DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.24 微睡みはしどと打つ雨音と

男の腕から抜けた枷檻を抱き寄せる千代。
千代「大丈夫??生きてる??枷檻ちゃんッ!!」
涙目になって枷檻を揺さぶる。
摩利華「大丈夫ですわ。
睡眠薬か何かで意識が朦朧としているだけですわ。
呼吸はありますし、うっすらとこちらに目線を向けていますわ。」
枷檻「う・・・ん・・・。」
千代「枷檻ちゃん!!」
枷檻「っせぇなぁ・・・・・・何回も呼ばなくても・・・わかってらぁ・・・。」
千代「よかったぁ・・・。」
枷檻は実際のところ、千代がその場を離れたあとに窒息しかけて覚醒していたのだが、睡眠薬の眠気のせいでぐったりとうなだれるしかなかったのだ。
枷檻「私さ・・・わかったよ・・・仲間、家族の大切さ・・・。」
千代「えっ?」
枷檻「私が意識を取り戻したときは、摩利華は座り込んでいて、千代はいなかった。
見捨てられたと思った。
一番大事な時にそばにいてくれないじゃんかって憎んだ。
いつもおせっかいな電話だってそのときは黙りこくっていた。
それが疎外感で、それが寂しさで・・・。
当たり前の毎日だって、おせっかいの電話だって、みんな愛情なんだって・・・。
やっとわかったよ・・・・・・・・・。」
枷檻はそう言い切って眠りに落ちた。
千代「わかってくれたんだ・・・枷檻ちゃ・・・あ、え、大丈夫!!?」
摩利華「心配しなくても大丈夫ですわ。
今はゆっくり眠らせてあげましょう・・・。」
摩利華は迎えを呼んだ。

千代は最近幾度となく同じ夢を見る。
だが、起きた時には忘れてしまう。
いったいその夢が何を示しているのだろうか?
それだけが彼女の中で喉に刺さった小骨のように歯がゆく引っかかっていた。

8月7日(水曜日)。
今日はあいにくの雨だ。
静かな部屋にしとしとと葉をうつ音が響いている。
この地方は梅雨が非常に短い為に降り続くことはないが、やはり折角の夏休みに雨が降るのは残念なものである。
摩利華「では、今日は残った課題をみっちりこなしますわよ!!」
いろんなことがあって、高校から出された課題には大体半分ほどしか手がついていないのであった。
枷檻は摩利華に”オツムの方がよろしくない”と直球で言われるほど成績がどん底である。
何かよからぬ方法で進学したのでは?と疑ってしまうほどだ。
枷檻「もしかして今日もまたマンツーマン指導か・・・?」
摩利華「もちろん!!時間を割いて教鞭を振るってくださる使用人には敬意を表すのですよ。」
枷檻「え~、めんどくせぇよぉ~。」
千代「枷檻ちゃん・・・私たちと一緒に進級しよう?留年なんてされたら嫌だよ・・・。」
大切な友の言葉が心に突き刺さる。
枷檻「わ~かった。わ~かったから。
こうなりゃとことんやってやるよチキショウ。」
そう言って枷檻は部屋を出た。

