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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「愚者の弾丸」 EX.3 高原と未踏の空を仰ぐ

番長一人なら馬に相乗りする予定だっだようだが、あいにくと人数がかさんでしまったため馬には荷物持ちをさせることにした。
馬は至って健康的で、普段の世話の質の良さが見て伺えた。
その馬を御する兵士の名はハインツ=ブラウン。
生前は誇り高き城の守り手だったという。
特筆して偉かったわけでもないただの雑兵だが、真面目さだけは一人前で、分隊長には気に入られていたようだ。
・・・そんな青さが残る兵士が今度は自警団を率い先頭に立っている。
ハインツ「若輩者ですが、迷子になっては元も子もないので・・・案内のために先頭に立たせてもらいますね。」
サクリファイス「助かるぜ。誰かさんと違って殺気もなくて真面目だもんなぁ。」
付いてきたはいいものの、相変わらず彼は番長のことを気に入らないようだ。
麗「思っても口にするんじゃない。
途中で仲間割れして道中で全滅なんて真っ平御免だからな。」
サクリファイス「へいへい・・・。」

ハインツ「ところで、外の旅は初めてですか?」
麗「あぁ。」
サクリファイス「さっぱりないぜ。」
番長「私に至ってはついこないだ死んだばかりなんだが。」
ミツクビ「出る理由がないニャン。」
ハインツ「あはは・・・そうですよね。
妖精がこんなに豊かに暮らしているような土地なら、外に出なくてもいいですよね。」
麗「嫌味な言い方だな。」
ハインツ「いえいえ、そういうつもりじゃあないですよ。
ただ、妖精は良心の元に根付くので、私たちのような物騒な街の場合、妖精の拠点まで食料を調達しに行かなければいけないのです。」
サクリファイス「そうなのか・・・知らなかったぜ・・・。」
番長「めんどくさいな。」
ハインツ「正直、紛争が片付いたらこちらに移住させていただきたいです。」
ミツクビ「きっと受け入れてくれるニャン。あの町の人は暖かいニャン。」

土の面が見えてきた。
ここからが、ランドミルキー街道である。
草原に浮かぶ一筋の道・・・天の川(ミルキーウェイ)を文字ってそう名付けられた。
ハインツ「気をつけてください。ここからは目立ちます。
馬や車などの乗り物で駆ければなんということはありませんが、徒歩だとかなり目立ってカモにされます。」
ミツクビ「殺気立ったハイエナたちが徘徊しているというわけニャン?」
番長「そうだな・・・もう既に殺気は感じているが、一向に来る気配がない。
隙を伺っているのか、ビビっているのか・・・?」
サクリファイス「殺気なんてどこからだよ。ピリピリしすぎなんじゃないの?」
ハインツ「ありえない話ではありません。
道中で気を張り続けた人間が最後で気を抜くのを狙って、出入り口あたりで潜伏している可能性は充分あるでしょう。」
ミツクビ「ニャニャ?向こうに何か見えるニャ!!」
ミツクビが指さした先には馬車を引くキャラバンがやって来ていた。
肥満した旅人「おやおや、君たちも旅の方ですかな?」
ハインツ「はい、クリン・トラストへ急いでおります。」
旅人は顔をしかめる。
肥満した旅人「あの紛争地帯にかい?命がいくつあっても足りんと思うが。」
旅の人間も不信感を抱くほど情勢は悪化しているようだった。
ハインツ「いいえ、私はあの街に墜ちた者ですので・・・こちらの町に助けを求めたのです。」
肥満した旅人「おいおい、ほかの街の人間まで巻き込むのか・・・。
戦線を拡大するのだけは勘弁してくれよ。」
薄情かもしれないが、損害を考えると正論で返す言葉もなかった。
若い旅人「オヤジぃ!!昼飯までには町に着くんだろ?」
馬車の中の青年が急かす。
肥満した旅人「おう、そうだったな!!
