DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.26 運命の輪 

腕男「俺は”星(スター)”だァァァァ!!光り輝くスターだァァァァ!!」
腕には爽やかな男性が握られている。
爽やかな男性はグニャグニャにひん曲がっているが、潰れたり死んだりはしていない。
能力によって生きながらえているのだろうが、身動きがとれないのには違いない。
近くには、男性の死体が転がっている。
彼も能力者だったのだ。
もう既に握りつぶされたあとで、ボロ雑巾のようになっているが。
腕男「おうおうおうおう!!ほヒヒヒへへはひひヒヒ!!
いつまで我慢比べをしてるつもりだ???いい加減素直に潰れちまったらどうだァ~~~~~???」
爽やかな男性は生命力を無駄にしないよう、一言も口をきかない。
腕男「だ~~~~~~っはァ~~~~~むほおほおおおお!!
いいこと教えてあげちゃうよォ~~~~~!!
俺が能力を発動し、そして攻撃に移るまでのその間ぁ~~~なんと!!
生命力が微弱に回復する!!つまり!!一人倒して余裕のある俺と、誰も倒していないと思われるお前の生命力にさらに開きを与えてくれるってことだ!!
この勝負、オ~レ~ノ~カ~チィ~~~~~~~~~!!」
とうとう爽やかな男性は生命力が尽き、元の普通の人間の形に戻る。
ということは・・・。
腕男「たとえどれだけ広大な”世界”でも、その中で無限に増え続ける数多輝く”星”の光を止めることはできないイィィィイ!!」
ゴキリゴキリと鈍い音を立てて肋骨が折れてゆく。
爽やかな男性の口からはどろりと赤みが溢れている。
腕男「これで、あの小娘の言っていた”世界”と”魔術師”は潰した!!
しかし、小娘自身を潰してしまったからなぁ~~~~~~~~~~~~~~。
消えているのは”悪魔”!!”月”!!”死神”!!”法王”!!”戦車”!!”節制”!!”女帝”!!”女教皇”!!”恋人”!!”正義”!!そして俺が潰した”世界”!!”魔術師”!!”吊るされた男”!!
この先はノーヒントかァ~~~~~~~。
あのガキがほかのやつに未来予知の助言を分けてやったりするから悪いんだァ!!おまんまの世話までしてやったのに!!間抜けなやつめ!!
俺のこの能力はタネが割れちゃあヤバイからなァ・・・・・・・・・。
殺るなら早め早めだぁ・・・ふほぬひけひひヒひひヒヒヒへほほ!!」
中身が滅茶苦茶になった死体を放り投げ、猛ダッシュでその場を後にした。

千代は食事を終えたあとも、しばらく食堂で考えていた。
今、注目を浴びているのはもはや自分ではなく”バイパスの狂気”であるだろうと。
現場に戻るのは、犯人だけでなくほかの能力者も同じであろう。
いや、ほかの能力者は”向かう”のだが・・・。
どちらにせよ、最凝町中央住宅街が戦場の中心となるのは間違いない。
スマホワンセグが止まり、着信音が鳴る。
バイブレーションでスマホが倒れそうになるのを受け止める。
番長からの連絡だった。
・・・
千代「今朝のニュースのこと?」
番長「いや、それもそうなんだが、その”続き”だ。
二人目、三人目の犠牲者が出たんだ。」
千代「・・・そんな・・・!!?」
番長「この頻度から見て、私はその能力か能力者が暴走しているのではないかと思っている。」
千代「九重みたいに目的があるわけじゃなく、だれそれ見境無くってこと?」
番長「あぁ、もうアルカナバトルなんて口実で、能力を振り回すことしか頭に無い、最低最悪残虐非道なやつってことだ!!
ちなみに、被害者が能力者かどうかは判別がついていない。
なにせ、目撃者がいないから”そこで人が殺された”という事実だげなんだ。
手口が同じという手がかりだけで同一犯人と見ているが、それで十分だ。
あのやり方は普通の人間に真似できる代物じゃあない。」
千代「とりあえず、現場に行ってみる。」
番長「気をつけろ、相手は正気じゃないはずだから今までのように心理戦は通用しないぞ!!」
千代「ありがとう。でも、行かなきゃ。人が死ぬのを指をくわえて見てなんていられない!!」
番長「あくまで冷静でいることを忘れるなよ。ダメだと思ったら一旦引くんだ。いいな。」
千代「OK。」

