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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.25 未来を見て未来に見られる

8月8日(木曜日)。
雨は上がったものの、曇り空がどんよりと湿った空気を閉じ込める。
そんな薄暗い町の路地裏、大柄な男は息を切らしながら出血している腕を押さえている。
ふくらはぎからも血が流れ、水たまりとコケを徐々に赤くしていた。
目の前には幼い女の子がぐったりとしている。
手加減したとは言え、やはり子供相手に拳を振るってしまったため不安や罪悪感はある。
この黒づくめの女の子の能力は”吊るされた男”の暗示で、家屋を武器に戦う能力だ。
その場にある建物とそっくりそのままの異空間に閉じ込め、空間のありとあらゆるものが彼女の武器である。
だが、彼女がその異空間の目としている”浮遊する水晶”を破壊されてしまうと能力は解けてしまう。
・・・日が昇り始める。早朝だ。
今回の戦闘のせいで一晩中閉じ込められ、一睡もしていないということになる。
この状態で大本命に衝突してしまうのは極めて危険だ。
黒づくめの女の子については放っておいても風邪をひく程度で済みそうだ。
たんこぶは出来ているが鬱血してぶよぶよと腫れ上がっている様子もなく、呼吸も正常だと確認した。
ホッとため息をつく。
今回の壮絶な戦いは今思えば夢でも見ていたのではないかという恐ろしい戦いであった。
子供であるがゆえに遊び感覚で能力を使い、なんの躊躇もなく刃物を飛ばしてくるのだ。
純心という狂気。
無邪気さという邪悪。
後先のことなど気にせず人間を捉え、嘲笑いながら始末してしまうのだ。
その痕跡が今も赤く残っている。
本来、止血できないのであれば刺さった刃物は抜くべきではないが、
刺さっていたものが異空間の一部であったために消滅してしまい、流血が止まらない。
大柄な男「はあ――――はあ――――――――。」
このままでは失血死してしまう。
仕方がないので上着の袖を千切り、腕と足を止血した。
大柄な男「ふん、左右の袖をちょうど使ってバランスがいいわ。
・・・目立ってしょうがないがな。」
ふくらはぎの出血が激しくならないように壁伝いに、人目につかないように大通りに抜けないように、裏路地を彷徨い落ち着ける場所を探した。
「・・・・・・」
血だまりを見つめる人影。
「追いかけてみたが・・・やはりあの男はまだ彼女に会わせるべきではないな・・・。
頭が切れるし、破壊力が大きい。
迂闊に突っ込んだら即死だな。」
足元にぐったりとのびている黒づくめの女の子を見つめる。
「こんな幼い子供までもが能力者か・・・。
まったく、この大会の主催者はいったい誰で、何を考えているんだ・・・?」
羽織っていたウィンドブレーカーを女の子に被せる。
「・・・実際そんなことはどうでもいいがな・・・私は、”未来へ行く権利”を最期の最後でかっさらって行くだけだ・・・。
・・・・・・何としてでも手に入れなくてはならない・・・!!」
黒づくめの女の子「ふふふ・・・ありがとう・・・。」
「!!」
女の子は目を覚ます。
黒づくめの女の子「これかけてくれたのおねぇちゃんでしょ?」
人影は何も言わずに立ち去ろうとする。
黒づくめの女の子「多分ね、このバトルの主催者なんていないと思うよ。」
人影は思わず立ち止まる。
黒づくめの女の子「この戦いはきっと・・・神様の悪戯なんだと思うよ。私の占いはいつも当たるの。
本当よ?当たりすぎて、みんな私のことを化物だとか、気持ち悪いって言うんだ。
でも、当たるからこそそんなにいつもは閃かないの。」
「・・・・・・」
人影は黙ってそれを聞いていた。
やがて静寂の向こうに口を開く。
「私の未来は占えるか?」
黒づくめの女の子「近い未来?遠い未来?」
「どちらも閃いたなら両方ほしい。」
黒づくめの女の子「ぷぅ、欲張りはいけないんだ。それにおねぇちゃんは未来から来たでしょ?ずるいなぁそういうの。」
人影は目を丸くした。
女の子は相変わらずその場で口だけを動かし続ける。
黒づくめの女の子「近い未来ならおしえてあげる。
ん・・・とね・・・う~ん・・・・・・ちょびっとなら閃いた!!
えっとね・・・おねぇちゃんの知っている人間が、赤い色に包まれているよ。」
「――――それは、血か?」
黒づくめの女の子「わかんない。それを確かめるのはおねぇちゃんの役目。
そう遠くない未来だから、もし血だとしたら・・・気をつけてね。」

