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DAI-SONのアレやコレやソレ

創作ライトノベル、「ハーミット」「愚者の弾丸」を掲載。「ハーミット2」連載中。不定期更新です。

「ハーミット」 ACT.17 身を喰むチカラよ急ぐ拍となりて

8月3日(金曜日)
大柄な男「なかなかの強敵であった。」
男は全身にまとった能力を解く。
目の前にはゴスロリ姿の華奢な少女が横たわっている。
彼女は能力者”だった”人間だ。
つまるところ、もう負けているということだ。
大柄な男「危ないところだった。こうも毎週毎週生命力を奪われるとやっていられん。」
千代はしょっちゅう敵を倒してカウントをリセットしているのに対し、ほかの能力者はというと、
敵に会うこともできていないために次第に弱まっていっているのである。
パワータイプの能力ならなおさら危険で、ただ一つの長所を奪われてしまっては、逆位置時間になった時にカカシ同然になってしまう。
カウントをリセットする、と名目上で言っておきながら実際には一回分取り戻せるといったもので、
さして変わりはないと思うかもしれないが日数で損をするかしないかは大きく違う。
大柄な男(”節制”の能力・・・服や布で相手を締め付け絞殺する能力。
布で挟むことで油圧的に圧迫させて体をちぎったり、穴を開けたりしてしまう恐ろしい能力・・・。
痣がついてしまっている。ここが今後弱点になるか・・・。地味ながら手強い相手だった。)
伸びている少女を抱え、病院へと向かった。

番長「やはり精神操作系の能力者がいたとはな・・・。」
千代たちは亜万宮邸で結果報告兼作戦会議を行っていた。
もちろん昼なので番長は電話参加だ。
番長「残念ながらこっちは有力な情報は掴めていない・・・。
だがこの街に常に誰かしら能力者がいるって警戒しておいたほうがいい。
”バイパスの狂気”の原因が消えたことを敵は知らないはずだ。
活発に調査し始めている可能性が高い。気を付けろ。」
摩利華「むしろこっちから向かっていったほうが良くはなくて?危険は早めに排除しておいたほうがよろしくなくて?」
枷檻「いや、それじゃあ千代への負担が大きすぎる。確かに死ぬよりましだが、休めるようにここに集まっているんじゃねぇか。」
話は煮詰まっていた。
予測不可能な事象にこれといった対抗策を見出すこともできず、
また千代の疲労もピークになっており今はベッドに横たわって微睡みながら話を聞いていた。
千代「う・・・ん~。ごめんね・・・いっつも・・・迷惑かけてばっかりで・・・。」
摩利華「はわ~、寝ぼけてとろとろの千代ちゃんも可愛いですわ~。」
枷檻「ほら、この様子だから心配する必要はないと思うぞ。」
千代「えへへ・・・ありが・・・と・・・。」
千代はそのまま眠りに落ちてしまう。
枷檻「しかしよぉ、一体今何人が脱落してるかわからねぇからなぁ・・・
もし千代が倒した相手以外全員がピンピンしててボスラッシュ状態になっちまったら、いつ千代が壊れちまってもおかしくねぇよな・・・。」
番長「そうだな・・・他の能力者が目立つような行動を起こさない限り見つけるのは困難だ・・・。」
摩利華「そういえば私、以前まだ能力があったときに不穏な”音”を聞いたことがありましたのですが、確証がないので話していませんでしたの。」
枷檻「そーゆーコトはもっと早く言え。」
摩利華「ごめんなさい、本当に些細なことなのですが、
”燃える音”と”弾ける音”が遠くから聞こえたので能力を使って警戒したのですが、いつの間にやら止んでいて・・・。」
枷檻「火事があったんじゃないのか?」
摩利華「それが・・・その近くにはボヤどころか火の手がなかったみたいで・・・。」
番長「それはどの辺りだ?」
摩利華「最凝町中央住宅街のあたりですわ。」
枷檻「・・・っていうと登下校中に聞いたってわけだな?」
摩利華「ええ・・・、とても自信はありませんけど・・・。」
番長「いや、摩利華の聴力は桁外れだ。こんなに広い豪邸のトイレに忘れた私のスマホのバイブレーションを聞き当てたわけだからな。
バイブレーションの音の違いまで当てられるようなら、確かだろう。」
枷檻「普段うるさくて落ち着いて過ごせないんじゃないか?」
摩利華「集中して聴いたり、明らかに違和感を感じた時くらいにしか遠くの音を聴いたりしませんわ。
・・・あら?使用人の足音が激しいですわ?何かあったのでしょうか・・・?」
次第に全員に聞こえるほどに近づいてくる。
使用人「摩利華様っ!!」
勢いよくドアが開く。
摩利華「なんの騒ぎですの?」
使用人「小鳥遊様のお父上がいらっしゃっております!!」
枷檻「オヤジがぁ!!?」

