DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.10 眩しすぎた太陽

ウロボロスの環。
それは絵に描かれたときは自らの尻尾を噛む蛇の姿を描かれる。
永遠にたどり着くことのない結末。
堂々巡り。無限の矛盾。
千代は人を殺すことを否定しておきながら、仲間を殺されることを仕方ないと目をつむった。
しかし、仲間の命が尊いと自分の考えを曲げるのなら、番長のように仲間を殺すものをどうにかしなければいけない。
その自己矛盾が彼女のこのチカラを生んだ。
相手を白い結晶のカラに包み込んで、強制的にクリスタルに還元させる能力。
それは相手にとっての生命の終わりで、いずれ誰かの体の一部となってまた息吹を上げる。
穢れなき真白の結晶は生命を失わせずに循環させ、決して解決してなどいない矛盾を逃避する傍迷惑な我儘なのである。

千代「あんたなんかがいるから迷うんだ!!あんたなんかがいるから悩むんだ!!
私は間違ってなんかいない!!間違っているのはあんたの方だ!!」
番長は次第に輝く白に包まれていく。
煌く金環、遮る闇は番長。
あまりの光に次第に影ができなくなってゆく。
その中で、番長はいつもと変わらぬ粗振りで銃を構えた。
番長「あのなぁ、お前の考え方は生前の世界なら正解さ。
でも、この世界では違う。
お前は人が憎んだり、傲慢したり、差別したりするから争うと思うんだろう?
だが、この世界で人殺しが起きる理由はそこにはない。
”生き返りたいから殺す”。
これには誰がなんと言おうが諦められない目もくらむような魅力があるんだ。
理由だとか理屈だとか、そんなんじゃ語れない。
ただ生きたいという人間の本能なんだ。
だからこそ、その”生存競争”に負けないように自分の命を守る。
自分の命を守るために敵を殺す。
そう、殺すといったらお前は罪を背負うことも嫌がったな。
だが、お前は知り合いみんなと同時に死んだわけじゃないだろう?
だれかの記憶に残ったまま先立った。
それは誰もが抱える罪なんだよ。
そして人間は動植物の命を奪い食べる。
命が平等だと謳うのならば、それさえも重い罪なんだ。
さらにいえば、生きることも罪かも知れないし、人殺しなんてほんの端くれだってくらいに無意識下の罪はついてまわるっていうもんなんだぜ?
人を殺さぬことも、罪を背負わぬことも、この世界では適わない事なんだ。
だからなぁ、テメェのやってることは幼稚な気休めの自己満足なんだよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
結晶に弾丸を撃ち込む。
とても硬いその結晶は弾丸が入り込むことを許さず、弾丸はまるで壁に張り付いたコマのようになっている。
番長「ねじれろ・・・。」
弾丸はガリガリと表面を削り始める。
だが、まだ浅い。
番長「捻れろ・・・・・・!!」
徐々に弾丸がめり込んでいく。
番長「ねじれろおおおおおおおおオオオオォォォォォォォォォォぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
ビー玉をこすり合わせたような不快な音を立て、結晶にヒビが入り始める。
番長「まだだあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
ギチギチと捻れてゆき、ヒビが大きくなったかと思ったとたんに螺旋に結晶は飲まれてゆき、細かい粒子になって炸裂した。
カラには、大きな風穴が空いた。
風穴のむこうから、千代は襲いかかる。
千代「――説教はもううんざりよ!!」
そう叫んで力いっぱいの拳を振るう。
番長はそれを悠々と受け流した。
千代は自らが作った結晶に突っ込む形となった。
番長「正気に戻った時点で理解してたんだろう?」

