慈愛、その前に誰もが跪く。
雨は床の割れた隙間から下の階に漏れ出していた。
国王「そんな・・・馬鹿な・・・?」
摩利華「まずはゆっくりとお話しましょう?・・・この紛争の顛末を教えてくださいまし。」

王は生前、一国の兵士であった。
誰かに付き従い、命令に倣う。
それしか知らなかった。
そして、風吹きすさぶ戦場にて、名誉の死を遂げたのである。
彼の魂がこの世界に墜ちたとき、いくつもの同じ境遇の魂が同じところに墜とされた。
その魂たちは、主を失い、目的を失い、誇りももう必要がなく、光を失った目で遠く生死をまたいだ世界の向こうの我が国を仰いでいた。
彼はその哀れな姿に心を痛め、誰かが導かねば、いいや我こそがこの糸の切れた傀儡どもを牛耳り、独裁し、導かねば生きて残った者が報われぬ。
そう思って、光を失った兵の前に立つことを決めたのだ。

王には絶対的な強さを持つ能力があった。
自ら割った亀裂を口に変える指輪の「決意」のアーツ。
無機物にさえ感染する、物体を脆い石灰岩に変えてしまう菌の「覚悟」のアーツ。
その力を以て、彼は自らの望みであった独裁をやってのけたのだ。
だが、彼はある日自らの弱点を知った。
敵の攻撃の正体が気体なら、元から形がないために崩そうとしたところで無駄だということだ。
だからこそ、苦難を乗り越えてきた、かつ自らの前に立つことのできる強力な遺伝子を欲していた。
自らにさえ打ち勝つことのできる遺伝子を――――。
王は幾人もの猛者を城に招いては自らを実験台として戦い、塵にしていった。
だが、ミツクビはその異常な行為の流れを塞き止める者となった。

ミツクビは生前、疫病の象徴として恐れられていた。
その噂を聞いた王はこれよしと城に招いた。
だが、ミツクビの実態は王の考えとは真逆だった。
王はうっかり、疫病はミツクビが起こすものだと思っていた。
しかし、実際のミツクビは”天敵から身を守るために疫病のある流れをたどっていた”のだ。
そのためにミツクビにはどんな菌やウィルスにも感染しない強靭な免疫があったのだ。
それが、王の前に立てた理由だった。
王はその人知を超えた環境適応能力に虜になって、ミツクビとの子孫を残そうと決めたのだ。

しかし、ミツクビは突然失踪。
その上、街には国民の心を強く揺さぶる異端児・・・藤原千代が訪れ、独裁は音を立てて亀裂を広げ始めていたのだ。
自らと同じ思想を持つ者だけで国を再建しなければ。
そう思った王は気が狂ったように兵を争わせ、思想違反者をふるいにかけたのだ。

摩利華「・・・なんて身勝手なのでしょう・・・。」
国王「・・・・・・。」
摩利華「心を説かずに縛り付けた。
あなたの心にはきっと、情けはあっても愛がなかったのでしょうね。」
たったさっきまで国を見下していた王は、哀れにも流れの民に跪き、蔑まれていた。
そこにいるのはもはや王ではなく、ただの罪深きひとりの男であった。
麗「オッサン、遺言するなら今のうちだぜ。」
国王「・・・・・・ひとつだけ願いがある。」
摩利華「なんですの?」
国王「今この私を殺すなら、ミツクビと一緒にいてやってくれないか?
彼女は、生前はとても孤独だったと聞く。
清く麗しい乙女だ・・・暖かく見守ってやってくれないか。」
サクリファイス「テメェみたいなDV夫よりはましな世話しといてやるよ。
だが、ニャンコはキマグレな猫だ。
自分の意志で強く生きるから、テメェなんかに心配される筋合いはないと思うぜ?」
国王「そうか・・・。」
番長「・・・懺悔は済んだな?」
国王「・・・もう動けやしない・・・運命の意のままに・・・。」
流れる雨水が赤く曇った。

屋上に上がり、彼女らは旗をあげる。
高らかな勝利宣言。
すべての兵士は武器を投げ出した。
乾いた風の吹く空の下、衛生兵の治療を受けながら空を仰ぐ。
サクリファイス「とうとうやってのけちまったぜ・・・。」
麗「ハインツとブリンクじいさんは無事だろうか・・・?」
番長「城を降りれば直ぐに会えるさ。」
晴れ晴れと広がる空は、彼女らの心を映し出すように透き通った青だった。