枷檻の父親は摩利華の部屋にやって来る。
使用人は慌てて彼を通す。
枷檻の父親「・・・・・・。」
静かなる威厳を持っている。
そこいらの浮かれた成金とは違う、堅く荘厳な雰囲気をまとっている。
枷檻の父親「枷檻・・・。無事だったか・・・。」
枷檻「???・・・特に何もねーぜ?こん通ーり、ピンピンだけど?」
枷檻の父親「そうか・・・よかった。」
枷檻の父親はゆっくりと部屋を見渡す。
そしてベッドにのしのしと歩みより、千代の胸ぐらをつかんで持ち上げる。
枷檻「ちょ、何すんだよオヤジ!!?」
枷檻の父親「お前だな?私の娘に二度も暴力をふるったのは・・・。」
摩利華「ご、誤解ですわ!!」
枷檻の父親「デタラメを言うな。調べは付いている。」
あまりの高圧的な気迫に摩利華は押し黙ってしまう。
枷檻「オイ、オヤジ、ちょっと喧嘩しただけじゃねぇか?ダチ同士たまに気に入らねぇことだってあんだろ?その程度の話だって。」
枷檻の父親「だが、気絶させるほどはやりすぎだと感じなかったか?」
千代は能天気なのか、それともよほど消耗していたのか、胸ぐらを掴まれている手が強くなってもうんと唸るだけで眠ったままだ。
首はだるんと持たれていて、まるで緊張感など感じさせない。
枷檻の父親「しかし、印象操作を頼まれたときにも思っていたのだが、お前はいったい何をしているんだ?
探偵に頼んでも、調査団を派遣しても、さっぱりわからない。」
枷檻「だからただの喧嘩だって・・・。」
アルカナバトルのことを話したところで信用してもらえないだろうし、話したところで気絶させられた事実は揺るがない。
枷檻の父親「ただの喧嘩で勝手に吹き飛んで気絶なんてするものか!!?少しは考えてから発言してはどうなんだ?」
怒鳴ったことに驚いて千代が少し目を開く。
寝ぼけ眼の千代は”胸ぐらを掴まれている”という事実だけを認識して、無意識にクロを使って掴んでいる手を殴る。
枷檻「バッ――――」
枷檻の父親「ッ!!?」
予期せぬ腕の痛みに掴んでいた手は緩んで千代を落としてしまう。
千代は力なく崩れ落ち、ベッドに寄りかかって半目でウトウトとしている。
千代「う~・・・ん~・・・??」
疲労している状態で能力を発現させてしまったためにイマイチ意識がはっきりせずにぼーっとしている。
枷檻の父親「い、今のはどういうことなんだ!!?なんだ!!?枷檻ッ、お前の周りで何が起きているんだ!!?」
今まで厳格な態度を取ってきた枷檻の父親は一変してたじろいている。
枷檻「ど、どうしたんだよ、オヤジ、手が痛いだけで焦り過ぎだって。と、歳のせいなんじゃないのか?」
はぐらかそうとする枷檻。
枷檻の父親「違う、今のは明らかに”打撃”だ。何者かに手を殴られたのだ。
殴られたときに感じる四つの点を、確かに今感じ取ったんだ。」
番長「話してやればいいだろう。信じてもらえるとかそういうもんじゃあなくて、お前が嘘をついている限り親父さんは納得しないんじゃないのか?」
思えば通話を切っていなかった。
だが、その言葉が親子に落ち着いて話をする機会を与えた。
枷檻「いいか・・・オヤジ・・・これから話すことはジョークでも嘘でもない・・・今まで私たちがこの双眸四肢五臓六腑の全てで体験してきたことだ・・・。」