・・・それでは、紛争なんて早く終わらせてくださいね。」
ずいとすれ違うキャラバン。
サクリファイス「チッ、そんなに簡単に終わらせられたら苦労しないっての。」
遠ざかってゆく背中に向かって悪態をつく。
麗「番長、殺気の正体はあいつらなのか?」
番長はため息をつく。
番長「んなわけなかろうが。どう見たってただの旅人だよ。
殺気を放っている奴はキャラバンとすれ違う前から後ろをつけてきている。」
ミツクビ「うっ、後ろニャン!!?」
番長「馬鹿っ!!感づいていないふりを――」
手遅れだった。
人影は木陰から飛び出していた。
レイピアのようなものを振り回し切りつける。
だが、意外にも切りつけたのはキャラバンの方であった。
番長「なんて奴だ!!弱い方を攻撃しやがった!!」
肥満した旅人「ぐわ・・・ガ・・・」
旅人は喉を掻き切られ、息をするのも苦しそうだ。
馬車にも数人乗っていたのか、中から次々と出てくる。
麗「相手の武器は細剣・・・突かれていなければ傷は浅いはずだ!!応急手当をしてやらねぇと・・・。」
ハインツ「待ってください、相手はやたらに素早い・・・あれは罠です!!」
麗「だけどっ!!」
ミツクビ「でもでも待つニャン!!旅人さん自体の様子が変ニャン!!」
番長「それは私もそう思ったところだ。」
おかしいのは、馬車から出てきた人間の様子だった。
慌てて出てきたわけではなく、ただ普通に降りたのだ。
肥満した旅人「ゴゴガギ・・・グゲ・・・!!」
旅人の肌は紫色になり、頭は四角い鉄の塊に変質してゆく。
あれは旅人自身の能力か?いや、そうだとしたら苦しんでいるのはおかしいし、何より馬車から出てきた方も変質が始まっていた。
番長「クソ!!最初からこれが狙いだったのか!!」
さらに、あろうことか変質したシモベたちは自らの左腕をちぎりとった。
そしてその左腕は斧へと変質していった。
四角い頭は無機質なその姿とは正反対な口を開き、吐息を出す。
たった少しの時間で、今まで人間だった者の姿が異質な怪物と化した。
番長「そうか・・・弱い奴はレイピアで、強い奴はシモベで攻撃し射程内に集まった人間すべてを一網打尽にするアーツってわけか。」
シモベたちはこちらに向かってジリジリと近づいてくる。
麗「どうする!!?あいつら一応旅人の奴らだろ?」
麗はうろたえ、ミツクビは怯え、サクリファイスは迷い、ハインツは恐れおののいた。
だが、それらを銃声は待たなかった。
シモベの胸部はねじれ、そして炸裂した。
どうやら、番長の放つ弾丸は螺旋を描いて周りの物質を巻き込み、戻る反動で炸裂させるアーツのようだ。
サクリファイス「何やってんだテメェ!!旅人のダンナをよぉ・・・」
番長「戦いっていうのはそんな生ぬるい考えじゃあいけないんだよ。
自分が生きるか、敵が生きるか。
どちらかだ。」
サクリファイス「なんだよ!!バケモンになっちまったからって殺しちまっていいのかよ!!
自分が死にそうだからって殺していいのかよ!!
本体だけやっつけりゃいいんじゃないのか!!?」
番長「そんな都合のいい方法があるのなら教えてくれ!!」
二つ目の銃声が容赦なく草原にこだまする。
続けざまに三発目を撃とうとするが、カチカチと虚しく鳴るだけだった。
番長「クソ!!なんだよこれ!!撃てたり撃てなかったり装填口が無かったり・・・。」
サクリファイス「アホか!!普通の銃と混同するんじゃねぇ!!
弾丸もアーツの一部だから内部で生成されてんだよ!!