先ほどの人影と入れ違いざまに現れる別の人影。
黒づくめの女の子「今度は男の人だあ。おにぃちゃん、だぁれ?」
しかし、男は少し離れたところでじっとしている。
朝焼けの逆光で何をしているのかよくわからない。
黒づくめの女の子「・・・まぶしい・・・。」
女の子は立ち上がり彼に近づく。
そして。
男の腕は突然巨大化し、女の子の顔をつかむ。
黒づくめの女の子「む・・・ん・・・。」
男はそのまま女の子の頭を握り潰した。
濡れたスポンジを握っているように血が滴り、裏路地の地面はいっそう赤く染まる。
腕男「まったく・・・あの男・・・詰めが甘いなぁ・・・。
殺るなら徹底的にだぜ?この小娘、気絶したふりしてただけで元気だったんだぜ?俺には解る。
そ~し~て~・・・もうこの小娘だったものにはもう俺のカンの良さがわからない。
イヒヒ・・・誰もが俺のこの能力に油断し、近づき、握りつぶされるんだろうなぁ~~~~~。
あの女も、きっとなァ~~~~~!!
ふひ、フヒ、エヘヘ、イヒひひひひヒヒヘヒひひヒヒひひひひひい!!」
男は猛ダッシュでその場を後にした。

寝ぼけ眼でコップに注がれた”カツゲン”を飲む千代。
久しぶりの”やきそば弁当”の出来上がりを待っている。
摩利華「せっかくシェフがいるのにカップ麺だなんて・・・私は悲しいですわ。」
千代「いくらいい料理人が腕を振るった高級料理でも、毎日食べてるとありがたみが薄れちゃうでしょ~・・・。
これが、”庶民の味”よ。」
千代は跳ねている寝癖を指でいじくりまわしている。
千代「あーそろそろ三分かな・・・。」
切ったお湯を別のコップに注ぎ、付属のスープを作る。
このスープが”やきそば弁当”の魅力である。
摩利華「お湯を捨てずに使うのはいいと思いますけど、やはりもとから捨てるはずの濁ったお湯を使うのは気が引けますわ。」
千代「わかってないねぇ~、この”もったいない精神”が庶民食の醍醐味だというのに・・・。
マグロの頭や大根の葉っぱは捨てるところじゃないんだよ。」
麺の方にはソースを絡ませ、スープと一緒に食堂へ持ってゆく。
シェフたちはまだ準備に追われていて、千代たちのことは意に介していないようだ。
千代「いただきま~す!!」
幸せそうに麺をすする千代。
不満そうに見守る摩利華。
千代「美味しいんだよ、摩利華ちゃんも食べてみなよ。」
箸で麺を差し出す。
摩利華(千代ちゃんに勧められているんですもの・・・ん?この状況は、”あ~ん”ではないですの!!?)
摩利華は思わず頬を赤らめてしまう。
千代「も~!!照れなくていいから早くして!!冷めちゃうよ!!」
上品に開けられた小さな口に無慈悲に箸を突っ込む。
摩利華(はぁ~・・・間接キスしてしまいましたわ!!うぅ・・・体の火照りが止まりませんわ!!)
千代「どう?」
摩利華はもぐもぐしている。
千代「ど~お?」
まだもぐもぐしている。
千代「味はどうだって訊いてるの!!」
摩利華はビクッとして麺を飲み込む。
摩利華「え?あ、あぁ・・・お、美味しかったですわよ?」
千代「でしょ~?美味しさは貧富を問わない、偉い人にはそれがわからんのです。」
摩利華は千代と間接キスした事実の衝撃で味なんて感じていなかったなんて股が裂けても言えなかった。

最近は、毎朝の習慣としてワンセグでニュースを見ている。
そこに、枷檻が入ってくる。
枷檻はいつもおさげなのだが、寝覚めだったせいか結んでおらずボサボサだ。
摩利華「もう・・・お二人共おぐしを整えないなんて女性としてだらしないとは思いませんの?」
枷檻「いいじゃんよ、朝飯食ってからでも。」
千代「外に出ない時は気にしてないね~。」
摩利華「むぅ~・・・貴女たち女性としての自覚は・・・」
そう言いかけて、ニュースの方に視線が向かう。
千代「どしたの?」
摩利華「シッ!!」
ニュースキャスター「・・・ょう早朝、最凝町中央住宅街の路地にて、殺人事件が発生しました。
被害者は、福岡県在住の小学四年生の女の子で、頭を何かで潰された状態で発見されました。
警察では、ここ最近発生していた”バイパスの狂気”の延長線上、もしくは模倣犯ではないかと見て捜査を続けています・・・」
食堂は緊張感に包まれる。
摩利華「今やるべきことはひとつ・・・。」
千代「これ以上犠牲を出さないこと。」
一同は頷く。
枷檻「こんなに派手にやっているってことは多分見せしめだろうな・・・犯人は現場に戻ると見て間違いない!!」
摩利華「じゃあ、景気づけにあれやりましょ?」
枷檻「な、なんでこんな時に。」
摩利華「こんな時こそ気持ちを切り替えて、落ち着いて行動しましょう・・・ってことですわ。」
千代「よし、せ、せ~のッ。」
一同「ぱにゃにゃんだー!!」