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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.22 現場はいつまでも忘れない

8月6日(火曜日)。
朝方にすっかり済ませたようで、千代はすっきりしていた。
千代「よかった~。今回は長引かなくて。」
二度寝しようとベッドに戻る千代。
しかし、摩利華に布団を剥がれる。
摩利華「もう寝てはダメですわ!!ちゃんと学生として課題をこなさなくてはいけませんの!!」
千代「そんな~・・・って、枷檻ちゃんは?」
摩利華「オツムの方がよろしくないようでしたので、使用人にたっぷりしごかせて頂いておりますわ。」
直後、摩利華は思い出したように制服のポケットから小包を差し出す。
摩利華に私服という概念はないのだろうか?
千代「これは・・・?」
摩利華「番長さんがお帰りになられる際に千代ちゃんに『遅めのバースデープレゼントだ』・・・と。」
千代はそれを受け取り、開けてみた。
中に入っていたのは、小さいメッセージカードと手鏡だった。
カードには『気持ちが高ぶってしまったらその酷いツラを見てみるといい』と、書いてあった。
千代「番長ちゃんの字汚っ。」
番長の字は声に出してしまうほどに汚なかったが、思いはひしひしと伝わってきた。

大柄な男「連続殺人が途絶えたか・・・。」
新聞を読む彼は訝しげな顔をしていた。
毎日数人の犠牲者を出していたにも関わらず、突如として止んだ猟奇連続殺人、”妊娠の呪い”。
食い止めた人間は相当の強さと捜査能力を持っているに違いない。
嫌な予感がした。
自分の周りを嗅ぎまわっていた女のことが浮かんだ。
いや、この街に集まってきている別の能力者の可能性も否めないのだが・・・。
やはり現実的に考えれば、集団でいる人間が強力であるに違いない。
能力者を各個撃破し潰して回る・・・。
一体どんな集団なのだろうか?
事件は収まったと考えたら、まずはその集団を追うことを優先すべきと考えた。

時はさかのぼり7月16日(月曜日)・・・。
メラメラと燃える炎がニット帽の青年をジリジリと追い詰める。
ニット帽の青年「マジかよ・・・単なる炎使いがこんなに強力なんて、ゲームバランス崩壊じゃん?」
相手は何も応答しない・・・というより、姿を現さない。
ニット帽の青年「じゃあ、こっちも手の内見せるしかないっしょ!!」
そう言うと青年はパチンコ玉のような物体を周囲にバラまき、火の中へ。
間を置いて、その小さな鉄球は次々と爆発し、それによって出来た一瞬の真空によって酸素の供給が絶たれ、青年の周囲の炎はかき消される。
もちろん、全て消えたわけではないため、壁などはまだ炎を放っている。
青年は逃すまいと壁の炎に向かって鉄球爆弾をはじき飛ばす。
しかし、コケや雑草に手早く燃え移り、なかなか減らない。
なぜそんなに執拗に炎を狙うのか?
それは、相手が”体を炎に変える”能力のため、消し切ってしまえばその時点で勝てると確信していたからだ。
ニット帽の青年「チッ、埒があかねぇ・・・。」
青年は狙いを、炎の行先の方へ変えた。
それに反応して炎はUターンし、近づいてくる。
ニット帽の青年「熱烈なファンには取って置きを・・・だぜ!!」
そう言うと向かってくる炎に対してガチャ玉を投げつける。
中には鉄球爆弾がぎっしりと詰まっていた。
炎はたまらず生身に戻ってガチャ玉爆弾を回避するが、
ニット帽の青年「確かに集めた爆弾は強いが、そうじゃないんだな~。」
ガチャ玉の中の鉄球爆弾は爆発せず、ガチャ玉だけが開いて飛び散る。
しかも、足元にはさっきの火消しに使ったあまりが地雷原の様に張り巡らされていた。
ニット帽の青年「捉えたぜッ!!」
周りで大量の鉄球爆弾が爆発し、炎の能力者はあえなく気絶した。
ニット帽の青年「”審判”は、歯向かう者に等しき罰を与える!!なぁ~んてな。」
青年はヘッドホンをかけた。

そんな出来事のあった現場に、鉢合わせてしまう二つの姿。
番長は、ようやく摩利華の聞いた物音についての情報の糸口をつかみ、
先ほどから燃えカスや壁の擦り傷やヒビなどを調べていたが、そこに大柄な男はやってきたのである。
大柄な男「何をしているんだ?」
彼は番長に話しかけるが、番長はあいにくと変装とキャラ作りをしていて、そこにいるのはもはやただの”女優”だった。
番長「うわぁ~っ、すいませ~ん。
私、中央高校で新聞部についております、法月文(ノリツキフミ)と申します~。
もしかして、近隣住民の方ですかぁ~?」
ぴょこぴょこと動くたびにツインテールが揺れる。
番長は、男性という生き物が上下運動と動く物体に反応しやすいことを知っているため、
ぶりっ子な年下キャラで、できるだけ動き相手の気を散漫にしようという作戦だった。
胸元には「部活ですよ」といわんばかりにカメラをぶら下げて、
ポケットにはメモと万年筆とたくさんの付箋や印のついている地図を入れている徹底ぶりだ。
頬紅はわざと強めの色を選び、意識しているように思わせる小細工もしている。
だが、彼は動じることはなかった。
大柄な男「残念ながらただの通りすがりだ。
君のことが不審だと思ってしまって話しかけてしまったのだ。
こんななんともなさそうな住宅街で雑草の燃えカスのサンプルをとっているなんて、
普通じゃないと思わないか?」
緊張感が漂う。
やはり、変装は足跡を消すことはできても、直接会ってしまえば意味を成さないのだ。
大柄な男「ふん、やはりお前がほかの能力者の情報を嗅ぎまわっているのだな?」
番長「ほへ~?」
とぼけてキャラ作りを崩さない番長に対して、彼は能力のスーツで身を覆う。
番長は危険を察知した。
男は拳を振りかぶる。
番長はすぐさま姿勢を低くして、臨戦態勢を取る。
振るわれる男の拳は紙一重で番長にかわされる。
そして、番長はすかさずカメラをハンマー投げのハンマーのようにして男の足に当てる。
ふらついた隙を突いて、番長はその場から全力疾走で逃げ出した。
大柄な男「ぐっ。クソッ。」
当てられたカメラはなんと砕け散っている。
足にはまだ痛みを帯びている。
大柄な男「いったい何者なんだ!!?ただの人間なのにあの戦闘力・・・!!
となると、それを束ねている人間とはまた、どれだけの存在なのだ!!」
彼には底知れぬ不安がこみ上げていた。

番長は、駅前についていた。
バスに間に合わなかったフリをして、駅前のバス停のベンチに腰掛ける。
息は上がり、汗で化粧が溶け始めている。
番長自身、体力は相当ある人間だが、ここまで疲弊するほどの距離を走ってきたのだ。
追いかけられることも想定して、人気のない路地と大通りを交互に地図を縫うような複雑な移動をしたせいだ。
そんな時にも抜け目なく、千代へメッセージを送っておいた。
今起こったことの詳細を覚えている限り伝えたのだ。
番長「今日はもうダメだな。」
そう言って俯いた顔から、汗がポツポツと流れ落ちた。