緊急時に車を手配できるように、摩利華も同伴することに決まった。
襲われると危険なため、距離を取るように促してはいる。
だが、摩利華自身の考えは違うようだ。
摩利華(距離を取るとさらわれる可能性が生まれますわ。近くにいるほうが守ってもらえて良いのではなくて?)
なので、結果的に摩利華が千代の少し後ろを歩くという半端な構図になった。
周囲を警戒しながら、現場にたどり着く。
そこには例のごとく野次馬やマスコミが押しかけ、警察や警備隊が必要以上の接近を制止している。
千代(ここでまた次の犠牲者が出ていないということは、一度に複数人を手中にかけるのは難しい・・・ということかな?)
現場の周辺の住宅街はどうだろうか?
行き交う野次馬の様子を確認しながら歩く。
しかし、それらしい人影は見当たらない。
誰も彼もいたって普通で、ただの一般人ばかりだ。
歩いているうちに現場からは遠ざかってきていて、人気も薄くなっていった。
その時、電柱の影から何かが放り込まれる。
小さな赤いバケツ――――?
認識した直後、バケツは巨大になり、二人に覆いかぶさる。
バケツの中には大量の赤いペンキのようなものが入っていたようで、二人はあっという間に真っ赤になってしまう。
千代(しまった、これじゃあクロを出すことができない――――!!?)
摩利華「なんですの!!?これは・・・酸などでは無いだけ良かったですわ。」
ペンキのようなもの、というよりはこれはペンキそのものだ。
どぎつい匂いがバケツの中を満たしている。
千代「閉じ込められた・・・!!?」
摩利華「・・・!!?ちょっと待ってくださいまし!!このバケツ・・・少しずつ縮んでいますわ!!?」
バケツはずりずりと音を立てながら少しずつ小さくなっていっている。
摩利華「このままでは窒息死か、シンナー中毒になって死んでしまいますわ!!」
千代「うそ・・・こんなくだらないトラップみたいなので!!?」
ためしにバケツを殴ってみるが、ずれるだけで何の意味もなかった。
持ち上げてみようともしたが、内側には掴むところが存在せず、おまけにペンキで手が滑ってしまう。
そうこうしているうちにも、バケツはじりじりとサイズを縮めてゆく。
千代「畜生!!なんなのよっ!!」
摩利華「なんとか出来ませんの?穴を開ける道具とかはありませんの?」
千代「あったらとっくに使ってるよ!!」
摩利華「どうしてこういう時のことを想定して道具を持ち歩いていませんの!!?」
二人は冷静さを失っていた。
危機感もあったが、それ以上の原因は視界に広がる赤色。
赤、赤、赤。
人間とは視界に映る色彩によって感情を左右されることも少なくはない。
黒や青は暗くてどんよりしたイメージ、ピンクや紫はどこかいやらしく淫奔なイメージ。
そして、赤は怒りや激情、撒き散らされる発熱のイメージ。
シンナーによる臭気、色による感情のコントロール、閉鎖空間にいることによる焦り。
その五感で感じる全てが彼女らから正気を奪っていた。
しかし、そんな時一人冷静な奴がいた。
彼はイチかバチかの作戦に出た。
千代のマントの内側から落ちたのは手鏡。
撒き散らされたペンキの上にボチョリと落ちる。
その鏡には真っ赤な千代の顔が写った。
千代「・・・あ。」
千代はまた自らの感情を制御できずに失敗を犯しそうになっていた。
だが、今回は違う。
仲間からもらった大切な鏡。
そこには怒りに我を忘れて無粋に歪んだ自らの顔が写っていた。
クロ「落ち着いたようだな。」
千代「・・・ごめん。何度も何度も忠告されたのにね・・・。」
千代は恐怖に我を失っている摩利華の肩を掴む。
