DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.11 進め!!支援遊撃部隊最前線

敵兵「”ダンプ・ビースト”!!」
城に入った途端に手厚い歓迎が視界を覆う。
頭はリボルバー、体は黒犬。
図体がでかく、上を向けば二階の天井にぶつかってしまうため、吹き抜けになっている中央ホールで使うしかなかったのだなと解る。
異形犬「ガルルルルッル!!」
入口にいる一行に向かって人間の胴体ほどの大きさもある火炎弾を撃つ。
枷檻は摩利華を抱えて蒸気のアーツで飛び、麗は風のレールで素早く回り込む。
避けきれない番長のためにサクリファイスは直撃を食らって盾になった。
麗「大丈夫か!!お前ら!!」
サクリファイスはボロボロだが、吹き飛ばされてはいなかった。
サクリファイス「ま、見た目通り”火”だったわけだから、”水”の俺は割と平気よぉ。」
もちろん、平気とは言いつつもしっかり火傷はしている。
サクリファイス「次からは食らってやらねぇぜ!!」
唾を吐いて鎌を出す。
武器を出すのに条件が必要なのは、不便で面倒なものである。
”水”のアーツであるサクリファイスの鎌は、かろうじで敵の火炎弾を切り裂くことができる。
巨大な分、逆に的が大きく、切り裂くことができる。
だが、それが限界だった。
余りにも巨大な敵に、属性の枠を超えて不利になってた。
なにかがおかしいと感じつつも、ここは勝つことを考えるのは無謀だと判断した。
番長「銘々に一番近い扉から奥を目指せ!!たどり着く場所は同じだ!!」
右の通路からは枷檻、摩利華。
左の通路からは麗が侵攻することになった。
千代を抱えて走る番長をかばいながら、サクリファイスはジリジリと犬の近くへ迫る。
目的は股下の階段、そこを上がった先の扉である。
噛まれぬように踏まれぬようにとしたかったが、あいにく番長に向けてヘッドバッドがかけられる。
異形の鉄筒が頭上に迫る。
仕方がないので、千代を足元に落として鉄筒を両手で受け止める。
サクリファイス「番長ッ!!」
番長「間抜け!!今が隙に先に行け!!」
この状況はまずいが、心配したりされたりしている場合ではないのだ。
猛獣の鉄槌を受けたその全身には壊れそうなほどの激痛が走る。
が、攻撃を仕掛けてきたのが頭だったため、継続して圧力をかけられることはなかった。
番長が耐えている隙に、サクリファイスは異形犬の右後ろ足の腱を切りつけ、バランスを崩しにかかった。
右によろけた異形犬の頭をさらに右に押し付けて、ぐらつかせたところで千代を抱え上げ、股下を抜けた。
番長「畜生、まだ目覚めないのかコイツ・・・!!」
気を失っている人間の体は、持ち上げられるときの態勢を取っていないために通常より重く感じる。
それが番長を苦しめていた。
遅くなってしまったことが災いし、異形犬は振り返る。
だが、番長は股をくぐる前からやることを決めていた。
扉の前にはサクリファイスが待っている。
なぜなら、扉は当然ながら施錠されていて入ることができないのだ。
番長「そこで待て!!」
サクリファイス「言われなくても下手に動ける状況じゃないだろ!!」
扉の前に二人は立つ。
異形犬は多少ぐらつきながらも頭をこちらに構える。
番長「まだだ・・・合図で散れ。」
サクリファイスはここでようやく、番長の思惑を理解した。
慎重に息を整える。
火炎弾が射出される。
番長「・・・今だ!!」
二人は左右に分かれる。
直進する火炎弾は扉を粉砕した。
サクリファイス「そのでかい図体じゃあこれ以上おってこれないな!!あばよう!!」
破れた扉の奥へと急ぐ。
敵兵「そうはさせるかよ!!”トリック・ペンデュラム”!!」
ふっと犬は姿を消す。
サクリファイス「次の手が来るぞ!!」
番長「わかっている!!」
だが、直ぐに何かが来る気配はない。
番長「・・・・・・?」
走りながらも周囲を気にするが、トラップなどは見当たらない。
もう一度振り返る。
すると、そこにいたのは、廊下サイズに小さくなった異形犬であった。
馬ほどの大きさに縮んでいて、その背に敵兵二人が乗っている。
