DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.31 星

摩利華「まさか、集団で襲いかかってくる非道な方がいらっしゃるなんて・・・。」
枷檻「そうか?私たちだって大した変わりねぇだろ。
支援の形が違うだけさ。」
千代「安易に人を殺さないところを見ると、彼らも人間なんだなって思うよ・・・。
同情はしかねるけど。」
消防士や警察官に誘導されて、一同はその場を離れる。
もう少しで大通りに戻る、その時。
腕男「よぉ。探してたんだぜ?紫色の嬢ちゃん。」
男はニヤニヤとしている。
枷檻「お前が暴走能力者か?」
腕男「あ~~~~~~~~~~ん?暴走といえばそうなのかもしれんなぁ~~~。」
千代の表情が怒りに振り切れたものになる。
摩利華「落ち着いて・・・むやみに近づいちゃダメですわよ。」
千代は唾を飲み込み、頷く。
腕男「言っておく。俺はもう知っているんだ。
残りの能力者がただの3人だってことを・・・ホエホヒヒヒヒ!!
”愚者”、”隠者”、そしてこの俺・・・”星”。
ネズミにしらべさせたからな。あいつらはどんどん増えてくれるから助かったよ。クヒヒ・・・。」
枷檻「動物使いなのか・・・?」
腕男「ノン。考えが甘い。
人間を捕まえると知能が高いから制御が大変なんだ・・・。というか、洗脳ではない。
動物は強いと認識させれば裏切らないが、人間は叛旗を翻そうとする。
それじゃ~~~使い物にならねぇ~~~~~~ってな~~~~~~~。」
千代「私はあんたの何もかもが許せない。
でも、ひとつだけ聞いていいかな。
あんたはこのバトルで優勝する目的はあるの?」
腕男「ないね!!ただ、ほかの能力者を潰しちまえば俺が最強なんだ。
それで、夢を追った俺を馬鹿にしてきた奴らに報復するんだ!!
クソみてぇな価値観しかもたねぇ頭でっかちどものその脳みそをぶっ潰してやる!!」
千代「夢を追っていた?それと人殺しは関係ない!!」
腕男「な~にが違うって?恨めしさの最終地点は殺害衝動だろうが!!
てめぇに何がわかるって言うんだ・・・。
大好きな演技を!!大根役者の一言で片付けられた!!俺の気持ちが解るかァ~~~~~~~~~~~~ッッッッッ!!
舞台俳優になって、ビッグな”星(スター)”になるはずだったのにィィィィィいいいい!!」
千代「そんなの手前勝手な都合だ!!
侮辱されたなら、なんで実力で魅せ返してやろうって考えないの?
他人を蹴落として壇上にかけ上がろうだなんて、あんた自身が舞台への侮辱をしているのと同じだ!!」
腕男「クソッタレェェェェェエエエエエ!!偉そうに講釈たれやがってエエエエエ!!
・・・だが、その言葉もお前が死んでしまえばないものと同じだ。始めるぞ・・・。」
千代「なんて自分勝手なの・・・??」
その瞬間、一同は目を疑った。
さっきまで激昂していた男が、立ちながらすやすやと寝ているのだ。
摩利華「・・・悪い夢でも見ているようですわ・・・。」
目の前で起きているサイケデリックな出来事に理解が追いつかない。
枷檻「・・・引くべきじゃないか?」
唐突に切り出す。
千代「なんで?」
枷檻「お前はさっきの戦闘でボロボロじゃねーか。無謀だ。」
千代「やっと見つけたのに?」
枷檻「死んだら元も子もねぇだろ。」
千代「おってくるかもしれないのにか?動物を使って始末してくるかもしれないのにか?」
枷檻「落ち着けって!!」
千代「いいや、私は冷静だよ。
やつの標的は、私と”愚者”。
だから、逃げたって休ませてなんてくれないんだ。」
千代は慎重に、ゆっくりと男に歩み寄る。
枷檻はこれ以上止めることができず、見守ることしかできない。
摩利華はパニックになりそうなところを必死でこらえている。
距離・・・10m・・・5m・・・4m・・・3m・・・。
・・・間合いが2mにまで縮んだとき男は目を覚まし、とてつもない速さで腕が巨大化、千代の胴体を掴む。
腕男「チッ、頭を掴みそこねたか・・・。」
摩利華「いやぁぁぁぁあああ!!千代ちゃぁぁぁぁん!!」
枷檻「あれが一連の事件の正体か!!シンプルだ。」
腕男「俺の能力は、他人の才能は目覚めさせられるくせに、逆に俺は眠るんだ!!
俺に与えられるのは”肉体狂化”。肝心の俺の才能は開花しないんだよォォォォオオオオオオ!!」
ギリ、と千代を握りつぶそうとする。
だが、その手のひらが開いてゆく。
クロが内側から押しているのだ。
一瞬の隙を見てその手から抜ける。
腕男「クソッ!!なんてこった!!」
すかさず射程外に出る。
腕男「ここまで馬鹿にしやがったのはテメェがはジめてダぜぇ~~~~~~~!!」
千代「・・・こっちが馬鹿にされている気分だ。
努力もせずに誰も彼もを潰したあとの一人芝居が楽しいと思うの?」
腕男「努力はしたさ!!」
千代「した?過去形?どうしてそこで諦めたの?
努力が無駄になるって思うのは、努力をやめたからだってなんでわからないの?
私は一ヶ月間ぶっ倒れながらも仲間の支えを力にして努力を重ねてここまで勝ち残ってきた。
あんたが捨ててしまったたくさんの努力は、現在進行形のたった一ヶ月の努力に負けるのよ!!
悲劇のヒーローぶっている奴の一人芝居なんて誰が見るか!!とっとと壇上から降りるんだ!!」
千代はクロとともに墨汁瓶を投げつける。
腕男「黙れ!!小賢しいわ!!」
瓶は男の大きな腕に叩き落とされる。
それでも諦めずに投げ続ける。
腕男「てめ~~~こそよ~~~~~その無駄な足掻きをやめて、この俺の売名のためのチラシにでもなりやがれェ~~~~~~!!!!」
どれくらい投げては叩き落とされただろうか。
男は未だ余裕綽々で構えている様子だ。
千代「二人共、一旦距離を置こう。」
一同は後退する。
腕男「あぁ~~~~~ん?やっぱり口だけなんかぁ~~~~??クズが!!」
男はジリジリと近づいてくる。
千代は立ち止まる。
千代「ふふふふふ・・・だからあなたはいつまでたっても三枚目なのよ!!
一番自分のテリトリーを大事にしていた割には、私のテリトリーに入ったことに気がつかないなんてね。」
男は、一面墨汁によって真っ黒なアスファルトの上に立っていた。
腕男「何の話だ?」
間抜け面をする男の背後にはもう既にクロの姿があった。
千代「さよなら、逆上の大根役者さん。」

