DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「愚者の弾丸」 EX.4 生命の秤は愚かしく

一方で、紛争は更なる局地を迎えていた。
戦地である狂信者の街 クリン・トラスト・・・そこは城と城下町によって出来た中世的な雰囲気を出す街。
今までは、その城と町を結ぶ門の前で敵兵を食い止めていた。
しかし、医者派がわの”人を殺してはいけない”という指示のせいでこちらの兵の数がいたずらに減って行き、
国王派勢力の前線は僅かにこちらにせり上がってきていた。
医者派兵士「駄目です!!これ以上半端な抵抗をしていては、相手を殺した場合よりも死者が増えるでしょう!!
どうか・・・どうか敵兵の抹消の許可を!!」
医者は首を横に振る。
命を守るために命を賭けなさい、と。
守るために罪を負うな、と。
医者の意思は揺るがなかった。
医者派兵士「どうしてですか!!?仲間を見殺しにするのが正義なのですか!!?」
医者は立ち上がる。
そんなに味方の命が惜しいなら自らが向かう・・・と。
罪を犯さず、誇り高く消えていった兵に後悔をさせるのか・・・と。
医者派兵士「そんな・・・国王も国王ならあなたもあなただ・・・。
く・・・狂ってる・・・。」

ミツクビ「野菜炒め・・・。」
一行は消耗してしまったため昼食をとることにしていた。
持ち出した食べ物はあくまで非常食で、普通に動けるのならばそこらの木の実と食べられる野草で凌ぐとのことだった。
サクリファイスは生前、カマキリだったようで野菜は好物で都合が良かった。
番長は適応力が強く、あり合わせでも文句はないようだ。
麗は若干の不満があるようだが、しっかりもののハインツが極力満足いくように準備してくれていたので、心意気に感謝し、食した。
問題はミツクビである。
彼女は大食いのくせに好き嫌いが多い、最悪なタイプだった。
ハインツ「申し訳ありません。私に料理の腕があればこんなことには・・・。」
麗「気にするな。こればっかりはニャンコが悪い。
というかむしろ上手いと思うぞ。」
最初は乗り気でなかった麗も普通に食べている。
サクリファイス「もしかして、酒場でナポリタンばかり注文していたのって、”気に入ったから”じゃなくて”他のが嫌だったから”なのか?」
ミツクビは小さくうなづく。
番長「少量でいいなら策はある。少なくても我慢できるか?」
ミツクビ「本当かニャン!!?」
番長「小鳥の丸焼きとか、どうだ?」
ミツクビ「野菜よりずっといいニャン。」
番長「そんじゃ、食える木の実を選んで待ってろ。」
番長は小石をいくつか拾い上げ、木の中に向かって投げつける。
恐ろしい精度で鳥の巣を落とし、気絶した親鳥が中に収まっている。
取りに近づいた番長は違和感を覚えた。
巣を作っているのに卵がない。
もう孵ったのか?いや、卵は孵らないと言っていたはず。
だが、巣は本来子育てをするために作るものだ。
親鳥は子供のいない巣で何をしているのだろうか?
あぁ、そうか。
卵を産み落としはしたが、きっと妖精が食料品として回収しているのだろう。
だが、まさか卵が回収されることがあたりまえになった鳥が巣に居座るという行為に出るとは意外だった。
生まれることのない卵を温め続けるのも虚ろなら、産み落とした卵を取られてゆくのも虚ろで、この鳥には生きる意思というものがないのだろう。
・・・死んだ世界で言うのもおかしな話だが。
人間というのはこんなにひどいものなのに、今更人殺しがなんだ、とも思えてしまう。
もちろん、人それぞれの体の中には数々の動植物の死があって、人を一人殺せばその中に眠る死たちを全て背負うのだろうということなのだろうが。
妙に腑に落ちてしまった彼女は親鳥だけを捕まえて戻ってくる。
番長「ほら、獲ってきたぞ。」
ハインツに鳥を渡す。
ハインツ「では、これから調理しますので。お待ちくださいね。
少々血が飛び散りますので、かからないようにお気をつけください。」
容赦なく首を切り落とす。
サクリファイス「ちょ!!?」
あまりのためらいのなさについ驚いてしまう。
ハインツ「あのですね・・・これから殺し合いが始まるのですよ。
鳥の首や臓腑が飛んだ程度でうめかれては困ります。
それに、この世界では墜ちたものたちはみな人の姿になります。
動物の姿をしているものは全て妖精が生み出した作り物の自然なのです。
死んだ魂が違和感なく暮らせるように、見た目や機能、味に至るまで精巧に作られていますが・・・。」
鳥の血肉が裂けて行くのを見ても淡々としているハインツと番長を見て、彼らはいかに平和な世界に生きていたかを知った。