ところかまわず火炎弾を吐き散らして、廊下を蜂の巣にする。
サクリファイス「まずい!!これじゃあ防げねぇ!!」
逃げ惑うサクリファイスに対して、番長は敵に向き直る。
番長「自ら弱くなってくれるなんてな。ありがたいぜ。
まさしく今が、”いざという時”だな。」
番長はすかさず弾丸を放つ。
異形犬は身をかわすが、それは計算済み。
狙っていたのは犬を小さくした方の、後ろに載っていた兵士。
弾丸はその兵士の頭を捻って四散させ、能力を解いた。
元々の大きさに戻った犬は狭い廊下につっかえてしまう。
番長「最初っから”勝てる”って思っている奴には負けねぇよ。」

一方で、枷檻と摩利華は薄暗い部屋にたどり着いていた。
どうやら書庫のようだ。
枷檻「馬鹿みてぇに広い割には明かりがすくねぇなぁ。」
摩利華「やっぱり千代ちゃんがいないと不安ですわ・・・。」
そう言って枷檻の腕にしがみつく。
枷檻「私ってそんなに頼りねぇか?」
摩利華「いいえ、いざという時に胸に飛び込めないのが不満なだけですわ。」
枷檻「飛び込める胸がなくて悪かったな。」
あまりのくだらなさにため息をつくが、この明るさが枷檻や千代を支えてきたのも事実である。
しかし、それ以上にこの書庫は嫌に静かで不気味で僅かに湿っている。
摩利華「こんなところに本を収蔵していてはカビが生えてしまいますわ。
まったく・・・賢人たちが遺した書物をなんだと思っているのかしら。」
その時、一筋の鋼色の光が目の前を駆ける。
鈍い金属音を立てて本棚に突き刺さる。
黒い鎧「少し右・・・それた・・・当たらず・・・。」
黒き鎧を纏った兵士は枷檻たちから逃げようと走り出す。
枷檻「待てッ!!”ラバーズ・ハイスチームモード”!!」
爆発するような蒸気に本棚はミシミシと音を立てる。
両腕には大きな穴ボコガントレットをつけている。女の子らしいピンク色だ。
ガントレットと腕の間にある管から蒸気を射出する。
白い煙を吐いて突進する姿はさながら、ロケットのようだ。
黒い鎧の兵士は書庫には似つかわしくないカラーコーンのそばで停止していた。
枷檻「食らいやがれ!!」
加速して威力が増し増しになった拳が黒き鎧とぶつかり合う。
だが、重い金属音を発してぶつかった相手は仰け反ることすらせず、左手一本で悠々と攻撃を受け止めた。
そして、空いている右手には液体がたれている小刀を握っていた。
薄い黄色をした透明な液体で、血ではない。
おそらくは毒薬か麻酔だろう。
それに気づいた枷檻は直ぐにガントレットから蒸気を射出し、後退する。
敵は、既に小刀を腰の鞘に収め、先ほど投げたものと同じ鉄の針を数本もっている。
ある程度離れたことを確認した兵士は、正確な狙いで枷檻に向けて鉄の針を投げる。
枷檻も当たりたくはないので本棚の陰に隠れてやり過ごそうとした。
だが、おかしい。
さっきより離れていて威力が減っているのかと思いきや、むしろ逆で本棚の側面の板をはがした上に、振動で本を落としてきたのだ。
なんとか蒸気で本を飛ばして埋もれないようにしたが、兵士を見失ってしまった。
そこで枷檻は異様な光景を見た。
床は石のタイルの上に絨毯を敷き詰めているものだったが、本が”突き刺さっている”のだ。
普通なら、本の方が潰れてしまうはずなのに、石の方がえぐれているのだ。
だが、それ以上に枷檻には重要なことがあった。
枷檻「摩利華が危ない・・・!!」
似たような景色が続いている書庫では元いた場所がつかみにくいため、不安がじっとりと体表を覆う感覚に襲われた。
枷檻「クソッタレ!!どこが元いた位置だ・・・?」
摩利華を探して飛び回る枷檻に、またも鉄の閃が襲いかかる。
咄嗟に左腕のガントレットで防ぐが、細いそれは蒸気を裂きガントレットを貫いて左腕に突き刺さった。
枷檻「なんだこれ!!?痛って・・・強ぇ・・・。」
バランスを崩した枷檻はコーンのあたりに墜落する。
だが、不思議とそんなに痛くない。
枷檻「あんまりにも左手が痛ぇもんだから麻痺しちまったのか・・・?」
鉄の針を伝って血が滴り落ちている。
向こうからは、小刀を抜いた兵士が素早く駆けてくる。
枷檻(狙いが摩利華に向かないうちに倒さなくちゃあな!!)