千代「わかったよ!!ここを出る方法!!・・・一瞬だから、絶対にやり遂げて・・・!!ここにいる全員の力がないとできないことなんだ!!」
千代は摩利華の顔を胸に押し当てる。
そうすることで、一時的に視界から赤を奪ったのだ。
しかし、摩利華の呼吸は一向に落ち着かない。
千代「落ち着いて・・・喋りづらいなら聞くだけ聞いて。
ある程度バケツが小さくなったら、墨汁をかぶって、そこからクロに上を攻撃させる。
たぶん、一瞬だけ浮き上がるから、そこに指でも腕でも足でもいいから突っ込んで!!
そうすれば持ち上げられる!!」
千代は摩利華が窒息しないように少し摩利華の顔を離す。
摩利華「ぷっは~。大胆ですわ~~~。もう、幸せすぎて大変でしたわ~。」
どうやら、呼吸が落ち着かなかったのは興奮していたせいで、すっかりいつもの調子に戻っているようであった。
千代「も~・・・。ちゃんと聞いてたの?」
摩利華「ばっちりですわ。」
バケツはどんどん小さくなってゆく。
その間に、ありったけの墨汁を頭からかぶる。
千代「来たッ!!いくよ、せ~の!!」
クロ「ダラァッ!!」
摩利華「どっせい!!」
僅かに浮いた隙間に、摩利華の華奢な腕が滑り込む。
千代はそこに向かい、バケツを持ち上げる。
持ち上げられたバケツは、瞬時に小さくなった。
おそらく、あれが元々の大きさだろう。
千代「やった――――」
喜ぶまもなく、今度はアスファルトに穴が開く。
クロ「クソッ今度はアスファルトの面を”小さく”されたんだ!!」
千代は穴にすっぽりとハマり、胸像のようになっている。
穴は次第に小さくなり始め、千代の体を締め付ける。
クロ「大丈夫かッ!!?」
千代「どうやら、相手の能力はパワーが弱いらしいから、少しの猶予はありそう・・・!!」
アスファルトの下は幸いにも空洞になっていた。
相手が能力に注ぎ込んだ生命力が少ないせいなのか?よくは分からないが、動けないわけではなかった。
千代「・・・!!今日の私はとことんついてる!!クロ、私の靴の裏から腕だけを出して真下を攻撃して!!」
クロ「なぜだ!!?」
千代「いいから!!宿主には従うの!!」
クロ「拳が砕けても知らんぞ!!うだらァ~~~~~~ッ!!」
千代「摩利華ちゃん・・・枷檻ちゃんと一緒に、後始末お願いね。」
摩利華「???」
千代「あと、マントを”落とす”から、広げておいて!!」
そう言うと、千代はものすごい勢いで空中に打ち上げられる。
そう、クロに攻撃させてたのは水力発電所に繋がる水道管。
破裂したときに出る水圧で自らを打ち出したのだ。
そして、アスファルトの穴は塞がる。
正確に言えば、元々の大きさに戻った。
千代は空中でマントを脱いで先に落とし、摩利華はそれを受け取って、落下地点を予測して広げる。
一番上まで跳躍した瞬間に真下を見る。
千代「――――――――見つけた!!」
落ちてきた千代はマントから出たクロに上手くキャッチされた。
もちろん、シンクロした痛みが全身を引きちぎられるほどに走るが、悶えてはいられない。
住宅街を走り、能力者と思しき人間を見つけ出す。
すぐにわかった。
なぜなら、こちらの姿を見ておびえているからだ。
普通なら、ペンキと墨汁をかぶっている変人なんて訝しげな視線を送られて終わるものだ。
短髪の女性「ご゛め゛ん゛な゛さ゛~゛い゛!゛!゛」
千代&クロ「ゆるさん!!」

「うだらァ~~~~~~~~~ッ!!」

千代「策士策に溺れる・・・私に知恵比べで勝てると思ったのが運の尽きよ・・・!!」
そこに、マントをもった摩利華が駆け寄る。
摩利華「もう一度抱きしめてくださいまし~~~~~!!」
千代「うらァ!!」
摩利華は愛のビンタをくらい、ご満悦な顔だった。