「うだらァ~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」

背後から連撃をくらった男は千代たちの前に放り出される。
摩利華「終わっ――――」
安堵の息を止めるように、力を振り絞り、男はムクリと起き上がる。
腕男「ま・・・だだ・・・まだ・・・勝負は・・・付・・・いちゃ・・・・・・」
だが、それも虚しく崩れ落ちた。
呼吸は止まっている。
千代「うそ・・・殺しちゃった・・・の・・・?」
枷檻「いいや、お前がぶっ倒れた時みてぇに生命力が尽きたんだろ。
ただ、コイツの場合暴走してたからこうなるまで気付かなかったんだろうな。
救急車を呼ぼう・・・。」
千代「う・・・ん・・・。」

千代は突如白昼夢を見る。
いつも見ている夢のようだ。

活発そうな女の子「え?もしかしてできたの?」
番長「あぁ、やっと出来た。これが、”タイムマシン”だ。」
中年の男「ついにここまでやってのけちゃったのね。」
男はタバコを咥える。
クールなお姉さん「試運転はしないのか?」
番長「私を誰だと思ってやがる。電子(でんこ)・・・お前を作った人間なんだぞ?
陽子もシルフィも、私の手によって生まれたんだ。」
青年「なぁ~んて言いつつ、試運転できない理由があんだろ?」
番長「ふふ、お前にはお見通しか。
そうだ。このタイムマシンは燃料が一回分しかなく、尚且つ過去への一方通行。んで・・・」
青年「俺たちが心配して燃料とってきてまで追ってくるかもしれないから、一度起動したら壊れる・・・だろ?」
番長「80点の回答だな。追ってくるのは仲間だけじゃない。」
シルフィ「私たちが守るから大丈夫だよ。」
番長「これから私が戻って来なくてもずっと・・・か?
戻ってこなかった時間軸から技術を盗まれたら、私が時代を改変しても戻ってくる前に敵に殺されてしまうかもしれない。
私が目標を達成し、戻ってきたその時に時代の改変は成立する。それがタイムマシンの本当の機能だ。
私が過去を改変してきたという事実が完成した時間軸にならないと、
私が戻らずにいつまでもお前たちが朽ちるまで技術を守り続けたという時間軸になってしまうんだ。」
シルフィ「う・・・頭が・・・。」
陽子「なんて演算力が低いんだろこいつ・・・。」
電子「とりあえず戻ってきたらハッピーエンドって解釈しとけ。」
シルフィ「さっすが電子ねぇちゃん!!わかりやすぅ!!」
おどけた声の後に沈黙が流れる・・・
陽子「本当に行っちゃうんだね・・・?」
電子「ふん、どうせいつものように簡単にやってのけてケロリと帰ってくるのだ。そうだろう?」
シルフィ「頑張ってって応援することしかできないけど、なんか・・・うまく言えないけど、負けないで!!」
中年の男「嬢ちゃんならきっとできるさ。こうやって集まって心配してやるまでもなくな。」
青年「無事に帰ってきてくれ・・・愛してる。」
青年と番長はキスを交わす――――
番長「ヒロくん。」
番長はヒロと呼ばれた青年に精一杯の笑顔を向けて、
番長「いってきます。」
そう言って、タイムマシンのスイッチを押した。