枷檻は兵士に向かって全力の右ストレートを放つ。
が、今回もまた、左手一本で防がれてしまう。
小刀の一閃を痛む左手のガントレットで防ぐ。
今度は針のように通ることはなく、しっかり防ぐことができた。
黒い鎧「やるな・・・だが・・・。」
敵兵は踵を返し、本棚の方へ駆けた。
枷檻(まずい!!あの野郎、摩利華から潰すつもりだ!!)
逃さんとばかりに蒸気を吹かして兵士の背中に突進する。
振り返った兵士は、両腕で防ぎのけぞった。
枷檻「???」
妙だ。
さっきまで片手で簡単に防いでいた攻撃を、両手で受け止めたのだ。
だが、ダメージを与えられていないのは変わりなく、兵士は再び背中を向ける。
枷檻「クソッタレ!!妙ちくりんな能力使いやがって・・・!!」
まっすぐ前の道に、不意に摩利華が顔をのぞかせる。
枷檻「逃げろ!!摩利華ァ~~~!!」
再び兵士に打撃を与える。
今度は兵士が少し後ずさった。
枷檻(弱ってきてるのか・・・?)
その様子をよそに摩利華は叫んだ。
摩利華「わかりましたわ!!相手の能力のトリックが!!」
黒い鎧「ハッタリ・・・見破れるはずがない・・・。」
摩利華「いいえ、あなたは能力を見せすぎていましてよ!!
あなたのアーツはあの景観にそぐわない”カラーコーン”ですわ!!
そして、能力は”コーンの位置から離れるほどに威力が強くなる、反対に近づくほど弱くなる”というメカニズムの上に成り立っていますの。
違いまして?」
黒い鎧「何故・・・何故・・・??・・・わかったのだ・・・。」
摩利華「簡単ですわ。向こうの暗がりに落ちている本は石畳に突き刺さっているのに、こちらの本は石畳を貫いていない。
上空で受けた針はガントレットを貫通するのに、振るった小刀では傷をつけることさえかなわない。
それを性質上、きっとその刀には毒薬か何かが塗ってあると思いますわ。
少なくとも、近くで殺すならパワーの関係ない殺し方をしなくてはなりませんから、そのような用意が必要だと推測致しますわ。」
黒い鎧「だが・・・わかったとことで・・・勝てやしない・・・!!」
枷檻「へへッ、どうかな?」
枷檻はすぐさま飛んで、右腕に摩利華を抱えるとコーンから遠ざかってゆく。
黒い鎧「ふん・・・鉄芯の・・・餌食にしてくれる・・・!!」
どこから出したのか、手にはずらりと鉄芯が並ぶ。
枷檻は角を曲がり、一旦敵の視界を逃れた。
黒い鎧「その程度・・・地の利があれば・・・問題なし・・・!!」
正確に枷檻のいる本棚の間に向かう。
枷檻「オラァ!!」
同時に、枷檻は全力で本棚を揺らす。
黒い鎧「小賢しい・・・!!」
枷檻「おっと、お前の速さじゃ間に合わないと思うぜ?
この本棚の本は、私がしっかり湿らせておいためちゃくちゃに重たい本だからな・・・!!」
コーンのアーツで威力が増されたびしょ濡れの本は、流星群のようにタイルを叩き、黒き鎧を粉々に砕いた。
そのまま気絶したのか、残りの本は普通の威力でバサバサベチョベチョと落ちていった。
黒き鎧が剥げた兵士は、美しい金髪を携えた少年だった。
摩利華「止めは刺さないの?」
兵士を放って立ち去ろうとする枷檻の背中に問いかけた。
摩利華「まさか好みだったの?」
枷檻「いいや、あのきれいな髪に血つけてやるのは可哀想だと思っただけだよ。」
摩利華は靴下を脱いで駆け寄る。
摩利華「止血がまだよ。」
枷檻「へへっ面目ねぇ。」
暗がりに、再び静けさが訪れた。