DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」「ハーミット2」を掲載。更新停止中です。

「ハーミット」 ACT.20 女帝

熱く頬を塗る橙色を帯びる店内。
もりもりとアイスを食べる千代を白い目で見つつ、憩いのひとときを終えた。
摩利華「もう・・・こんなに食べてはダイエットになりませんわ。
明日から持っとビシバシ指導してもらうのよ。ぱにゃにゃんだー。」
千代「えへへ。ぱにゃにゃんだー。」
枷檻「バッキャロ!!外でやるやつがあるか!!小っ恥ずかしい。」
赤面して声を荒げる枷檻。
摩利華「あらあら、いけませんの?私たちは普段から使っておりますわよ?ねー。」
千代「ねー。」
枷檻にはお花畑が見え始めていたので、さっさとアイスの器を片付けた。
枷檻「おらっ、さっさと帰るぞ。」

一同は店を出て、亜万宮邸へと向かう。
疲れからか、あくびをしながら歩いていた。
すると摩利華がぴくりと立ち止まる。
枷檻「ン?どうした?」
摩利華「今、変な音が聞こえた気がして・・・。」
千代「どこから?」
前回の件で、摩利華の敏感さには少しばかり気をつけるようになっていた。
摩利華「千代ちゃんのお腹かしら?でも、もよおしているような音じゃありませんの。」
摩利華はそっと千代の腹部に耳を当てる。
摩利華「ほわぁ~、千代ちゃんのいい匂い・・・じゃなくて、何か不自然な呼吸音?が聞こえますの。
・・・?千代ちゃんアイスはどのくらいお召し上がりに?」
千代「え、枷檻ちゃんが持ってきた以上は食べてないけど・・・。」
摩利華「それにしてはお腹の膨れ方が大きい気がしますわ――――」
千代と摩利華は急に青ざめる。
枷檻「どうしたんだ?生理か?」
千代「違う・・・これは・・・。」
摩利華「”バイパスの狂気”の延長線上、”妊娠の呪い”よ。」
???「キャッキャ、ママァ、やっと気づいてくれたんだね。」
千代の腹部からは幼い声が聞こえる。
枷檻「どういうことだッ!!?もう既に術中だったってことかよ!!?」
摩利華「迂闊でしたわ。姿もみせずに直接出現する能力なんて・・・。」
千代「いや違う・・・射程が5kmもある強力な能力なら相応にきつい限定条件があるはずよ。」
???「そのと~り~。ママがお馬鹿さんだったらボクまで馬鹿になるところだったよ~。」
枷檻「舐めたこと言いやがって・・・!!」
そう言うと、千代の腹部を睨みながらも構えを取った。
枷檻「悪く思うなよッ!!」
摩利華「え・・・。」
枷檻は鋭い蹴りを千代の腹部に叩きこむ。
千代「ふぐぅっ。」
千代はへたり込んでしまう。
しかし、それは痛みからではなかった。
枷檻「ウソだろ・・・!!?」
千代の腹部は先ほどの倍近くに膨れ上がり、千代からは血の気が引いて衰弱し始めていた。
???「ヘイ!!カノジョ!!お友達を大事にしなよ。
まして、お腹の中にいる赤ん坊を蹴りつけるなんてひどいじゃないか!!
まぁ、傷ついた分はママからもらった生命力で治療させてもらったからいいけどね~。」
枷檻「そんな・・・。」
絶望が枷檻を襲った。
この能力を解くには射程外に出すほかないが、あいにくと長くそれまでもつかわからない。
枷檻「クソッタレ!!こうなりゃ全力で131から千代を引き離すぞ!!」
摩利華「当然ですわ!!」
ふたりは千代を持ち上げた。
だが、体に力が入っていない分重く、敵の能力の重さもさらに加わってとても運べたものではなかった。
摩利華はふと何かを思いついたようだ。
そして、深呼吸を一つすると、敵の能力に向かって話し始めた。
摩利華「ねぇ、ボク?あなたは彼女が能力者だってことを知っているの?」
???「知ってるよ!!ボクは賢いからね。
今までの一般人のように、衰弱だけして生き残る・・・なーんて確率は絶対残さないからね!!」
摩利華「そう・・・。」
会話をしている間に右手でスマホを操作して、既に考えを進めていた。
まもなくして、黒塗の高級車がとまる。
摩利華「緊急事態よ、彼女を・・・千代を131からできるだけ遠くへ!!」
使用人は千代を抱えせーの、と一息に後部座席に詰め込む。
摩利華「枷檻ちゃんは乗り切れないから、ここで待っていて。」
枷檻「そっか、車を使えば速ぇよな。助かったぜ。」
???「へへん、今回は本気だから車で逃げたって無駄さ!!」
しかし、摩利華の狙いはここからだった。
摩利華を乗せた車は走り出す。
だが、敢えて飛ばさず安全運転を心がけた。
バックミラーを覗き込む。
後ろにはタクシーがついてきていた。
摩利華「うふふ、まさか私が釣りを嗜むことになるなんて・・・。」
不敵な笑みを浮かべ、人気のない路地に誘い込む。
大通りを外れた閑静な住宅街に停車した。
それに準じて、タクシーもとまる。
千代の容態は相変わらず良くない。
それを見て摩利華は”安心”した。
相手は気づかれてないとでも思っているのか、タクシーから降りてスマホをいじっている。
摩利華と、使用人に肩を貸されている千代が相手に歩み寄る。
太めの女「なによ。」
女は訝しげにこちらの顔を伺う。
千代は声も上げられないほど衰弱しているはずなのに、その目は相手のことをじっと見ていた。
彼女の黒き意思の輝きは、固く固く凝塊になっていた。
黒く固い意思へと成長を遂げる。
千代は摩利華がどういう考えでこうしてくれていたのかを理解していた。
相手の能力は、射程外に出られなければ確実に相手を仕留められる能力だ。
つまり、ついていけば一生解けないわけで。
逆を言えば、厳しい限定条件をやっと満たしたのだから、執念深く追わざるを得ないのだ。
だから彼女らは確実に相手が追跡してくれると信じ、まんまと引っかかってくれたのだ。
放つ光さえも閉じ込めんとする黒く固い意志――――
この町の人間の光を奪った人間の放つ汚れた光を包み込む闇――――
残された生命力を振り絞り、どろりとクロが姿を現す。
そして運転をしていた方の使用人は女を取り押さえる。
太めの女「は――――」
何も言い返す暇もなくクロは動き始める。

「うだらァ~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」

女は気絶し、千代の腹部は戻った。
千代「あ・・・れ・・・?」
千代の血色は戻っている。
どうやら、能力が解除されたあとに吸収した生命力がパスされるようで、能力を失った女には戻らず千代の中にとどまったようだった。
千代「見ていればいいだなんて甘えていたのが運の尽きよ。」
女は使用人によって運ばれた。
このまま放っておいては騒ぎになりかねない。
摩利華「さぁ、屋敷に戻って休みましょう。」

・・・かくして、この町にかかった呪いは日没とともに息の根を止めたのであった・・・。