こちらは軽い情報収集がてらにワンセグでニュースを見る。
とりわけ変わったニュースはない・・・と言いたいが、警察は今も”妊娠の呪い”の犯人を追っているようだ。
犯人は見つかるはずがない。
事実を知る者から見れば滑稽極まりない素行なのだが、逆に知っている人間が一般人の立場に立ったらきっと信じないだろう。
これは戦いを続ける者たちの抱えるジレンマだ。
そして、キャスターはさっきまでの話がなかったかのように、夏終盤のレジャーについて語りだす。
犠牲者の家族から見ればマスコミは冷ややかで、タチの悪い野次馬のような存在なのだろう。
だが、その犠牲者家族も”バイパスの狂気”のニュースが流れていた時は、のんきに白いご飯を食べていたのだろう。
悲しみの大きさなんて受け取る側次第だ。
だが、こんなくだらない戦いによってこんなにも犠牲を出してしまった・・・そんな自負がある千代にはマスコミの冷ややかさにも、
今も生きている加害者の記憶にも、突き刺さるような痛みを感じていた。
何が、”アルカナバトルロワイヤル”だ。
何が、”未来へ行く権利”だ。
そんなもの、本当に人の命より大事なものなのか?
千代は悔しくて、爪が手のひらを貫かんとばかりに拳を握り締めた。
その手を摩利華がそっと包み込む。
摩利華「貴女が背負い込むことはないですわよ。千代ちゃん。
貴女はこの町を守ろうって毎日を生きているの。
この事件は全部悪い人間がしたこと。
それなのに、なんで人間として正しいことをしようとしている千代ちゃんが抱え込む必要があるの?」
千代「私が、軽率に外で戦ったりしなければ・・・この町の人間は犠牲にならなかったんだ・・・。」
摩利華「それでなくても、ほかの誰かが・・・よその町の誰かがその代わりに犠牲になっていたはずよ。」
千代「私が戦わなければ、みんな自分の能力が嘘だって思ったかもしれないんだ。
そうじゃなくても、自分以外の能力者なんていなかったんだって思えたかもしれないんだ。なのに――――」
乾いた音が摩利華の広い私室に響く。
摩利華は千代の頬に平手打ちをしたのだ。
摩利華「貴女の本当に今すべきことはなに?
確かに亡くなってしまった方々を弔う気持ちは私にもありますわ。
でも、いつまで後ろを向いているおつもりですの?
まずは、前を向いて現状に立向かいこの戦いを終わらせることが最優先ではありませんの?
それに今の貴女の顔・・・とても醜くてよ。」
”もっと加減を覚えたほうがいい”・・・”もっと私たちを頼ってくれ”・・・。
耳元に番長の声が蘇る。
”自分というものに囚われ過ぎているんだ”・・・”なんでも自分でつぶしに行こうとするな”・・・。
そうだ。
己の弱さを悔やむなら、過去に嘆くんじゃなくて未来に強くあるべきなんだ。
ただの今だけは、その拳を悲しむ憐れむためじゃなくてこんな理不尽な現実を打ち砕いてやるために握るべきなんだ。
摩利華「うふふ、表情が和らぎましたわね。
その勇猛で、優しい顔が貴女らしい美しい顔ですわ。」
緩む千代の頬を摩利華はそっと撫でた。

意思をたぎらせ、強く強く尖らせていた千代たちとは裏腹、大柄な男は単身恐ろしくも悩ましい強大な影に不安を募らせていた。
暗中模索で、毎日毎日ホテルやネットカフェを転々とし、寝ても覚めても警戒している彼は疲弊仕切っていた。
今のところ、集めていた情報の根源は何者かによって絶たれていると考えたほうが自然だ。
現状、「見つからない」というよりは、「もう起きていない」のだ。
きっと何らかの横やりが入って止まった、もしくはなくなったのだろう。
では、それらを止めたのは誰か――――?
ここに来る原因となった紫色の髪の少女はもうリタイアしたのだろうか?
それとも、あの”人影”のような能力で今もこの最凝町という戦場を支配しているのだろうか?
・・・いいや、まだ能力者はそこまで減ってはいないだろう。
互いに潰し合うのだから、誰か一人が・・・というのは考えにくい。
しかしながら、紫色の髪の少女は自分含む多くの能力者にここに来る原因を作っている。
目的が彼女なら、当然彼女はその刺客らと戦わざるを得なくなる。
・・・となると?あの金髪の能力者から逃げ回っていただけのあの少女が数々の能力者と出くわし、事なきを得ている・・・?
もちろん、今もリタイアせずに戦い続けているのであればの話だが。
だとすると、早々に見つけてたたきつぶさなくてはいけないのは彼女だ。
あの脆弱で弱気な女の子が勝利し続けているということは、とんでもない成長性を持っているという可能性が大きい。
もしかして、仲間が強力なのだろうか?
そう仮定すれば、昨日のトンデモ身体能力の変装小娘のことも頷ける。
無能力者の個人個人が強力であるが故に紫色の髪の少女は能力者としてではなく団体として強さを持っているということになるだろう。
団体ということは、こちらには予測できない広域な行動力があるだろう。
果たしてそんな遠き遠き千里の最果ての”影”を、踏みつけてやることができるのだろうか・・・?
傘をうつ雨音が強くなった。

