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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.23 月

千代「はぁ・・・」
通話を終えた千代は深い溜息をついた。
しばらく親から連絡がないと思ったのでこちらから連絡したのだ。
心配ばかりかけて申し訳ないという旨を伝えようとしたのだが、
父親「いいの、いいの。お金持ちにはお世話になりなさい?
あの、焼肉の時に来てたお上品な娘のおうちだろう?
パパお土産欲しいんだけど・・・なぁ~んてな!!だっはっは!!」
ここまで許されてしまうと逆に少しは心配してもらいたくなったるするものだ。
百合恵「ネーちゃ~ん、今度、ダチ連れてそっち行ってもいいかな?
ね~ね~頼むよ~。ネーちゃんのダチと話して見たいよぉ~。」
百合恵の友人ということはチャラチャラとしたウェイ系の奴らのことだろうか。
申し訳ないがお断りである。
千代「なんだがほっとかれてるみたいで悲しいよ・・・。」
枷檻「そうか?普通、ほっといてくれって思うんじゃねぇのか?」
摩利華「”ほっといてくれ”は”本当に必要なときに一緒にいてくれ”の裏返しなのよ。」
枷檻「そうかぁ~?夜遅くなったときいちいち電話かけてくんのさ、余計なお世話だと思うけど?」
千代「心配されなくなったら、私の気持ちがわかるよ・・・?」

家族の大切さについて語り合っていると、番長からのメッセージが届く。
大柄な男と鉢合わせし、戦闘になりかけたとういう内容だった。
一同は凍りつく。
またしても、一般人に手をあげる非道な能力者が現れたのだと、怒りと恐怖に打ち震えた。
千代は不意に番長からもらった手鏡を見た。
そこにはとんでもない形相の自分の顔が映っていた。
千代(そうだ。こういう時にこんな顔をするから正しい判断力を失うんだ。)
千代は深呼吸を一つする。
千代(相手は直接攻撃系のタイプ、たしか・・・無数の拳を打つ能力だったっけ・・・。
でも、この街では殴られたことによる殺人や傷害に至っては今のところ目立ったものはないから、無差別に手をあげるわけじゃあないよね・・・。
番長ちゃんの何らかのアクションによって彼は襲いかかってきたんだろう。
・・・ということは、冷静に準備を整えていても直ちに被害は出ないという考え方がもっともらしいかな・・・。)
千代「その男の人は、何らかの理由があって番長ちゃんを襲ったはず・・・。
一般人にまで手をあげる事例はひとつたりとも許せたことはないけど、とりあえず今は怒りを抑えて落ち着いて準備をしよう。」
枷檻と摩利華は静かにうなづいた。

昼下がり。
三人はまたジムで体を鍛えていた。
もちろん、実質鍛えているのは二人だが。
摩利華はタオルやドリンクを運んだりして極力手を貸すように尽くしていた。
摩利華(使用人たちには苦労をかけすぎているかもしれませんわ。
少しは周りの人の気持ちになってあげるのも大事ですわね・・・。)
人の世話をする方に回ってみて、自分の考えを見つめ直していた。
休憩しようと戻ってきたところには、きちんと替えのタオルとドリンク、アイシング、着替えを用意していた。
枷檻「おっ、気が利くじゃねーか。」
摩利華「ガサツさんやズボラさんとは違いましてよ。」
枷檻「うっ・・・。」
千代「あ、タオルこんなにしょっちゅう新しいの出したらもったいないよ。
後でコインランドリーに行って洗おう?」
摩利華「それでは私がまとめておきますわ。」
レジ袋を手にタオルを回収する摩利華。
摩利華「むはぁ・・・これが乙女の汗のにおい・・・。」
おもむろにタオルを嗅ぐ摩利華。
枷檻「うわぁ・・・。」
千代「摩利華ちゃんって、変態だったの・・・?」
摩利華「ふぇ!!?違いますわ!!違いましてよ!!」
枷檻「今のお前を見たら誰も違うとは思わないぞ。」
千代「もう・・・ヨコシマな気持ちがあるんだね!!?着替えてる間は外で待ってて!!」
摩利華「ふえぇ・・・。変態じゃありませんのよ、純愛ですのよ・・・。」
枷檻「うるせぇ、とりあえず更衣室出ろや。」
トレーニングが二週目になると、案の定千代はバテバテで話にならなかったが、
枷檻は愛のムチで鍛え上げようと手を差し伸べた。
枷檻の優しさを知る千代もまた、その友情に応えようと精を尽くした。
摩利華「そんなに二人だけで仲よさげにいられると妬いてしまいますわ。」
ふくれっ面でドリンクを差し出す摩利華。
千代「いいや、摩利華ちゃんだってちゃんと仲間だし、いてもらわなきゃ困るよ。
私と、枷檻ちゃんと摩利華ちゃんと番長ちゃん、みんないて私たちなんだから。
特別誰かにひいきしたりとかはないよ。みんな等しく友達なんだから。」
摩利華「そういう問題ではありませんのに・・・。」
摩利華の複雑な乙女心はくすぶっていた。