食事を終えて歩き始めるも、一向に進んでいる気がしない。
なにせ、目印という目印が存在せず、ただひたすらに草原が続いてるからである。
見渡せば草、木、草、木。
遠くには山脈。
広大すぎる自然に精神は削られてゆく。
本物かどうかすらも怪しい太陽は傾き、次第に夕方の焦げた熱さが大地を覆い始める。
ハインツ「はぁ・・・やはり戦いがあったせいで予定より少し遅れていますね・・・。
日が傾く頃には宿屋が見える予定だったのですが・・・。
これは日が沈んでからになりそうです・・・。」
麗「なんだ、中継地点があるなら先に言ってくれればいいじゃないか。」
ハインツ「いえ、宿に入るのはあくまで気休め・・・寝ても覚めても気が抜けないのが街の外なのです。」
ため息をつきつつも尚も足を進める一行。
サクリファイス「ところでよぉ、さっきから虫がうるさくねぇか?」
小さな羽虫がわんわんと周りを飛び回る。
すると、ミツクビの左腕にたくさんの虫が一斉に食ってかかる。
ミツクビ「ビミャ~!!」
ハインツ「大丈夫ですか!!?」
刺されたのではなく喰われた。
その証拠に腕はささくれだち、血がにじんでいる。
ミツクビ「とんでもない奴らだニャン!!」
麗は虫除けのために松明を焚く。
麗「さっき鳥を落とすときに、一緒に刺激してしまったのかもしれないな。」
ハインツ「いえ、それにしては時間が空きすぎています。
おそらくはシモベ使いとグルの追手でしょう。」
サクリファイス「この虫がかぁ?」
ミツクビ「なんかすごくかゆいニャン・・・イテッ!!」
番長「またか!!?」
そう言って振り向いた時、衝撃を受けた。
ミツクビの右手の指は溶け始めている。
そして、さっきの傷の部分を見てみると、ささくれが硬質化して尖り、毒針になっていた。
ミツクビ「ンミィィ~~~~~~!!」
肉と血の混じったドロドロが腕を伝い、したたる。
サクリファイス「痛ぇッ!!」
今度はサクリファイスの背中の部分を、服を裂いて喰いちぎった。
避けた隙間からは硬質化した皮膚毒針が僅かにせり出している。
今度はハインツの方へ向かうが、あいにくと鎧までは壊せないらしく、こんこんと鎧を顎で突く。
麗「クソ!!本体はどこにいやがる!!」
極力風を纏い虫の攻撃を防いでいる。
・・・まてよ?
虫の動きが虫にしては不自然だ。
ミツクビの左、そっちを見たサクリファイスの後ろ、ハインツの正面。
番長「へへっ、的が多すぎたようだな・・・。」
番長はハインツと向こう側の大きな岩をはさんで遮るように立つ。
すると、ハインツについていた虫は番長に向かう。
ハインツ「番長さん!!危ない!!」
番長は返事もせず、岩陰に向かって弾丸を放つ。
その弾丸は、岩を砕き敵の頭をも砕いた。
岩には飛散した血がどべどべと付着した。
ミツクビの右腕は肘あたりまでなくなっていたが、ようやく溶解が収まったようだ。
番長「奴の敗因は、”敵の目に経験させてしまったこと”さ・・・。
目視していないといけないという条件っていうのは案外厳しいもんだ。」
ミツクビは痛みに耐えられず、しばらく泣き止むことができなかった。

ハインツ「宿屋に医者がいて下されば、ミツクビさんの腕も治すことができるのですが・・・。」
ミツクビの腕の包帯は膿んだ黄色い液がこびりついていた。
番長「そうか・・・治るのか・・・。」
番長はホッとしていたが、残りの三人はかなり精神的なダメージを受けたようだ。
サクリファイス「納得いかねぇよ・・・番長の言ったことの正しさが、傷になって現れるなんて・・・。
こんなのいやでも受け入れるしかないじゃんかよ・・・。」
殺さなくては殺される。
その事実を彼は認めたくはなかった。
だが、その甘さがミツクビの右腕を奪ったのだ。
不用意に動かず全神経を張り巡らせ冷静な判断ができるのは、敵に対しての情を捨て、確実に殺しにかかるから。
番長の背中が、その弾丸がそう語っていた。
番長「誰かの命とほかの誰かの命を自らの天秤にかけたとき、どちらも同じ重さに見える。
しかし、自分の命と誰かの命を自らの天秤にかけたとき、人としての本能で自分の方が僅かに重く傾く。
それが私が捨てられないエゴで、同時に自分の命を守る意思なんだ。
誰かの命が自らより重く感じたのなら、その自らは罪を背負うことを放棄して、身軽になったことにほかならない。
そして、天秤が振り切れたとき、その自らは最期を迎えるだろう。」
重い言葉は沈みきった太陽への”おやすみ”となって風の中に流れてゆく。
ハインツ「・・・!!見えてきました!!屋根です!!灯りです!!」
夜の寒さに馬はぶるっと頭を振るった。