テメェのはパワーが強い分装填に時間がかかるって訳だ!!」
番長「ご高説どうも。
わかってんなら弾が入るまでバックアップしやがれ!!」
襲ってくるシモベ達。
その攻撃を風が逸らす。
麗「さっきのデカいおっさんは難しかったが・・・ひょろい奴らくらいなら攻撃を逸らせる。
その隙に本体を探すんだ!!」
番長「敵の位置は確実に襲われた時に居た場所よりも町寄りで、移動していなければ馬車かその近くだろう!!」
番長はシモベをかいくぐり馬車に向かって走って行く。
すると、一斉にシモベたちは番長の方へ向かう。
いや、馬車の方に戻ってゆく。
番長「ビンゴだ!!
操るタイプの能力は本体を守るように動かすのがセオリーだからな!!その方が確実に射程を逃すことがないし都合がいい!!
だが、その弱点は、こうやって自ら居場所を知らせてしまうことだ!!」
番長は麗のアーツから発せられる風に守られ、馬車までの距離を縮める。
弾はまだか・・・?
・・・。
・・・・・・。
一発目を撃った右の銃から、カチッと乾いた音がした。
番長「間に合った!!」
番長は思い切り銃にチカラを込める。
先程よりも大きい銃声が空気を揺らす。
行く手を塞いだシモベと、馬車の薄いカーテンを突き抜け、本体を直撃した。
一瞬にして敵本体はねじれたあと、内臓をぶちまけて大損傷をした。
シモベたちは倒れたが、元に戻ることはなかった。

サクリファイス「殺した・・・のか・・・?」
呆然と尋ねる。
番長「あぁ・・・。
どうやらこの世界で存在し続けることは、生きることよりも辛いらしい。
戦わなければ生きることはできない。
だが、死んだあとの世界は殺さなければ存在することができない。
なぜなら、この世界の殺意は強くて多い・・・私はそう思ったよ。」
ミツクビ「・・・・・・そんな、あんまりだニャン・・・。」
ハインツ「これから私たちは戦争をしに行くのです。
それくらいの心持ちで行かないと、私たちはおとなしく殺され敗北してしまうのです。
無理はしなくていいのですよ。
穏やかに暮らしたいのなら、町に帰ってください。
チャンスは今だけです。
ランドミルキー街道を一人で歩くなんで自殺行為ですから。」
ハインツの穏やかな口調にも力がこもる。
麗「俺は行くよ。
行かなきゃきっと今道中にいる奴らが、時間を経て俺たちの町にたどり着くんだ。
それに、ビビっていちゃあ困っている奴を助けることなんてできやしないからな。」
番長「そうだ。
どちらかを守るということは、どちらかを敵に回すということなんだ。
だから、どちらかを生かすには、どちらかを殺さなくてはいけないんだ。」
サクリファイス「わかったよ・・・いや、実際解かりたくないけど・・・麗とニャンコが危なくなって、助けなくちゃいけなくなった時に、
生半可な手助けして見殺しにするなんてことになったら嫌だし・・・。」
麗「ニャンコは・・・?」
ミツクビはしばらく俯いて黙っていた。
番長「私は人殺しを矯正しているわけじゃない。
ただ、ついてくるなら殺せるよう腹を括れって言っているんだ。
嫌なら――――」
ミツクビ「・・・行くニャン。」
サクリファイス「ニャンコ・・・。」
ミツクビ「ダーリンが頑張ってくれるって言ってるニャン。
それに、もう”沈みかかった船”ニャン!!」
番長「それを言うなら”乗りかかった船”だろ?テメーわざと間違っただろ。」
一同は、悲しみを含んだ笑みを浮かべる。
サクリファイス「なぁ、こいつらの墓を作ってやることは許してくれるだろう?
死後の世界で死ぬことは、抹消・・・存在が消えちまうんだ。」
番長「構わないよ・・・別に命を重んじる心を捨てろとは言ってないからな。」
異形と化した旅人を埋葬し、馬車馬の馬具で名も無き墓標を建てた。
ハインツ「これが繰り返されるのが紛争です・・・。
急ぎましょう。仲間が同じ目に会う前に・・・。」
強き心が足音を速く強くする・・・・・・。