ジムから出ると、既に夜の景色になっていた。
アスファルトに染み込んだ太陽が夜の街を一層蒸し上げる。
千代「あっつぅぅぅぅう、外あっつぅぅぅぅぅう。」
枷檻「二回も言わんでもわかるわ、バッキャロゥ。」
摩利華「屋敷に戻れば快適な空間が待っていますわ~。」
気だるい熱気に汗をにじませて三人は亜万宮邸に向かう。
街灯が額を焦がす。
影は夜に吸われていくように延々と伸びている。
そして突然と影は歪み、ブツリとひとつ姿を消す。
千代「――――ッ!!?」
さっきまで傍らを歩いていたはずの枷檻の姿がない。
摩利華は耳をふさいでいる。
千代「どうしたの?何があったの!!?」
摩利華は耳からそっと手を離す。
摩利華「とっても速いものが通り過ぎて行きましたわ。
そして、きっと枷檻ちゃんはそれにさらわれていったのかと・・・。」
聴力の発達した摩利華はその高速の物体の風きりの音によって耳をふさいだようだ。
新幹線やヘリなどに乗る際は専用の耳あてや耳栓をするのだが、突然鳥やらなんやらが通過したときはどうしようもないのだ。
三半規管が狂って摩利華は思わず膝をつく。
心配するまもなく、目の前にその物体がとまる。
意外にも、その正体は太った男であった。
太った男「ぐひひ、お前が能力者だなぁ~。
動画で見たぜぇ~。
まったくけしからんボディをしておりますなぁ~。」
のんきなセリフとは裏腹に、左腕には気絶している枷檻が抱えられている。
あまりの速度に首がひねられていてこのままほうっておけば首はたれてゆき窒息死してしまう。
千代「卑怯者ッ!!それで人質のつもり!!?」
太った男は下卑た笑いを浮かべる。
太った男「さっきの僕の速さを見なかったのか~い?
ぐひひひ、まぁまぁ。僕だって君みたいな美人に手を挙げたりしたくないからこんなことをしているんじゃないか。
刃物を持って高速で突進すれば一瞬で勝負はつくんだよ?わかるかい?ぐふ、ぐひひ。」
千代はぎりと奥歯を噛み締める。
ここで判断を誤れば、自分も枷檻もそして摩利華も救えないのだ。
太った男「そこで交渉だ。君は家からルールシートを持ってくるんだ。
そして、リタイアするんだ。
僕の目の前でやるんだぞ?僕は友人に書かせて試してみたが、このとおり今も現役で能力者さ。ぐひっ。
つまり、本人の記名だということを確認させろということだ。
わかったら、今すぐ従うんだ。
でなきゃこの生意気そうなひんぬーの金髪たんが二度と目を覚まさなくなるぞぉ~?」
いつもならすぐに覚醒する枷檻が目を覚まさないということは、睡眠薬か何かで目覚めを阻害されているのだろう。
千代は家に向かうために背を向ける。
摩利華「千代ちゃん・・・本当にそれでいいの?」
千代「枷檻ちゃんのお父さんと約束したから・・・。」
暗闇の中に霞む背中にはなぜか諦めたという心は感じさせない気迫があった。

20分はたっただろうか。
太った男はうっかり人質を殺さぬように枷檻の首を支えている。
千代はルールシートを持って男の前に現れる。
太った男「ぐひひ。従順な女の子はいいぞぉ~。
いやだけど従うしかない、そんな蔑んだ目がたまらんぞぉ~。
さあ、早く目の前でサインするんだッ!!」
千代は目の前にルールシートをかざし、
そしてそれを、
バラバラに引き裂いて破り捨てた。
千代「誰があんたなんかの命令になんて従うか!!」
摩利華「千代ちゃん・・・。」
太った男「!!?」
動揺した男に向かって千代は何かを投げつける。
そして、それは男の足元で砕け散り、中身をぶちまける。
間髪入れず、その中身から二つの腕が伸び男の足をつかむ。
太った男「なんだこれは!!?なんのつもりだ!!?」
千代「どんなに速く動けたって、動くことができなければ・・・無策だよね。」
たじろぐ男。
千代「逆位置時間だからさ、本気を出せなくてどうしようかと思ったけど・・・
腕だけ出して、そこに力を絞り込めば案外なんとかなるものね。」
ジリジリと近づく千代。
太った男「やめろ!!?来るな!!」
震える手で刃物を取り出す男。
しかし、動揺して手から滑り落ちてしまう。
千代「最初から仕留めに行かなかったのが運の尽きよ!!」

「うだらァ~~~~~~~~~ッ!!」

千代は自らのその拳で男を裁いた。