「愚者の弾丸」 EX.1 心は武器
できれば人なんて殺したくはない。
生前、自らを守るため、仲間を守るため、人を殺めてしまった経験はある。
だが、殺さずに解決できるのであればそれに越したことはないのだ。
生き返られるのなら生き返りたい。
でも、罪もない人間を100人殺すだなんて鬼畜にはなれない。
番長「そういえば、麗、お前は私のことを始末する・・・といったが、銃や剣が見当たらないな。
隠し持っているのか?すぐに出せないと実践の時どうする。」
麗「バーカ。俺たちがただの銃や剣で町を守れると思うか?」
麗は立ち上がると、風に包まれ、身の丈ほどの剣を発現させた。
麗「これは”ハーツ・アーツ”と呼ばれる心の武器だ。
この世界の死に賭し墜ちる者たちは生前の器用さによって固有の異能を持った武器を持つ。」
サクリファイスは手に唾を吐くと、そこから鎌が発現した。
サクリファイス「”ハーツ・アーツ”には属性が存在する。
まぁ、トランプゲームみたいに単純なものだからすぐに理解できるよ。
火は風に強く、風は地に強く、地は水に強く、水は火に強い。
これが純属性環な。」
ミツクビ「そして、単独で存在するのが闇属性ニャン。
闇属性は聞こえはいいけど、意味合いとしては無属性、器用貧乏の日陰者って意味ニャン。」
麗「属性はひとつに特化したほうが強い。
混属性になると互いに殺し合って弱い能力になるんだ。」
番長「私にもそれは手に入るか?」
麗「手に入れるには”決意”することで一つ、”覚悟”することでもう一つ手に入るんだ。
今のところ”覚悟”のアーツを持つ人間は旅の人間でしか見たことがないがな。」
番長「・・・・・・。」
”決意”?”覚悟”?
それはやれと言われてできるものではない。
だが、この世界で100人殺すとなれば、必要となってくるであろう。
番長「なぁ、この近辺で事件らしい事件は起こっていないか?」
サクリファイス「それが、ちょ~どよく起こっているんだなぁ。
それがどうかしたか?」
番長「どんな事件だ?」
麗「お前と同じように生還を望む暗殺者がうろついている。
だが、奴が動くのは夜だけ、証拠はなく死体だけが残る・・・だから昼間は適当に見回りして待つしかないんだ。
目撃者は一人もいなかったわけだから容姿についても皆目見当もつかん。」
番長「じゃあ、私が夜うろついて、囮になろう。」
ミツクビ「正気かニャン!!?あニャたはアーツをまだ持っていないニャン!!
ついでに名前も聞いていないニャン!!」
番長「あ?あ~名乗らせてくれなかったからな。
私の名前は笛音番長(テキネツカサ)って言うんだけど・・・。
やっぱり手っ取り早く心を動かすには危機的状況下に体を置くのがいいだろう?」
ミツクビ「イカれてるニャン・・・。」
サクリファイス「正気の沙汰とは思えないぜ。」
番長「絶対に助けたい仲間がいるんだ。」
その眼光は鋭く輝いていた。
番長は生前、オールドマシーナリータウンの魔女・・・人類最強の人間として恐れられていた。
生物の、いや、万物の頂点として君臨してきたその瞳には迷いはなかった。
麗「まったく・・・そんなに必死になるなら、生きてる間に必死になっておけばよかったものを。」
麗は剣を消す。
番長「それは話に乗ってくれると解釈していいんだな?」
麗「あぁ、だが、すぐに能力が発現しなかったら畳み掛けるから巻き込まれるなよ。」
番長「オーケー。」
麗は酒場を出ようとする。
番長「ちょっと待て。」
麗「ん?」
素直に立ち止まる麗。
番長「自警団が捕える奴らの中には、どうしようもないようなクズでこの世界に置いておくにはマズイ奴っているだろう?」
麗「あぁ。」
番長「殺しているか?」
麗「・・・・・・。」
番長「殺しているんだな?」
麗「アーツを封じるすべはあるが、気絶させて医者のところへ持ち帰らなければならないから、
どうしようもないときは始末している。」
番長「じゃあ、私がやる。」
麗「は?」
番長「殺されるべくして殺されるなら、私の数に入れたい。
もし、能力が発現したら入団を許可してくれ。」
麗「・・・まぁ、お前を泳がせてある日殺人鬼になって再会・・・よりマシかな。」
ミツクビ「ニャニャ!!?団長正気かニャン!!?」
サクリファイス「正直、俺もあまりこいつを信用していないぜ。」
サクリファイスは鎌をぎらつかせる。
麗「必要の無い殺人・・・というか抹消を試みたときは力尽くで止めればいい。」
番長「サンキュー。」
麗「まずは能力を発現させろ。」
夜になる。
昼にさえずっていた小鳥たちも息を潜め眠っている。
番長はひとり、暗闇の町中を歩く。
自警団の三人は距離をとりつつそれを見守る。
ふと番長の横から何かがひらりと飛んでくる。
ぺたり、と番長の肩に付く。
どうやらシールのようだ。
剥がそうとした瞬間、シールが破裂して吹き飛ばされる。
麗「あれが暗殺者のアーツ!!」
シールは生きているかのように宙を舞い、番長の方へと向かう。
サクリファイス「クソッ!!見てられねぇ!!」
麗「まて、あいつはすぐに発現する。」
ミツクビ「そんなの根性論ニャン!!」
麗「わざわざ危険な状況下に飛び込むやつが生半可な心で来ていると思うか?いいから見ていろ。」
あと一度でもシールに触れたらたちまち吹き飛び、その先で大量に貼られて連鎖を喰らう。
だから今。
たった今”ハーツ・アーツ”が必要。
命など、とっくに無い。
ならば今を切り拓くのは、魂の強さだ。
番長「そこにいるなッ!!」
番長の二つの手には、それぞれ銃が握られていた。
いや、もう既に片方からは弾丸が放たれていた。
暗殺者「ぐぎゃぁッ!!!!」
どうやら左腕に命中したようだ。
相手が気絶したのか、空中にあったシールは消滅している。
番長「こっちだって場数踏んでんだよ。息ぐらい殺しな。」
サクリファイス「本当に発現しやがった・・・。」
驚く自警団たちの目の前に何かが落下する。
暗殺者の左腕だ。
ミツクビ「ブミャ~!!」
腕は肩のところでねじ切れている。
麗「どうやら俺たちは、とんでもない拾いものをしちまったみたいだな・・・。」
鮮血はタイルの隙間を染めていった。