衛生兵が皆既月食の餌食になった兵士の治療に当たっている。
結晶は全て塵となって消えていた。
ブリンクは即席で植物のドームを作り、麗たちや枷檻たちを匿った。
番長と千代は、精根尽き果てて気を失っている。
体自体は千代の常備しているクリスタルでなんとか快復しているが、意識だけが戻らない。
麗「妙だったな・・・。」
神妙な面持ちで口を開く。
サクリファイス「何がだ?」
麗「以前は10発ちかく撃てた弾丸が、今回は3発で手一杯。
道中の宿でクリスタル治療をしたわけだから、前よりコンディションはいいはずなのに・・・。」
ハインツ「気が立っていたからではないですか?
ハーツ・アーツは心の武器・・・心が乱れればチカラも乱れるかと・・・。」
ブリンク「発現してまだ少ししか経たないわけですから、体に馴染んでいないだけかと思いますがねぇ・・・。」
サクリファイス「だぁ~っ!!憶測並べてどうすんだよッ!!
本人が目を覚ましてそんときの状況とかを聞いてから考えるべきなんじゃねぇのか!!?」
摩利華「そんなことより大変なことがありますわ。」
乾いた声が空気を裂く。
摩利華「今、千代ちゃんが暴走してしまったせいでせっかく取り戻した門の前が手薄になっていますわ。
自分勝手だということは百も承知ですが、彼女らが目を覚まさないからといっていつまでもここにいるわけにはいきませんわ。」
もっともな意見だった。
自分らの安全を確保すればいい、という話ではないのだ。
枷檻「私は今すぐにでも突っ込みたいが、お前らはどうするんだ?」
摩利華「どうか、私たちのわがままを受け入れて欲しいですわ。」
サクリファイス「へっ、馬鹿らしい。
そんなこといちいち確認しなくたって答えは決まってる。
行くぞ。俺たちはもう仲間だ。」
麗「目覚めないんだったら、抱えてでも行く。
それでいいだろ?」
枷檻「へへっ、そう来なくっちゃなぁ。」
ブリンク「茶化すようで申し訳ございませんが、ひとつ聞きたいことが・・・。」
摩利華「どうなさいましたの?」
ブリンク「あなた方が地下室に残っていたとき、ミツクビさんが訪れませんでしたか?」
枷檻「???」
摩利華「誰も訪れてはいませんわよ?」
サクリファイス「なんだって!!?じゃあアイツはどこに行ったんだ!!?」
麗「ま、マジかよ・・・それじゃあブリンクじいさんとハインツはミツクビの搜索にあたってくれ、安否が危ぶまれる!!」
ハインツ「承知しました。城外からご武運をお祈りします。」
番長「う・・・ん・・・。」
そうこうしているうちに、番長は目を覚ます。
番長「こ・・・こは・・・?」
枷檻「さっきとあんまり変わらねぇ場所だ。
今から城に突っ込むが、大丈夫か?」
番長はヨロヨロと立ち上がり応える。
番長「問題ねぇ。ちっと寝ぼけ眼だがな。」
そう言うと、番長は千代を持ち上げる。
番長「まともに戦えるようになるまでは、お姫様のお守りをしているよ。」
ゆっくりと植物のドームは開き始める。
本当にやるべきことを収めにゆくために、彼女らは再び戦い始める。

ミツクビは城下町にはもういなかった。
もちろん仲間たちはそんなことは知らないが。
秘密の地下通路を使ってミツクビは城の内部へ向かう。
はしごを上り、重い鉄蓋を開けると、大臣の部屋へと続いていた。
大臣「”おかえりなさいませ”、”姫”。」
ミツクビ「”久しぶり”だニャン、”大臣”。」
彼女は仲間が仲間から離れたのは、キマグレでも何でもない。
全ては自らの因縁を晴らすために――――。

王は絶対なる強力な能力と、市民の選別によりこの街を完成させた。
この街には彼を狂信し従うものしかおらず、それどころか選び抜かれた人間は従うことしか知らぬ人間であった。
――はずだった。
だが、支配をしていた王とは正反対な聖人のような医者、千代が来訪したことによりその街の支配は瓦解した。
王はいずれはそうなるであろうと確信していた。
だから、さらに強力な次なる王を・・・子孫を必要としていた。
どんな者が訪れようとも、王自らの手でそれを滅ぼすことができるようにするために。
しかし、子孫は自らを超えるほど強くなくてはならない。
そんな事を思っていたさなか、絶対的な強さを誇る王のチカラを前にしても王の膝下にまでこぎつけた者がいた。
それがミツクビだ。
王はその強き遺伝子を必要とし、無理矢理にミツクビを姫君に仕立て上げたのである。
当然、ミツクビはそれを拒んだ。
それに心を痛めた大臣はミツクビを逃がし、黄金の町カインドに向かう荷馬車に隠れさせて命を守ったのである。
その一件があったために王は気が立っていて、今回の紛争がここまで激化したのである。

ミツクビは、今回の紛争は自分のせいだと、自らを責めていたのだ。
だからこその行動だった。