摩利華はとっくに課題を終わらせているために、勉強机を千代に明け渡していた。
だが、トレーニングの疲れと、逆位置時間に無理をして能力を使ってしまった反動で課題の上に伏して眠りに落ちてしまっている。
摩利華「あらあら、もう。この調子では期限までに間に合いませんわ・・・まったく。」
そう言いながらも、千代の背中にブランケットをかける。
摩利華「・・・そういえばクロさんは起きているのかしら?かけても苦しくありませんの?」
クロ「我自体は精神体だ。食事や呼吸をしなくても何ら問題はない。
生命力が尽きなければ大抵のことは平気だから案ずることはない。」
摩利華「あら・・・てっきり姿を現さないとしゃべれないものだと思っていましたわ。
そのままでも大丈夫ですのね。」
クロ「しゃべると気が散るから探知能力は粗いものになるがな。」
千代の寝息が机に温もりを与えている。
窓の外の雨はいっそう勢いを増している。
摩利華「この雨が新手の能力だったら冗談じゃないわ。」
クロ「・・・問題ない。能力の気配はない。」
摩利華「その”探知”なんですけれど、トカゲもどきの時に全く役に立たなかった代物じゃあありませんの?
私的には、イマイチ信憑性がありませんのよ・・・。」
クロ「なっ・・・。」
摩利華「ちゃあんと真面目にやっていますの~・・・?」
クロ「・・・もしかすると、千代は我の能力を100%引き出せていないかもしれないな・・・。」
摩利華「そんなことをしたら死んでしまいますわ!!?」
クロ「馬鹿者!!何か別に特殊な能力が備わっているのではないかということだ。」
摩利華「確かに派手さはありませんが・・・それがあの破壊力に繋がっているのではありませんの?
それに、貴方は自らのこともろくに分析できませんの?」
クロ「いいや・・・すまない、言い方が悪かったな。
正確に言うと、探知をする時に何か足りないような気がするんだ。」
摩利華「そもそも、探知自体に無理があるのではありませんの?
当初は、ただ警戒すればよいとのことではなくて?」
クロ「そう・・・か・・・。」
摩利華「本当は探知なんてできなくて、ただ話ベタなのではなくて?」
クロ「そ、そうではない!!断じてそうではない!!」
摩利華「姿を現さくても喋れるのに、どうして会話に参加しないんですの?」
クロ「・・・・・・。」
摩利華「うふふ、不器用なのは持ち主とそっくりですわね。」
クロ「・・・だが、我には自覚はないが何か特殊なものがあるようで、千代がおかしな夢を見たと言ってきたり、能力者と出くわしやすかったり・・・。」
摩利華「・・・確かに・・・能力者と出くわしやすいとうのはうなずけますわ。
動画が流出したり事件が起きたりなどと遭遇する確率は上がっているにしてもスパンが短すぎる気がしますわ・・・。」
クロ「我にも千代にも、そういった”カン”が働く時が時々あるわけで、それと警戒を兼ねて仮に”探知”と言っていたのだ。
もちろん、目視もしているからまたっく意味がないなんて言って欲しくはないがな。」
摩利華「・・・・・・貴方は貴方なりにしっかりやろうとしていたのですわね。」
クロ「当たり前だ。我のたった一人の主を守るためだ・・・。」
摩利華「先程は愚弄にも似た真似をしてしまって申し訳ありませんわ。ゆっくりお休み下さいませ・・・。」
クロ「愚か者。主が眠っている時が本番ではないか。」
摩利華「ふふ、そうですわね。」
強風で窓がガタガタと音を立てた。