枷檻はひと月の間に体験した全ての事実を洗いざらい話した。
枷檻の父親「・・・・・・恐ろしい。何が恐ろしいかって、今の話が事実だとしたら調査結果の全てのつじつまが合ってしまうことだ。
・・・枷檻、お前はこの娘のために闘いを続けるのか?私から言わせてみれば、能力を失った非力なお前が彼女とともにいても足手まといだ。」
枷檻「なっ・・・。」
枷檻は言い返せなかった。
感情ではとても腹が立ったが、言っていることは正しいし薄々自覚もしていた。
枷檻の父親「感情論で一緒にいたところで、かばってしまえば彼女は決定力を失ってしまうのだろう?
肉の壁にすらなれない人間がおめおめとついて行ったところで、余計に彼女の弱点を増やしてしまうだけだぞ?」
千代「足手まとい・・・じゃない・・・弱点・・・なんかじゃ・・・ないっ!!」
疲労した体をなんとか動かして立ち上がる。
フラフラとしているが、その目にはもう虚ろさはなく鍛え上げられた強い意志がたぎっていた。
千代「枷檻ちゃんは・・・最初にぶっ飛ばしたあの日から・・・あの瞬間からずっと・・・見ず知らずの私のことを・・・支えてくれたんだ。
枷檻ちゃんのお父さん・・・あなたは本当に・・・私みたいな人を見たとき・・・戦えないから助けないと考えるの?
違うと思う・・・枷檻ちゃんと性格が似ているなら、
『できる限り戦いたいし援助したいし手助けしてあげたいけどどうしようもなくて助けることができない』って、
ギリギリまで・・・その無力を身を持って思い知るギリギリまで手を差し伸べようとし続ける・・・違いますか?
私は、戦うことで支えられない枷檻ちゃんが、心と体で一緒にいてくれることで支えてくれて、
今までこうやって倒れても立ち上がって戦うことができたんだ・・・。
”非力な”枷檻ちゃんや摩利華ちゃんや番長ちゃんのおかげで、今日もこうやって自らの二本の足で立っていられるのよ。
私のせいであなたの娘を危険に遭わせていることはわかってる・・・。
でも、あなたはきっと”守るべきものがある人間の強さ”がわかってない・・・。
枷檻ちゃんがどれだけ私の役に立ってくれているか・・・あなたの娘なんでしょ?信じてあげなさいよ!!」
枷檻の父親「そうか・・・。てっきり見た目で判断してしまっていたが、能力に頼るだけでなく強い意志でここにいるのだな・・・。
すまない。娘を任せても良さそうだな。だが、万が一のことがあったらそれに相応しい報復を受けてもらおう。」
千代「よかった・・・枷檻ちゃんと一緒にいて・・・いい・・・んだ・・・。」
千代は体の緊張を失い、力なく倒れる。
摩利華「大丈夫ですの!!?」
慌てて這いよる摩利華。
千代「ごめ・・・トイレ・・・。」
一同はホッとため息をつく。
摩利華「すぐにメイドを呼びますわ。無理はなさらずじっとしていてくださいまし。」
千代は静かに微笑んだ。

大柄な男はゴスロリの少女を(事故ということで)病院に送り届けたあと、あるものの正体を探っていた。
一つは”バイパスの狂気”、そしてもう一つは――――
大柄な男「妊娠の呪い・・・か、胡散臭いな・・・。」